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お風呂

妹のミルロはぺこりとお辞儀をすると、侍女長に連れられて邸宅へと向かっていた。

俺はその背中をじっと見つめる。

妹の美しい水色の髪の毛が風に揺れる。

その姿に思わず見入り、心臓が跳ねた。


ミルロ=マルチーズ。

俺の義理の妹だ。

俺は最初、義理の妹を取るのは反対だった。

マルチーズ家は、騎士の家系だ。

ひ弱な女がこの家に来て何になる。

邪魔になるだけだ。


当時の俺はそう思っており、心の中ではイライラしていた。

父はミルロが騎士になると言っていたが、所詮はこの家に気に入られたいというでまかせにすぎないと思っていたのだ。

共に研鑽しようとミルロに伝えたものの、どうせすぐ諦める、そう思っていた。

俺は心の中で、ミルロを見下していたのだ。


だがその気持ちはすぐに吹っ飛んだ。

ミルロは俺なんかよりも及びもつかないような才能を秘めていた。


まず魔法。

彼女の魔法は何もないところから大量の水を生み出し、自由自在に操作する。

水はおろか氷、それにお湯にまで変化させる。

おれは今までこんな魔法を見たことがないし、騎士団内でもあれだけ自由に魔法を使える者はいないだろう。

まさに化け物だった。

さらにそれに加えて、回復魔法のヒールと防御魔法のプロテクションまで使いこなす。

魔法による水の補給と回復と防御魔法による仲間の援護。

魔法だけでもミルロが騎士団に入る価値はかなり高いであろう。


次に弓術。

どういうわけか、妹は弓の技術も魔法と同じように化け物のような才能があった。

まさに神業。

どんなに遠くにある的や動く獲物に対しても、妹は絶対に命中させる。

その弓術の才能に、俺もそうだが父も驚きを隠せていなかった。

あまり係わりが少ないので断言はできないが、この国の弓部隊である第4部隊の誰よりも妹の弓の技術の方が上なのではないかと思えてしまう。


ミルロは騎士になったら第4部隊に所属したいと言っていたが、もしその願いが叶うのならきっとエースになるであろう。


最後に剣術。

上記2つの才能に比べれば、妹の剣術はまだまだだ。

さっきの模擬戦も俺が勝利した。

だが、その技術の進歩と秘めた才能には目を見張るものがある。

最初は全く俺の相手にならなかったのだが、今なら俺とまともに打ち合うことができるのだ。

自慢ではないが騎士団内の同期で、俺とまともに剣を打ち合える者はいない。

俺は若手ながら、その実力は騎士団内でも上位に位置していた。

そう考えると、妹の剣術レベルは騎士団試験の合格レベルに達しているであろう。


妹の力はかなり高い。

これは妹に内緒にしているが、騎士団長である父も妹の才能には舌を巻いている。

ミルロは騎士になったら第4部隊に所属したいと言っていたが、その願いはたぶん叶わないであろう。


おそらく俺と同じ第1部隊に配属される。

そして、第1王女であるメイ様の護衛騎士になるであろう。

父はミルロを護衛騎士にしようと、王様に紹介している。

優秀な女騎士の候補がおり、メイ様の護衛にどうかと。


王様は厳しいお人らしいが、娘のメイ様には甘いらしい。

優秀な女性騎士とあって、王様もノリノリらしいのだ。


もはやミルロが護衛になるのは、確定的であろう。



ミルロはそれを知れば悲しむかな・・・。

俺はミルロが悲しそうな顔をするのを思い浮かべて、心が痛んだ。

俺は妹のミルロのことが、誰よりも愛おしい。

自分でも分かっている。

これは兄妹愛というよりは、恋心というやつだ。


こうやって剣術の練習を終えて妹と語り合うのが、何よりの楽しみであった。

俺は今まで女性に興味がなかった。

だが妹は別だ。

すごく愛らしいし、守ってやりたい。


だが残念なことに、ミルロは俺の義理の妹だ。

その恋は実らないだろう。

ならば兄として、妹のミルロを大切にしよう。

俺はそう決めたのだ。


遠ざかる後ろの妹の姿を眺めながら、俺は物思いにふけるのであった。


◇◇◇◇

「お母様、お呼びでしょうか」

わたしは邸宅に戻りすぐにドレスに着替えると、お母様の元に向かった。


どうやら今日はお茶会だったようだ。

周りには男爵家を中心に、たくさんの夫人が楽しそうに歓談していた。

そしてわたしが来たことで、周りは笑顔でわたしに注目する。


「あら、ミルロごめんなさいね。皆さんがどうしてもお風呂に入りたいと言うのよ」


やっぱりそうか。

わたしの予想は的中する。


実はマルチーズ家に来てからも、わたしは毎日お風呂に入っていた。

この世界は魔法があるものの、文明レベルはそれほど高くない。

その為、日常的にお風呂に入ることは殆どないのだ。

貴族たちは、侍女や使用人に体を拭いてもらうことで、体を清潔に保っている。


ある時、わたしが自分の部屋でのほほんとお風呂に入っているとお母様に見つかった。

お母様はわたしをお世話する侍女に、わたしがお湯に浸かって気持ちよさそうにしていると聞きつけて、様子を見に来たそうなのだ。

実はわたしのお肌は毎日お風呂に入っているおかげで、ピカピカのつるつるだ。

美容に興味のあるお母様は、わたしの肌に着目していろいろ調べていた。

そしてお風呂に秘密があると踏んだそうなのだ。


それからお母様と一緒にお風呂に入るようになり、お母様もすっかりお風呂にハマってしまった。

いまやお母様のお肌も毎日お風呂に入っているおかげでピカピカのつるつるだ。

さらにお母様は友人にお風呂のことを紹介した。

こうして偶にお茶会の後に友人たちを誘って、一緒にお風呂に入るようになったのだ。


「わかりました!お任せください」

わたしはそう言うと魔法を発動する。

いまやわたしの魔法の力は以前よりも遥かに強くなっている。

氷魔法を使い大きな浴槽を作り出し、そこに大量のお湯を貯める。

お風呂はあっという間に完成した。


それを見た周りの夫人からは大きな歓声があがった。


「ミルロいつもありがとう」

一緒に湯船につかるお母様は、わたしにお礼の言葉を伝えた。

実はわたしもこうやってみんなで入るお風呂は大好きだった。

わたしは笑顔でお母様にお礼を返す。

「とんでもないです。わたしも1人で入るよりもこうやってたくさんの方とお風呂に入るのは楽しいですよ」

すると周りの夫人達も次々と話にはいってくる。


「それにしても、お嬢様の魔法はいつ見ても感服しますね。わたしもお嬢様のような養子が欲しいわ。ねえ、うちにこない?」

近くの夫人は笑顔で、私達の話に入ってきた。


「ずるいですわ。エルトン男爵夫人。わたしもミルロちゃんみたいな娘が欲しいわ。ねえ、マルチーズ男爵夫人、ミルロちゃんを頂けないかしら?」


「だめですよ。メラン伯爵夫人。ミルロはわたしの大切な娘です。譲るわけにはいきませんよ」

そんな2人に対して、お母様は毅然とわたしを大切だと言ってくれる。

その言葉にわたしはジーンと胸が熱くなった。


異世界に転生した時、わたしは心の中では不安でいっぱいだった。

また前世の時の、父と母にもう会えなくなったと理解すると寂しくて不安に押しつぶされそうだった。


だが今のミルロには、こうしてわたしを大切にしてくれるお母様、お父様、そしてお兄様がいる。

このマルチーズ家に来てから、わたしの寂しさは消えて幸せに満ち溢れていた。


わたしは幸せ者だ。

湯船に浸かりながら、わたしはこの幸せを噛み締める。

こうしてわたしはたくさんの夫人たちに囲まれながら、お風呂を楽しむのであった。


◇◇◇◇

そして時間はあっという間に過ぎて、いよいよ騎士団試験の日になった。

わたしは家族に見守られながら、緊張した面持ちで試験に臨むのであった。

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