ゲームの世界
「ミルロ大丈夫?」
突然声を出したわたしに驚き、ユキメは心配そうにわたしを見た。
つぶらな瞳でじっと心配そうに見つめる。
しまった混乱して、思わず声を上げてしまった。
慌ててわたしは誤魔化す。
「大丈夫よ。ユキメ。貴女が可愛らしくてちょっと驚いてしまっただけなの。わたしを選んでくれてありがとう、こちらこそ宜しくね。」
その言葉にユキメはパッと笑顔になる。
「うん。こちらこそ宜しくね。でもミルロ、さっき倒れてしまったしもう少し休んだ方がいいわ。わたしは姿を消しておくから、元気になったらゆっくりお話ししましょう。おやすみなさい」
そう言うと、ユキメは一瞬で姿を消した。
そういえば精霊は自由に姿が消せる設定だったなと思いだす。
ユキメはわたしのことを心配してくれているようだ。
ゲームでは主人公と精霊はあまり会話をしていなかった。特にモブのミルロの精霊であるユキメは、会話すらなかったであろう。
だが初めて話したユキメは、凄く優しい精霊のようだ。
わたしのことを心配してくれる、思っていてくれる。
胸がすっと暖かくなるのを感じた。
わたしの精霊が彼女でよかった。
ユキメに感謝すると共に、ホっと胸をなでおろす。
それからわたしはベッドで再び横になった。
そしてゲームの内容とミルロの設定を思い起こす。
もちろん、ミルロはこの物語の主人公ではない。
そして仲間キャラでもない。
彼女はヒロインの聖女アリアを苛める悪役令嬢の仲間キャラだ。
その為ゲーム内では中ボスであり、敵キャラに当たる。
マナアースのストーリーは大きく3つのパートに分けられる。
1つ目は魔法学園編。
まだ勇者でも聖女でもないこの物語の主人公ゼノンとヒロインのアリアはそこで出会う。
そこで魔法の研鑽と様々なクエストを通じて二人は互いに惹かれ合い、愛し合うようになるのだ。
なお学園のカリキュラムは3年間だが、3年目に帝国との戦争が起きて帝国編に切り替わるので、学園編は2年で終わる。
次は帝国編。
ゼノンとアリアが3年生になった年に隣国の帝国と戦争が起きて、魔法学園の生徒は兵士として出陣する。
そして、ゼノンとアリアの活躍により王国は戦争で勝利し、帝国を撃退するのだ。
その功績によりゼノンとアリアは、勇者と聖女として認められる。
最後に魔王編。
帝国を倒し平和になったのも束の間、古の魔王が復活しこの世界を脅かす。
勇者ゼノンと聖女アリアは魔王を倒し、この世界を救い伝説となる。
これが主人公達の大まかなゲームの流れだ。
そして次に物語の中でのミルロの役割だ
1つ目の魔法学園編。
ミルロの年齢は主人公より1つ下だ。
その為、主人公達が2年の時に学園に入学する。
そして、悪役令嬢であるカトレアの取り巻きCに任命されるのだ。
なおカトレアはミルロと同じ年齢なので、ゼノンやアリアと1つ違いだ。
取り巻きにされた理由はあんまり覚えていないが、たしかミルロが養子となった貴族間の繋がりだったかと思う。
そしてミルロは悪役令嬢のカトレアと共に、ヒロインのアリアに対して執拗な苛めを行う。
苛めの理由は、カトレアの恋愛事情だ。
主人公の勇者ゼノンは、このウィシュタリア王国の第1王子だ。
そして悪役令嬢であるカトレアは公爵家の令嬢で、ゼノンの婚約者にあたる。
ゼノンとカトレアの婚約は政略結婚。
カトレアはまんざらではなかったものの、ゼノンに愛はなかった。
ところがゼノンは、ヒロインであるアリアに恋をする。
アリアは侯爵家の養子で、元は平民だ。
その為、貴族間の作法や身分に疎い。
身分を気にしないで誰にも分け隔てなく親しく接するアリアに、ゼノンは次第に惹かれていく。
そして二人はいつしか愛し合うようになるのだ。
だが婚約者であるカトレアとしては、たまったものではない。
アリアに詰め寄りゼノンとの決別を要求する。
だが、その時ゼノンとアリアは既に愛し合っていた。
その為、アリアはカトレアの要求を断った。
それに対して、カトレアは激怒しその報復としてアリアに対して執拗な苛めを行うのだ。
クエストの依頼品を盗んだり、戦いの際に邪魔をしたり、学園内で罵倒したり、アリアの大切な物を壊したり。
わたしもゲームをしていた時、カトレアの嫌がらせには憤慨したものだ。
だが、結局カトレアはアリアを虐めた罪をゼノンに断罪され、この学園を去るのだ。
もちろん取り巻きであるミルロも同罪として裁かれ、一緒に学園を去る。
そう、ミルロの学園生活はカトレアのせいで、たった1年で終わるのだ。
続いて帝国編。
悪役令嬢であるカトレアはアリアに報復する為に、敵である帝国側に味方する。
もちろんミルロも一緒だ。
そして中ボスとして、主人公達と激突する。
だがもちろん物語の都合上、主人公達に勝てるわけもなくカトレアはこの戦いで命を落とす。
もちろん取り巻きであるミルロも一緒に死ぬ。
最後に魔王編。
死亡したと思った悪役令嬢カトレアは、激しい恨みにより魔王として覚醒する。
そしてミルロは魔王の手下であるゾンビ兵Cとして復活するのだ。
既に人間ではない。
だがもちろん、主人公達に敗れてしまう。
以上が、ミルロの物語の役割だ。
うん、全然いいことないわね。
わたしは呆れてハアとため息をつく。
だが、わたしの心の中に絶望はなかった。
今のわたしは前世の記憶があり、ゲームの中のミルロとは違う。
もちろん、ゲーム通りに動くつもりもない。
それに、今わたしは確かに生きている。
ここはゲームの世界に似ているが、紛れもない現実だ。
ゲームの通りに物語が動く保証は全くないのだ。
それよりもわたしは転生により、元気な体を手に入れることができた。
さらに魔法まで使える。
ゲームで悲惨なことに合う運命よりも、そちらを手に入れた喜びの方が遥かに大きいのだ。
前世の麗華の時は最後寝たきりで、好きな弓道が全くできなかった。
わたしは弓を引きたいのだ。
物語なんて糞くらえだ。
わたしはわたしのやりたいことをして、好きなように生きる。
悪役令嬢?聖女?勇者?
そんな奴らなんてどうでもいい。
だってこれはわたしの物語なのだから!!
主人公はわたしだ。
誰もわたしを止められない。
わたしはそう思い至ると、ミルロの悲惨な運命を忘却の彼方に消し去った。
さて明日からどう生きようかな。
わたしは今後の楽しみに興奮して、眠れぬ夜を過ごすのであった。