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あてがわれた部屋はとても広かった。
どでかいダブルベッドが部屋を大きく陣取っているが、それでも大きなスーツケースが余裕で広げられるスペースが残っている。
窓際には一人掛けのソファが二つとグラス、ティーバック、ポットや飲料水を置いた小さめのテーブル。
また、壁際には書き物机とその隣には大きなブラウン管テレビがある。
洗面所付きのユニットバスもなかなか広い。
ただ、湯船につかることを想定されていないのだろう、浴槽は膝までしかないほどの浅さだった。
こんな部屋が一泊350元とは、物価の違いは恐ろしい(一元は約十五円)。
残念な点は、清潔感はあまりないところだ。
所々掃除が行き届いていない感じがするし、枕など心なしか汗くさい。
一通り部屋を見終わったところで、インターホンが鳴った。
覗き穴から外を見て角谷さんだとわかったので、ドアを開ける。
「丸山さん、夕食ご一緒にどうですか?」
「いいの? 正直、この辺のことは何もわからないから助かったよ」
「そうだろうと思ったんです。といっても、今夜はホテルのレストランのつもりですけど。移動で疲れてるし、もう遅いので今から外に出るのはおっくうですから」
もちろん彼女の提案に異論はない。
俺たちはホテル内にあるレストランで夕食をとることにした。
二人とも中国語はできないのでメニューはなんとか漢字と英語から料理を推測し、身振り手振りでウェイトレスに伝える。
出てきた料理は中華料理だ。
日本で見る中華とは少し違っていたが。
味はというと、想像していたよりはおいしかった。
ただ、非常に油っぽい。
脂っこいというより油っぽいのだ。
水の不味さをごまかすために大量に油を使うそうなのだが、炒め物から滴るほどというのはいかがなものか……。
お腹も満足して部屋に帰るともう二十一時過ぎだった。
日本との時差は一時間なので、向こうはもう二十二時過ぎだ。
そういえば祐子に何の連絡もしていなかったことに気がついて、携帯を開いた。
メールの選択受信画面を見ると、メルマガが数件と祐子からのメールが一件入っていた。
祐子からのメールだけ受信してみると、「無事に着いた?」という内容だ。
着いたことと、中国の印象を軽く書いて返信した。
祐子とメールのやりとりを何通かしているうちに眠くなってきたので、風呂に入って寝ることにした。
シャワーの湯加減を苦労しながら適温にして頭から浴びてみると、湯が驚くほど砂臭かった。
体を洗うためにシャワーを浴びているのに、なんとなく体をきれいにした気になれない。
今日は働いてもいないのにどっと疲れたので、ベッドに入るとたちまち眠ってしまった。