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時差一時間の地にて  作者: 冲田いつき


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 もう一人の社員はすぐに合流した。


荷物の流れてくるタイミングが俺よりも少し遅かっただろうというくらいだ。


「ごめんなさい! おまたせしました」


ガラガラと大きめの荷物をころがしてやってきたのは若い女性だった。


中堅どころのおじさんが来るとばかり思っていた俺は、その言葉がこちらに向けられたものとは一瞬気が付かなかった。


出迎えの中国人男性がまず彼女に気づき、持っていたプラカードを軽くふる。


そして人数がそろったと見るや、すたすたと歩き始めた。


なんともせっかちというか、せっかち以前の問題というか……。


俺は中国人男性についていきながら、彼女に挨拶をした。


「はじめまして。神奈川支部、品質管理の丸山優斗です」


「はじめまして! 静岡支部、生産技術の角谷美咲です。よろしくお願いします」


彼女は近くで見ると本当に若い。


少なくとも年下であることは間違いないだろう。


生産技術のやからはこんなか弱そうな女性も中国にほっぽり出すのか。


「丸山さん、飛行機でお隣でしたよね? まさか同じ会社の方だったなんて! 話しかけとけばよかった」


角谷さんが言った。飛行機で隣だった? まさか、あの機内食をおいしそうに食べていた彼女か?


「すいません、まったく気づきませんでした」


「普通、飛行機で隣になった人なんて覚えてないですよね。でも、こんな偶然もあるんですねぇ」


 空港の駐車場に着くと、出迎えの中国人男性は車に乗るように促した。


工場までは車で二時間ほどかかり就業時間中には到着できないので、これから直接ホテルに向かう。



 角谷さんはとても人なつっこいしゃべり方をする子だった。


そしてとてもおしゃべりで、車での道中よく俺にしゃべりかけてきた。


しかし、これが全然嫌じゃない。


話が上手いのだろう、うっとうしいと思うどころか、二時間の道中を楽しいと思えるほどだった。


入社二年目にして彼女は中国出張が初めてではないそうだが、周りの景色を興味深そうに眺め、おもしろいものを発見すると俺に教えてくれた。


例えば、いかにもイメージの中の中国という感じのケバケバしく派手なネオンの看板や、ものすごい運転をしている車など。


とりわけ道中にいくつか見えた工事中の高層マンションには驚いた。


確実に十階建てどころの高さではないのに工事の足場が竹組みなのだ。


日本で普通使われる頑丈そうな足場でも怖そうなのに、こんな細くて今にも折れるか、つなぎ目の紐がとれてしまいそうな足場でよく作業ができるものだ。


また、俺たちの乗る車の運転の荒さも例外ではなかった。


クラクションを鳴らしながらすいすいと車の間を縫って走る様は、爽快というよりは不安だ。


きっと同じような事を思っていたのだろう。


角谷さんが運転手に聞こえないよう、小声で言った。


「中国の高速道路って怖いですよね。どの車もクラクション鳴らしまくりだし、道路もがたがただし、無茶な追い越しとか普通だもの」


「確かにこのクラクションは日本じゃ考えられないな。この車を運転してくれてる人も追い越そうとする度にクラクション鳴らしてるし。」


「日本でのクラクションて”警音器”じゃないですか。よっぽどじゃないと鳴らしちゃいけないというか。でも、中国では”通りますよー”くらいの意味みたいですよ」


 高速道路を降りて一般道に出ると、交通マナーの悪さはその比ではなかった。


信号などあってないようなもの。


進める者が進むという感じだ。


一般道はカルチャーショックも高速道路の比ではない。


原チャ三人乗り、立った人間が何人も乗っている二トントラック(荷台の扉が開いていたから人が乗っているのがわかったのだが)、車道を走る、山程の荷物を積んだボロいリヤカーを引く自転車……。


乗り物だけではない。


中央分離帯の芝の上にはなぜか人がいる。


それも一人、二人ではない。


上半身が裸の兄ちゃんだったり、Tシャツの裾を胸のあたりまでをたくしあげてだらしなく腹を出しているおっちゃんだったり、若い男女だったり……。


一定の間隔で人がいて、思い思いにくつろいでいるように見えた。この現象については角谷さんが解説してくれた。


「この人たちは外に涼みに来ているみたいですよ。家にエアコンがついていない人のほうが多いんです」


KECの現地法人が用意している、従業員のための寮にも当然エアコンはついていないそうで、その部屋に三人も四人も詰め込まれるというのだから、そりゃ外のほうが涼しい。


このあたりは出稼ぎ労働者の多い工場地帯だから、そんな環境の人は多いだろう。


しかし、涼む場所がなぜ中央分離帯なのかは謎だ。


 昼頃の飛行機に乗ったのだが、ホテルに着いたらもう夕食時だった。


ホテルの入り口に車をつけると、ボーイがドアを開けた。


一応、会社指定の三ツ星ホテルなので、なかなか綺麗な建物である。


三ツ星といえば聞こえはいいが、むしろ三ツ星以上に泊まらないといろいろと不都合が多いのだ。


個人旅行ではないので、会社は出張者に最低限の安全、安心と快適さを与えなければいけない。


ここまで連れてきてくれた中国人男性に礼をいって別れ、とりあえずホテルにチェックインした。


初めての海外で緊張したが、英語が通じたので案外とスムーズに済んだ。


フロントの女性はどうやら多少の日本語もできるらしい。


周辺に日本の工場も多くあるので、日本人客もよく泊まるのだろう。


自分の会社の出張者も何人か滞在している。


当然、角谷さんもこのホテルだ。

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