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魔物使いはめんどくさがりながらも相棒と異世界で生きていく  作者: 千歳
1章~別名説明回とも言う~
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「あー、疲れた」

 

 ひいらぎ亭のベッドは木製の土台に藁を敷き詰め、その上にシーツをかけただけ。お世辞にも寝心地がいいとは言えない。

 それでも今は前世で寝たどのホテルのベッドよりも恋しい。

 

「早く帰って明日の昼まで寝たい。…痛い。悪かったよ。ちゃんと肉を買ってやるから蹴るのはやめてくれ」

 

 慎二の願いはまだ叶いそうにない。

 少なくともギルドで報酬を受け取って、フェンに肉を買ってやってからでなければ。忘れたら噛まれそうだ。

 

 幸いまだ日は沈みきっていない。帰りは休憩なしで走りきった。タイムは三時間を切っているのは間違いない。

 これならばまだギルドも肉屋も開いているはずだ。

 慎二は気力でギルドへと足を進める。


「魔法の袋があって良かった」

 

 ミーアからは討伐証明として魔石と呼ばれる心臓の脇にある部分を回収するように言われていた。

 これを回収するのもまた大変だった。いちいちナイフで胸を開いて、取り出す。道具屋で買ったばかりのナイフだというのに血油でどんどん切れなくなっていく上に、ずっと中腰。さらに手や服は血の臭いが染み付く。戦闘以上に拾うしたかもしれない。

 低クラスの仕事にピッカーという仕事があるのも納得だ。

 魔石の大きさはミニオークの物が直径3cm、ボスが一回り大きい5cm程。ほとんどが赤黒い中、ボスのだけは焦げ茶色だった。

 もしかしたら、普通のミニオークではないのかもしれない。

 慎二はそう考えていた。

 とにかく、1つ1つは小さいもののそれが50以上ともなればそれなりの重さになる。それを担いでくることになっていたら疲労は今以上であっただろう。

 

「あ、帰ってきたにゃ!わわ、血だらけにゃ!大丈夫かにゃ?怪我はないかにゃ?ずいぶん早かったにゃ。失敗だったかにゃ?でも気にしないでいいにゃ。ささ、とりあえずこっちに座ってくださいですにゃ」

「ええ、大丈夫ですよ。…ありがとうございます」

 

 慎二はミーアがパパッと払ってくれた椅子に腰をかける。

 早口に捲し立てるミーアに答える気力もない。

 

「それよりこれを」

 

 腰に括り付けられた袋をひっくり返す。

 ミーアは流れ出てくる魔石に目を見張った。

 

「わわわ、すごい数にゃ。それにそれはマジックパックにゃ。すごいにゃ。初めて見たにゃ」

「っち、帰ってきやがったか」

 

 不機嫌そうに舌打ちをしながらヤドルが階段を降りてくる。

 慎二はヤドルに殺気の籠った視線を返す。ヤドルは慎二の視線をものともせずに向かいにドカリと腰をかけた。

 

「嵌めましたね?」

「さぁな?なんのことだかさっぱりだぜ」

「お、落ち着くにゃ。それについては私が説明しますにゃ。と、とりあえずお茶でも飲むにゃ。ちょっと待っててくださいですにゃ」

 

 慎二が睨み、ヤドルが透かす。ミーアが戻ってくるまでピリピリとした空気が続いた。フェンだけがあくびをして我関せずだった。

 

「シンジさんとフェン君にはごめんなさいにゃ。ほら、マスターも謝ってくださいにゃ。でもマスターも悪気があったわけじゃないにゃ。シンジさん達を高く買っているからこそ出来るだけ高いクラスでスタートさせたかったにゃ。そのためにはどうしても実績が必要だったんですにゃ。本当にごめんなさいですにゃ」

 

 幾度となく謝るミーアを見て慎二は一度ため息を吐いて口を開く。

 

「…事情はわかりました。今回は"ミーアさん"に免じて許しましょう。でも、次回からはちゃんと説明してくださいね」


「んだよ、金払うのは俺だぞ?」


「マスターはうるさいにゃ!ちょっと黙ってるにゃ」


「お前、俺は主人だぞ」


「執務室の机のところの床下。衣装棚上から二段目。その他もろもろ。気付いてにゃいとでも思ったですかにゃ?」


「んぐっ」

 

 慎二にはなんの話かわからないやりとりであったが、ヤドルが何か弱味を握られているのだけはわかった。

 

「マスターもこの通りですにゃ。今から報酬を持ってきますにゃ。マスターはさっさと冒険者ギルドに報告とギルドカードの申請に行くにゃ」

 

 ヤドルは舌打ちをしてお茶を一気に飲み干すと羊皮紙を握って出ていった。

 去り際にミーアに「デカイのは買うなよ」と言い残して。

 

「シンジさん、本当に申し訳にゃかったですにゃ。マスターもいろいろありますにゃ。お詫びにちょっぴりだけにゃけど買取額に色を付けときましたにゃ」

 

 慎二の前に金貨が置かれる。

 全部で22枚だ。前日に聞いた報酬は魔石の買取額を含めて1体当たり2枚だった。

 ミーアが全部で56個、ボスは買取なしで金貨10枚とのことなのでキリのよい額にしてくれたらしい。

 確かにわずかではあるが、ギルドの様子から想像すると色を付けてくれただけ十分だろう。ミーアも申し訳なさそうにしている。

 これで演技だったら大したマカデミー賞が取れるだろう。

 

「ありがとうございます。でも、どうしてこれは買取じゃないのですか?」

 

 慎二はテーブルの端に置かれていたボスの魔石を持ち上げる。まだ温かく、脈を打っているようだ。

 

「それはたぶん、フェン君に食べさせろってことですにゃ」

 

「フェンに?これを?どうしてですか?」

 

「魔物はそうやって魔石から魔力を吸収することで力を蓄えるんですにゃ。それを食べさせればフェン君も強くなるはずですにゃ」

 

「なるほど。なら全部食べさせればいいんじゃ?」

 

「なんでもかんでも食べさせればいいってわけじゃないんですにゃ。質が大事ですにゃ。マスターはフェン君ではミニオーク程度では食べても意味がないと思ったんですにゃ。それに回収した魔石を全部食べさせていたらシンジさんはどうやってごはんを食べるにゃ?」

 

 ミーアの言う通り、魔物の討伐報酬には魔石の買取額を含むので魔石を売らないとなると報酬が減ってしまう。

 慎二としてもフェンを強化したいのはやまやまだが、自分でもいろいろと揃えたい。「魔石の回収が面倒だから奴隷が欲しいな」なんて思っていないし、ましてエルフの館なる娼館に行きたいだなんて断じて思っていない。

 

「…何を考えているにゃ?」

 

 ミーアが訝しげに慎二を見る。

 

「いえ、カードはいつ出来るのかなぁ~と思いまして…」

 

 自分でも苦しいと思いながら言い訳を述べる。

 ミーアは「ふぅ」と息を吐いた。

 

「そういうことにしておきますにゃ。カードはそんなにかからないと思いますにゃ。良ければ帰ってくるまでご飯でも食べて待ちますかにゃ?ちょうど私もご飯を食べようと思ってましたにゃ」

 

 慎二はそれを断る。今は飯より睡眠だ。

 

「それもそうですにゃ。じゃあ、また明日来て欲しいですにゃ」

 

「わかりました。では今日はこれで」

 

 慎二は頭を下げて席を立つ。疲れと眠気のせいで少しふらふらしている。

 ミーアも「気を付けて」と返して書類やカップを片付け始める。

 そこに「痛っ」と慎二が声を上げる。

 ミーアが扉のほうを見るとフェンが慎二のふくらはぎをがっつり噛んでいた。

 

「わかってる、わかってるよ。忘れてないから!あのミーアさん、オススメの肉屋はありませんか?」

次回10日0時予定です。

更に12時に2章1話を投稿予定です。

気に入って頂けたらブクマや評価をぽちっとお願いします。




補足

マナと魔力の違いですが大気中などに存在するものマナ。体内に吸収されたものが魔力です。これは人も魔物も変わりません。ただ、こちらには種族ごと個体ごとにそれぞれ差があります。

そしてマナを魔力へと変換し心臓を通して血液に送り込む器官が魔石と呼ばれる内臓の一部です。

ミニオークソーサラは土属性が得意だったため茶色っぽい色ということにしました。


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