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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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094(R) 鉄を作ろう(1)


 バドスの質問攻めで、砂鉄を使ったタタラ製鉄を説明することになってしまった。

 炉を1回ごとに作り直すことを聞いて、「無駄な事を……」何て呟いていたが、バドス達ドワーフ族の製鉄方法とはかなり異なるんだろうな。


「要するに、木製の樋を作って、そこに川砂を入れて水を流せば良いんじゃな?」

「基本はそうなんだと思うな。俺もやったことが無い。だけど俺の住む地方で昔の連中は、この方法で鉄を取っていたらしい。記録はなんだか見たんだがその当時は自分で作ろうとは思ってなかったからな。やってみないと分からない」


 とはいえ、上手くいけばいくらでも鉄が作れるということで、早速準備が始まった。責任者はハリウスで、実行担当はロディとオリックになるらしい。

 試行錯誤で始めることになったけど、基本は比重の違いによる選別だから、案外上手く行くかもしれない。

 どんな樋を作るかは俺に担当が回って来たから、村の木工職人と相談して横幅1Cb(30cm)で深さ1Cbの断面を持った樋を、200Cb(60m)の長さで作って貰うことにした。


「これに砂を入れて下流に流せばいいのか?」

 出来上がった樋の一部を見ながらハリウスが考え込んでいる。


「それで鉄が手に入る。見た目は黒い砂だが、持てば重いから直ぐに分かるさ。樋の傾斜を変えたり、一緒に流す水の量を変えたりして色々と試してくれ。何事も最初から上手くできるとは思わないでくれよ」

「だよなぁ……。こんなんで鉄が採れるなら誰でも始めるよ」


 バドスと話をして、タタラ製鉄の一番の課題が砂鉄の採取にあることが分かっている。炉については、俺の大まかな説明でも納得していた。

 どうやら、ドワーフ族の大昔の製鉄方法に似た構造らしい。


「何も知らずにこの炉を見れば、里の連中が笑い出すじゃろうが、鉄鉱石を使わずに鉄を作れると知れば驚くに違いない。上手くできれば里の連中に教えるのは構わんじゃろう?」

「色々と世話になってるからね。バドスの判断で良いよ。だけど出来てからにしてくれよ。でないと恥をかきそうだ」


 俺の言葉に、背中をドンと叩いて笑い声を上げている。

 冗談で叩いたのは分かるんだけど、相変わらずの力だ。息が止まりそうだったぞ。


 館の西の広場を使ってドワーフの連中がタタラ炉を作り始めた。構造上あまり小さく出来ないところが難点だな。

 高さ6Cb(1.8m)、上部の開口部は縦横とも5Cb(1.5m)ほどもある。炉に風を送るフイゴは左右に2つずつ設けてあるから、炉を囲むように作った納屋の大きさは横幅が20Cb(6m)を越えている。高さも2階建てぐらいあるんだが、横に大きな煙出しが付いている。

 そういえば炉の上部はかなりの炎が上がるんだったな。この高さでだいじょうぶなんだろうか?

 炉はバドスに任せてあるから、あまり心配しないでおこう。隣の館までは50Cb(15m)ほど離れているし、炉を入れた納屋に面した方は石壁だ。火事になっても館が燃えることはないだろう。


 3日ごとの集まりでも、館の隣に作り始めた炉が話題になってきた。

 キャミー達の若手グループがフイゴを担当すると名乗り出る始末だ。近くで様子を見たいからなんだろうな。

 

「例の砂鉄採集ですが、明日から現地組み立てを行う予定です。1個分隊で警備しますから、トルガナン王国の監視の連中も遠ざけられるでしょう」

「俺の方からも出すぞ。ハリウス達は採取に力を入れてくれ。周辺の監視は俺達がやる」

 ハリウスとケーニッヒで採取場所周辺の部隊配置まで相談し始める始末だ。


「問題は炭じゃな。石炭が使えれば楽なんじゃが、そうもいくまい。たっぷりと買い込んどいた方が良いぞ」

「既に伝えてあるよ。荷馬車で3台分あれば十分じゃないかな? 1度やれば使用量も掴めるからね」

 バドスがうんうんと頷いているから、他にも使い道があるのかな?

 

「それで、運よく鉄ができたら何を作るんじゃ?」

「最初は漏れの我儘を聞いてほしい。刀を打ってくれ」

「刀じゃと?」

「俺の住んでた地方の剣なんだけど……。『折れず、曲がらず、良く斬れる』がうたい文句だよ。あの炉で作った鋼でないとダメなんだ」


 そんな理想的な長剣などあるものか? とそれもワインを飲む肴になってしまった。

 だけど、バドスはジッと俺を見つめてワインを飲んでいる。

 自分達の作る鉄の限界を知っているからなんだろう。新たな炉で作る鉄がそんな性質を持つなら……、と考えているのが良くわかる。


 比重選別で砂鉄を得る方法を始めたのは、春分が過ぎてからになった。

 トマス達は畑を鋤いて、肥料を入れている。寒いさ中だが、早めにやればそれだけ収穫が期待できると言っていたのは、肥料が土になじむには時間が掛かると経験で知っているんだろう。


 ハリウス達は森に泊まり込んでいるらしいが、周辺に偵察部隊さえ見当たらないらしいから少しは安心できる。俺達を監視している怪しい猟師達は、商人達のやってくる荒地に拠点を作ったらしい。

 商人の荷を確認しているのは相変わらずだが、商人に尋ねるだけで荷を改めることはしないらしい。この頃は、商人達にちょっとした品を頼むこともあるらしいが、その多くはワインとタバコらしい。


「あの猟師達はちゃんと仕事をしてるのか?」

「たぶん、この島の取引を監視することを指示されたんだろうな。その範囲ではきちんと仕事をしてるんじゃないか? この島への交易ルートがもう一つ出来たから、部隊も縮小してるんだと思うよ。だけど、依然として荷馬車での交易は続いている。その量を把握すれば俺達の暮らしをある程度は想定できる」


 荷馬車の荷と同じだけ船で運んでいると想定するだけでも、島の人口を推定できるだろう。それによって俺達の戦力を分析することも出来るはずだ。

 昨年やって来た船で、この島の南側の様子を知ったはずだから、穀物の生産高も推定できるだろう。

 生産量と購入量を合わせれば俺達が消費する穀物の量が分かる。それで人口を推定できるんだから、やはり監視の手を休めることはしないだろうな。


「俺達を諦めたわけではないんだな?」

「それは無いだろう。俺達の現状は、トルガナン王国に出来たオデキみたいなものだからな。早めに潰したいと思っているはずだ」


「あの会見は無駄だったのか?」

「無駄ではない。あの会見が無ければオランブル王国はすでに無くなっていたんじゃないかな? 自分達の行動の限界に気が付き始めたんだと思うよ」


 今夜は集まりが無いから、のんびりとケーニッヒと2人で焚き火を囲んでワインを飲む。

 そういえば、俺達のワインはちゃんと発酵が進んでいるんだろうか?

 誰も話題にしないんだけど、ちょっと心配になってきたぞ。


 次の集会の時にワインの話をしてみると、そろそろワインを濾すということに話がまとまった。

 バドスとトマスがこの辺りに詳しいのは助かる話だ。

 そういえば、タルにブドウを潰したまま入れたからね。そうしないと発酵しないと言っていたけど、ブドウの皮が無ければダメってことなのかな?


 すでに濾過器は作ってあるらしいが、濾過器だって木綿布を3重にしたものらしい。上部にザルが付いているのは、皮や茎を除去するためなんだろう。


 翌日。ドワーフ族の暮らす洞窟から次々とワインを入れたタルが持ち出され、濾過が始まった。

 早速、バドス達が試飲しているのは黙って見てあげよう。

 うんうんと頷きながら納得しているところをみると、最初にしては良くできたということになるんじゃないかな。


「まぁ、これなら売れるじゃろう。まだ若いワインじゃが、半年も寝かせれば十分じゃ」

 ポットに入れたワインを俺達にも飲ませてくれた。

 あまり甘くはないんだな……。甘いブドウがワインになると甘さが無くなるのは疑問に思う。


「それで、頼んでいた物は出来たのかい?」

「あの変わった、ポットじゃな。一応出来たが、どうするんじゃ?」

「バドスが出荷を決めたら3タルを俺に渡してくれ。量は格段に減るが、火酒を作ってみる」

「酒から酒を造るじゃと? まぁ、始めたのはリオンじゃから文句は言わんが、出来たら飲ませてくれよ」


 これで、蒸留酒造りも何とかなりそうだ。

 まだこの世界には無いから、引く手あまたになって値が上がりそうにも思える。この島での産業化を何としても行わねば……。


 少しずつ気温が上がり始めたのを感じるころになって、ハリウスが集会に持ち込んだ物は、紙に包んだ砂鉄だった。

 

「この真っ黒な代物が、リオンの望んだものなのか?」

 渡された紙包みはズシリと重い。

 一つまみ取ると、焚き火の熾火にパラパラと振りかけた。赤い火花を出して弾けたから間違いなさそうだ。


「バドス、出来たぞ。これが砂鉄だ!」

 紙包みをバドスに手渡すと、砂鉄をつまんで感触を確かめている。紙包みを手に持って重さも確認しているようだ。


「確かに鉄じゃな。このような状態で採取で来るとは思わなんだ。それで、いつ始めるんじゃ?」

「採れた量に寄ります。少なくとも穀物を入れる袋で3つは必要でしょう」

「なら、直ぐに始められる。穀物袋で5つ分が採れたぞ。まだまだ採取しているから夏までには10袋を上乗せできそうだ」


 かなりの採取量だ。上流に鉄鉱石の鉱脈でもあるんだろうか?

 だが、俺達で鉄が作れるなら、これも新たな産業に結び付く。フイゴの人数が足りなくなることもあり得るから、農作業が一段落したところで始めて見よう。



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