090(R) 住民が増えてきた
年末にやって来た行商人達が伝えてくれた話では、トルガナンとトーレス王国がオランブル王国の内戦に肩入れをしたらしい。
あわよくばオランブルを手中にと両国ともに介入したようだが、今の俺達にはどうでもよい話だ。
少しあるとすれば、俺達への進攻が遅くなることぐらいだろうか?
この期間を有効に使わねばなるまい。
そんなことで、ケーニッヒと火薬の原料作りに精を出す日々が続いている。
「トルガナン王国の商会から、本作りの仕事が入ってるそうだな?」
「内容的には、俺達よりは進んだ教育を考えているな。どちらかと言えば、俺達の村で教育を受けた者達が次に学ぶ内容になるようだ」
士官学校の教科書になるのかもしれないが、これでは少し足りないな。この教科書を元にして俺が大幅に内容を修正している最中だ。それは俺達の島で使うことになる。
「援助しても問題はないのか?」
「まぁ、教育だからなぁ。少しは協力してやりたいところだ。それに、これもこの島の産業の一つではある。作ればそれなりの収入が入るし、一部は税金として俺達にも還元される」
印刷による収入は教団も当てにしているはずだ。無理のない範囲で製本を受注するなら特に問題はないだろう。
「それよりも、今年も何組かが結ばれたな。数年すれば俺達の子供がたくさん生まれそうだ」
「ハリウスはベルディとで、ミーシャはオリックだったな。メルディも相手が出来たみたいだから来年には確実だ。村人達も何組かの縁組があったから、村が西へと延びてるぞ」
ログハウスが10棟新たに作られて、集会場も少しまともなものが作られたようだ。村の東に作った集会場は周囲に壁が無いが、今度の集会場は3方向をブロックの壁で作ったとトマスが教えてくれた。村の防衛拠点として考えたようだな。
現在は、村の南の石垣に沿って石塀を作っているらしい。石垣の高さが見掛け上高くなれば、それだけ攻め手は苦労することになるだろう。
嫁さん連中にもネコ族用の短銃の使い方を教えたようだし、クロスボウについては村人ほとんどの者が使い方を理解してくれたようだ。
「村が気になっていたが、これで少しはマシになったか?」
「そうだな。西は問題ないとしても、東はそのままだ。東の集会場を少しマシにしときたいものだ」
そんな話をしながらケーニッヒと硝石の精製作業を行う。一番使用量があるからたくさん作らないとダメだし、精製過程で出た廃液は有機肥料に混ぜるからいくら作っても消費量が上回ってしまいそうだ。
3日おきに集まる集会でも、次の戦の準備よりは来春の開墾範囲と作付の種類が問題になって来た。
それだけ平和なのだろうが、やはり島だけでなく陸地でもイモを作りたいらしい。
「一応可能だろうが、場合によっては敵の食料になってしまう。その辺りを考えてくれたならやっても問題はないぞ」
「林の近くで作ります。畝を作らずに作れば早々見つけられることも無いでしょう。世話もせずに、秋の取入れだけを行ないます」
どれぐらいの収穫量になるかは分からないけど、トマス達に任せておこう。食料の時給はなるべく多い方が良いに決まってるからね。
「廟は来春には完成じゃ。ついでに作るものはないのか?」
「でしたら、村の西に見つけた泉を何とかしてほしいですね。村まで水を引きたいと思うのですが」
「場所を明日にでも教えてくれれば良い。確かに村の人口が増えたからのう。今までの水場では不足じゃろう」
泉は村よりも少し上の西の尾根際にあるらしい。それほど大きなものではなく、尾根の岩盤の亀裂に直ぐに入ってしまうそうだから、地上を流れるのは100Cb(30m)にも満たないそうだ。
ちょっとした貯水ダムが作れれば後々まで役に立ってくれるに違いない。
年が明けると、西に向かって林の開墾が始まった。
直ぐに畑とはせずに何年かは放牧地になるようだが、1Rd(150m)ほど放牧地が伸びれば羊達も喜んでくれるだろう。
もうすぐ春分という時に、行商人達が隊列を組んで海の道の対岸に現れた。
トマスや、ハリウス達が荷物をラバに積んで行き来している。
昔は空荷で行商人達を帰したのだが、近頃は売れる物が多くなってきたからね。
塩は喜んで出来た分を全て引き取ってくれるし、製本した本も木箱に入れて商人達に渡しているようだ。
「例のオランブル王国の状況だが、トルガナンとトーレスの睨み合いが続いているらしい。決定的な勝利をマルデウスは得られなかったようだな」
商人達から聞いた情報を、地図を広げてケーニッヒが教えてくれた。
それによると、オランブル王国の王都と貿易港を結んだ線より東をマルデウスは手に入れたようだが、トーレス王国はそれより西を手中に収めたらしい。
「国民の7割、国土の6割を手に入れたならそれで十分じゃないのか?」
「3個大隊の軍勢が互いに睨み合っているようだ。確かに王都を手に入れたようだが、王族と貴族がそのまま残っている。それをどうするかが見ものだな」
マルデウスは大砲とロケットを持っていたはずだ。それを有利に使えば簡単に手に入れられたはずだが……。
まさか、トーレス王国も似たような武器を持っていたということか?
「トーレス王国の武器は依然として弓と槍に剣なんだろう?」
「そうだ。だが、連中は騎馬隊を主に使ったようだ。攻め込んだ軍勢の半分以上が騎馬隊だと聞いたぞ。それにロケットを使ったらしい。ロケットはこの世界に急速に広がったようだ」
ロケットが使われたなら、大砲はどうなんだろう?
大砲の登場は、直ぐに銃として使われるに違いない。俺達の島の防衛にもかなりインパクトを与えることになりそうだ。
「ロケットがあるとはな。威力が問題だが……」
「今も使っているのはマルデウス達だけらしい。侵攻時にあるだけ使ったんだろう。残りわずかというところがトーレス軍じゃないか」
それからすると、トーレス王国は他国よりロケットを買ったということになりそうだ。それに引き換え、トルガナン王国は自国での生産が可能と言うことだから、睨み合いはそれほど長くは続かないだろう。
だが、騎兵の一斉突撃をロケットで阻止できるとは思えない。マルデウスの軍もかなりの犠牲者を出す可能性がありそうだな。
「色々と問題が出て来たな。商人にこの世界の大きな地図を手に入れるように言ってくれないか? トーレル王国よりも西、ラーメル王国よりも東が記載されていることが条件だ。金貨10枚でも手に入れたい」
「明日にでも頼んでみよう。だが、金貨10枚も要求するだろうか?」
「たぶん高いはずだ。一応預けて、お釣りをもらえば良いだろう? 銀貨と銅貨も足りないんじゃないか?」
村人の協力は戦以外は日当を払うのが習わしだ。
結構、少額硬貨が出て行くとユーリアが嘆いていたのを思い出した。
「両替すると手数料をとられるからな。まったく両替商は抜かりが無い」
ミーシャ達に何度か町に両替に行ってもらったが、手数料が5%だからね。ぼろい商売ではあるな。
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春になると、農家の連中が一斉に畑に繰り出していく。
今年も豊作だと良いんだけどね。
ミーシャのお腹が急に目立ち始めたから、ひょっとして出来ちゃった婚になるんだろうか?
東の見張りは、ミーシャの部下になったようだが、ミーシャをそのまま若くしたような女の子が統率してくれるらしい。
「私の代わりにメリーネがやってくれるわ。半年も過ぎたら私が復帰するから心配しないでだいじょうぶよ」
「それは早すぎるな。生まれたら1年は村でトマス達の手伝いをしてくれ。先ずは丈夫な子供を産んでからだ」
全く、ケーニッヒと一緒で背負いカゴに子供を入れて部隊を仕切るつもりだったのかな? 普段の調子が軽いからこっちが心配してしまう。
「それで、館でなく村で暮らすのか?」
「村の方が賑やかで良いわ。おばさん達も親切だし安心して暮らせるから」
館の住人が少しずつ減ってしまうのが残念だ。
村からは坂道だから、あまり広間にもやってこれないだろうな。だけど、今年中には子供を背負ってくるに違いない。
「それで、リオン達はまだなの? だいぶ経つんだからそろそろ良いんじゃない?」
「ユーリアはエルフ族だからね。まだまだ早いと思ってるんじゃないかな。俺はどっちでも良いんだけど、皆が子持ちになって俺だけいないというのもちょっと嫌だな」
「だいじょうぶよ。今年の冬には生まれるわ。ミーシャの子と同じ年齢になるから、遊び相手には不自由しないと思うわ」
俺達にお茶を運んできたユーリアが微笑みながら教えてくれたんだけど、それって一大事じゃないのか!
のんびりとお茶を飲んでるような状況ではないと思うんだけど……。
「ほうほう、驚いてるわね。そんなところはオリックと同じだわ」
「男の人はそうなんでしょうね。でも、ジッとしててもだいじょうぶよ」
どうしようかと、ベンチから立ったり座ったりを繰り返している俺を見てユーリアが言ってくれたけど、そんな会話を聞いて笑い出したミーシャを今度は恨めしく見ることにした。
「今度は誰かしら。他から住人を集めるのも良いけど、自分達の子供が増える方がやはり一番うれしいわ」
「となると、早めに住民台帳を作った方が良いかもしれないな。あまり人が増えるとどんな住民が住んでいるか分からなくなってしまいそうだ」
だけど、住民台帳を作るとなると反対する者も出て来るかもしれないな。
それを元に人頭税を取ろうとは考えていないけど、そんな徴税があることもケーニッヒから聞かされている。




