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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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009(M) 勇者の帰還報告


 今日が、王女救出に向かった勇者達の最後の1組が王宮を訪れる日だ。

 昨日王都に入って、欠けた金器や銀器を金に換えたらしいが、さすがにコキュートスの宮殿に入っただけの事はある。となると、献上品も期待できそうだ。それに手にした金貨も、俺達の軍資金に役立てられるに違いない。


「だいぶ御機嫌ですな」

「分かるか? 機嫌も良くなるだろうよ。これで最初の計画が終わるんだからな」


 勇者は俺一人で良い。

 勇者マルデウスが王女を救い出し、次期国王になるのだから……。


「来るとなれば、朝食を終えてからでしょう。そろそろ王宮に向かいましょうか?」

「そうだな。部下の配置はいつも通りで良い。それと、ハイレーネン公爵もやって来るのだな?」

「すでに到着とのことです。そろそろ一度お会いにならないと、疑いを持たれますよ?」

「昼過ぎに、会見の場を作ってくれ。先ずは縁を切ることを明言すれば十分だ。それで向こうは動いてくれるだろう」


 今まで後見人の立場を散々に利用してくれたからな。きちんと礼を返さねばなるまい。俺に私兵を向けてくれれば後はこっちのものだ。それを上手く利用すれば……。


「問題はもう一人の王女です」

「政略結婚の道具に使える。隣国の王子に娶らせるのが一番なのだが」

「でしたら、西ですな。それで西の1個大隊を動かせます」


 王都の1個大隊と近衛兵2個中隊では、覇道を進むには少し足りない。富国強兵策を執ることになるのだが、短期間に強兵を作る方法を考えねばなるまい。

 王宮までの回廊を歩きながら、今後の計画を練り上げる。今のところは順調だ。

 

 王宮内には、貴族に部屋が与えられている。むろん準男爵には大部屋があるだけだが、男爵ともなれば2部屋が与えられるし、さらに上の公爵ともなれば3部屋が与えられるのだ。

 俺は男爵ではあるが、王位継承第一位である王女の婚約者であることから、破格の3部屋を頂いている。ハイレーネン公爵よりも拝謁の間より近い場所というのが、貴族達には気に入らないようだ。

 執務室に入ると、最初の広間の中央にあるテーブルセットに数人の男女が座っていた。

 全て俺の配下になるが、直接的にはジャミルの部下になる。


「変わったことは?」

「今のところ平穏です。クリスティ殿の内偵は終盤に差し掛かっていると先ほど使いが知らせてきました」

「けっこう早くに終わったな。もっとも、貴族なんてものは、叩けばいくらでもほこりが出てくるのかも知れん」


 壁の棚から人数分のカップを取り、テーブルの連中に酒を飲ませる。

 昼から飲むのは問題だが、先ずは最初の計画が今日で終わることを祝うぐらいは良いだろう。


 男爵自らが酒を配るのを見て、彼らが驚いた表情で俺を見ている。

 俺は身分制度なんてない社会で育った庶民だからな。貴族に抜擢されてもそれほど急に変われるものではない。


「それで、近衛兵の工作は?」

「後ろ盾のない者達が喜んでいましたよ。羽振りの良くない貴族を後ろ盾にしている連中は現在交渉中です。ですが……」

「全てを手中に収めるのはさすがに無理だろう。仲違いの状態に持ち込めれば十分だ。それに、あまり動いて俺達の動きを貴族達が察知する方が問題だ。現状で進めてくれれば十分だ」


 彼らに銀貨10枚ずつ渡しておく。酒に誘うにも軍資金は必要だろう。

 1杯で酒を止め、最後の勇者の訪れを待つ。


 それほど待つことも無く、近衛兵が勇者の帰還を知らせにやって来た。

 さて、最後の勇者の顔を拝んでくるか。 俺が席を立つと、配下の者達も席を立って、俺に頭を下げると部屋を出ていく。

 彼等にも準備があるようだ。彼らが出て行ったのを見て、ゆっくりと部屋を後にして謁見の間に歩いて行った。


 謁見の間に続く扉を開けると、王族の席の横手に出る。

 王女の隣に座ると、王女が俺を見て微笑む。

 あまり会うことはできないが、これも現状の身分の違いということなんだろう。それもあまり長くは無いはずだ。

 

 ギィーと謁見の間の両扉を近衛兵が開くと、良く通る声で来訪者の名を告げる。


「勇者リオン殿御一行。国王陛下の命により戦地より帰還いたしました」


 その声に居並ぶ連中が一斉に俺達に視線を向ける。少し離れたベンチでくつろいでいた連中も、部屋の中央に敷かれた絨毯近くまで集まって勇者を眺めている。


 勇者達が絨毯を踏みしめて、王族の並ぶひな壇近く間で歩いてくる。

 ひな壇の前、10Cb(3m)近くに来たところで、彼らの足が止まった。縦に続いていた絨毯が、そこでは20Cb(6m)ほど横に敷かれているから、王宮に不慣れな者でも、そこで止まることは分かるらしい。



「勇者リオン。大義であった。そなた達の働きで、勇者マルデウスが無事に王女を救い出せたと聞いておる」

「勇者リオンめにございます。コキュートス宮殿まで入ることができました。我等の奮戦の中で王女殿下をマルデウス殿が救出できたことをお喜び申し上げます。つきましては、勇者の証しを返上して寒村に戻り畑を耕す許可を受けたいと思っております」

「まぁ、待て待て……。コキュートスの内部まで行くことができたのはその方達だけじゃ。ゆるりと話を聞きたいと思うのじゃが……」


「勇者リオン殿をバラの間にご案内いたすことにいたします。それで、称号はどのように?」

「他の勇者達は準男爵であったな。コキュートスまで行くことができたなら、男爵で良いじゃろう。寒村では無くちゃんとした町を持つ領地を与えねばなるまい」

「ありがたきお言葉。領地経営に努力する所存です」


 国王との短い会話を終えると勇者達が頭を下げる。5人パーティなのか、良くもコキュートス内まで足を踏み入れたものだ。

 俺達が少し遅かったら、こいつらが王女救出を行ってしまったかもしれないな。

 俺と同じ位の歳のようだが、それなりの腕も持っているのだろう。

 

 彼らをここまで案内してきた近衛兵が、謁見の場を去ろうとしている彼らに言葉を掛ける。

 この場で信任状を渡すことは無い。この後でバラの間と呼ばれる小さな会議室で行うのだ。

 国王と側近の大臣と俺が一緒になる。バラの間の周囲を警護する近衛兵は全て俺の配下になっているの知るのは俺達の仲間以外にはいないはずだ。


 国王と一緒にバラの間に入ると、すでに勇者達はテーブルに着いていた。

 国王の到着を知って、椅子から立ち上がり頭を下げる。

 

 俺達が席に着いたところで、国王が口を開いた。


「ここは我等意外には兵士のみじゃ。普段通りで十分である。早う席に着くが良い」


 気さくな国王だからだろう。勇者達が慌ててもう一度頭を下げると先ほどの椅子に腰を下ろした。

確か、リオンだったな。革のヨロイの右側が黒くにじんでいる。負傷したと知らせてきたが、かなりの重症だったのだろう。座るときにも顔をしかめていたから、無理して王宮にやって来たのかも知れないな。


「まさかコキュートス宮殿にまで入る勇者がいたとはのう。どうであった?」

「魔族の宮殿とはいえ荘厳な作りでした。もっとも、私共は平民ですから、立派な屋敷は始めて見たのですが……」

「宮殿に魔族は多かったのか?」

「宮殿に至る道筋に全て集まっていた感じでした。不覚にも傷を負い、国王陛下の帰還命令に直ぐに応じられなかったことを恥じております」

「仕方のない事じゃ。責めはせぬ」

「傷を何とか抑える間に、仲間が宮殿内を探索したようです。その時に見付けたのがこれになります。他も探したのですが、このような品は既に持ち去られておりました」


 上着の中に手を入れた瞬間、周囲の兵士が一歩前に出た。近衛兵の役目はしっかりと身についているように思える。出てきたのが魔法の袋だと知って元の位置に戻ったが、その中身を確認するまでは安心できないんじゃないかな? それとも隣室で中身をすでに確認しているのかもしれない。


 周囲には気にも留めないで、勇者が魔法の袋から大きな包みをテーブルの上に取り出した。

 包みを解くと、見事な彫刻がほどこされた金銀の燭台と皿が数枚出てくる。


「皿はもう2枚あったのですが、破損していたので途中で売り飛ばしました」

「見事じゃな……。頂けるのか?」

「どうぞお使いください」


 案内してくれた近衛兵が包みをまとめると、扉近くの兵士に預けた。

 あの燭台には見覚えがある。確か、コキュートスの離宮にあったんじゃなかったか! 

俺達は王女救出第一だったから、周囲のお宝を持ってこようとは思わなかったが、こいつらはコキュートスの中を一漁りしてきたようだ。


「ワシも褒賞を渡さねばなるまい。これが男爵の任命書になる。この指輪を衛士に見せれ王宮に入るのは自由じゃ。後は……、領地じゃな。希望はあるか?」

「南東の辺境に島があります。我等一同、島を開墾しながら隣国の監視を行おうと考える次第……」


 一瞬、国王がポカンとした表情を浮かべた。

「地図を持て!」

 俺は大声を上げて近衛兵に指示する。それを面白そうな表情で勇者が見ているのが気に入らないな。

 やがて近衛兵が持参した地図をテーブルに広げて、勇者の言った島を探す。


「ほほう……、これか。また随分と遠い場所じゃな。だが、これは我が王国の版図なのか?」

「かなり以前に我が王国の修道士が開墾を始めたと聞きます。あまり便利な地ではありませんし、暮らすこともままならなかったようで現在は無人の島です」

内務をつかさどる老いた貴族が国王に告げた。


「王国の修道士達がまがりなりにも開墾を行っておれば、我が版図としても良いじゃろう。確かにここを押さえれば隣国の監視は思い通りであろうよ。だが、修道士でさえ投げ出す地を領地として暮らしが立つのか?」

「贅沢せねばどんな所でも暮らしは立ちます。それに、これだけ離れた痩せた地を羨む貴族はおりますまい」


 勇者の言葉を聞いて、国王はおもしろそうにテーブル越しに勇者達を見ていたが、従者から筆記具を借りると、先ほどの任命書を出させて、領地となる島の名を記入した。ついでに島に接する土地についても、領地とする旨を書き添えているようだ。


「島がダメでも、陸地なら開墾が可能であろう。東西100Rd、南北50Rdじゃ。若い者は羨ましいのう」

 そういって国王が笑い声を上げた。俺達も釣られて笑い出してしまった。

国王は最低でも村2つは考えていたようだ。男爵ともなればそれぐらいは必要だろう。

今までやって来た勇者達は自分達から、あの町をくれとか、穀倉地帯の土地を望んでいたが、こいつらは少し異なるようだ。これからも苦労しようというのだろうか?


「ところで、コキュートスには誰もいなかったのか?」

 念のために聞いてみた。まだコキュートスのお宝があれば、俺達で取りに行けるだろう。だが、敵がいるとなればそうもいくまい。


「20体に満たぬ魔族。それと地下にいたのはグレミルでした。私達の到着がもう少し早ければ……、グレミルの餌になった者達の血潮で石の台が濡れていました」

「何体いたのだ?」

「石牢の奥ですから詳しくは分かりませんが数体はいたのではないかと」


 グレミルとはな。それだけいるなら裏の社会を手に入れたも同様だ。グレミルの体液から精製される麻薬は利用価値がある。


「確かに残念な話だ。我等もコキュートスに向かったのだが、魔族の持つ地図で離宮の存在を知ったのだ。離宮で我等がもう少し頑張ればグレミルの餌食にならずとも済んだ者がいたかもしれん」

「マルデウスには感謝しきれぬ。魔族相手に王女を連れ帰ってくれただけでもありがたい。もっと勇者を送らなかったワシにこそ責任があるというもの……。さて、会見はこれで終わりじゃ。ワインを飲んで杯を記念に持ち帰るが良い」


 国王が席を立つと、慌てて勇者達が頭を下げる。

隣室に国王と内務大臣が消えたことを確認したところで、勇者達を案内してきた近衛兵に向かって小さく頷く。


「杯を持て!」

 近衛兵が声を上げると、すでに用意ができていたのだろう。侍女が人数分の杯を持って部屋に入ってきた。


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