087(M) 兵員輸送
200年か……。たぶんそれ以上なんだろう。あの世界がそれだけの年月を重ねるとどうなるかまるで想像できない。
大将軍を、リオンはあまり評価していなかったということも気になるところだ。かつての悪名高い人物と同列にしたということは、リオンの国が俺の国と敵対した時期もあるということだろう。
とはいえ、それだけの月日で技術がどれだけ進むかは俺にも少しは理解できる。中世の騎士の時代に大将軍達の軍隊が現れるようなものだ。
リオンが、他の王国を併合して3個大隊でも作ろうものなら、俺達が飲み込まれそうだ。
奴の言う『島を攻撃するときの引き際を良く考えろ』の言葉は俺には重いものだ。せっかく築きあげた大トルガナン王国が瓦解しかねないというのだからな。たぶん、それなりの自信も根拠もあるのだろう。
かといって、懐柔できる相手とも思えない。
何とかしなければ、俺達に反意を持つ連中を取りまとめないとも限らないからな。
「どうした? だいぶ考え込んでいたな」
「ジャミルか……。リオンとの会談を振り返っていただけだ。やはり、一度会っておいて良かったと思う」
「怖気づいたか?」
にやりと顔を歪ませる。そうではないんだが……、そうではないと思いたいな。
「王国の統治については彼も良い案がないようだった。俺よりも後の世界に生まれているのだが」
「少しずつ是正していくほかはないだろう。最初から完璧を望むのはどうかと思うぞ」
常に前を向いて改革をしていくということになるのか?
待てよ、リオン達もそれなりの島民を抱えているはずだ。それなりに役割分担を行っているだろうが、その辺りを聞いておくんだったな。
村を治めるのも国を治めるのも、相手の人数が異なるだけで、それなりの不満や不平、貧富の差も出て来るに違いない。
リオンの事だから、全住民を一堂に会して集会でも開いているのかもしれないな。
自分を代表者としてはいるのだろうが、島の統治はあまり考えていないのかもしれない。ある意味、民主政治ともいえるのかもしれないが、向こうの世界では大将軍がそれを否定して王国を作り上げつつあったのだ。
俺もそれを踏襲しようと考えてはいたのだが、リオンのいた世界では王国制は稀な存在らしい。
何処に問題があったというのだろう……。
「どうした?」
「リオンがいた世界は王国が少ないと言っていたな。たぶん革命が連鎖したのだろう。そうなると、誰が政治を行い民を導くのかを考えていたんだ」
ジャミルが棚からワインのビンとカップを持ってくると、ワインを注いでカップを俺の前に置いた。
自分でも美味そうに飲んでいる。
「貴族……、あるいは将軍達か。だが、次の国王に自らを就任させるんじゃないか? 俺には王政を変えることなど出来ないと思うけどね」
この世界で暮らしていたなら、他の政治は知らないだろうな。議会制と言うのがあったらしい。誰が議長で何を審議するのかが明確でないから、議長に反対する者、新たに議長になれば前の議長と次々にギロチン台に送り込んだと聞いている。
次は俺の番かと戦々恐々とした世界だったに違いない。
やはり、導き手がいなければなるまい。そして導き手を補佐する者が必要だ。つまらん出来事の処理を委任できるなら、それほど悪い政治にはならないだろう。
「まぁ、色々と課題が見えてきたことも確かだ。やはりリオンとの会談は俺にとって成功と言えるだろう。とはいえ、長期的な課題ではあるな。施政の空き時間に課題をじっくりと考えれば良い」
「そうなれば、現時点の課題を何とかせねばなるまい。トーレスから傭兵達がだいぶオランブルに流れているそうだ」
ジャミルは現実派だな。真剣な表情で俺に報告してくれる。
「問題だ……。で、ジャミルの意見は?」
「何らかの手段で中隊規模の部隊を送りたいものだ。だが、普通に送ればオランブル貴族の中に波風を立ててしまう」
「向こうで、中隊規模の兵士を隠せる場所はあるのか?」
「カルデアン公爵の納屋は中隊の屯所よりも大きく周囲は林になっているようです」
向こうに着くまでが問題ということだな。中隊屯所よりも大きな納屋に何を入れておくのかも気になるところだが、それなら都合が良さそうだな。
「ワインの大タルを作れ。その中に兵士を隠してカルデアン公爵に献上すれば良いだろう。1つの荷馬車にどれだけ積めるかもあるが、1タルには本物を入れておけよ。途中途中で街道警備の兵士にワインを飲ませてやればいい」
「タルからワインを注いで飲ませれば、全てのタルがワインと思うでしょうね。早速やってみましょう」
「待て待て、カルデアン公爵には、近々頼りになるワインを送ると書状を先に送るのだ。でないと、向こうも準備が整わないだろうからな」
トロイの木馬のようなものだ。要は気付かれずに兵士を内部に送ることができるかにある。
そうなると、意表を突くうえでも兵士には銃を持たせた方がおもしろそうだ。白兵戦に秀でた兵士に銃を持たせるとどんな働きをするかも確認できるだろう。
リオン達の銃の使い方の話を聞くと、一斉射撃と白兵戦を交互に行っているようにも思える。
銃が単発だからだろうが、白兵戦にちょっとした間がある時とない時とでは大きな差があるということだろう。
「大砲を運ぶことは出来ないでしょうね?」
「それよりは流星火が効果的だ。1Rd(150m)も飛べば、敵対する屋敷や障害も焼き払えるぞ」
「3Rdを1Rdですか……。王都内ですから距離はあまり必要ありませんな。クリスティに、確認してみましょう」
たぶん、直ぐにも作ってくれるだろう。職人達は距離を伸ばそうと努力しているみたいだが、3Rdも飛べば俺には十分に思える。現にブルゴス王都を攻略したのは、流星火のおかげだ。
リオン達にどれほどの効果を与えるかは分からないが、リオン達も長射程の流星火を多用していないところをみると、かなり作るのが大変だということに違いない。
そんな流星火であれば、使うタイミングが難しくなるはずだ。ならば気軽に使える流星火の方がより現実的と言うことができるだろう。
ジャミルが執務室を出て行くと、急に静かになる。
ワインをカップに注いで、紙とペンを取り出した。
ジャミルが来て中断したが、王国の治政の概念を固めなければなるまい。先ずは課題のリストを作ることから始めよう。
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王族の夕食を取っていると、急にカリネラムが席を立って食堂を飛び出していった。
唖然とした表情でカリネラムが開け放った扉を見ていたのだが、俺を見る視線に気が付いて先の御妃様に顔を向けると、俺を見て微笑んでいた。
「どうやら身ごもったようですね。中々その気配が無かったので心配していたのですが、陛下のお世継ぎができれば私も少しは安心できます」
「はぁ……。実感は湧きませんが、最初の子であれば男子でも女子でも歓迎します」
「さて、どちらでしょうか? 来春と言うところでしょう。それまでには色々と揃えませんと」
笑顔を崩さずにずっと喜んだままだ。
俺にはちょっと不意打ちを食らったような感じもするが、生まれてくれば親としての実感も出るのだろうか?
翌日、執務室には珍しくクリスティまでやってきている。
俺を見て、3人ともニコニコしてるのが問題だ。
「聞いたわよ。ご懐妊ですって?」
「これで王国も安泰だな」
「さて、どちらかしら? 早速、皆が掛けを始めたみたいよ」
噂の出何処はどこなんだろう? それにしても掛けまでしてるのか?
「まぁ、俺も人の子だということだ。お前達こそ、早く相手を見つけて後継者を作るんだな。俺の子供の力になって貰わねば困ってしまう」
「それは適当に見つけるさ。でないと押し付けられそうだからな」
ジャミルの言葉に、2人が頷きながら笑っている。
俺の心が読めるのだろうか? その通りの事を考えていたんだが。
「ところで、小型の流星火ができたわよ。飛距離は1Rdに足りないけれど、重さは半分、威力はそのままで、簡単な発射台で放てるわ」
「練習ぐらいはできるのか?」
「30個作ったから、10個ぐらいは演習場で使ってみれば? 残り20発で十分でしょう?」
確かに、多用することはないだろう。
場合によっては今回限りともいえるんじゃないか?
「俺の方も、大きなタルを作って貰ったぞ。1つに数人は入れるから、40個近く作って貰った。さらに少しだけワインの入るタルも作ったから、それで流星火を運べるだろう」
「では、流星火の使い方を学ばせたところで出発しろ。中隊長には状況の説明をしてあるな?」
「表面上はカルディアン公爵の支援だが、いざとなればトルガナン王女の救援を優先せよ、と言い聞かせてあります」
「それで良い。王子派に組みした方がトルガナン王国の益になる。始まり次第、ジャミルは騎馬隊を王都に進ませ、将軍達には交易港に向かわせる」
ジャミルが騎馬隊を率いて、マデリーは1個中隊の軽騎兵を率いて将軍達に同行する。
後はいつ始まるか分からん内乱勃発を待つだけになりそうだ。




