075(R) 王女の手向け
新たなハシゴが石垣に何本か並び敵兵が長剣を振るってくるが、石垣の左右に陣取った俺達が槍衾を作り、その後ろから銃やクロスボウで敵兵を次々に倒していく。
石垣の通路は敵兵の亡骸で足の踏み場もないくらいだ。
日が傾くにつれて海の道が没していく。
それに伴って石垣を登って来る敵兵の姿が少しずつ減って行った。
「もう少しだ。さすがに道が無くなれば後続はやってこない!」
数個の照明球が照らしだす石垣の通路と広場の半分ほどは敵兵の亡骸で下の石畳が見えなくなっている。
ケーニッヒが投げた州榴弾が炸裂すると、ハシゴを登って来る兵士はもういなかった。
オブリガンドとケーニッヒの部下達が、敵兵が死んでいることを槍で突き刺して確認しながら石垣から海に放り投げている。
死者への冒とくのようにも見えるが、そうしておかないと次の引潮時にやって来る敵兵を迎え撃つことができなくなりそうだ。
「銃も良いが、手榴弾の方が使えそうだ。もうないのか?」
「生憎と、あれだけだ。だが、次の引潮までに数個ぐらいは作れるぞ。敵兵の鎖帷子を集めといてくれ。それとバドスの所から大砲の火薬を詰めた袋を2個もらって来てくれ。俺は上の広場から導火線を持ってくる」
小型のロケット弾は多連装方式だから、ロケットの推進用火薬へ着火するために導火線を長く伸ばしている。それを半分ほど切り取ってこよう。
上の広場に歩いていくと、大型のロケット弾の傍にユーリア達が集まっていた。
対岸目掛けて発射するつもりなんだろう。
間隔を空けて放つように伝えると、もう片方の広場に向かいロケット弾の導火線を切り取って下の広場へと向かった。
「あそこに置いてある。焚き火や松明は厳禁だったな」
「丁度真上に照明球があるな。何個出来るか分からないがやってみるか……」
敵兵のバッグの中を改めると、ちょっとした修理をするための布や紐がいくつも手に入る。
それらを一纏めにして、白い布袋が置いてある場所に向かった。近くに鎖帷子がたくさん置いてあるが、使える部分は袖の部分が都合がいい。ケーニッヒを呼び寄せて鎖帷子から袖を切り取って、半分の長さにするように頼んでおく。
さて、火薬の分量だが……。確かカップ1杯にしたんだよな。バッグから真鍮製のカップを取り出して、布を広げて布袋から火薬を分けていく。
布火薬に導火線を添えて布を丸めて紐で縛る。それを鎖帷子の袖に入れて導火線付近にもう一度火薬を振り掛けたところで再度布で包んだ。
野球のボールより少し大きくなったが、導火線の長さは前よりも長いから火を点けて投げるだけの時間は稼げるだろう。
大砲2発分の火薬で7個の即席手榴弾が出来た。ケーニッヒ達が3個ずつ持って、俺も1個を持つことにする。バッグの中にも1個残っているから、これで十分だろう。
「もっと作っておくべきだな。前回は2個で済んだが、これの威力の程が分からん」
「昼になったら、もっと作るさ。明日の明け方はこれで何とかしてくれ」
「銃の連中には必要ないだろうが、白兵戦には使えるぞ。明日は館に戻って作って来い!」
俺の休憩時間が無くなるんじゃないか? まったく人使いの荒い連中だ。
とりあえず頷いて、結果は明日の戦次第だな。
遅い夕食を取っていると、上の広場から散発的にロケット弾が放たれる。かなり時間を置いて対岸の陸地に炎が上がっているから、それなりに被害を受けてるに違いない。
最初は使わなかったが、明日の未明には小型のロケット弾を試してみたいところだ。
ユーリアがワインをカップに注いでくれた。
明日に備えて早めに寝られるようにとの配慮だろう。石垣の通路近くで数人が槍を持って座っている。
見張りは彼等に頼んだのかな?
体を揺すられて目が覚めた。どうやら、カップを持ったまま眠ってしまったらしい。
まだ、真っ暗だから夜明けにはもう少し掛かるのだろう。
「やって来たぞ。新たにイカダを2つ引いている。玄関の真下がイカダで広い足場になりそうだ」
「誰かに油を集めさせろ。下に撒いて火を点ければ効果があるはずだ」
焚き火のポットからお茶をカップに注いでゆっくりと飲む。対岸の松明が、海面に照らされて幻想的な光景を見せている。少しは海に入り込んでいるようだが、歩みが止まっている。まだ潮がそれほど引いてはいないのかもしれないな。
「問題はカートリッジだな。かなり使ったようだ」
「ロディ達が昔使った弓を取りに向かった。少しは消耗を防げるだろう」
「俺達のカートリッジも渡しておいた方が良さそうだ。予備を2個も残して置けばいい」
交換が容易になったことも要因にあるのだろう。だけど、それだけ弾幕を作ってくれたから俺達で対応できたともいえる。ここは素直にカートリッジを渡しておこう。俺だけで15個も持っているからね。
白兵戦要員のカートリッジを集めて、後ろで銃を使う連中にケーニッヒが分配している。下のバドス達の方はまだ余裕があるのだろうが、ドワーフ族はどちらかというと白兵戦を好むからな。早めにカートリッジを使い切るかもしれない。
「カートリッジが無くなったら、弓やクロスボウを持たぬ連中は2人で1人に当るんだぞ。長剣よりも槍を使え!」
「ボルトが手付かずですから、次は半数をクロスボウで対応します!」
パイプを咥えながら望遠鏡で陸地の敵軍を眺める。
少しずつ、先鋒がこちらに近づいているようだ。また激しい戦が始まるぞ。
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ブルゴス兵士との戦は4日も続いてしまった。
やはり家族がトルガナン王国の監視下にあるのかもしれない。最後の1兵まで俺達と長剣を交えてこと切れた。
「終わったのか……」
「どうにかだな。死んだ奴はいないが、負傷者はかなりの数だ。俺の部隊でさえ、手傷を追わなかったのは3人もいないぞ」
オブリガンドの言葉が耳に痛い。
一時は石垣の上に作った2つの広場で白兵戦を繰り広げることになったからな。
バリスタは破壊されてしまったし、何人かは門の広場に続く階段を下りて行ったようだ。
数人でドワーフ族の守る場所に向かうのは命知らずな話だが、この2つの広場で食い止められると思った俺には、予想外の出来事であったのは確かだ。
「この後にマルデウス達がやってきたら……、防ぐ事は出来ないな」
「石垣をもう少し高くできるだろう。この広場に柵を置いても良さそうだ。上の広場の連中にはクロスボウを持たせるべきじゃないか?」
「長銃を使えないから短銃なんだが、短銃だと命中率が悪いからな。それに、短弓も手返しを考えると何人かに持たせるべきかもしれない」
反省すれば次に繋がる。
そんな俺達の所にブルゴス王国の王女がやって来た。
ブルゴス兵士の亡骸をジッと見つめて手を合わせる。自らの命を使って家族を守った連中だ。本当なら丁寧に弔ってやりたいが俺達に出来ることは亡骸を水葬にすることしかできそうもない。
手を合わせて深く頭を下げていた王女が、やおら体を起こすと、自らの金髪を首の後ろで短剣を使って切り落とした。
石垣の傍に向かうと、切り取った長髪を亡骸に向かって落としている。
手向けの花の代わりなのだろう。死んだ連中も王女の気持ちをきっと受け取ってくれたに違いない。
「さて、対岸の陸地に新たな兵の姿は見えない。これで終わったとみるべきだが、ロディ達に数日見張りをさせてくれ」
「そうだな、俺も賛成だ。後は俺達に任せて先に戻れ。明日の夜に主だった連中を集めて次の対策を考えよう」
五月雨的に館に戻ることになったが、食事もそこそこにベッドに入って寝てしまう。
4日連続の戦なんて、とんでもない話だ。潮の満ち引きで少しは休めるが、その間に敵兵の亡骸の始末や、手榴弾作りで4時間も眠ることができなかったからな。
疲れた体には睡眠が何よりの御馳走に違いない。
誰にも起こされることなく、次の日の朝まで眠り込んだらしい。
寝過ぎで少し頭が痛いが、冷たい水で顔を洗うと少しはマシになった。侍女が入れてくれたお茶をお飲みながら焚き火でパイプに火を点ける。
「まだ皆さん起きてこないんですよ」
「ゆっくり寝かせてやってくれ。それぐらい大変な戦だったんだ。朝食はそのままにして昼食にすればいいよ」
その間に、今回の反省を自分なりにしておこう。
一番の問題は、敵が来たの玄関に取りつく方法を考え付いたということだな。イカダがあれほど効果があるとは思わなかった。
対策は油を撒いて火を点けることだが、白兵戦の最中には極めて困難な作業だ。
手榴弾のような形の焼夷弾を作らねばなるまい。手榴弾も数を用意するべきだ。最初に数個持っていたが、その後に20個近く作ったことを考えると、その倍の50個以上を作るべきだろう。浜の砦の連中にも渡さねばなるまい。
後はカートリッジだな。新型と旧型が混在してるが、新型は装弾が容易だからそれだけ数を撃てることになる。1人10個ほどのカートリッジでは心もとない限りだ。
そんな反省と対応をメモ用紙に書き込んでいく。
誰も起きてこないから、対策を深く考えることができるな。




