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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
150/171

150(M) 交易港を確保せよ


 かなり過激ではあるが、レグドル王国にそれなりの返礼はしなければなるまい。

 我等は通商路を確保するためにあえて魔族の版図に回廊を作ろうとしているのだ。それに乗じて、レグドル王国が魔族の版図を切り取るだけなら何ら問題はない。だが、我等の軍と衝突したとなれば非はレグドル王国にある。


「大砲を数発撃って向こうの出方を待て。火矢を撃ってくるなら流星火で交易港を灰燼にしても構わん。今回の回廊作りについては事前に連絡をしているはずだ。我が軍がその境界を定めるための杭を打つ最中に衝突したとなれば、非はレグドル王国にある」

「果たしてどんな言い訳をしてきますかな。落としどころは?」

「我が軍を攻撃した部隊の下士官以上の将官の首を全て桟橋に並べれば良し。さもなくば、トルガナン王国から新たな軍を進軍させると……」

 

 俺の言葉に、にんまりと笑みを浮かべるのはジャミルの方が俺よりも覇王に向いているのかもしれないな。

「交易港の一部を貰い受けることも視野に入れることにします。それは、我等に矢を放ってからにしましょう。すぐに出立します」

「マデリーは、1個大隊を西に送ってくれ。たっぷりと流星火を持たせてな」

「私も、同行してよろしいと?」


 行きたいのは理解できるが、マデリーまで送ってしまってはトルガナン王国が心配になる。マデリーの顔を見つめて首を振ると、がっくりと肩を落としている。


「人材が足りん。マデリーには残って貰うことになるが、将軍達の王国に対する忠誠に問題はないか?」

「元々軍人の家系ですから、それなりです。陛下の作戦対応に我等だけではどうしても不足してしまいます。かといって新人では将軍達を御することは出来ますまい。老齢に掛かった将軍が2人おります。彼らをここに迎えては?」


 ジャミルの目で見た人物評価で俺の要求にこたえられる人物が2人ということになるのだろう。

 

「ジャミルが戻り次第、召喚するとするか……。そうなると、執務室とはいかんだろうな。それはマデリーと相談する」


 ジャミルが席を立って、騎士の礼を取ると執務室を去って行った。

 これで、西はなんとかだな。ジャミルのことだ、交易港を全て更地にして我等の飛び地を作るかもしれないな。

 残ったマデリーに執務室の2倍の部屋を確保するように言いつける。


「部屋の中央に大きなテーブルが欲しい。そのテーブルに我等の版図とその周辺の地図を広げるつもりだ。それに中隊単位で我等の兵科に沿った駒を作る。駒の形はマデリーに任せるが、トルガナン王国軍、周辺王国軍、敵対する部隊の色は変えることが条件だ。ゲームの駒のような形で構わんぞ」


 この世界にもバッケルというチェスによく似たゲームがあった。執務室にも1セット置いてあるから、たまに地図上に並べてみることもあるのだが、版図が広くなればこのような設備は是非とも必要になってくる。


「作戦を立案する部屋と?」

「そんな感じだ。このテーブルでは地図を全部乗せられん。絵師を雇って、レグドルの西からラーメルの東までを書き込んでくれ。北は魔族の版図ではあるが、魔族討伐に向かった者から可能な限り描いてほしい。少しは俺達も協力せねばなるまい」


 何といってもコキュートスの離宮まで出掛けたんだからな。だが、あの時も俺達は簡単な絵図をハイレーネン公爵から渡されていた。コキュートスと離宮の位置はある程度トルガナン王国には知られていたということになりそうだ。

 まったくそんなことを知らずにコキュートスに入ったリオン達は、俺達を遥かに凌ぐ武芸を持っていたということになるのだろう。

 だが、本当の恐ろしさは武芸ではなくリオンの知識だ。

 あの地に留まっていてほしいものだが、ブルゴス王国の落人達に小さいながらも版図を作ってやったぐらいだ。俺達を恨む勢力の旗印になるとも限らない。


「それで……、いつまでに?」

「ああ、済まん。少し考え込んでしまった。マデリーの言葉に従って作戦本部とでも名前を付けるか。そうだなジャミルなら1カ月程度の話だろうから、その間で構わん。それとだ。リオン達の作った長城の北と東西に砦を作ってくれ。駐屯規模は2個大隊、普段は新兵の訓練用でも構わんぞ」

「リオン達を?」

「いずれはな。使うのはかなり後になるだろう。今は、通商路の確保と王国の安定を考える時だ。王国の安定にはどうしてもリオンが邪魔になる。だが、それまでは諍いを起こさぬよう努めねばなるまい」


 リオン達もそれは感じているんだろう。あの長城はそれを危惧したものだ。リオン達の兵器の質は優れているが、それを運用する兵士の数が少ないのが唯一の弱点だ。今でも2個中隊には達していないだろう。

 それに質の高い兵器を作るのはかなりの手数が掛かるはず、数が少ないはずだ。

 質は量にかなわぬということを知らんわけではないだろうが、果たしてどんな策を講じるのか……。

 どう考えても、リオン達の部隊は歩兵だからな。我等には装甲車と砲兵を主力とした陸軍と海兵を乗せた砲船の海軍がある。

 2面攻撃に兵士を割ることがリオン達にできるのだろうか?

 その場合には、あの島に籠城するのだろうが、いつまで食料が持つか楽しみでもある。

 力攻めから籠城戦ということになりそうだな。


「少なくとも、クリスティに命じた大砲の射程が10Rd(1.5km)を超えて、その数が30門を越えねば話にならん。装甲車の数を増やし騎馬隊の数も問題だな。現状の大隊の火力を2倍にせねば、長城に近づくこともできんぞ」

「火力を2倍ですか……」


 マデリーが考え込んでしまったが、火力の2倍という俺の考えをどのように取ったのかが楽しみだ。

 単純な考えなら発射する弾丸が2倍になるのだが、出来れば射程を伸ばしてほしいところだな。


「将軍の補佐官達と相談してみます。彼らも思うところがあるでしょうから」

「そうだな。相談は多人数が原則だ。だが、否定的な考えを持つ補佐官ならすぐに放り出すことだ。方向性を問題にする補佐官は重要だが、その方向性を精神論で否定するような者は、一カ所に集めてくれれば良い」


 それほどの精神論者なら、彼らを集めて1つの部隊を作ってやろう。きっと良い働きをしてくれるに違いない。

 陽動部隊として、敵の最前線に送り込んでみるか……。それなら、他の部隊にも貢献できそうだ。


 夕食を終え、リオンに貰ったブランディーを先のお妃様達と味わう。

 商会が手に入れたものより遥かに質が高い。これなら王侯貴族に高く売れるだろう。


「リオン大公より贈られた品です。奥方にドレスを贈りましたが、その返礼としては少し彼らも無理をしたかもしれません」

「基本は陛下の方が、より効果な物となるのですが……。大公ともなれば、貴族としては国王に次ぐ存在となりますから、後で宝飾品を贈られたらいかがでしょうか? 確かに、このような酒を頂くとなればドレス数枚では足りませんね」


「私の方で何か見繕いましょう。大公に届けるにはどなたを介すればよろしいでしょうか?」

「マデリーをお使いください。とりあえず、リオン大公は王宮に来ることはないでしょうが、領地で産するこれらの酒と陶器は問題なく我等と取引ができるようです。さらに本作りも今まで通りですから、領地を遠巻きに監視することで十分でしょう。問題は西で起きました」


 回廊作りで西の王国軍と諍いが生じたことを包み欠かさず話すことにした。

 回廊作りの主力はトルガナン王国軍だが、名目はオランブル王国軍だ。オランブル王国の一部をトルガナン王国に組み入れているのを、いつも2人が気にしているのを知っている以上、オランブル王国が絡んだ話は全て話しておいた方が良い。


「一度、回廊作りに賛同しておきながら、相手方から矢を放つなど!」

 先のお妃様が絶句している。カリネラムも表情を硬くしたままだ。


「ジャミルを特使にして西の王国へ派遣しました。単なる現場部隊の先走りなのか、それとも王国の意思なのか。それが分からぬ内は遠方に部隊を派遣することもできません」

「簡単に交渉をしてくれるでしょうか?」

「大砲を乗せた船に、海兵を1個大隊を同行させています。交渉に応じあい場合は交易港の商船等を破壊しろと命じておきました」


 俺の言葉を感心した表情で聞いてくれているところを見ると、その位のことは問題ないということなんだろうな。


「王国間の書状に王印がある以上、下手に出ることはありませんが、相手の事情も考慮しているならそれで十分ですね。戦端を開いても我等に義があります」

 さらに過激でも良いということか……。中々王国間の付き合いは難しい。

 となると、将来はレグドル王国を潰しても問題はないということになる。益々人材不足が表に出てくるぞ。困ったものだ。


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