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which  作者: 鵜狩三善
1/5

1.友達について


 which


   [一定数の物・事・人のうちで]どちら、どれ、どの(どちらの)人





 あたしの一番の友達の話をする。

 名前は(いく)。率直に言って変な子だ。風変わりっていうか様変わりっていうか、とにかくそーゆーヘンなモノ的形容がよく似合う。

 見た目はふんわりしててお姫様っぽい。

 お姫様っていってもノットプリンセス。あくまで着物とか十二単(じゅうにひとえ)とかの和風の方。牛が引く車に乗ってそうな、呑気なお公家さんみたいな空気を持ってる。

 色白なのもそうだけど、ゆるくウェーブのかかった髪をふんわり肩まで伸ばして、しかもその髪がきちんと手入れされてたりする感じが、この子いいとこの子だなー、って雰囲気を一層強く醸し出してるんだと思う。

 でもだからって、親しみにくい、近付きにくいって事はない。

 愛敬のある、そしてどっか悪戯っぽい目をいつも微笑ませていて、全体的にものやわらかくて話しかけやすい印象だ。多分道に迷ったおばあちゃんに真っ先に声をかけられるタイプ。


 あ、郁をお姫様って表したけど、やっぱ訂正。もっと似合ってるのを思い出した。

 縁側のおばあちゃんだ。

 以前「郁は家の縁側でお茶飲みながら、日向ぼっこの飼い猫とお話ししてる子だもんなー」って言った事がある。そしたら目をぱちくりさせて、「どうして知ってるの?」って真顔で驚いてた。

 どうしても何も、イメージそのまんまだよお嬢さん。というかホントにしてたのかさ。


 そんな人畜無害そうな外見とはちょっと違って、性格は結構猫っぽい。わがまままではいかないけど、確実に気まま。

 あたしの他にもクラスには友達がちらほらいるみたいだけど、付き合いが淡いっていうのか、基本群れない。

 今日日(きょうび)の女子高生なら、トイレに行くのにも家に帰るのにもその途中でちょっと寄り道するのにも、イワシの群れみたいに集団で動くのが普通だと思う。マイペースだとか周り見ないだとか無電源スピーカーだとか言われるあたしだって、空気読んでオトモダチとゴイッショしたりする事は多々ある。

 だけど郁はそーゆーの、絶対しない。あの子は読んだ空気を、その上でスルーする子だ。

 自分に関心のない事は確実にやらないし、興味を抱けばどこへだってふらっとひとりだけで行けてしまう自由さがある。だからそんなところを、なんとなく猫だって思う。

 例えばもし郁が突然行方不明になって、ふた月くらいしてマカデミアナッツお土産に帰ってきて、「エベレストに登頂してきたよ」なんて言ったとしても、あたしは「あー、郁ならやるだろうな」って納得する。間違いない。

 あ、ところで適当言ったけど、エベレストのお土産ってマカデミアナッツでいいんだっけか?


 ちょっと話が()れた。郁についてで忘れちゃいけないのは、あと本だ。

 郁は本バカである。本にまつわる奇行は、あの子の変わり者っぷりを如実に表すと思う。

 だってお弁当と一緒に文庫本を包んで持ち歩く子なんて普通はいない。でもそれをするのが郁。

 朝お弁当作る時、ついでに本棚を睨んで、その日読みたい気持ちの本を見極めて入れてくるんだって言っていた。通学途中に読む分とお昼に読む分は別腹なのだそうだ。この辺りでもう意味が分からない。

 そういえば自分でお弁当作ってる辺りも一味違う。あたしなんか毎回パンなんだけど。

 あれ、でも読みたい本を持ってくるって事は、その本の内容はもう知ってるって事で。つまり全部読み返し?


「新しいのは読まないの?」


 気になって単刀直入に訊いてみた。すると回答は、


「新しいのはうちでだけだよ。ゆっくり集中して読まないと勿体(もったい)無いから」


 どーせ読むなら一緒だろうに、ロケーションに拘る理屈がよく分かりません。

 分からないといえば、授業をエスケープする時の理由も意味不明。

 面倒くさいとかお腹空いたとか悪ぶって格好つけたいとかじゃなくて、読みかけの本の続きが気になるからって授業をサボる。あんたそれもう読んだ本だって言ってたじゃん。逆に頭悪いんじゃないかって心配になる。


 というか郁の成績は実は良くない。赤点すれすれを鼻歌混じりで低空飛行してる。つまりあたしと同レベル。まあうちは元々進学校でもないし、そこいら辺り、かなり緩かったりするんだけど。

 ただ成績に関わらない部分では、郁は絶対頭いいんだと思う。なんか相談すると、ぽんぽんぽんと答えをくれるし。あと話がわかりやすい。基本的に説明するのが上手なのだ。

 その証拠に、読んでる本は難しい。

 一度後ろから覗いてみたら、ページをのたくってるのは呪文みたい文章だった。字小さいしふり仮名ふってないし二段重ねな事もあるし。

 ひょっとしたら郁は、和歌とか俳句とかその手の魔法を詠唱できちゃう子なのかもしれない。


「和歌と俳句って呪文じゃないから」


 素直に感想を言ったら叱られてしまった。

 でも何言ってるか判んない時点で、あたしにとってはおまじないと大差ありませんてば。

 言うなればお経とおんなじ。実はとってもありがたくてウンチク深い事言ってるのかもしれないけど、さっぱり意味が分からない。というかホントに頭いいんだったら、あたしみたいな頭悪い子にもちゃんと分かるように噛み砕いて話しなさいよって思う。

 それにそもそもからして、あたしは読書家じゃないのだ。文字が多かったら漫画だって読まないし、家で読書に(いそ)しむならテレビ見てるし、それよりも外に遊びに行ったりしてたりする方がいいっていうアウトドアタイプ。

 つまり本読みの郁とはてんで逆。

 じゃあなんでそんなにタイプが違って、更にはクラスも違ってるあたしたちが一緒にお昼してるかというと、それは鳥籠同盟だからである。



 鳥籠同盟、なんて名前はご大層だけど、その実メンバーはあたしと郁だけだ。人員募集もしてないし、活動理念も一切ない。

 つまりあたしと郁しか知らない、秘密の同盟の秘密の名前だ。そう得意げに胸を張ったら、まさにユウメイムジツだねって郁は笑ってた。

 ちなみに命名はしたのはその郁だ。「屋上に集まるから屋上同盟にしよう!」ってあたしは主張したんだけど、「風情がなさすぎるよ」という鶴の一声で変更になった。


 その結成は驚くなかれ、当校入学式のその日である。

 うちの学校は珍しく屋上を開放してる。本校舎は五階建てなので結構高い。

 立ち入り自由と聞いたあたしは、式が終わるなりそこへダッシュした。後で郁には「煙みたいだよね」なんて馬鹿にされたけど、どう言われようとあたしは高いところ大好きなのだ。

 ぐーんと空に近くって、青色の快晴なら気持ちまで底抜けに晴れてく感じがする。風が強くって透明だったりしたらなおサイコーだ。

 そんな感じを期待して「屋上だー!」って走ってきたら、網目の細かいフェンスが鬱蒼と四方を囲んでた。開放されてるのに解放感は少しもなかった。

 しかもなんか狭くて汚い。多分狭いから利用者がいなくて汚くなって、汚いから更に利用者が減って、そんで掃除に身も入らなくなって、みたいな悪循環なんだろう。

 うわー、がっかり屋上かよー。

 あたしはしょんぼり肩を落として、でも折角来たのだからとフェンスを両手で掴んでがしがし揺すってみた。


「うーん、籠の鳥だなー」


 残念無念と天を仰いだら、


「うん、籠の鳥だねぇ。詩人だね」


 そんな返答があった。誰もいないと思っていたので飛び上がるくらいびっくりした。

 振り向くとどうやって登ったんだか、屋上出入りの扉の上に女の子が居た。その子はあたしを見て軽く微笑む。位置的に最初は頭上の死角で、屋上に走り出た後は背後の死角で、結局全然気がつかなかったのだ。


「今、馬鹿にしたろー!?」

「いいえいいえ」


 ひらひらと片手を振って、でも視線はもう膝元の文庫本に落としている。非友好的態度だ。

 どうとっちめてやろうかとあたしが思案していると、その子はまたふっと顔を上げて、


「こっちの方が空に近いよ」


 あたしよりもよっぽど詩人っぽい台詞で、おいでおいでと手招きをした。

 その後あたしもそこによじ登って、学校で一番高い場所でしばらく話をした。

 それが郁とのはじまりで、だから遡って同盟の結成日って事になる。


 あたしと郁はよく、高校上がる前からの古い付き合いなんだろうって誤解されるけど、実はそうじゃないのだ。でもまあ、高校で一番最初にできた友達っていうのは間違いはない。

 以来ぶらっと屋上に来ると大抵は郁が居て、ぽつぽつふたりで話すようになって、そうしてみると結構気が合って、じゃあクラスは違うけどたまにはお昼一緒にしよーぜ、ってあたしが提案して、どうせならってそれだけの事に大層な名前をつけたのだ。

 あたしも郁も帰宅部で、運動とか文化的活動とかそっち方面につぎ込む青春の持ち合わせはなくて、でもなんかやってるっぽいな格好をしてみたかったっていうのもあるかもしれない。


 そんなわけで確約したわけじゃないんだけど、晴れてる日はふたり、ここでお昼を食べるようになった。屋上の利用者は少なくて、なんだかますます秘密基地みたいな雰囲気だった。

 大体いつもあたしがテキトーな話を垂れ流して、郁が本を読みながら聞き流して、お互い好きなふうに過ごして、昼休みが終わる。大体そんな感じ。言うなればこれが、同盟の活動内容って事になる。大それた事なんてひとつもしないんだけど、あたしはかなり気に入ってる。

 時々郁との仲について、お互い自分が持ってないのを持ってるから馬が合ったのかな、違ってるから居心地がいいのかな、なんて分析してみたりする事はある。けど、あたしはその結果を一々言わないし、郁だってそんなの一々訊かない。


 そうして郁と付き合うようになって分かったのは、「頭がいい」イコール「怖い」じゃあないって事。あと「頭いい」イコール「成績がいい」じゃないって事。まあ後の方はわりとどうでもいいや。

 ともあれ郁には、先生とか優等生とかが周囲に張り巡らしてる、あの「何でお前そんな事も分かんないの?」オーラがない。

 ボウジャクブジンと讃えられるあたしだけれど、あのオーラだけは苦手だったりする。萎縮するわけじゃないんだけど、話にくくなって切り上げてしまう。

 でも知性って、冷たくて鋭くてなんか尖ってるだけじゃないんだって、本当は人を傷つけないものなんだって、郁を見てると、郁と話してると、よく分かる。

 縁側のおばあちゃんオーラは最強だって思う。

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