Liminal White
私は、小説を書いている。
ハイファンタジー、SF、文芸。
ジャンルはバラバラ。
なぜこんなに幅広く書くのか、自分でもわからない。
ノートパソコンのモニターの縁、机、机の上、壁。
あらゆるところに、大小様々なメモが貼り付けてある。
その中の一つを、私は手に取る。
『感想:あなたの作品は毎回違うけど、どこか同じ匂いがする』
誰にもらった感想だっただろう。
もらった記憶がないということは、私が『作った』のか。
それとも、本当にもらったけど、忘れたのか。
雨が窓を叩く音に、顔を上げた。
雨粒が、ガラスを滑り落ちる。
その軌跡を目で追う。
私の脳裏に、人のいない校舎が浮かぶ。
誰もいない廊下。
窓の外は雨。
私の母校は、たぶんこうだった。
教室、階段、職員室。
思い出す記憶には、人がいない。
しまい込んだ卒業アルバムは、埃をかぶっている。
そこに「記録」は残っているはず――「記憶」がなくても。
ふと思う。
あの校舎は、本当に私の母校なのだろうか。
憶えている事実は、本当にあったことだろうか。
この部屋も、メモも、小説も――もしかすると、私も。
区別が、つかない。
けれど、構わない。
記憶がないなら、書けばいい。
書いた物語が、私になる。
目の前のモニター。
白の上で点滅する縦棒を、見つめる。
さぁ、今日は何を書こうか。
記憶がなくても、物語は書ける。
書いた物語は、誰かに読まれる。
そして誰かの心に、残ることができたなら。
窓の外が明るい。
雨が上がり始めている。
私は、この雨上がりの匂いを物語に入れよう。
——前にも、同じことを思ったかもしれない。
もし明日、忘れてしまっても。
物語は、残っている。
だから、今日も書く。
明日も、書く。
それが、私の生きる理由だから。




