14. 波乱だらけのコンテスト③
午後一時。
予選は無事終了し、本選に残った五組の発表が始まった。この時間からは全校生徒がその狭い校庭に集まり、会場の一番手前部分には、本選用魔法珠の発表ができるような広めの台が設置されている。
「えー、ではこれより予選を勝ち抜いた五組の発表を行います!まず一組目、シリル・ペロー、レミ・ギョルク!……二組目、マルク・ハリス、ジョシュア・アラニス!……三組目、ジーク・ロディーン、ヨカ・ラース!……四組目、エミリア・シェルマン、ミカエル・シェルマン!……最後、五組目、ユーリ・エデン、レイ・ベルマン!以上!!」
わー、という賑やかな歓声が上がる中、レイは発表の順番が最後になってしまったことにすっかり動揺してしまっていた。
「どうしよう、まさか最後だなんて…うう、緊張する!」
隣に立つユーリが、チラッとレイを見た。
「へえ。君でも緊張するんだな。」
「むう、そりゃあしますよ!ほとんどがユーリの魔力のお陰だとはいえ私も協力したし、自分が関わって作った魔法珠を初めて人前でお披露目するんですから!」
「……蛇が最初じゃないの?」
「……」
あの倉庫での事件の後ユーリに、つい口が滑って『成人の日お祝い会大蛇事件』について話してしまっている。レイは痛いところを突かれて無言になると、再び壇上の先生の話に耳を傾けた。
「今お伝えした五組の皆さん、本選出場おめでとう。二十分後に一組目の発表を行います。呼ばれた五組の生徒達はこの後すぐ台の後ろにあるテントに集合してください。」
そうして、レイ達が荷物を準備して言われた通りにテントに集合すると、すでに他の四組は中で待機をしている状態だった。慣れない場のせいで緊張を隠せないレイは、チラチラと彼らの様子を窺う。
(やっぱり誰もローブなんて持っていない…一体ユーリは私に何をさせようとしているんだろう?)
そして今度は淡々と準備を進めるユーリに目を向けると、彼はちょうど白いローブを大きなバッグから引っ張り出しているところだった。
「ユーリ、本当にローブ、着るんですか?」
「うん。君もちゃんと着てね。頼むよ?」
「はい…」
渋々レイもローブを準備すると、それを膝の上に乗せて自分用に用意された椅子に座った。
テントの前面は大きく開放され、台の上での発表はその後方から見ることができるようになっている。
そしていよいよ発表の時間が始まると、まずは一組目、シリルとレミのペアが台の上に上がった。
彼らは前の学校からの友人同士らしく、息の合った動きで楽しそうに発表を始めていた。生成した魔法珠自体は特に目新しいものではなかったが、その魔法珠を使用した車輪の回転を巨大な模型を使って披露し、回転速度の向上とその調整の滑らかさを丁寧に解説して、生徒達から大きな拍手を貰っていた。
二組目のマルクとジョシュアは、お互いに距離を感じるような関係性のように見えた。ユーリによると彼らは親の仕事の関係で組んだペアらしく、上下関係を学校に持ち込まれて迷惑だと、マルクの方が愚痴を言っていたらしい。
発表自体はとても素晴らしく、彼らが生成した魔法珠により、記録した映像を大きな白い布に映し出してその美しさに皆が感嘆の声を上げていた。明るい場所でもかなり見やすい工夫がされているという点が特に好評だった。
三組目はいよいよヨカの出番だ。
レイが椅子に座ったままワクワクしながら見守っていると、ジークが突然ツカツカとレイに歩み寄り、「ちょっと手伝って!」と言ってその手を引っ張った。
「おい、何してる!」
しかしそれを止めたのはユーリだった。ジークはレイの手を握ったままニヤリと笑う。
「ちょーっと俺達の発表のお手伝いしてもらおうと思っただけだよ。別に疲れさせたり困らせたりするつもりはないから、レイちゃん貸してよ、ね?」
「レイは俺のパートナーなんだ。勝手なことは困る!」
珍しく怒りを露わにしているユーリを前にしても、ジークは全く動揺を見せてはいなかった。彼はユーリの言葉を無視してレイに笑顔を向ける。
「レイちゃん、いいよね?」
「はあ…まあ、ヨカが手伝って欲しいと言うなら考えますけど。」
明らかに嫌そうな顔でそう答えていると、そこに眉間に皺を寄せた困り顔のヨカがゆっくりと近付いてきた。そして彼は戸惑った表情でレイの前に立つと、言いにくそうに口を開いた。
「レイ、本当にいいの?」
レイは躊躇いもせず、笑顔で頷いた。
「ヨカの頼みなら、問題ないよ。」
「…ありがとう。じゃあ、お願い。」
それを見ていたジークは肩をすくめて手を離し、今度はヨカが手を差し伸べる。差し出されたその見慣れた手を取ってレイが立ち上がると、彼は笑顔を見せた。
「可愛くするわ。約束する。」
「え?今何て言ったの?」
早口で言ったその言葉がよくわからず聞き返してみたが、ヨカはただ嬉しそうに微笑むだけで、言い直してはくれなかった。
そして、ジークとヨカの発表が始まる。
ヨカは台の上に準備されていた豪華なデザインの椅子にレイを座らせると、その髪を器用に後ろにまとめ、生徒達にレイの顔全体が見えるように整えた。レイは全校生徒の前で顔を晒されたことを恥ずかしく思いながらも、何か楽しいことが起こりそうな予感にワクワクしていた。
次にジークが杖を振り、座っているレイごと椅子を回転させて生徒達から顔が見えないようにする。そして彼はヨカが手のひらの上に乗せていた魔法珠に、勢いよく魔力を通した。
「ひゃっ!?」
次の瞬間、レイの目の前でその魔法珠は勢いよく弾け、キラキラとした小さな七色の光が頭上から大量に降り注いだ。そしてその光は全身をすっぽりと包み込んだかと思うと、すぐに音も無く消えていく。
だが間近でそれを見ていたレイは眩しさのあまり目を瞑ってしまい、何が起こったのか全くわからないまま、目が明るさに慣れるのを大人しく待つしかなかった。
少ししてようやく辺りがはっきりと見えるようになると、ヨカが頬を紅潮させながら自分を見つめているのに気が付いた。
(何なに!?結局どうなったの?)
近くに鏡など自分を確認できるものが何もないため、不安なレイは首を傾げながらヨカとジークを交互に眺めた。
「おお!いいじゃん!さて、いよいよお披露目だな!!」
そう言ってジークが杖を大きく振ると、レイは椅子ごと回転させられ、全校生徒の前に再びその姿を晒されてしまった。
しかもどうやら先ほど発表をしていたマルク、ジョシュアペアの映像技術を借りたらしく、レイの姿は拡大されて布に映されていたようで、後ろの方にいる生徒達にまでしっかりと見えていたようだ。
その瞬間、わーっ、と上がる歓声。指笛や拍手もどんどん増えていき、それは次第に大きな拍手の波となってレイ達に押し寄せた。
後ろを振り返ることもできず何が起きているのかわからないレイは、助けを求めるように横にいるヨカを見上げる。すると彼は、レイの肩に手を置いてこう言った。
「すごく可愛いよ、レイ。本当に、可愛い。」
「え?何?もう!早く鏡を見せてー!!」
結局最後まで何が起きていたのかさっぱりわからなかったレイは、彼らの発表が終わると校舎の裏口にある姿見のところまで急いで走っていった。
「はあ、はあ、あった!……うわあっ、何これ!?」
そしてその鏡の中に写っていたのは、自然な化粧が施され、明らかにいつもよりも美女に変身したレイの姿だった。
「これが……私?」
「へえ。随分と化けたね。」
「ひっ、ユーリ!?」
突如として後ろから現れたユーリと鏡越しに目が合う。彼は驚くほど優しい笑みを見せ、腕をしっかりと組んで立っていた。
「ふうん。君が敵を助けるような真似をするとはねえ。」
(まずい、これはかなりお怒りだわ!)
「そそそ、そんなつもりは毛頭……ほら、だって私達の魔法珠はもっとすごい…し……あの、ユーリ?」
あれほど笑顔だったユーリが徐々に真顔になっていく。そのこれまでにない変化に、レイは動揺を隠せなかった。
「ど、どうしたんですか?あっ、もしかしてどこか具合が悪いとか!?」
慌てて振り返ってユーリに近付き、銀髪をかき分けその額に手を当てる。熱でも出てしまったのかと心配して顔を覗き込んでいると、彼の顔はすっかり赤くなっていた。
「レイ…勝手に顔に触らないでくれるかな?」
「あ、ごめんなさい!」
「……いや、いい。その……まあ、それ、そんなに悪くないんじゃない?」
「え?」
もしかして今、褒められてる?と思いながらユーリの額から手を離すと、彼は自分の顔に手を当てて横を向いてしまった。
「と、とにかく、テントに戻るよ!そろそろ君も、自分達の発表に向けて集中して欲しい!」
「はい!じゃあ、急いで戻ります!」
レイは額を手で押さえたままのユーリをチラチラと確認しながら校舎を出ると、駆け足でテントに向かう。
(ユーリ、熱があるわけじゃないのかな?まあとにかく、今日可愛くなっちゃったのは嬉しいな!今度あの魔法珠についてヨカに聞いてみなくちゃ!)
いつものように魔法珠のことしか頭にないレイは、ユーリがおかしかったことなどすぐに忘れて、ウキウキと弾むような足取りで控室であるテントへと戻っていった。




