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2.賢王と学園

王都へは、乗合馬車で1週間・・・7日の道のりだそうだ。


乗合馬車といっても、今回は学園への貸切なので、乗るのは同年代の子供達と護衛の冒険者達だけだ。

馬車は、1台につき8人とその荷物が乗るサイズがあって、牛馬という大きな馬の魔物が引いてくれる。

牛馬は、人が飼育し、人工繁殖することに成功している魔物で、荷馬車や乗合馬車などによく使われているらしい。性格は温厚で、力はあるが早く動くことは苦手で大人が少し早歩きした程度のスピードでしか動かない。


「ねぇ、あれみて。竜馬だよ。カッコいい!!」

レオンが指さす先には、大きな2足歩行の大型の鳥のような魔物がいる。

これも、人工繁殖に成功した騎乗用の魔物で、飛べない代わりに爬虫類のような鱗を持っていた。

上位の魔物の代表格である”竜”の名はいささか名前負けしている気はするが、騎乗スピード・耐久力・持久力など騎乗ができる魔物の中では、非常に優秀であるため騎士や上位の冒険者などが愛用する魔物である。


「騎士様のかな?」

多分そうなんだろう。僕は頷いた。


しかし、レオンはものすごく僕にしゃべりかけてくる。

さっき初めて会ったばかりなのに、ちょっと驚いてしまった。

それが顔に出ていたのだろうか?


「あ、ごめんごめん。僕は、ちょっと夢中になると周りが見えなくなることがあるみたいなんだ。

兄さんにもよく注意されてたよ。

気に障ったら悪いんだけど、ちょっとアーディルってば兄さんに雰囲気が似ていたから、ついね。」

とそんなことを言われた。


確かに、僕は同年代の子供達に比べれば頭ひとつ分は大きい。

孤児院でも、3年近く上のお兄ちゃんよりも背も高かったし、力も強かった。

レオンがお兄さんと雰囲気が似ていると思うのもそのせいかもしれないな。


といっても、学園では体の大きい子というのはそんなに珍しくないらしい。

というのも、10歳になったら・・・といってもそれを証明するものは何もないからだ。

だから、本当はまだ8歳ぐらいの子もいるかもしれないし、何らかの事情で12歳ぐらいになってしまっている子もいるらしい。

流石に小さすぎる子は怪しまれるらしいが。

ただ、実際の年齢に関係なく、学園に入った年が10歳になる。

これが、この国のルールだと、後で教わった。



・・・・


馬車は、3台用意されていた。

子供達は最終的に22名。冒険者が8名に騎士様が1名。

冒険者は日中は4名づつ周りを歩きながら交代で護衛してくれる。

しかも、これにあわせて、同じ方向や目的地の荷馬車が2台ほど一緒に行く。

こちらも、少人数とはいえ護衛の冒険者たちがいる。


過剰なぐらいの人数だが、この人数を無理に襲う盗賊はまずいない。

この国では、犯罪奴隷以外の奴隷売買は禁止されているし、正規の訓練受けた騎士に、ギルド推薦の冒険者がついている状況では、被害が多すぎて割に合わないからだ。

だから、それにあわせて荷馬車も一緒に行こうとしているのだろう。

そのため、最大の警戒相手は、むしろ知能の低い魔物の類らしい。


7日の行程のうち、3日は宿のある宿場町に泊まることが出来るが、どうしても最低3日はキャンプを張る必要がある。そのために、冒険者の協力は必要不可欠らしかった。


・・・


「おーい。アーディル。テントを張るのを手伝ってくれ。」

エリックが、僕とレオンに声をかけてきた。


キャンプや食事などは、冒険者が主体になってやってくれるが、子供達はお客さんではないので、色々と手伝いをさせられる。

騎士のエドガーさんが教えてくれたが、この移動も勉強の一環なのだとか。

炊事やキャンプの基本的なことを経験させることに意味があるらしい。


「そこ、しっかりとロープを張って、地面に杭を打つんだ。ちゃんと打たないと、風で飛んで行っちまうからな。」

そういいながら、エリックは、馬車の屋根からロープを地面に向けて張って、布を結んでいく。

レオンだが、最初ははしゃいでいたが、夕方になるにつれて静かになり寝る前にはすごく怖がっていた。

まぁ、育ちがよさそうだからな。


「キャンプは初めてかい?」

そう聞くと、恥ずかしそうにうなずいていた。

とはいっても、どちらかというと僕の方が珍しいほうで、ほとんどの人はキャンプ自体はじめての経験なのだろう。皆、ちょっと緊張していた。


「まぁ、安心して眠って・・・っていう方が無理かもしれないけれど、魔物避けの香も炊いているし、ここは僕らがちゃんと番をするから、安心して」

騎士のエドガーさんが、ちょっとはにかんだ様な笑いを浮かべながら子供達に言った。


そうはいっても、皆興奮や不安からすぐには寝付けない。

エドガーさんも、それはわかっているようで、寝れない子供達相手に話をしてくれた。


「まぁ、じゃぁ少しこれから向かう王都と学園の話でもしようか。

あ、どうせ学園でも習うから、眠たくなったらむりせずに寝るんだよ。まだまだ旅は長いしね。」


まとめると、この国は建国王ヴェルスとその仲間であった2代国王ジラードによって建てられた小国だったらしい。なるほど、だからヴェルジラ王国なのか・・・。

当時は、同じような小国が他にも何ヵ国かあったらしいが、ヴェルスの孫にあたる4代目国王、通称”賢王”ジークフリート=ヴェルジラスの改革によって、盤石な地盤を築き、6代目国王”光武王”ギュスターブ=ヴェルジラスによって、近隣の小国を統合して今にいたるという。

そして、この”賢王”の改革の一つが、学園の設置と教育の義務化らしいのだ。


この改革によって、ヴェルジラでは識字率が劇的に上がり、計算や商い、流通、生産などのあらゆる経済が活性化。文武ともに有能な人材の登用に成功をしたらしい。

”賢王の改革”は、それだけではなく、街道の整備、宿場町の開拓、魔石の研究と魔道具の開発、その素材を狩るための冒険者の組織化=ギルドの設置など多岐にわたるという。

むろん、賢王の時世にそれが全て成功したわけではないのだが、5代目国王を自らの血族とせず、ギュスターブの父でもある優秀な文官を指名したということも含めて、最も偉大な王として今でも語られているという。


エドガーさんも”賢王”にかなり心酔しているのか、話にかなり熱が入っていた。

なかなか面白い話だったが、ふと、気がつけばほとんどの子供は寝息を立てているかもう限界のようだ。


「アーディル君だったか。君ももう寝なさい。」

エドガーさんにそういわれて、僕も横になると、自然と瞼が重くなってきて、眠りについた。





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