5.孤児として生きる。
正確な日にちは数えていなかったけれど、あれから、1ヵ月は経ったのではないだろうか。
最初は、木に住む昆虫や幼虫を食べ、水分は朝雫などから採って、飢えを凌いだ。
あれから、やむなくスライムを2回ほど食べたが、スライムというのはどうも個体ごとに毒性が違うようで、最初のように悶絶することはなかったが、食べるごとに苦痛を感じたし、何よりも不味かった。
それでも、なんとか生きてこれたのはスライムのおかげといっても過言ではないかもしれない。
むしろ、やばかったのは茸かもしれない。
見た目が食べれそうなだけに油断していたけれど、最初のスライムと同じぐらい悶絶した。
だけど、その甲斐もあって、かなりの種類の茸を食べれるようになっていた。
1週間もすると、疲れ切っていた身体にも力が湧いてきて、太めの木の枝を使って、角ウサギを仕留めることに成功をした。
火を起こす方法を知らなかったので、そのまま生肉で食べることになったが、スライムに比べれば数段美味かったし、何より血肉になったのを感じた。
もう一つ角ウサギを狩ることが出来て得たのが、角ウサギの角だった。
本来、角ウサギの角などは武器に加工できる素材ではないけれど、あのころの僕には十分心強い武器になった。
今思うと、幸運以外のなにものでもないのだが、僕は狼の群れにもゴブリンやオークの群れなどにも一切あうことなく、1ヵ月もの間森で暮らすことが出来ていた。
そして、もう一つ僕を助けてくれたのが、魔石の存在だった。
スライムや角うさぎなどの最下級の魔物の通称クズ石と呼ばれる魔石だが、それを食べて寝るとほとんどの傷を一晩で癒してくれた。
・・・
「本当に、こっちのほうにあるのか?」
「間違いないって。」
「奥の方は、危険な魔物も出やすいっていうし、できれば行きたくないなぁ・・・」
若い男性達と女性の声が聞こえた。
少し先の広場に、3人の革鎧にショートソードを佩いた男女が何かを探しているのが見えた。
僕が言うのもなんだけれど、あの頃の3人はまだ20歳にもなってない若造だったはずだ。
そして、その姿を見た僕は、声にならない叫び声をあげた。
なんといったのかは覚えていないが、後から聞いたら、獣の咆哮のような雄たけびのようだったようだ。
意味は分からなかったらしい。
「おい、見ろ!」
「え、なに!!血まみれの子供??」
「君!大丈夫か??」
これが、命の恩人エリック達との出会いだった。
それからは、エリックにおんぶしてもらって、近くにあったヴィジニアの町に運び込んでもらった。
ケガなどは治っていたし、腹も満たされていたが、安堵からか緊張の糸が切れたのか、歩くこともできないぐらい限界だったようだ。
後から聞いた話だけれど、彼らが捜していたのは、僕がいくつか手持ちにしていた珍しい薬に使う茸だったらしく、渡すと逆に感謝をされた。
どうやら、あの茸はそのまま使う物ではなかったらしい。
僕はそのまま修道院で数日間過ごした。
後で聞いた話だと、その時の僕は大人たちを睨みつけて、警戒して2日もまともにしゃべらなかったらかった。それでも、シスター達の優しさもあって、わかってることだけを話す。
村が野盗に襲われて攫われたこと。おそらく誰かに売られて何か人体実験をされそうになったこと
命からがら逃げて来たことを話した。
もちろんスライムを食べたり、ギフトを得たりしたことは話していない。
そもそも、その時はまだギフトについて知らなかったし。
今思うと、5歳の子供が森で1ヵ月も暮らしていたというのは、おかしいと思うのだが、シスターたちは涙を流しながら聞いてくれていた。きっと、色々なことがあって錯乱しているとでも思ってくれたに違いない。
こうして、僕はそのままヴィジニアの町の修道院が運営する孤児院に引き取られることになった。
第一部というか、序章がこれで終わりです。