第二十七話
「――というわけでごめんね」
話を進めていく内にどんどん彼らの表情が曇っていくのを見ながらも、優吾は旅に出ることを告げた。
「そんなあ」
「せっかく色々教えてもらえたのに……」
「っ……なんだよ! 行っちまえよ!」
旅に出ること、街に戻って来るかわからないことを伝えると三人は三様の反応している。
共通しているのはとても悲しい顔をしており、普段は一番気丈なワルファにいたっては、やけくそ気味に吐き捨てながらも目に涙を浮かべていた。
「みんな、すまないね。本当はもう少しこの街にいるつもりだったんだけど、色々とやることがあるからね」
詳細は説明しなかったが、それでも街を離れるということだけはしっかりと三人に話していた。
「いいかい、僕がいなくなっても決して魔術を悪用しないようにね。それから、にわか知識を誰かに教えることは禁止するよ。君たちにはまだ触りしか教えていないんだから」
優吾の注意を聞いて、涙をごしごしと服の裾で拭きながら三人はしっかりと頷く。
これが先生の師匠のマスターとしての最後の言葉であると、三人は子どもながらに理解していたようだ。
「それと、魔術が身体を巡る意識の練習はいつもやっておくといつか君たちの力になってくれると思う。だから、みんな僕がいなくてもがんばって」
初めての仮弟子三人は、その言葉を耳に、脳に、身体に刻み付けるようにしっかりと聞いていた。
新たな涙を目に浮かべながらも、必死に優吾の言葉を聞きこぼさないようにしている。
「それじゃあ、そろそろ行くね。みんな、元気で!」
いい子だったな、とそれぞれの頭を撫でたのち、優吾が彼らに背を向けてその場を立ち去る。
その背を見送りながら、数秒の間があったが、三人は決意をもって顔を見合わせて頷くと、大きく息を吸い込んで周囲に響き渡るほどの大きな声を出す。
「「「ありがとうございました!!」」」
背中に強く受けたその言葉に優吾は思わず目頭が熱くなるのを感じたが、振り向かずに右手を挙げて子どもたちへの返事とした。
その後も名残惜しい気持ちになんだかんだ街をまわっていたら、日が高くなり、約束の時間が近づいていたため、優吾は北門へと向かうことにする。
既にリーネリアは別れの挨拶を終えていたらしく、北門にて旅立てる服装をし、一人待っていた。荷物を持っていないのはこれから優吾と家に向かうからだろう。
「あっ! ユーゴさん、こっちですー!」
優吾の姿に気づくと大きく手を振ったリーネリアはどこかすっきりと明るい表情だ。
「あぁ、待たせたかい?」
穏やかに微笑んだ優吾が声をかけるとリーネリアは首を横に振っていた。
「いえいえ、ちょうど私も来たところですから」
ふわりとほほ笑み返してくれたリーネリアの返事を聞いた優吾は、まるでデートのようだな、と思ったが口にすることはなかった。
「それじゃあ、リーネリアの家に行って荷物をとったら出発で構わないかな?」
「はい!」
街の人はリーネリアにとても良くしてくれたため、名残惜しい気持ちはあったがその気持ちにしっかりと踏ん切りをつけ、今では旅に対するワクワク感が強くなっていた。
彼女の目元が少し赤くなっていたのに優吾は気づいていたが、そこはあえて指摘せずにいた。
リーネリアの家では優吾が空間魔法で彼女の荷物をしまっていく。リーネリアは着替え以外はなるべく持っていくものを減らしていたため、さほど量も多くなかった。
「それじゃあ、今度こそ本当にこの家ともお別れになるけど……何かやり残したこと、思い残すことはあるかい?」
優吾の質問にリーネリアは綺麗に片付いた家の中を見渡しながら少し考えこむ。
「そうですねえ。……いえ、大丈夫です。ここには母との思い出がありますが、それを後生大事に抱えていては次に進めませんからね……うん、行きましょう!」
ぱっと顔を上げたリーネリアは前を向いていくと決めていた。いつまでも後ろを振り返っているのは、きっと母も望んでいないと、リーネリアはずっと逃げ続けていた自分の中の母親とも向き合って結論を出していた。
「――それじゃ、行って来ます!」
いつか帰って来るかもしれない場所。そこに別れを告げて、二人は出発していく。
「……と、いったものの金がないから徒歩での旅になっちゃうんだけどね」
彼らはリーネリアの家から街に再度移動し、そしてそこから西に向かって旅立っていた。しかし、どうしても徒歩での旅であるため時間がかかってしまうのは明白だった。
「ゆっくり行きましょう。それよりも、師匠は私にどういった指導をしてくれるんですか?」
心配そうな優吾にリーネリアは大丈夫だと頷いてみせた。優吾の強さを二度も目の当たりにしている彼女は、あの強さのひとかけらでも身に着けることができれば強くなれると思っているのか、期待に満ちた眼差しを向ける。
「そうだなあ、それじゃあまずは魔術についての説明からしておこうか」
歩きながらの優吾の魔術講座が始まる。といっても、ビーア・カッツ・ワルファに説明したものとほとんど同じだった。
獣人は魔法を使うのが苦手であること、しかして魔術であれば魔力を活かして戦うことができるということ。獣人は体術に特化しているため、魔術との相性が良いこと――などを説明すると、リーネリアはをそれを一言一句漏らすまいとメモをとっていた。
「ちなみに、魔術っていうのは色々と汎用性に富んでいるんだよ。例えば、リーネリアの家にいたときにダイアさんとか、襲撃者が近づいてきたのは結構前からわかっていたんだ。食事をしていたから、少しだけ気づくのが遅くなったけどね」
優吾の説明に、どういうことなのかとリーネリアは首をかしげている。
「あれは風の魔術を使っていたんだよ。どんなに弱い風でも風がぶつかることで何かがあることがわかる、そしてどんな形でぶつかるかによって人なのか障害物なのかがわかる、更には熱を感知したりなんてことも……」
優吾の説明をなんとか理解しようとするリーネリアだったが、イメージがわからないらしく、頭の上にはハテナマークがいくつも飛んでいるようだった。
「ま、まあ、そのへんはだんだん理解してもらえばいいと思うよ。これから旅は長いから、ゆっくりとやっていこう」
「は、はい、すいません」
彼女の頭から煙が出てきそうな雰囲気に苦笑交じりで優吾は説明を一度打ち切った。
魔術を学ぶことや旅をすることを決意したリーネリアは大丈夫かな? と少し不安な気持ちがわいてきたが、優吾が戦っている姿を思い出して、がんばろうと再度気合をいれていた。
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