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第二十三話


 優吾は縄を着けたままだがリーダーの男を外に連れて行き、檻の中にいる部下たちと話し合わせた。

 その様子を少し離れた後方から黙って見ている。リーネリアからお願いで彼女も優吾の側にいた。


 目が覚めた彼らは申し訳ないという表情で口々にリーダーを庇うような言葉を口にしていた。

「隊長は悪くない」

「不甲斐ないのは自分たちです……」

「何もできずに倒れてすいませんでした!」

 必死な彼らの言葉にリーダーは思うところがあったらしく、しばらく無言で考え込んでいる。


 そして、黙っているリーダーの男に彼らが真剣な表情で最後にかけた言葉。

「俺たちは隊長が決めたことに従います」

 それが彼らの決断だった。どこまでもリーダーの男についていくと言わんばかりの気持ちが伝わるものだ。


 いまだ考え込むリーダーの男に優吾は一つ声をかける。

「あなたの部下はどうやらだいぶ若い人たちみたいです。彼らの未来をこんな場所で潰して良いのですか?」

「う、うむ……」

 先ほどより生きることに前向きになり始めた様子に、もうひと押しを考えた優吾は更に言葉を紡いでいく。


「彼らに、あなたの技術を伝えていく――それがあなたの役目ではないのですか? そして、あなたの判断を待つ彼らの目を見て下さい。曇りなき眼を!」

 男は不甲斐なさから視線を落としたまま話を聞いていたため、部下の顔をしっかりと見ていないことにハッとしたように気づく。ゆっくりと顔を上げると部下たちは揃ってしっかりと頷いて見せた。


「お前たち……わかった、戻っても失敗の責を問われるだけだ。我々は別の道を進むぞ!」

 強い意志を込めたこの決断に部下の男たちはまるでお祭りでもあるのかというほどの騒ぎになっていた。そもそも、彼らはリーダーの男の人となり、そして彼の技術にほれ込んでいた。その彼が選んだ選択肢であればついていくことに異存はなかった。


「それじゃあ、檻は解除しましょう。あなたの縄も解きます」

 にっこりと微笑んだ優吾が檻に向かってすっと軽く手をあげると檻は男たちを避けるようにボロボロと崩れ去っていく。また縄も同時に切られ、パラリと地面に落ちていた。


「申し訳ない。こんな我々に情けをかけていただき……」

 先ほどまでの態度とはうって変わって静かに優吾に向かって頭を下げるリーダーの男。

「いや、俺はただ戦っただけですから。それよりも彼女に謝って下さい。俺は気持ちだけで十分です」

 遠慮するように手を振る優吾は謝る相手が違うと伝える。それは今回ターゲットになっていたリーネリア。


 優吾があっさりと捕らえたため実感が薄かったが、彼女を殺すことが目的だったと男たちは思い出し。リーダーの男を筆頭に彼らは揃って膝をつくとリーネリアに頭を下げた。


「リーネリア様、あなたを襲おうとしたこと何度頭を下げても許されることではありません。我らはひとまず身を隠しますが、もしあなた方が力を必要とした時にはぜひ駆けつけたいと思います」

「……えっ? えっと、あの、はい」

 リーネリアは男たちのあまりの態度の変わりように驚いていた。そして、思わず肯定の返事を返してしまう。


「――お前たち、行くぞ!」

 その返事に満足した男は部下に指示を出して、闇の中へと溶けていくように消えて行った。





「ふう、なんとかなってよかったね。こんな場所で自害なんてされたらたまらないよね」

 やれやれといった様子で優吾が笑いながら気軽にリーネリアへと話しかける。

「えっ、はい、それは困っちゃいますね……」

 リーネリアは未だに驚きの渦中にあったため、優吾の言葉にもおかしな返答をしてしまった。それをクスリと笑った優吾に、彼女はハッとしたように我に返った。


「……って、なんですか! なんであの人たちが私に仕えているみたいな感じになってるんですか!? それに自害ってなんですか! そりゃ困っちゃいますよ、うちの周りが!」

 先ほどのやりとり、そして優吾の言葉を思い出してリーネリアはコロコロと表情を変えていた。怒ったり戸惑ったり困惑したり彼女の表情は目まぐるしく変わった。


「ははっ、そんな表情もするんだね」

 わたわたと慌てている彼女を見て、素の部分がでてきているのだろうと優吾は穏やかに笑っていた。

「も、もう! 笑わないで下さい!」

 そんなことを話しながら二人は家に戻っていく。優吾はあえて口にはしなかったが、周囲の気配を魔術で探知し、自分たち以外に誰もいないことをちゃんと確認していた。







 家に戻った二人は、しばらく先ほどの話をしていたが、夜も深まってきたところで優吾は話を変えることにする。


「それでリーネリア、どうする?」

「どうする、とは?」

 唐突の質問にリーネリアは首をかしげていた。


「うーん、今日の訪問者だけど、最初のダイアさんはリーネリアを本来の家に連れて帰ろうとした。そして次に来たあいつらはリーネリアを暗殺しようとしてきた」

「はい」

 改めて状況をまとめる優吾に、リーネリアは居住まいを正して真剣に話を聞く体勢をとる。


「このままここに住んでいたとしよう。そうなれば、きっと第二、第三の刺客がやってくることは予想できる。この家にいる時に襲われたとしたら、良くはないけど被害にあうのはリーネリアだけだと思う。でも……」

 優吾の言葉の続きを想像してリーネリアはごくりと唾を飲む。


「そう――街にいる時に襲われた場合、相手が周囲を気にしない相手だったら街にも被害が出てしまうかもしれない」

 優吾は冷静に考えた末、起こりうることを口にする。


「ど、どうしたらいいのでしょうか?」

 動揺しながらリーネリアは優吾に質問する。

「そうだね、いくつか話すことはできる。でもね、俺がするのはあくまで提案。だから、俺の話を聞いて、考えて、それで何を選択するかは自分で決めてほしい。でも忘れないでほしいのは、どういう選択をしても俺はリーネリアの味方だよ」

 優吾は自分の助言にただただ従うことで、彼女の選択肢を狭めてしまわないように話をする。


「っ、わかりました!」

 真剣に説明する優吾を見て、リーネリアも真剣に答えないといけないと覚悟を決める。


 優吾が提案した今後の道。

 一つ、獣人の国へ向かうこと。自ら問題の場所へ乗り込んで、解決へと向かっていく。

 二つ、この家を離れて逃亡の道を歩む。

 三つ、変わらずにこの場所に住み続ける。しかし、街との交流は最小限にする。


「一つ目はだいぶアクティブな案ですね……二つ目はどこにいても気持ちが落ち着かなさそうです。三つ目もいつここに刺客がやってくるかわかりませんよね」

 つまり、優吾が提示した案の中でまともなのは一つ目ということだった。


「――そうかな?」

 しかし、優吾にとってはそうでもないようだった。


お読みいただきありがとうございます。

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