1わ 誘拐されちゃった!? 前編
文章量で一応分けました。前編です。
「…はっ!?ここは何処だ!?」
ベッドの上で目が覚めた俺は辺りを見渡す。
一面、右側、白。
二面、左側、白。
前も後ろも上も下も白色一色の世界で頭の中も真っ白になってしまった。
え、ここどこ?
まず最初に俺は記憶を探り、自分がトラックに跳ねられたことも鉄骨が落ちてきたことは無いということを確認した。
異世界転移、転生、勇者召喚とかそういったことをすぐ考えてしまう辺り俺はなろうに毒されている気がする。
とにかく辺りを少しでも探ろうとベッドから降りた時、明らかに聞きなれない音が手首から響き渡った。
ジャラッ
「ジャラッ?」
え、鎖付いてるんですけどぉぉおお!?
え、ちょっとまってマヂで意味わかんない。
召喚とか転生とか言ってる場合じゃねぇよ!?
何!?拉致監禁系!?
魔法使いまでカウントダウン始まってる俺を、とか誰得だよ!?
どんな趣味だよ!?
誰がやったんだよ!?
「あら、目が覚めたようですね?」
何処からか女性の声が聞こえてきた。
「おい、どういうつもりだ!?俺なんか監禁しても一文の得にも…」
なんねぇぞ、と言い切ることが出来なかった。
理由は簡単、目の前に女神がいたからだ。
後光が差しても一目で分かる美しいプロポーション。
重力を感じさせずに歩くさまは彼女が超常のものだと本能で訴えかけてきている。
緩くふわっとしている栗色の髪はどんな最高級のシルクでさえも負けてしまうような上質なものに見えた。
この世ならざるものとはこういった事なのだと、まざまざと見せ付けられた気がした。
俺は誰に言われる訳でもなく、自称される訳でもなく、彼女が比喩でもない「女神」であることを理解した。
「私はあなた方の言うところの女神、アモラ。なぜあなたがここにいるかというと…」
「も、もしかして俺、勇者とかに選ばれたりして異世界転移とか転生してしまうのか…?」
「ちがうわ」
「え?」
「え?」
え?
「あなたが今、ここに要る理由。それは単にあなたが私の好みの男性だったから…それだけよ?」
「What!?」
開幕直後に発覚した新事実。
それは、目の前の女神様が拉致監禁系、ヤンデレヒロインだったって事。
「 あなた方の言うところ 」ってルビが(ギリシャ神話的な意味で)ってことかよ!?
そういうの男神の仕事じゃねぇの!?
心の中でそういった突っ込みを入れつつも、俺は彼女から目を離すことが出来ない。
女神を関するにふさわしい整った顔立ち。
ゴージャスのさらに上、神秘的を形容すべきような美しいまつげに収められている瞳はブリリアントカットされた宝石のような輝きを放ち、その色は透き通ったブラックオパールという矛盾を形作ったような美しさを見せていた。
そんな神聖の権化と呼ばれてもおかしくない彼女は、その潤いのある美しい唇からまるで俗世を形容するかのような言葉を紡いでゆく。
「わたしねぇ…最近、疲れちゃったの…
主神である上司の男紳はセクハラかましてくるし、仕事も一向に減らないし…
もう、聞いてよ!?この間なんかね、いきなり管轄地区が増えたの!
あのセクハラやろーが「なんか最近出た創作物でねぇ…女神がメインキャラに入っているらしいんだよ。君、その子に似てるし地区の信仰担当、任せるね?」だって!?
仕事増やさないでよ!?
…だから癒しが欲しくてね、つい誘拐っしちゃったっ!」
「つ…ついって…」
俺はぞくりとする物言いに一筋の汗をたらした。
一方、疲れた表情をしながらそう言葉を続ける女神様、その表情は中世の写実的な宗教画に…じゃないよ!?
やばいよ!?
俺、ストレス解消の捌け口で誘拐されちゃってるよ!?
逃げられない処置をしないといけないようなヤバイ事させられそうだよ!?
女神様のノリの軽さと反比例するかのごとくドン引き上等、絶賛疑心暗鬼な俺はなんとかそんな表情を悟らせないように勤めながら質問をする。
正直、心よみまーすとかあったらこの時点で行き先、黄泉デースなんだが…俺は生き残りたい。マジで。
「癒しって言う事は…ペット的な扱いなんですか…?」
「うーんペットというよりは…そっちの言葉で言うところの「主夫」とか「ヒモ」?になってもらいたいかなぁ…
あ、さっき読ませてもらっちゃったけど、私は痛めつける趣味とかそういうのはないわよ?
ただ、貴方と一緒にすごしたいなーって」
うわー、心、読まれてるー、つんだー、おれー。
「…って「主夫」ですか?」
「そうそう、私の知り合いの中にはそういうのが好きな柱もいるらしいけど…私はそういうのないかなぁ…」
「…なんで俺なんです?おれ、そこまで家事とかできませんよ?「主夫」が欲しいなら他にうってつけの人も居るでしょうに…」
「うーん…それはね…?」
質問を間違えたか、虎の尾を踏んでしまったのか…
女神サマの雰囲気が変わった。
先程までの清楚、神聖、幻想、純粋な空気が、これは…妖艶?
そう、妖艶、背徳、エロティックな空気に変わったのだ。
紫を基調とした淡く高貴な光が夜のとばりの向こうにある欲情誘うキツイピンク色へと変貌を遂げる。
女神、アモラ様も女神の顔から女性…いや、「雌」の顔へと仮面を付け替え始めた。
「私、だぁいすきなの。貴方みたいな「なんとなく神様を無条件で信じてる一般人男性」が。
私がどんな滅茶苦茶言っても「神様ってそういうものだし」とかいって許してくれそうだしね。
それに貴方って何て言うか…イケ魂?
どんな環境にいてもダメになっていかないようなイケイケの魂を持ってる男の人を養うって…夢を応援してる感じがして…素敵じゃない?」
そういって彼女は潤んだ瞳をこちらに向け、にじり寄る様にこちらに近づいてきた。
蒸気した吐息と澄んだ白色に紅が灯る柔肌。
彼女が俺に期待している事が何かが伝わってしまう。
っというか何て言うんだろう…こう、全幅の信頼感?
を、何故か俺、寄せられちゃってるよ!?
最早別の意味でヤバイよ…
何がヤバイってそんな要約すると「私、貴方の事、好き」的な台詞をあんな下半身にクル表情で言われちゃったら「もう、拉致とか監禁とか住んでた現世とかどうでもいいんじゃないかな?」って思っちゃうところだよ…
俺だって家族や友人に別れを告げ…
「…なくていいよ?少し帰るぐらいなら…里帰りってやつだよね?」
うん、拉致とか監禁とか住んでた現世とかどうでもいいんじゃないかな?
いやいや、ダメだダメだ!
いくら美しいなかにエロさを併せ持つ完全無敵な(性)愛の!女神サマ!(多分)だったとしても!相手は拉致監禁を…拉致、監禁…?
「あの…アモラ様?」
「アモラ、でいいのよ?仕さん?」
「そんな、おそれ多いいです…ところでアモラ様?人間を拉致するといった話は良くあることなのでしょうか…?」
「いいえ?最近はまた少し増えましたけど基本的にはあまりない事でしょうね」
「…では何故?」
「他の柱からそういうのを好む人もいると聞いたから…かしら?」
「………では……この手首から伸びてる…鎖は…?」
「あら、お嫌いでしたか?」
やっぱり!!!
恐ろしい事実に気付いてしまったがいまさら遅い。
アモラ様は俺に剣を突き刺すように追い討ちをかける。
「確か特選アニマルの漫画の2018-2000のお気に入りのトップレートフォルダに…」
「わかった!わかりましたから!」
この女神様、俺のDドライブの中身を知り尽くしている!!
精神がシーソーゲームを起こしてる俺にアモラ様はさらに俺の理性にも追い討ちをかける。
混乱の極地にいた俺を別のところへぶっ飛ばす、彼女の強烈な台詞だ。
「ええっと、それで…始め”は”リードされたいんだよね?」
「え!?いや、それは!?」
彼女のしなやかな指先が俺の膝に触れたかと思うと、すぐに、しかしゆっくりと、内股を通り腹部へと上ってゆく。
よじった身体が鎖を揺らし、背徳の音を奏でた。
「…あら、こっちは正直さんなのね?」
「っちょっ!?まっ!?」
「大丈夫…まかせて…ね?」
彼女はそっと下腹部を一撫でした後、そのままその右手で俺のズボンのボタンをパチンとはずし、ジッパーをゆっくりと下げていった。
こっちを上目遣いで見てくるその瞳に。
ふっくらとして艶めいて見えるその悪戯好きな唇に。
妖艶にはだけつつあるその豊かな相丘や太腿に釘付けとなった。
そして跳ねる心臓音にあわせて耳に入るジッパーの下がる、その音に反比例するように俺の体の芯から何かがせせり上がっていく。
アモラ様はもはや確信は得たと言わんばかりの微笑を浮かべて最後に一言俺に止めを刺した。
「ふふ、さぁ、楽しみましょ?」
「あー!」
こうして俺の始めての実戦はなかなかに業の深いものとなった。
一面白。とかいっているのに背景はピンクに変えるって言う。