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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第1章 異世界生活は分からない事ばかり
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第九話:壇上は苦手です




病院に戻り、べリス婆さんに人に凄く変な目で見られる事を伝え、返ってきた答えに衝撃を受ける。

まさかあの民俗衣装の模様や刺繍にはそんな意味合いがあったとは…。恥さらしもいいところだ。


だが、それでは今後の行動に支障が出る事は必然だ。何とかしなければならない。

刺繍を入れるには許可が必要になる。

週1回行われる村の会議で認めてもらうのだ。

そしてそれは、運がいいことに今夜行われるらしい。またとないチャンスである。

俺はべリス婆さんに、村会議の参加を申し出た。

べリス婆さんとしても、入院している俺の定期報告をしなければならないとのこと。村会議に参加し、発言をする許可が出た。この病院で打ち明けた事全ては話さないにせよ、自分の境遇を明かし、理解してもらえれば、きっと周りの目線も柔らかくなるに違いない。




夜になり、べリス婆さんに呼ばれて外へ出る。

風は少し寒い。一枚羽織が欲しいところだ。


村会議は病院の上にある体育館半分ほどの大きい建物の中で行われた。参加している村人は数にして50人くらい。村人全員が参加しているわけではないが、立派な会議だ。参加者の年齢層は中学生くらい〜腰の曲がった老人まで。男女差はあまりない。女性の参政権もあるようだ。子供は少ない。留守番をしているのだろう。


そして、やはり真っ白なこの甚兵衛(ローブ)は目立つ。頼む。こっちを見ないでくれ。心が折れる…。


会議が始まった。

壇上で発表されるのは王国の状況、王国の要望、税金、村の運営・方針、ウール衣類の輸出、塩や砂糖の輸入、羊の数、野菜の収穫量などなど。多くの人が積極的に挙手して質問するところを見ると、かなり民主性が高いな…。これは確かに、犯罪を犯して白い甚兵衛でも着せられた日には、村八分になるわな。


そしていよいよ、会議は最後の議題になる。

俺達さんの番だ。

べリス婆さんに続き壇上へ登る。

途端にザワツキが大きくなる。

やめてー。そんな目を向けないでー。

本当、俺、人前に出るのだけは辛いんだよ…。


べリス婆さんから、病院の現状や、風邪の流行などの報告が終えると、いよいよ俺の紹介が始まった。

言葉は通じるんだ。ここで堂々といかないと。

ここで印象よくしなければ、後々厄介なことになりかねない。よし、やるか。



こんばんは皆さん。初めまして。ご紹介にあずかりました ーー



その後の質問はまるで嵐のようだった。

俺のことというよりも、以前の世界のことが殆どだった。俺は包みなく、知っている所は細かく、よく知らない知識はおおまかに色々なことを話し、皆興味深そうに聞いていた。俺が嘘や冗談を言っていないのは分かって貰えたようだ。村人達の真剣な表情が語っている。


あまりに質問が多いので、時間がかなりかかってしまった。俺がトリではあったが、深夜まで長引いてしまい、進行役から質問が打ち切られてしまうほどだ。

そうそう、最後に言わなければ…



「自分は右も左も分からず、天涯孤独の身ではありますが、この世界でも自分なりに一生懸命生きたいと思いますので、ご助力・ご進言の程、どうか宜しくお願い致します。(ペコリ)」



大喝采の拍手に包まれて壇上を後にする。

うん、掴みはよかったな…

会議が終わってからも俺のところには色々な人が来る。中には家に寄ってほしいと言ってくる人もいた。監視の対象が一躍有名人だ。いや、これはこれで、目立って困る…。



何にせよ明日から動きやすくなったな。

住民票代わりの刺繍は貰えなかったが、この会議の場で俺のある程度の自由行動が認められたのも大きい。堂々と街を歩いて探索に行けるわけだ。一安心といったところかな…。


帰り際、ちょっとお腹の出た、立派な髭の太っちょなオジサンが話しかけてきた。模様や刺繍も豪華で多彩、まるで芸術だ。

ここの村長…ではなく、シンクバトラ王国から派遣されて来た大臣らしい。俺の噂を耳にしてやってきたとのこと。


話の内容としては、空から降ってきたという衝撃デビューを果たした俺のことを、王様が非常に興味を持ち、会いたいと言っているそうだ。この世界での礼儀作法に…というか国王を前にしての礼儀作法に不安はあるが、大臣が王国までの道中一緒に付き添って簡単な礼儀作法は教えてくれるとのことなので、道中で学べば問題ないだろう。俺は提案…という断ることのできない事実上の命令を受けることにした。出発は3日後。


その3日間、色々な事を見て回らなければ…

シンクバトラ王国の予習も必要だ。大臣に王国の事を直接聞くというのはさすがに俺でも出来ない。

詳しそうな人に聞くとしよう。



病院の鍵を預かり、回り道せずさっさと戻る。

今日で看病・看護の対象から外れた俺は、この病院を鍵のかかった事務所以外はある程度自由に見て回れると共に、入院患者が俺一人である限り、夜は一人で過ごすこととなる。要は元気な居候に宿直は必要ないということだ。


明日の朝御飯はべリス婆さんが作ってきてくれるとのこと。本当にお世話になってます…



あぁ、今日は疲れた…

今日起きたこと、今日知ったことを貰ったメモ書きに日本語で書き記すと、俺はすぐに暗闇の世界へ落ちていった。

人物紹介

○ファロイド

この物語の主人公『鳥羽(とば) 幽仙(ゆうせん)』が名前に関する記憶を失い、新たに与えられた名前。

だいたい年齢は6歳くらい。

くすんだ金色の長髪、光のない漆黒の瞳を持つ。

壇上に立つことは本当に嫌い。

発表会とか恐怖でしかない。


○ヴェレリウス

通称べリス。

ファロイドが入院している病院の院長。

白髪の老婆。

実は村の重役の一人で発言力がある。


○王国の大臣

ファロイドの噂を聞き、王国から派遣されてきた。

太っちょ。おヒゲ。おじさん。

着物の刺繍は芸術品のように豪華。


○村の人たち

ほぼ全員が赤や茶色の髪をもつ。

夜中の村会議だが男も女も活気がある。

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