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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第1章 異世界生活は分からない事ばかり
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第十六話:いざ王国へ①




昨日は1日部屋で過ごした。

今朝は日の出と共に起床。

最高の寝覚め。体調も万全。

昨晩は例の高熱や性転換疑惑もなかった。

次はいつ、その症状が現れることやら。

予測もつかない。


さて、今日で最後だけど病院の掃除をしますか…。



それは昨日夕方の出来事である。

診察を終えたべリス婆さんから告げられた。

明日、王国に行くついでに自分はこの病院を退院、そのまま王国の孤児院に引き取られるらしい。

この世界の仕組みや知識が良く分かっていない俺がこの村で孤児奴隷を始めて過ごしたとしても、野垂れ死ぬ危険性が非常に高い。孤児院という保護環境があり、そこで知識を得られるならばそこに(あやか)りたいところだ。


願わくば「学のある孤児」として王国に認められ、そこで暮らせればいいのだが…。

期待はしない方がよさそうだ。



そういうワケで、俺は今日でこの病院ともお別れとなる。短い間だったが、この病院には感謝してもしきれない。だから今日だけになってしまったが、最後くらいキチッと目標を果たしたい。

病院に貢献するという目標を。

居候としての務めを。


べリス婆さんが出勤するまでの勝負だ。

掃除してるところを見られてはならない。

痕跡を残すのはいい。

掃除をしているところを見られれば、それは俺の努力に対して評価されるだろう。だが、掃除をする目的は「誉めてほしい」ではないのだ。


それから2時間、徹底して掃除をし…たが、玄関の掃き掃除をしているところで結局、いつもより早く出勤してきたべリス婆さんに発見された。気配でも感じたんだろうか。



朝食を食べ、身なりを整えて午前9時半。

集合場所は湖の(ほとり)だ。

そろそろ病院を出発する。


べリス婆さんから万年筆のようなペンとインクの入ったビン、ナイフとランプと油を持たされた。そして俺が今までの出来事を綴ったノート。

べリス婆さんは早く来て何をするのかと思ったら、出発の持ち物を揃えていてくれたのだ。本当にありがたい話である。べリス婆さんは親ではないが、もはや親のような存在に感じる。

俺は涙もろい方だという自覚がある。

別れ際に思わずホロリと来た。

いや、涙もろくなくてもこの愛情にホロリと来るはずだ。


べリス婆さん。アンタが生きてるうちに、しっかり偉くなって、この病院に会いに来るよ…。




湖の(ほとり)には王国の大臣と臣下3名が2台の馬車の前で待機していた。うん、遅刻はないはず。

大臣は相変わらず赤を基調とした服に黄色や金の豪華な刺繍の服を着ている。今は部下と打ち合わせをしているようだ。ここで話しかけるのが以前の空気が読めない俺だが、相手は俺の命を握る大臣。失態は今後の人生に関わる。打ち合わせが終わるのを待って、声をかける。



「おはようございます。改めまして、ファロイドです。道中、宜しくお願い致します。」


「おう、ファロイド君。おはよう。詳しいことは中で話そう。王国までは約3日かかる。道中までの間だが、宜しく頼むよ。」



こうして、俺の旅が始まった。



道中、俺は大臣の質問に惜しみ無くここ数日で知り得た知識や見解、仮説を明かし、こちらもなるべく掘り下げて質問をする。

ナメられないためだ。特に初手が重要、信頼関係の構築にはこちらの手を明かすことも必要だ。

ここで「ただの子供」と見られるよりも、有能さをアピールすることで、これからの人生をより有利なものにするかもしれない。あわよくば昇進へのレールが出来るかもしれない。

ただし、高熱が出たときに見た自分の姿に関することは伏せた。これはパンドラの箱のような気がする。今は公にしない方がいいだろう。

知識という面では、まだカードはいくつか残してある。


隣で護衛をしている部下がドン引きしている。

それはそうだ。

こちらの身なりはどう考えても5、6歳の子供。

そんな子供が世界経済、物価相場、世界情勢、文明、科学力、文化的発展について大臣とやり取りをしているのだ。誰だってドン引きする。


一方大臣はとても感心し、こちらの話を興味深そうに聞いていた。質問も適当にあしらわず、俺を一人前の大人として扱ってくれている。いい上司だ。



とりあえず新たに知り得た情報を忘れないうちにノートに記しておく。


1、さっきまでいたフジの村はシンクバトラ王国の領土。シンクバトラ王国は『カトラ皇国』の属国。


2、カトラ皇国は若い皇帝『ラキ』が治めている。


3、強大国はカトラ皇国の他にミノア帝国とカトマイ共和国、ラカタ王国の4つ。東の端に見える島はマザマ王国が統治しており、謎に包まれている。戦争はここ50年起きていない。戦争といっても小競り合い程度。


4、電気はなく、石油もなく、エンジンもない。火薬もなく、銃火器もない。戦闘は剣・槍・弓が主体のようだ。平安時代より前、下手をすれば4大文明程度の軍事力・科学力しかないようだ。


5、通過単位は『エア』。日本でいう『円』にして1円程度の価値がある。また、物価としては八百屋の店番の時給の平均が10エアで、マス1匹=キャベツ1玉=卵3コ=10エアのようだ。メモからするに、服屋に飾ってあったあの服が3000エアだったことから、あの服を買うにはなかなかの稼ぎが必要となりそうだ。尚、子牛1頭は5000エア、子馬1頭は10000エアである。



馬車は人が小走りで走るくらいのスピードでコトコトと走っていく。元いた盆地の北側、つまり牧草地帯を登っていき、山を越える。ここから数日の間は何もない山林や平原が続く。野性動物や盗賊にも気を付けなければならない。過去にも盗賊の襲撃を受け、食糧などを盗られたことがあるようだ。もっとも、かなり稀な話だが。


一方、この世界に魔物はいないとされる。とはいえ解明されていないところが多く、護衛の兵士も目撃したことも戦ったこともないという。



それからさらに半日ほど馬車でひたすら北を目指す。

乗り心地は正直いうととても悪い。路面がしっかりと整備されていないせいもあるだろう。勿論馬車にサスペンションはついておらず、地面の振動が直に腰や首に伝わってくる。首や腰も痛いが、何より振動の直撃を受けるお尻がとても痛い。

いや、本当に昔の人は凄いな…。



いよいよ道すらなくなり、馬車は草原の中をゆく。

ときどき茂みや森があり、その中を馬車は潜り抜けていく。

幻想風景、まさしくそれだ。

完全なる未開の地、人の手は一切入っていない。



日が暮れる前に開けた場所に馬車は止まった。

今日はここでキャンプをするようである。

馬車からテントを出すようだ。

兵士に手伝いを申し出たが子供には出来ないと断られた。



野郎、舐めてるな?

実は、前の世界での俺の趣味はキャンプだったりする。

人の手が入っていない沢でキャンプしたこともある。

それなりに自信があった。


長い木の棒を拾って、蔦で自在結びを作り…ほいっと。

簡易タープの完成である。

長くて堅い枝木を4本拾ってきて三角垂(トライポット)を作り、蔦で固定したあと、タオル状の布を上から袋状にして垂れ下げ、袋になっている部分に木の棒を入れる。すると『ブッシュクラフトチェア』という椅子が完成する。

あとは食事スペースだ。

ナイフで木を加工して…ほい、『自在鍵』。

これでヤカンなどは吊るして沸かせる。

あとは石をコの字型に積んで底を掘り、1つ風通し穴を作って簡易カマドを作った。薄い玄武岩質の石を拾ってきて小川で洗い、並列して組んだ堅い木に乗せれば石焼きの準備は万全だ。


一見すると子供の遊びかと思いきや、本格的で実践的・実用的なサバイバルスペースを製作。知らない人からすれば完全に謎の技術。俺のドヤ顔とは反対に兵士の顔はドン引きしている。

大臣は感心しているようだ。



夕食は簡素な肉料理とパン。

兵士は交代で見張りをしている。



その後もフランクな会話で盛り上がった。

夜は更けていく…

人物紹介

○ファロイド

この物語の主人公。

だいたい年齢は6歳くらい。

金色の長い髪、赤い瞳を持つ美少女(♂)

サバイバルキャンプが趣味。


○ヴェレリウス

通称べリス。

ファロイドが入院している病院の院長。

母性溢れる白髪の老婆。


○スルツェイ人務大臣

王国の大臣。人材育成・人材発掘担当。

がっちり体型のオジサン。

赤を基調とした布地の服に、金色の豪華な刺繍がしてある服を着ている。空から降ってきたファロイドの噂を聞いた王様によりフジの村に派遣されてきた。

子供に対しても知識ある者にはちゃんと敬意を払う。


○護衛の兵士3人

装備は胸当てとヘルメット、武器はカットソー。

簡単な装備。

実力は不明。

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