五
水上の家から少し離れたスーパーに行ったので、三十分以上かかった。夏川がメールで連絡をとり、食材がないとのことなので食料を十分買った。天水が明らかに必要以上の量をかごに入れようとしたので、古泉が阻止した。
水位が上がり土の色をした川を渡り、先ほどまでいた神社を左に見て県道を西に歩いた。途中で大学の前まで続く道と交差し、大学と逆の方に曲がった。写真屋、電話会社を過ぎると、道の反対側に水上の住むアパートが見えた。買った物は、夏川が志願して持った。
扉の『水上』と印刷されたシールを確認して、インターホンを押した。数秒で扉が開き、ねずみ色のジャージを着た水上が顔を出した。顔色が少し悪い。
「本当に来たのか」
いつもより声が低いが、症状が酷いというわけではないようだ。拒んでいた割に、水上はあっさりと三人を部屋に入れた。
「おじゃましまーす」
部屋はワンルームで、キッチンは古泉の部屋のものより大きい。
「冷蔵庫開けていいですか」
「ご自由にー」
水上の返事を聞いて、夏川は買ってきた物を冷蔵庫に入れた。
部屋は広くはないが、片付いているので四人が座れるスペースはあった。本棚の本はきっちり著者順に並んでいたが、テレビの下の棚には物が無造作に詰められていた。
「見えないところは、気にしないほうがいい」
部屋を見回していた古泉に、水上が言った。
「押し入れとか?」
「開けたら、中身が落ちてくる」
もしかして、私たちが来るから片付けたのかな、と古泉は思った。三十分と指定したメールは片付けをする時間のためだったのかもしれない。その様子を思い浮かべると、なんだかほほえましかった。
「水上君は寝てて。ごはん作っとくから」
天水が水上をベッドの方に押して言った。
「誰が?」
「私が」
「夏川、任せた」
「私は?」
「……本でも読むか?」
「いや、ごはんを作る」
「古泉、任せた」
終わりそうもないと思ったのか、夏川が二人の間に入った。
「うどんなので大丈夫ですよ」
これは矛先が変わるな、と古泉は思った。
「夏川君、大丈夫、とはどういう意味か説明してくれるかな」
笑顔の意味はそれぞれ違うだろうが、三人とも笑っていた。こうやって四人でいるのがいちばん楽しいと思い、古泉はカメラを向けた。シャッター音で三人ともカメラの方を向いた。
「どうぞ、続けて」
カメラを構えたまま、手を差し出して言った。
「それじゃあ、天水、頼むよ」
苦笑しながら、水上が場をおさめた。
テレビの前の写真立てには、水上が入部したときに、山の頂上で四人で撮った写真が入っていた。