三
週末、待ち合わせは神社の駐車場の一角にある屋根がある休憩所だ。古泉が傘をさしながらそこに行ったとき、天水と夏川が先に来ていた。立ち止まって、二人の姿を写真に撮ろうかと思ったら、携帯電話がふるえた。水上からのメールで、「風邪を引いたので行けない」という内容だった。
見ると、二人とも携帯(天水のはスマートホンだが)を取りだしていた。近づいて挨拶を交わす。天水は傘を持っておらず、上下とも撥水加工を施されていそうな服だった。
「それで、どうする?」
天水が液晶を向けて言った。
「『楽しんでくれ』って書いてありますし、予定通りというここにしませんか」
夏川の提案に古泉は頷いた。心配ではあるが、助けが必要なほどならそう書くだろうと思った。
「じゃあ、そうしようか。で、どこに行くの?」
今回の件の発案者が何かしら意見を言うことを期待して、二人揃って夏川を見た。
「ここです。この神社です」
彼はすぐ近くに広がる森を指さして言った。この森は、中にある神社の鎮守の森である。
古泉は家が近いということもあり、この神社には何回も来たことがあるが、雨の降る中訪れるのは初めてだった。有名な神社なので休日は観光客が多いが、今日は数えるほどしかいなかった。
神社は堀に囲まれていて、境内に入るには二カ所ある橋のどちらかを渡るしかない。休憩所から近く橋が小さい裏口らしき方から中に入った。境内は砂利道で、雨音よりも足音の方が大きく響いた。
境内には正宮の他に三つの社があって、まず正宮でお参りをしてから奥の石段の上にある社に向かった。石段の途中で天水が振り返り、境内を見下ろしてカメラを構えた。構図の調整をしようとしたのか、一歩さがったときに滑ってバランスを崩した。
「うわっ」
彼女より上の段にいた古泉はとっさに傘を放り出して、手を伸ばした。必死だったので考える余裕はなく、とにかく天水を掴もうとした。なにかを掴む、手応えがあったので力一杯引っぱった。
「こいずみぃ、くるしい」
天水の後にいた夏川が彼女を支えているので、力を緩めてもよさそうだった。
落ち着いてみると、古泉が握っているのは天水が首から提げているカメラのストラップだった。それを引っぱったので、うまい具合に首が絞められたようだ。何にせよ、ころばなくてよかった、と自分を納得させた。
「助かったよ、ありがとう」
首筋をさすりながら二人に言った。
石段の上に落ちた傘を拾いながら、倒れそうになりながらもカメラを離さなかったのはさすがだと思った。