第7話 コミュ障の冒険
◇◇◇◇◇◇
オレは今穏やかな時間を過ごしている。
温かい日差し、きれいな樹木の緑、人の声がほどよく行きかう公園。
赤毛の魔女から戦略的撤退して三日。
今は人の生活に馴染む為にとある公園に来てのんびりと歩いている。
今日が休日というのを調べたから日中にうろついていても何も問題はない。
休日がいつなのかくらいは調べられる常識はあるみたいで時間は潰せるんだけど、人の姿を二日間も見ないまま隠れてるとやっぱり寂しくなってしまった。
コミュ障だからって人と関わりたくないわけじゃないんだなぁ。
ってかさ、あの日のオレがしっかり魔女と話せてたら何も問題なかったかもしれないんだぞ!
フザけんなよ過去のオレ! 今のオレが大変になるじゃないか!
「なぁ、ねーちゃん」
白目を向いて絶望していると誰かが後ろから話しかけてきた。
「!? な、なんだ子供か、脅かすなよ」
振り返ると小学生らしき男の子が見上げていた。
まだこっちのほうが背が高いな。
「子供って、ねーちゃんもそこまで年変わらなそうだけど?」
「オ、オレは中学生なんだよ、多分」
「多分ってなんだよ、しかも女なのにオレって言うのか? 変なねーちゃんだな」
失礼なヤツだなオレじゃなかったら無視していたぞ、むしろ感謝されてもいいレベルだ。
「おまえはオレに何の用事なんだ?」
「おまえじゃない、俺の名前は瞬だ」
「そうか瞬、オレに何か用か?」
「ねーちゃん迷子っぽいから俺が遊んでやる!」
ドヤ顔でそんな事をいってくる。
なんだぁこいつ、オレのことぼっちだと思ってるのか?
「し、しょうがないから相手してやるよ!」
「ねーちゃん、それはこっちのセリフだからな!」
・
・
・
その後は公園で瞬といっぱい遊んだ。
子供の体力はすごいなぁ親って大変なんだなぁ、なんて思っていると、
「こら瞬! どこへ行ってたの、探したのよ!?」
瞬の母親らしい人がこっちへ走ってくるのが見えた。
ん? 探してた?
「あ、やべ、ママだ」
「もしかして、おまえが迷子だったんじゃないの?」
その後、やっぱり瞬の母親だった人にひとしきりお礼を言われた。
オレはまだ大人と喋るのは怖くて、身振りだけで問題ないと伝え彼らの前から離れる。
振り返った時に瞬が大きく手を振ってくれているのが見えて少し嬉しかった。
……嬉しかったんだけど、オレって人間と遊んでも良い存在なのかな。
◇◇◇◇◇◇
さすがに人がいっぱいいるところに居続けると少し疲れてきた。
山麓の田舎っぽい町でゆっくりしようと移動してきたのだが人っ子一人いない。
「誰か戦ってるな?」
距離があると魔物が発生しているかどうか感知できないらしい、魔物は昼間でも現れるのか。
町外れの林から戦闘音が聞こえた。
すぐさまオレは転移で飛んでいく。
木の陰から様子を伺うと黒髪の魔女がイノシシの魔物と戦っているのが見えた、どうやら先日の魔女ではなさそう。
初対面だしコミュニケーションの必要ないな? ヨシッ!
野生動物のイノシシですらはやいのに、魔物となるとさらに突進のスピードがあがっているらしい。
魔女が拳銃を武器にして応戦しているが、押されているようだ。
よく見ると体中も傷だらけ、しかも魔物に関してはダメージを負っている様子が見受けられない。
「あぐっ!」
傷だらけで動きが鈍くなっている魔女にイノシシが体をぶつける。
直撃は避けられたが衝撃で手から拳銃を落としてしまったようだ。
咄嗟に体へ魔力を込めて助けに入る。
転移を使わなかったのはイノシシを体当たりで押しのけるためだ。
ドンッという衝撃と予想外からの攻撃でイノシシは近くの岩へぶつかってくれた。
「いったぁ!」
あいつめっちゃ硬いぞ!
身体強化しても痛いとか、あの硬さなら威力のある攻撃手段がいる!
間髪入れずに分身をイノシシの近くに出現させて、本体は魔女が落とした拳銃を拾いにいく。
あれ? これどうやって使うんだ?
チラチラ拳銃を見ていると、傷だらけの魔女が足を押さえながらひょこひょこと近づいてオレに話しかけてきた。
「あの、それは魔力を弾にして撃つんです」
「!?」
ぅお! 躊躇いもなく話しかけてきたけどなんで!?
普通怪しまない? オレならすぐ警戒度マックスになるけど!?
「えっと、両手は伸ばして構えて……はいそうです。あ、そこへ指を置くと危ないです。ここで照準を合わせて」
いきなり話しかけられて混乱しているこっちを無視して魔女は拳銃の使い方を説明してくれる。
魔物はやはりオレの分身を狙いにきているので、安全に照準を合わせることができそうだ。
フレンドリーファイアしてもどうせオレだしいいでしょ。
魔力をどの程度込めていいかがわからないので、適当に魔力を充填してから魔物に向けて引き金を引いた。
ドォン! という轟音とともに発射された魔力の弾はイノシシの体の半分近くに穴を開けた。
さらには後ろの木々を数本貫いてなぎ倒してしまっているようだ。
えぇ? 強すぎない??
隣で威力に驚いて放心している魔女は置いといて持ってた拳銃を見る。
「あっ!」
「え?」
叫び声に我に返った魔女がオレの手元を見る、そこには木端微塵になった拳銃が。
「……」
「……」
分身に魔物を吸収させた後、拳銃を見ながらまた放心している魔女に、オレは無言で土下座をしながら転移でその場から消えることにした。
……魔物って、人間社会で失敗しても許してもらえるのかなぁ?
◇◇◇◇◇◇
静かな所にいると暗い気持ちになってしまいそうで、夕暮れの街へ再度戻って流れる人波に逆らうように歩いていた。
周りは仕事終わりや学校帰りであろう人たちが早足で歩いている。
近くのビル工事の現場では片づけをしているヘルメット姿の人も見える。
いつかオレにも帰る家ができるのかなぁ?
できるといいな。
急ぎ足の人たちとは対照的にゆっくりと歩きながら街中を見ていると、
「危ない!」
誰かの叫び声が目の前から聞こえる。
さっき見た工事現場にある鉄工が仮囲いを倒して歩道へ倒れこんでくるのが見えた。
「!!」
倒れてくる鉄工の下には歩いているスーツ姿の女性が、もちろん彼女は何も分かっていない!
危険が目前まで迫っているというのに、その気配すら感じていない。
先日赤毛の魔女を助けたように、転移で女性の横に飛び彼女を突き飛ばした後、自分も転移で離脱した。
「きゃっ!」
女性はいきなり突き飛ばされたせいで硬いアスファルトに倒れてしまう。
多少のケガはあるかもしれないけど我慢してくれ。
ガンッ、ガラガラと耳をつんざく金属音が街中に響く。
突如響いた音に周りの人たちも何が起きたか理解したようで一斉に倒れた鉄工へ視線を向けた。
通りかかった数人が倒れている女性に気づいた。
彼らはすぐに駆け寄り、傷の様子を確かめている。
それを横目に、オレは小さく息を吐いた。
……大丈夫そうだな。
そう判断し、その場を離れようとした瞬間。
女性のそばにいた男がこっちを見て叫んだ。
「君! 君が助けてくれたんだろう!?」
「あ、あの! ありがとう!」
さらには倒れている女性もオレに対してお礼の言葉を叫んできた。
え? なんでわかった??
転移使ったし、オレが突き飛ばしたかなんてあの一瞬でわかるか?
「小さいのにえらいねぇ!」
「あなたもケガとかしてない?」
「すまねぇお嬢さん、オレらの不注意で」
「人一人の命を救ったんだよあんた!」
近くにいる人たちが次々と囲んできていろいろ話しかけてくるが、なんでこの人たちはオレが助けたと決めつけてきてるんだ!
オレで合ってるんだけどさぁ。
怖くなったから周りの人を押しのけてその場から逃げ出そうとする。
――あ、あの、お大事に!
訳のわからない事を心の中で叫びながら全力で走り去った、魔力を込めていたので誰にも目視できないスピードだったはずだ。
……魔物のオレが人間に感謝されてもいいのかな?




