第6話 魔女側の見解は?
私は目の前にある両開きの大扉の前で一つ深呼吸をした。
少し上を見上げると隊長室と書かれた鉄のプレートが取り付けられているのが見える。
「フラウ隊長! 雨野 雫、入りますね!」
バァンと扉を勢いよく開けてズンズンと部屋の中へと進む。
室内は隊長室らしく十分な広さがあり、中央には隊長のデスクがある。
内装は至ってシンプルなデザインとなっていて実務重視なのだろうということが伺えた。
隊長席の後ろ一面を占める大きな窓。
あそこだけが壁じゃない。
外の世界がそのまま切り取られているみたいだ。
見えるのは、ただ一色のきれいな空。
フラウ・ウィッチ隊は空に飛ぶ戦艦を基地として魔物との戦いに備えている。
室内には二人の姿があった。
隊長席に腰かける、フラウ・サージェ隊長。
そしてその机の斜め前に立つ、制服姿の卯手名赤里先輩。
フラウ隊長の空色のセミロングが窓からの光を受けてやわらかく揺れる。
身にまとっているのは白を基調とした軍服。
既製品ではなく本人こだわりのオリジナルらしい。
隊長らしく在りたいのだと以前どこかで聞いた、似合いすぎてずるい。
まだ二十二歳、それでもその姿には不思議と落ち着きがあった。
若さよりも先に大人の余裕が目に入る。
素直に、きれいだと思った。
その向かいに立つ赤里先輩は、背筋をまっすぐ伸ばしている。
この組み合わせ。
状況からして、きっと赤里先輩が例の魔物との連戦について報告している最中なのだろう。
どうしてかなフラウ隊長は驚いた顔を、そして赤里先輩は少し呆れた顔をしているが何かあったのかな?
「雫くん、まずはノックをしてから入らなきゃダメだよ?」
「隊長が中にいるのはわかっているのでノックの必要はないはずです!」
「それもそうか……そうかな?」
顎に手を当てて天井を仰ぐフラウ隊長。
「雫、そんなわけないでしょう?」
赤里先輩に関しては完全に呆れ顔だ。
だけどそんなことはお構いなしに言葉を続ける。
「私は、あの魔物の女の子を知っています!」
二人の顔は一瞬で驚愕へと変わった、全く同じ顔してる。
「どういうことだ?」
「本当なの?」
「ふふん、えっとですね」
えっへんと腰に手を当てながら二人に説明を始めようとしたが。
「なんで偉そうなんだ?」
「あなた分かってる? 魔物と知り合いなんて発言したらどうなるか」
今度は別の反応をしながら二人が喋ってくるけど、まずは私の話を聞いてくれないかな。
「とにかく! あの子は私の先輩である月都星奈さんです!」
胸を張って言い切る。
「先輩だって? そんなわけないだろう?」
「そうよ、だってあの子はどう見ても中学生。雫ってたしか」
「はいっ!」
言葉を遮るように、私は勢いよく手を挙げた。
「私は雨野雫、十六歳! 赤里先輩のひとつ下です! チャームポイントは何といっても、このきれいな青色の髪とかわいいリボンのサイドテール! 花の高校生です!」
「……なんで今、自己紹介をした?」
当然の疑問がフラウ隊長から飛んでくる。
「いえ、何か必要そうだなって思いまして」
「ちょっと何を言ってるのかわからないわ」
赤里先輩がため息交じりに言った。
主に私のせいで話が脱線しそうになっているので話題を元に戻したい。
が、あの人のことを考えると冷静でいるのは思ったより難しかった。
「どうしてあんな姿になったのか理由はわかりません。あの子は先輩です、絶対に! ……だって、私の命を救ってくれた人なんです。あの顔を間違えるはずがありません!!」
言い切った瞬間息が詰まった。
肩が上下する。
指先まで震えている。
「落ち着け雫くん」
「あなたが魔女になるきっかけとなった人のことかしら?」
すぅはぁと一呼吸して息を整える。
二人はこんな突飛な話でもきちんと話を聞いてくれるみたいだ、やっぱり優しいな。
「先輩は、二年前に魔物に襲われた私を庇って……亡くなりました」
自分でも驚くほど静かな声だった、あの時の悲しみが蘇る。
「仮にその先輩が生きていたのなら、ご家族が何かしら連絡をしてくるのではないか?」
誰もが持つであろう疑問を口にする隊長。
「それもそうね。でも、連絡があったという話は聞いていないわ」
赤里先輩が言いながら考え込んでいた。
わずかな沈黙のあと私は息を整え、話を続けた。
「ご両親は、娘である先輩を失ったショックで、自ら命を絶ちました。あの人に今、家族は誰もいません」
言葉が落ちる。
「……そうか」
「先輩の死が原因かはわかりませんがその日から私は魔力が使えるようになったんです。先輩が私を守ってくれたように、私は街の人を守りたい。もし先輩が今困っているのなら私が守ってあげたいんです!」
床を見つめて肩を震わせながら話す私の肩に、赤里先輩がそっと手を置いてくれる。
きっと慰めようとしてくれてるんだろうな。
「あ、泣いてはいないですよ?」
「えぇ……?」
顔を上げると口元がひきつっている赤里先輩をよそにフラウ隊長は椅子から立ち上がり、後ろの窓から広がる空を見渡した。
この艦って空を飛ぶのも含めて全部隊長の魔力らしい。
だから戦闘はできないんだとか。
意味わからない。
「守る、か。そうだな、私もこの景色を見ていつも考えているよ。誰もがみんな幸せであってほしいと、人を襲わないのなら女の子の姿の魔物でもね」
「で、ですが隊長! いきなり魔物を信用するというには無理が!」
フラウ隊長の言葉に赤里先輩が抗議する、当たり前か。
「赤里先輩は目の前で星奈先輩を見たんじゃないんですか? あの可愛い先輩が何をしたっていうんです、あの可愛い先輩が!」
「う、うん、どうした…? とにかく隊長の私としての判断は様子見をしつつ、こちらに招き入れたいのだが」
「私はまだ信用すべきではないと思います、油断を誘う罠かもしれませんので」
赤里先輩はまだ疑っていて、それが正しい判断であることもわかってる。
わかるけど!
絶対に私が先輩は無害だと証明してみせる。
私の期待の目線に気付いたのか、フラウ隊長が問いかけてきた。
「さて彼女が無害だと仮定して、どうやって保護する?」
「野良猫を手懐けるような感じでいきます!」
「具体的には?」
「えーっと、野良猫に引っ掻かれないように?」
「……」
「……」
グッと両手で握りこぶしを作ってやる気アピールをするがどうやら二人には届いてないみたい。
「とにかく! 先輩は私が保護しますので! これは決定事項です、では準備がありますので失礼します!!」
「待ちなさい、なぜ君が隊長を無視して決定を下すのかな?」
「雫、今日のあなたちょっと変よ? 気持ちはわかるけどいつもみたいに冷静に状況を」
すでに私は部屋から出ようとしていたので二人の声が背中越しに聞こえてきたけど、ちょっと無視させてもらおう。
入ってきた時のように勢いよく扉を閉めて、今後の計画を自室で考えるため早足で廊下を進んでいった。
「……あれ、上手くいくと思うかい?」
「まず間違いなくややこしいことになるでしょうね」
扉越しでも聞こえてますよー!




