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第30話 白との会話

 ―――今日の配信場所はいつもの自室ではなく、初めてのところだ。


 オレの真正面には白銀の髪の女の子が座っている。

 膝の上には白い兎のぬいぐるみ、瞳の色が女の子と同じ紫色で映える。


 年はオレと同じくらいか、少し上かな?


 お互い座っていると目線が同じ高さだ。

 年齢の近い魔女は見たことがないから親近感を覚える。


「何しにきたの、それよりどうやって入ってきたの!?」


 いきなり声を上げられた。


「えと、ここってスカイ号の一室だよね。だからフラウさんが開けてくれた」

「もう……あの人はまた勝手に……」


 目の前の女の子はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて顔を埋めた。


:なぁこの子誰?

:いや、まじで誰かわからん

:せなちゃん

:知っとるわ! 白髪の子じゃい!

:銀髪と白髪だし、背丈も似てて姉妹かと思った

:この子もかわいいな


「えと。碓氷白亜《うすいはくあ》ちゃんで、合ってる?」


 顔が見えない彼女に問いかける。


「うん、そうだよ。月都星奈さん」


 目だけぬいぐるみの影から覗かせ、柔らかな声で返してくれた。


「ここへは魔女の私を、退治しに来たの?」

「そんなことしないよ。今日はただ、話をしに来ただけ」


 いきなり討伐前提の話が出てきたので慌てて否定する。


「あんた。普通の人とは全く喋れないのに、魔女とお喋りはできるのね」


 彼女がくすりと笑いながら言う。


 ……ありがたいことにな!


 不思議なものだ。

 以前はあれほど緊張していたはずなのに、今では魔女と向き合っても心は妙に落ち着いている。


 それを見透かされたのか、オレはフラウさんに課題を出されていた。


『せなくんと話してほしい魔女がいる』


 あまりにも抽象的すぎる指示。


 話すだけでいいの?


 そう当然の疑問をぶつけたものの、『あとはせなくんに任せるよ』と軽く受け流されてしまった。

 詳しく聞こうとしても、フラウさんはのらりくらりとかわすばかりで要領を得ない。


 これ以上この人を相手にしても埒があかない。


 そう判断してこの子の部屋へと、半ば強引に乗り込んできたのだった。


 ――そこまでは良かったんだけどな。


 いざ向き合ってみると何を話せばいいのかわからない。


 オレは彼女の部屋をぐるりと見渡す。


 白――ただひたすらに髪色と同じ白い空間だった。


 壁も床も置かれている家具までもが、すべて同じ色で統一されている。

 彼女が纏う淡い紫のオフショルダーニット。

 そして薄い水色のプリーツスカートがなければ、存在を見失っていたかもしれない。


 話題が出てこない。

 彼女もまた自分から話すつもりはないのか、ただ静かにこちらを見つめている。

 ――視線だけが交わる、無言の時間が過ぎていく。


:この魔女、はくあちゃんって言うのか

:今まで出てこなかった最後のフラウ隊の子か?

:そうじゃね

:見つめ合っててかわいい

:どっちかというとお互いの出方を伺ってる感じ

:ところで俺らはなんなん?

:ずっと放置プレイされてんね

:おバカ、俺らは文字やぞ

:これが空気読みか…

:配信してるってまた伝えてないパターンだな?

:ええんかいね、許可もなく

:隊長が選ぶ人選だから大丈夫やろ


 チラリとチャット欄を見るとコメントがどんどん流れていた。

 オレは意を決して白亜ちゃんに話しかける。


「あ、あの!」

「?」


 首を傾げる彼女に言葉を続ける。


「配信……ずっとしてるんだけど……」

「なっ!?」


 白亜ちゃんは膝の上のぬいぐるみを放り投げた。

 白いそれは壁にぶつかりそのまま床へ落ちる。

 一瞬白が同化し、紫の瞳だけが宙に浮いたように見えた。


「あなたも隊長も、そのパターン多すぎじゃない?」


 驚いた顔を見せたのは一瞬で、額に手を当てやれやれとつぶやいている。

 オレは立ち上がり壁際に落ちたぬいぐるみを拾い上げると、そっと彼女へ差し出す。

 受け取るのを見届けてから、改めて腰を下ろした。


「いいの? このままで」

「今更だもん、いつかはこんな日が来るとは思ってたから」


 問いかけると、膝上にぬいぐるみを置いた彼女があっさり答えた。


 彼女がこれまで表に出てこなかったことは知っている。

 だから配信となると怒りだすかと思っていたが、意外とすんなり受け入れたことに驚いた。


 あと、配信は見てくれているんだな。


「ありがと。今日お話に来たのはリスナーとじゃなく、白亜ちゃんとだからこのまま続けるね」


:俺らの放置プレイが決まった瞬間

:喜べお前ら

:わーい、わーい!

:見せてもらおうか、フラウ隊のガールズトークとやらを!

:相手にされないとわかってなおこの元気

:みんな変態なんだ


「白亜ちゃんの魂源って『念話』なんだよね?」

「うん、そう。といっても一方的に思考を届けるだけよ」


 なるほど片道通信、つまり会話のキャッチボール不要。


 ……ありだな?


 ズレた考えになる。


「でもそのおかげで魔女たちは助かってると思うんだけど、隠れてた理由あるのかな?」


 誰かに見つかってはいけない、そんなルールでもあったのだろうか。

 スパイ映画みたいだ、なんて。


 場違いなことを考えているオレにどこか寂しげな声音で彼女は言葉を発する。


「それだけしかできないのよ? 顔を見せる必要なんてないじゃない」


:そのかわいい顔を見せることに意味がある(キリッ

:毎回見せてくれてもいいのよ?

:その魂源のおかげでどれだけの魔女が助かってるか

:確か魔防課の子へも念話飛ばしてたよな

:かわいいは正義

:魂源『かわいい』


 リスナーが好き勝手にアホな事を言ってるが、もちろん無視だ。


「さっきも言ったけど、念話のおかげで助かった人とかもいるだろうし」


 だがチャットの内容はパクらせてもらう。


「聞き飽きたわ、その言葉は」

「う……」


 心底うんざりした様子で彼女が言い放った。

 作戦失敗、リスナーめ!


「あ、ごめんね。悲しませるつもりじゃないの、でも」


 彼女が慌てて手を振りながら否定してくる。


「他の方法だって、探せばいっぱいあるでしょ?」


:ド正論ではある

:まぁこれだけ情報機器が溢れてる世界だし

:魔法もたくさんある世界でな

:離れててもその人の思いが伝わるっていいことだと思うけどな


 オレは何も言い返せず、黙り込んでしまう。

 話をしに来たくせに情けない。

 フラウさんの課題はこのまま失敗に終わりそうだ。

 そんな考えが頭をよぎったそのとき。


「私なんて、いなくてもいいのよね」


 聞き捨てならないことを白亜ちゃんが言った。


「―――そんなことない!!」


 気づけば、立ち上がっていた。

 声が、思った以上に大きく響く。


 許せない。

 そんな言葉、口にしてほしくない。


 驚いたように白亜ちゃんがこちらを見ていた。


「白亜ちゃんは……」


 言葉を続けようとして――ぐらりと視界が揺れる。








 次の瞬間、オレは膝をついていた。

 不穏な章及びお話が始まりました。雰囲気が少し変わりましたが、今まで読んでいたら分かる通りこの世界はどこまでも優しいです。それをどうか忘れずに読み進めていただけると嬉しいです。文字化けタイトル話のあとがきは本来のタイトル名を記していきます。


 〇.5話(前話) 対せな戦配信(チャットのリプレイ)

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