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第2話 超絶コミュ障は、頭の中だけが騒がしい1

「やらかしたーー!!」


 あのタイミングで逃げちゃったのはどう見ても悪手すぎるだろ!

 あんな真似したら自分が魔物ですって自己紹介したようなもんじゃないか、バカバカ!


 オ(・)レ(・)こと月都星奈《つきとせな》は、無人となったテナントビルの一室の隅で膝を抱えて縮こまっていた。

 だけどさっきのやらかしを思い出して今度は頭まで抱え込む羽目になる。


 腕の隙間から自分の体をチラっと見れば、小さいなという感想しかでない。

 全くなんなんだこれは……。


「名(・)前(・)以(・)外(・)の(・)記(・)憶(・)が(・)何(・)も(・)な(・)い(・)」


 現実逃避のように声を出して呟いてみる。


 もちろん返事なんてない、静かな空間がそこにあるだけ。

 すでに太陽は沈み、夜の気配がオレの心まで満たそうとしてくる。


 得体の知れない亀に襲われ、死に物狂いで抗い、あげくの果てに首元に牙を立てられた。

 さらには赤毛の魔女らしき女の子にデカい剣を構えたまま睨まれたら、怯えてしまっても仕方ないことだと思う。


 思わず体がすくんでしまったのはどうやら本能が知っているから、魔女がオレを倒す側の存在だと。


 だから声をかけられた瞬間、頭の中が真っ白になり理屈も状況も吹き飛んだ。

 残ったのはたった一つの思考だけ。


『ここから逃げたい!』と。


 そう思った瞬間、周りの景色が切り替わっていた。

 まるで編集でもされたみたいにオレは、さっきいた所からすぐ近くにあるビルの中に立っていたのだ。


 何が起きたのかは分からない、でも体が勝手に納得していた。

 これは亀の魔力を吸収したあの瞬間に刻まれた能力なのだと。


 だけど誰かと『話さなくていい』状況になった今、実はかなりホッとしている。


 コミュ障はね。

 魔物や魔女に襲われるより人と話すほうが怖いんだよ、ほんとだよ?


 一体なんなんだろなオレって、コミュ障じゃなかったらさっきの魔女ともうまく話して解決できたんだろうか。


 もしよかったらいきなりだけど、オレという意識が覚醒した時からの回想していい? するね。


 ―――ほんとに唐突だった。


 何の予兆もなく今の姿で、さらに魔物という存在としてオレはこの街に現れた。

 多分瞬間的に世界へ誕生したって感じだと思う。


 まずは自身の事や周りの状況を整理したかったけどそれは叶わなかった。

 なぜならすでに目の前に居たからだ、亀の魔物が。


 普通の人間ならそこで驚いたり恐怖したんだろう。

 でもなぜかオレの中には違う感情が現れたんだ。


『オイシソウダナ』って


 あぁ、自分で止めを刺したよね。

 オレは魔物なんだって。

 いやぁもうショックだよ、魔物が目の前にいるのに人と違う感情が出るなんてさ。

 しかもあの亀に対して何をしたら自身の空腹が満たされるのかっていうのを本能で理解していた。

 いやぁもうショックだよ(二回目)


 とにかく亀を倒さなきゃならない。

 けどオレに戦う術なんてものが実は何もなかった。

 力とか身体能力的なものは普通の人間より何倍も高いんだろうとは感じるのだが。


 感じるということはもともと人間だった可能性もある?

 それなら人間の世界で生きていれば何か答えがあるかもしれない?

 無いと困るんだが? 魔女に殺されるが?


 話が逸れたけど、肝心の亀との戦いに関してはほんとに地味だった。

 正直思い出すだけで溜息がでる。

 お互い殴る、蹴る、転ぶ、立つ、それだけ。


 さっきの戦いが仮に録画されてたとしたらまぁつまんないだろうな、あり得ないだろうけど。

 オレなら記録にも残さないよ、もっと派手な戦いがいっぱいあるって。

 映画監督なら脚本に文句言うね。


 それから戦いの中で分かったことが一つある。

 第六感と呼ぶべきなのかは分からない。

 どうすればあの亀に有効打を与えられるのか、その答えがふいに頭の奥へ降りてくる瞬間があった。

 ふわっとした程度なんだが、オレの中には戦いの記憶があるのかもしれない。


 じゃあその勘に頼れば勝てるだろう、なんて油断したらもちろんダメなわけで。

 亀に転移の能力を使われて首元ガブって噛まれた。


 痛み? 確かにあった。

 けどそれよりも先に自分が消えていく、存在が薄れていく感覚が全身を支配していた。

 死ぬというより消えていなくなるという表現が近いかもしれない。

 あの時の恐怖は今思い出しても体が震えだす、二度と味わいたくない。


 なんでこんな理不尽な目に遭わなきゃいけないんだ……。


 自分がいなくなっていく感覚に絶望していると目の前の亀が真っ二つになる。

 何が起きたかは分からなかったが、その光景を目にした瞬間、とにかくオレは無我夢中だった。


 亀の魔力を自分の中へと吸収する!

 なぜか方法がわかる!


 噛み傷は一瞬で癒えて、自身が消えそうだった感覚は魔力が体を巡ることで無くなっていった。

 そしてオレという存在が今まで以上にハッキリしていくような高揚感に包まれる。


 よーしもう無敵だ!

 怖いものなんてないぞ、魔物でもなんでもかかってこい!

 なーんて思っていた時期がオレにもありました、ほんと一瞬前のオレを殴りたい。


 自分がなぜ助かったのかという考えに全く及ばなかったのだから。

 ハイになったオレの目の前では赤毛の美人魔女が優しい瞳でこっちを見ていた。


 かかってこいなんて誰が言ったの!

 いや言ってないけど思ったよね、オレがね。


「あなた、怪我は大丈夫?  逃げ遅れた学生なのかしら」


 うぉ! 話しかけられた! どこの学生にだ!?


「ぅ、ぁ……」


 キョドりながら目の前の女の子をチラ見してみた。


 何この子! めっちゃかわいい!

 スタイルもいいし、えぇ??

 腰のくびれってあそこまでくっきりしてるもんなの?


「そうよね、怖かったわよね。まぁいいわ、すぐに病院へ行きましょう。中学生ならお家も近いわよね」


 すごい心配そうな顔でオレを見ているが、ゴメンな全く違うことを考えてた。

 だって怖い気持ちはあったけど、亀を吸収して怪我や空腹に対しては何も問題がなくなっているから気に病むようなことはもう無い。


「どうしたの? さぁ早く行きましょう」


 何度でも言わせてくれ、赤毛で美人でしかもスタイルめっちゃいい魔女が手を差し出してくる。

 けど彼女のもう一方の手にはまだ大剣が握られていた。


 当然オレを警戒してるんだろうけど、こっちも怖いんだよな。

 魔物だと知られた瞬間に迷いなく斬られるかもしれないじゃん?


 自分の正体を知られる恐怖と、誰かと話すのが苦手な思いが絡まって頭が真っ白になる。

 そこで思わず逃げたいって考えたのがダメだった。


「!? あなた、その魔力!」


 時すでに遅し。

 優しく差し出された手はオレの手ではなく、オレを殺すための大剣を握った。


 ハイ、過去回想終わり!

 え??

 もういいじゃん転移でこのビルに飛んでしまってたんだから後は察しろよな。

 てか最初に書いてあるだろ、読み直せ!


 あぁもぅ、それよりこれからどうしよう?


 人間らしい生活については、どうやらそれほど心配しなくて良さそうだ。

 なんでその考えになるかというと、服も空腹も睡眠も全部魔力さえ補充すればどうにかなりそうだから。

 何そのご都合主義って思うけど、そもそも魔物が人と同じ生活してるわけじゃないからだ。

 体も魔力で構成しているらしく、亀に噛まれたときに消えそうになったのは魔力を奪われたからだろう。


 問題はその魔力を補充する方法。

 それは三つある、三つしかないと言うべきか。


 魔女から? 無理。

 一般の人を襲うか? ダメ。

 魔物を吸収する……

 一つしかないじゃないか!


 どうする!?

 どうやって魔物から魔力を吸収すればいい?

 魔物がいるところには必ず魔女が来る、魔女に見られたらオレが殺される、殺されないために何ができる?


 敵の魔力だけくださいってお願いするか?

 そもそもコミュ障のオレが魔女と話せるか?

 さっきの赤毛の魔女に対してはまったく会話できてなかったぞ、なんてことだ。


 抱えていた頭をブンブンふって考えるが何一つ打開策が浮かばない。

 頭痛までしてきた、頭痛が痛いってやつだ。


 さぁこんな時何が起きるか、フラグってあるよな。

 八方塞がりな時ほど起きる現象がさ。





 ――――近くで魔物が出現する気配がした。

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