第15話 楽しい初配信
「おーい、見えてるかー?」
カメラのレンズを覗き込む。
自分の顔がどれだけ映っているのかも分からない距離まで近づいて。
:え? 配信?
:画面が瞳で埋め尽くされてるホラー配信が始まったんだが?
:いきなりがすぎる
:説明をしろ
「あ、始まってたか。みんなオレだ、せなだぞー」
顔をそっと離し小さく手を振る。
「おぉ! みんなのコメントも見れるのか、これいいな!」
:うそ、俺らのチャット届くん?
:今まで魔物戦配信だけだったしそもそも見る暇なんてないだろ
:いえーい、せなちゃんみてるー?
:エンタメ化してきたな
:てかさっきの隊長の表明から一時間くらいしか経ってないんだが?
:説明をしろ
カメラをぐるりと旋回させる。
今いる場所が伝わるように、ゆっくりと周囲を映していく。
ドローン、だったか。
名前はうろ覚えだけど勝手に飛び回ってくれる優れものらしい。
「フラウさんがさ、これからはオレの好きなように配信していいって言ったから早速試したくなったんだ」
くるりとカメラを再び自分へ向ける。
「そんなことよりさー、今オレがどこにいるかわかるか?」
:リスナーで試し打ちをするな
:配信部屋か? めっちゃかわいいな
:その割にはベッドとか置かれてるんだが?
:ピンク多めでザ・女の子の部屋って感じ
「おまえらのことってリスナーと呼べばいいのか? よしリスナー、見ろよこれ! オレの部屋なんだぞ!!」
:えぇ??
:アカンですぞそれは
:自分の部屋を初配信に使うな
:初配信で事故を起こす女
「なんだよ! 何がダメなんだ! 今までずっと人のいない森の中に隠れたり、空き家をちょっと借りて寝かせてもらったりしてたんだぞ。それがこんないい部屋貰ったんだからおまえらにも見てもらいたいって思うのがなんで事故になるんだよ! 自慢させろよな! もうオレめちゃくちゃ嬉しいよ、今日からここで過ごしていいって言われてテンション上がりまくってこれはもう配信するしかない! ってなったんだ。おい、聞いてるのかおまえら!」
:あっ…
:めちゃくちゃ悲しい過去だった
:汚れた心で見ててスマン
:にっこにこでどちゃくそ重い話するやん
:早口過ぎて草
語っているうちにだんだん楽しくなってくる。
「でな、これ!」
バンと勢いよくクローゼットを開ける。
「他の魔女からさ、服めちゃくちゃもらったんだ!」
カメラをぐるりと中へ向ける。
:おーい!!
:そこまで見せようとするな!
:女の子のクローゼットの中身!?
「ん? ただの服だぞ?」
首をかしげてからにやりと笑う。
「変なの想像してたんじゃないのか? やーいやーい」
カメラにぐっと顔を近づける。
:ぐっこのガキ
:期待したやつがいるのも事実
:てかアイドル衣装ほんとかわいいな
:そういやアイドル活動って何やんの?
:そもそも人の世界に来ていきなりアイドルやれってのも無茶ぶりよな
:まぁ隊長だし?
:せなはそれでええんか?
:俺らは見たい
:↑お前の意見は聞いてねんだわw
クローゼットの扉を閉め部屋の奥へと歩く。
フラウさんが用意してくれた薄いピンクの机、その前に置かれた同じ色の椅子。
椅子の背をそっと撫でる。
―――ここがオレの居場所なんだ。
そう思いながら腰を下ろすと、その間にもチャットは流れ続けていた。
どうやら話題はオレのアイドル活動についてらしい。
……そういえば。
雫はオレの衣装を見て『解釈違いです』とか言っていた。
なんだそれ。
かわいい服は似合わねーって言いたいのか? 喧嘩か??
頭の中でひとり勝手に怒り始める自分をとりあえず端に追いやる。
「アイドル活動はなー、今はフラウさんがあっちこっちに話つけてるみたいなんだ。オレ、詳しいことは聞いてなくてさ。だから今は何も言えない、ゴメンな」
:それもそうか
:一時間前にアイドルなります宣言したばっかやしなww
:それまでゆっくり人間社会を楽しんだらええ
:これからやりたいこととかあるんか? せなちゃんは
やりたいこと、か。
少しだけ視線を落とす。
目下の目的は――
「オレが悪い魔物じゃないって知ってもらうことかな」
全国に向けて『魔物です』なんて宣言してしまった以上、改めて街中を歩くのは怖い。
いきなり後ろから襲われてしまうんじゃないかっていう恐怖はある。
:お、おぅ…
:それもうみんな知ってるんやで?
:わからんでもない、せなから見たら四面楚歌の状態だしな
:堂々と歩けるようになるといいね
なんかチャットの温度が下がってないか?
よし、話題変えよう。
「それからな? オレおいしいものいっぱい食べたい! おまえらずるいよなー、あんな美味いもの毎日食べてんだろ? 今日な、魔女たちと生まれて初めてご飯食べたんだけど、めちゃくちゃ美味かった!」
:おま……えぇ?
:明るく話題振ってるくせに内容が重いんよ
:笑顔と話の内容がまったくマッチしてない
:たんとお食べ…
:過去と見た目が合わない女
:これだけ明るいくせにコミュ障な魔物
:そーいや、今後の魔物の対応はどうなるんや?
あれ。
空気、全然温度が変わってなくないか?
オレはもう一回違う話題を選ぶ。
「魔物が出たらオレがピュンって飛んでく、でも倒すのは魔女に任せる」
:転移ってだけでチートすぎる
:当然だわな
:魔力補充が必要なんやっけ?
:てか今やお前も魔女なんだよなあ
:せなちゃんがワンパンすればいいのでは?
当然の疑問だ。
そう、オレは魔女より魔力がかなり多い。
ある程度の魔物なら以前借りた拳銃で十分。
引き金を引けばあっさり終わる。
でも。
「うん、オレが倒せば早いよ?」
肩をすくめる。
「でもそれだと魔女が育たないだろ。オレが全部やったら意味ないじゃん」
それに全ての現場に同時に立てるわけじゃない。
まぁ分身というチートはあるけどさ。
「全部のとこへ行けるわけじゃないしさ。オレは……切り札みたいなものなんだって。フラウさんが言ってた」
:受け売りかーい!
:まぁ一理ある
:せなも赤里ちゃんみたいに責任感ありそうだし、全部倒してあげようって気持ちはありそう
「オレもフラウさんと同じこと思ってた!」
食い気味に言い返す。
カメラに向かってこれ以上ないくらいのドヤ顔を決めた。
胸を張り顎を少し上げる。
完璧に『自分が考えました』の顔。
:何に張り合ってんですかねぇ
:アイドルとして成功してからドヤれ
:この子カメラ前だとまじで性格違いますねぇ
:リスナーは応援してるからな
:踊りだけはなんとかしろ
:あの謎ダンスはお前の技能じゃねえだろうな?
どうやらリスナーたちは完全にイジりモードに入ったらしい。
よし、撤退だ!
「まぁいい、今日はここまでだ! 明日はな、オレのお勉強配信があるからな! ちゃんと待ってろよ! 期待していいからな!」
最後に大きく手を振る。
「またなー!!」
:勉強回!?
:強引に締めやがった
:なんのお勉強ですかねぇ(意味深
:またなー!
:リスナーはこの配信拡散しとけー
:通知もオンにするのを忘れるな
:アーカイブ二周な




