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第2話 天才錬金術師、2歳になる

 アレクシスに殺され、目を覚ましたアルカディアは1000年後の世界へ転生を果たした。

 その事実を受け止めるのに、アルカディアは多大な時間を要した。


 約2年の間、アルカディアは父・ブライト、母・リーゼに大切に育てられ、2歳になっていた。


 まだ2歳であるのにアルカディアに用意された部屋にて、外見は2歳児、中身は30歳の創世の錬金術師アルカディアは床と睨めっこしていた。


 床には1000という数字が書かれており、側から見れば子供のいたずら書きとしか思わないだろう。


(……むぅ、俺のいた時代から1000年か。暦も古大陸暦から新大陸暦なるものに変わっている。1000年後の世界に転生、か……何とも眉唾物の話だ。そもそも何で、誰が、どうやって……ぁあ、頭が疲れてきた。2歳児だと頭が疲れるのが早くてかなわないな)


 アルカディアは考えるのをやめ、自身の生きがいでもある錬金術についてもう一度使いたいと思う。


 この2年の間で、アルカディアが分かったことはいくつかある。

 まず、1000年の間で錬金術というものが世界に普及し、手放せないものとなった。


 人類全員が錬金術を行使できるようになり、錬金術師と呼ばれる者達が爆発的に増加していた。


 アルカディアがいた古代では、錬金術師と呼ばれる者はごく僅かであった。

 それが、現代では誰もが使えるようになっている。


 その点に関して、アルカディアは嬉しく思った。錬金術がこれまでの発展を支えてきたということだ。


(錬金術、使ってみるか)


 思い立ったアルカディアは早かった。

 彼は2歳にして錬金術の行使に取り掛かった。


(身体はまだ2歳だからな、錬素は少ないはずだ。簡単な錬金術しかできないか。ま、仕方ない)


 古代では神の御業と讃えられた錬金術の行使には、段階が必要になる。


(まずは……錬素で錬成陣を描く)


 錬素を手のひらに集中させ、手のひらを床へ這わせる。すると、薄紫色の円が出現する。

 次に、その円の中に構築式を刻んでいく作業だ。


 この構築式には、"錬成する対象"と"何を錬成するのか"を描き込む必要がある。

 そして、形状の変化もあればそれも描き込む必要がある。この際、どれだけ頭で"明確なイメージ"を持てるかが重要になる。


(構築式は、木材から鉄へ……形状の変化はなし、と……)


 錬成陣の円の中に構築式を刻んだアルカディアは、両の手のひらを錬成陣の中心へ置く。

 これで、木材から鉄への錬金が行われるはず、だったのだが――


 ふらり……突然アルカディアはふらつき出し、瞼が重くなる。


「ぅえ……な、なんだこれ――」


 原因は不明、錬成陣に間違いはなかった。

 アルカディアは錬金術を使えることなく、意識を持っていかれたのだった。



 ◇◇◇



「ぅ、あえ……」


「あら、起きたみたいねアルちゃん」


「……は、ははうえ」


 アルカディアは母リーゼの膝枕で気持ちよくおねんねしていた。

 それが判明した時、アルカディアは分かりやすく頬を赤く染めた。


(くうぅぅ、俺としたことが……)


 30歳にもなって膝枕で眠るとは、アルカディアにとっては中々に耐え難いものがある。

 そんなことを考えていた時、アルカディアの顔をひょいと覗き込んだのはリーゼだった。


 リーゼは出来るだけ優しく、そして息子を嗜める感じで言葉をかける。


「こら、ダメでしょ。勝手に錬金術を使おうとしちゃ。アルちゃんはまだ2歳なんだから、あんまり心配をかけないでちょうだい」


「うぅ……ごめんなさい、ははうえ」


「はい、よく出来ました」


 アルカディアが潔く謝ると、リーゼはニッコリと微笑み息子を褒めた。


(……これが親の愛、なのかな)


 アルカディアは親の愛を知らない。錬師(メイオール)が親代わりとなり愛情を注いでくれたが、やはり本当の親の愛を知ってみたいと、彼は密かに思っていた。


 外見は2歳だが中身は30歳、若干の恥ずかしさはあるがアルカディアは親とのそういった時間を嬉しく思っているのは確かだった。

 それから少しして、父ブライトが帰宅した。ブライトの仕事は、アルカディア達の住む【金剛石(ダイヤモンド)】地区の主、アダマース家直轄の錬金術師兵団の部隊長である。


 地区内の治安維持や要人の護衛など、様々な仕事をこなしている。そのため、家に帰ってこれるのは三、四日に一回程度で今日はその日にあたる。


 ブライトはアダマース家の家紋が入った兵団用ローブをリーゼに預けると、まだ小さいアルカディアを持ち上げ抱きしめる。


「ちちうえ、おかえりなさい」


「おお……!! 今帰ったぞ~~いい子にしてたか?」


「う、うん……」


 何やら含みのある言い方に違和感を覚えたブライトに、リーゼがよく通る声で話す。


「あなた、アルちゃんったら錬金術を使おうとしてたのよ」


「へ――そりゃすごい、さすが俺の息子といったところか」


「関心しないでよ、まだ2歳なのよ」


「そうだな……でも、アルに錬金術のやり方なんて教えたっけ?」


「あら、そうね……」


 両親二人の視線が一斉にアルカディアに向けられ、アルカディアは内心焦る。


(や、やべ……実は1000年前から来たんで錬金術のやり方知ってますなんて、言えないよな)


 咄嗟にアルカディアは「えほんでよんだ」と答えた。


(さすがに無理か……)


 そう思ったアルカディアだったが、両親はそれで納得したようだった。

 錬金術は身近になったので、子供が読む絵本にも登場したりする。なので、特段おかしなことではないのだ。


 それでも、2歳で錬金術を行うというのは少しばかり異常だ。


 一家三人揃ったアルカディア達は夕食を囲み、食後の優雅な時間を過ごしていた。

 ブライトの膝の上にちょこんと座るアルカディアは意を決して、父に錬金術を使いたいと言った。


「ちちうえ、ぼくれんきんじゅつがしたい」


「え? うーん、それはできないんだ。ごめんな」


「なんで?」


「……リーゼにきつく言われてるからだ」


「あ……」


 アルカディアは察した。

 この家での一番の権力者は母であるリーゼであることを。

 そして、リーゼは2歳のアルカディアが錬金術を使うことをあまり快く思っていない。


(く、くそ……俺が錬金術を使えるのはいつになるんだ!!)


 アルカディアの錬金術行使までの道はまだ長いようだ。







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