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第13話 天才錬金術師、二人目の友達ができる

 ――アダマース家屋敷内の廊下にて。


 アルカディアとキースの背後からずんずんと突進してくる何か。


「え、なになに……」


「ま、まずい。アル、逃げるよ」


 キースは取り乱しながら、アルカディアの手を取り走ろうとするが。


「――とあああぁッ」


「ぶへっ」


 近付いてくる何かが跳躍し、キースの背中目掛けて落ちたのだ。目をぐるぐる回すキースに、最早走って逃げることは出来ない。


 つまり、何も知らないアルカディアは万事休す。


「あ、ごめんごめん。今どくから」


 何か、は女の子だった。肩まで伸びた綺麗な水色の髪をしており、それを後頭部でまとめている。言わん、ポニーテールというやつだ。


(あぁ、この子が言ってたファリア嬢かな? まだ会って数秒だけど、当主様が頭を悩ませている理由が分かるな。……これは、暴力系だっ)


「ひどいじゃないかファリア。僕は身体が小さいんだから」


「あんたが逃げようとするからでしょ。言ったじゃない、今日は私と遊んでくれるって」


「あ……忘れてた」


「とあああ!」


 ファリアの片手チョップがキースの脳天へ到達し、彼は必死で頭をさすっている。

 アルカディアはそんな光景を見ながら、無表情になっていた。


(……なんか夫婦みたいな二人だな。注意する気にもならないや)


 超真顔で壁にもたれていると、ファリアの眼球がギョロリと動きアルカディアを捉える。


(え、こわ!?)


「ところであなた、誰?」


「んん、ファリア。紹介するよ、僕の友人のアルカディアだよ」


「……友人って、あんたに!? 私しかいないあんたが」


「あー、ええと……アルカディアです。よろしくお願いします、ファリア様」


 アダマース家当主の娘なので、様付けすることを忘れないアルカディア。

 そんなファリアは舐め回すような視線でじろじろとアルカディアの全身を見ている。


(うっ、何か苦手かもこの人)


 直感でそう思ったアルカディアだった。


「あー!! あなた――()()()()()と一緒にいたやつじゃない。どういう関係なのよ?」


「ブライト様ぁ? (や、やばい。何がどうなってるんだ……)」


 軽く頭を抱えるアルカディアを見かねて、キースが耳元で呟く。


「ファリアはね、ブライトさんの大ファンみたいなんだ。以前助けてもらったって言ってた気がする」


「ファンって……確かに見た目はカッコイイけど」


 ブライトは見た目だけだとかなりカッコいい方だ。密かにファンクラブが出来ているのは、当人も知らない事実だ。


「で、どうなのよ?」


「ああ、僕はブライトの息子だよ。別に一緒にいてもおかしくないでしょ?」


「……む、息子って、ブライト様結婚してたの!?」


 まさかの結婚していた事実を知らなかったファリア。

 膝をつき、うずくまってしまったファリアは何やらぶつぶつと言っている。


(怖い、怖いよ。何か、略奪愛がどうとかこうとか聞こえるし。かなりクセのあるお嬢様だな)


 うるさく、危険な女の子。これがアルカディアのファリアに対する第一印象だった。



 ◇◇◇



 あれから3人はファリアの部屋へ移動していた。拒否していたアルカディアとキースだったが、半ば強引に連れて来られた。


 理不尽な女、ここに極まれり。


 ファリアの部屋は一般的な女の子の部屋とは様相が違っていた。一言で言うなら、武闘派な人間が好みそうな部屋。長短様々な剣や槍、全身鎧などなど。


 どかり、とソファーに座ったファリアが腕を組みながら口を開く。


「それで、何の話をしてたの?」


「え、興味あるの?」


「……だって、私だけ除け者にされてるみたいじゃない」


 唇を尖らせながらそう言うファリアの頬はほんの少しだけ火照っていた。

 キースがアルカディアとの会話の内容を話すと、ひどく驚いた表情を見せた。


「それ、ほんとに言ってるの?」


「ほんとと言うか、別にそこまで難しいことではないかと」


「あんたねぇ、キースの錬金術見たの?」


「いえ、それはまた今度でいいかなと」


 アルカディアは大層な余裕を見せており、渦中のキースは顔を俯かせている。

 そもそも、錬金術に関しては使おうと思えば誰でも使えるものだ。


 あくまで理論上ではあるが。


 体内に錬素があれば可能だ。だがしかし、その錬素を上手く扱えなかったり、体質的な部分で出来ないことがある。おそらくセキエイは前者だ。


 キースはまだ6歳、身体も錬素量も発展途上だ。これからの鍛錬で成長する可能性は充分残されている。

 そんなことを知らないファリアは、たった一言で吐き捨てる。


「……呆れた。――錬金術師になれなくたって、学院には入れるじゃない」


(え? 何だって、学院は錬金術を学ぶところじゃないのか)


「それはどういうこと?」


「どういうことって、何がよ」


「『錬金術師になれなくたって、学院には入れるじゃない』の部分だよ」


「え、何あんた……学院のシステム何も知らないの?」


「システムぅ?」


 アルカディアの素っ頓狂な声が、彼の無知なる部分も曝け出していた。これにはキースも少し呆れた様子で、再びアルカディアに説明してくれる。


「あのね……学院には共通科目と専門科目があって、専門の方では【錬金術戦闘科】【錬金術支援科】【戦闘剣術科】【王国錬金術師科】の4つに分かれてるんだ。【王国錬金術師科】では名前の通り『王国錬金術師』を目指す。この科が一番人気があって、倍率も高い。ここから溢れた人は他の3つのどこかへ入る。その中でも【戦闘剣術科】は定員がなくて、誰でも入れるんだ。錬金術系統の科は総じて人気があるからね。ファリアが言ってたのは、そういうことだよ」


「…………。(そんなシステムがあるのか。もう少し知識をつけた方がいいな)でもさ、キースは錬金術系統に行きたいんでしょ?」


「それはもちろん。そんなこと言うファリアも錬金術出来てないじゃないか」


「わ、私の場合は出来るけどやらないの。理解とか構築式とか訳わかんないのよ。剣一本でも錬金術師をなぎ倒すことくらいできるわ」


「それって……キースよりさらにタチが悪いのでは?」


「うっ……」


 アルカディアに核心を突かれたファリアは言葉を詰まらせる。

 そして、彼は今回の出来事を綺麗にまとめた。


(要するに、二人が錬金術使えるようになれば一件落着というわけだな。うん、きっとそうだ)


「だからさ、今度またここに遊びにくるから。その時に教えるよ。二人ともそれでいいでしょ?」


「うん」


「いいけど……ってそれよりもあんたはどうなのよ? 強いの?」


「うーん……まあ、錬金術と体術は得意だけど。剣術は得意ではないかな」


「ふんっ、それなら剣術は私が教えることになりそうね」


 まだあまり発達していない胸を張り、先生面して見せるファリア。そんな彼女をよそに、キースがアルカディアに話しかけて来た。


「アル、とりあえずここはファリアの言うようにしとこう。ファリアにとっては、剣術が第一だからさ」


「確かに、僕もこれ以上は……」


 その後、いったんの方向性を決め解散となるはずだったが。

 ファリアの部屋で木剣による剣術指南が始まり、完全に帰るタイミングを見失ったアルカディアなのだった。



 ◇◇◇



 場所は変わり、パーティー会場から離れた落ち着いた部屋にて。個人的に仲のいいダイスとクロルフェン、そしてブライトが談笑していた。


「――そう言えばブライトよ、そろそろ()()()へ行く時期じゃないか? アル君も6歳だ、かの御仁も会いたがっているのではないか?」


 ワイングラスを傾けたダイスが正面に座るブライトへ尋ねる。


「ですね……。数日前にも催促の手紙が届きましたし、近々行こうとは思ってます」


「そうかそうか、それならこちらからも土産を持たせねばならんな。あそこは質の良い金属や鉱石が採れる。めぼしい物があれば頼むぞ」


「ワシからも頼む」


「ははは……分かってますよ。(はぁ……父さんが孫を溺愛するなんて、予想してなかったな)」


 ブライトの頭の中に、孫のアルカディアを抱っこし頬を擦り寄せる父・クルストフの姿が思い浮かぶ。

 

 ブライトの故郷は王都から離れた山脈内にある小さな街だ。さらに、クルストフは先代『フィーア』団長ということもあり、アダマース家との縁も深い。


 ブライトはワインを飲み干し、二人との会話を続けるのだった。











お読みくださり、ありがとうございます。

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