第12話 天才錬金術師、初めての友達ができる
――【金剛石】地区アダマース家の屋敷内にて。
錬金術師兵団――通称『フィーア』部隊長が一人ブライトの息子・アルカディアは途方に暮れていた。
パーティー会場である大聖堂には豪華な食事が並び、招待客がグラス片手に至る所で談笑している。
父ブライトは兵舎に少し用があるらしく、場を外れている。
(何をしているんだ、父上は……。早く帰ってきてくれ)
アルカディアはそんな風に思いながら、端っこで中央付近を眺めながら時間を潰していた。
それから十分程経過し、やや駆け足でブライトが戻ってきた。アルカディアの顔を見るやすぐに、両手を合わせて謝る。
「すまん、遅くなった」
「もぅ、一体何をしていたんですか? 僕もう帰りたいです」
「アホ言え。当主様に挨拶すらしてないだろ」
「でも、この空間は僕にはキラキラしすぎてますよ」
「……まあ、確かにこれは俺も苦手だが――」
単純に部屋全体を照らす光量が多いのだ。こういった場が初めてのアルカディアにとっては、かなりきついものなのだろう。
親子でそんな会話をしていると、先程案内をしていた執事が声をかけてきた。
「――失礼いたします。ブライト様、御当主様がお呼びです」
「あぁ、そうですか。……アル、行くぞ」
アルカディアはもう一度正装を正すと、父の背中に着いていく。
大聖堂の奥に行くと、数人に囲まれているような人だかりがあった。
ブライトがそこに割って入っていくと、周囲の人達が一礼しつつはけていく。
アルカディアはブライトに手招きされ、アダマース家当主ダイス・アダマースの前に通された。
「おお、ブライト。よく来てくれたな。リーゼ嬢は息災かな?」
「はい、お陰様で。尻には敷かれてますが……」
「ハハ。錬金術師の腕は確かだが、家庭では弱くなるか。――それで、そこの子が自慢の息子か?」
ダイスは中肉中背、当主というほどの貫禄や雰囲気はあまり感じられない。
(どっちかって言うと、近所の優しいおじさんみたいな感じだな)
アルカディアの印象はそんな感じだった。ダイスからの視線も、サリバやガルシアと比べると優しい方だ。
「……本日はご招待いただき、誠にありがとうございます。ブライトの息子、アルカディアと申します。以後、お見知り置きを」
「――いやはや、これはこれは……どうも、アダマース家当主ダイスだ。こちらこそ、よろしく頼むよ」
アルカディアの挨拶に驚いたのか、ダイスもやや慌てながら挨拶をし、手を差し出し握手を交わした。
「ブライトの言ってた通りの子だな。これは自慢したくなるのも分かる。……それに比べて、私の娘とくれば……はぁぁ……」
「そう言えば、ファリア嬢の姿が見えませんね。体調が優れないとか……?」
ダイスの発言に、ブライトが心配そうに気にかけるが……。
「いや、そうではないのだ……。反抗期なのか、パーティーには出席せんと頑なに拒んでな。部屋から一歩も出てこないんだ。全く、困ったものだよ」
「……それは、確かに困りますね」
「そうなんだよ。……ん? そうだ、アルカディア君は6歳だったな?」
「ええ、そうですけど」
ダイスに聞かれたアルカディアは素直に肯定したが、何やら嫌な予感がした。
(お、おい……まさかこの流れは……)
「私の娘と仲良くしてやってくれないか?(……的な感じに、なりますよね)」
内心そのように思っているアルカディアも顔には一切出さず、父の顔を立てることにした。
「はい、もちろんです。これからも、末長くよろしくお願いします」
「むむ、そう言われるとは……くれぐれもよろしく頼む。ブライトよ、いい息子を持ったな」
「ええ、本当に贔屓目に見ても出来すぎなくらいですよ」
そんな風に会話が終わると、ダイスとブライトは数分間談笑した。その後はダイスも人との約束が詰まっており、二人は別れた。
ブライトとアルカディアは数多ある料理に舌鼓をうっていると、野太い声の主が横から入り込んできた。
「よぉ、ブライト。ワシには挨拶なしか?」
「あ、クロルフェン団長じゃないですか」
「お前さんが息子を連れて来ていると聞いてな、会わせたいやつがおったんだ」
ブライトよりも二回りほど大きな体格で、ガルシアによく似ている。
(団長ってことは、父上の上司の人かな?)
クロルフェン団長がアルカディアを見定めるような視線を向けてきたため、慌てて挨拶をする。
「ブライトの息子のアルカディアです。いつも、父上がお世話になってます」
「ガッハッハ、お前さんほんとに6歳か? こりゃますます気に入ったわ」
「……アル。一応俺の上司で、兵団長のクロルフェンさんだ。お前と同年齢の息子がいる。会わせたいやつっていうのは、その子のことじゃないかな」
膝を折り、アルカディアの目線まで縮んだブライトが耳元でそう言う。
(何だろう……今日はすごい数の友達が出来そうだな)
先程から連続で同年齢の子を紹介されており、このまま行くと後4、5人は紹介されそうな勢いだ。
「キース、おいで!!」
クロルフェン団長が息子キースの名を大声で呼ぶ。
すると、奥の方から小柄な少年が駆け寄って来た。身長は確実にアルカディアの方が大きいだろう。
「息子のキースだ。気弱なところはあるが、根は優しい子だ」
「……き、キースです。よろしく、お願いします……」
「よろしくね。僕はアルカディア、気軽にアルって呼んでよ」
「う、うん……。よろしくね、あ、アル……」
恥ずかしそうにしながらも、おずおずと手を差し出してくるキース。アルカディアは迷うことなく手を取り、二人は握手を交わした。
その様子を二人の父親はにこやかに見守っていた。そんな二人を気にしてか、ブライトからある提案がなされた。
「そうだ。せっかくの機会だ、二人で遊んできたらどうだ? ダイス様への挨拶も済んだし、大丈夫だろ」
「そうだな。キースよ、アル坊に屋敷を案内してあげなさい。いずれは屈強な我が兵団へ来ることになるからな」
「え!?」
一番驚いたのはアルカディアだ。すでに入団が内定しているかのような言い方。
「冗談だよ、少年よ。少年も学院へ行くんだろ? そこで学べば色んな考え方ができるようになる」
「ふぅ―、良かった。冗談か」
アルカディアは一息吐いて安堵する。
それからアルカディアはキースに案内される形でパーティー会場を後にしたのだった。
◇◇◇
「ごめんね、うちのお父さんが」
「いやいや、愉快な人だと思うよ」
二人は今、長く横に広い廊下を歩いていた。
キース曰く、いい場所があるらしくそこに向かっているところだ。
「アルはさ、学院に行くつもりなんだよね?」
歩きながら、キースが突然ぽつりとそう口から漏らした。
「うん、一応ね。キースもそうじゃないの?」
「……そのつもり、だけど。――僕は無理かな」
キースの言葉は弱々しく、すでに諦めているように見えた。
「何で?」
「何でって…………僕には才能がないから」
(才能、か……そう言えばマキナも昔そんなこと言ってたな。確かに、錬金術において才能は立派なものになる。――でも、才能だけじゃ辿り着けない領域がある。俺は才能がなかった方だから、気持ちは何となく分かる。けど……ここまで錬金術が発達した今なら、教える側と努力でレベルは上がる。そして――すでに諦めてしまっているその精神が一番の問題なんだ)
「……キースは学院に行きたくないの?」
「…………行きたいよ。――――笑われるかもしれないけど、夢があるんだ。この世界には、まだ知らない鉱石や金属がたくさんある。それを図鑑として完成させたいんだ、自分だけの図鑑。それを成し遂げるには、学院に行って学ぶのが一番なんだ……」
アルカディアはキースの本音を聞き、無意識に言葉を発していた。
「いいね、それ。僕も見てみたい」
「はは、そう言われたのは初めてだなー。でも――」
「――だから、一緒にやろう」
「え……?」
キースが本音で話したなら、アルカディアも本音で本気で話す。
「才能がないっていう言葉で諦めるのは、入学できなかった後でいい。僕も自信があるわけじゃないけど……精一杯教えるから。一緒に叶えよう。――ここからは一蓮托生だ。学院にはキースと一緒に行く。……どう? 僕の手を取る?」
アルカディアからの提案、キースにとっては初めてのことだった。
(何だろう、今までたくさん人に笑われて傷ついた。家族も慰めてくれたけど、こんな言葉を言ってくれる人はいなかった。さっき会ったばかりだけど……ちょっと信じてみたくなったな。――もしかしら後悔するかもしれない、裏切られたり……。けど、後悔するのもその後でいい。今はただ、初めて僕に同じ目線から手を差し出してくれた人を――信じたい)
――だから、キースは手を取る。
今までとは違い、精悍な顔つきになったキースは真っ直ぐに友を見つめながら言う。
「――うん、手を取るよ。僕をアルと一緒に、学院に通わせてください」
二人の二度目の握手が為されようとした瞬間だった。
「こおぉぉらああぁぁッ!! 私に黙って何してんのよー!!」
廊下に甲高い女声が響き渡る。
(また面倒なことになりそうだ……はぁぁ……)
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