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運命の出会い

婚姻の打診ではなく、既に決定的なものであることは明白であった。


王の言葉を聞いたランフォンも驚き、不敬とは理解していたが、急いでシンシャの手元の親書を確認した。そこには確かに龍の巫女が出発したという旨が記されている。

親書と同じか、それよりも前に出発しているという事実は二人を更に理解から遠ざけた。


「早馬による使者でないのなら、到着はほとんど変わらぬのではないか?」

「はい。龍の巫女が既に出発していると言うのであれば、出迎えの支度を急がなくては。我々も迅速に行動せねばなりません」


ランフォンの声にシンシャは一層現実感を持ち始めていた。

龍華国の意図がどうあれ、今は親書に書かれた情報を真実として受け止めるしかない。龍の巫女は確かにやって来るのだ。何もかもが分からない謎だらけの存在であったが、碧砂国の未来を左右する存在として、彼らは用意を怠る訳にはいかなかった。


「ランフォン、私も行く。自らの目で龍の巫女とやらを確かめたい」


ランフォンは深く頷きながら、王の意志を尊重して準備を始める。



シンシャはランフォンと共に、少数の護衛達と集めた。

他国から貴人を迎えるというのなら、それなりの盛大に出迎えをする状況にあるのだが、出発日からの旅程を考えれば花嫁の一行は既に国境付近にいてもおかしくはなかったからだ。許可が無ければ国境を越えられず、足止めを喰らっている可能性も考えられる。


これは龍華国側の不手際によるものではあるが、隙を見せるのも癪であった。だが、同時に長い旅で疲れ切った女性を苦しめることをシンシャはしたくなかった。


「お優し過ぎますよ、陛下は……」


ランフォンは呆れながら言う。彼はシンシャの人間性に敬意を抱いているのだが、その善性によっていずれ足元をすくわれる結果になるのではないかという危機感も持っていたのだ。


その言葉にシンシャは軽く笑顔を浮かべた。それは普段あまり見せない表情であった。


「忠義に篤いお前がいるからこそ、私は自信を持って前に進める」


少し戸惑った表情を浮かべたランフォンだったが、やがて頷いた。彼らの友情と信頼は、この国を守る大きな力となっていた。





+++++





国境に向かう途中の小さなオアシスで、シンシャ達一行は隊商と行き会った。

隊商は複数の商人達が結成した団体で、砂漠を旅する際の安全を確保する為に組織されたものである。商人達は集団となって、盗賊団や暴漢から身を守り、貴重品を守りながら砂漠の過酷な旅を乗り越えているのだった。


商人達は椰子の木陰で荷物の整理をしている。水のせせらぎが心地よく、遠くで鳥の囀りも聞こえる。

そんな一団の中に、ランフォンは知った顔を見つけて駆け寄った。


「お久しぶりです、隊長。お元気そうで何よりです」


偶然にも、この隊商を率いる隊長はランフォンの父親の友人で、彼を幼い頃から目を掛けてくれる人物であった。


「おぉ、ランフォン殿。このようなところで御会いするとは思いませんでした」


しばしの談笑の後、ランフォンは気になることを尋ねる。


「旅の途中、龍華国から碧砂国へ向かう高貴な女性の一行を見かけませんでしたか?」


隊長は首傾げる。


「申し訳ありませんが、そのような方々はお目に掛かっておりません」


このオアシスは龍華国から碧砂国へ来る主要な行路なのだが、別の道を通ってやって来るのだろうかとシンシャとランフォンは顔を見合わせる。


「あ、ですが碧砂国へ行きたいという龍華国人の少女がいました。道に迷っている様子でしたので、我々が保護しました」

「少女、ですか?」

「はい。荷車が壊れて動けなくなっているところに行き会いましてね。荷車を驢馬(ろば)と一緒に呆然と眺めていたので声を掛けたのです」


シンシャとランフォンは商人から少女の話を聞いて、心配そうな表情を浮かべた。

まだ砂漠というには緑の多い地域ではあるが、それでも親や兄弟もいない中の少女が一人でいるなんて。仕事の途中で迷ってしまったのだろうか。きっと近くの農村の者だろうが、頼りの荷車が壊れてしまって、どれほど心細かったことかと想像が出来た。


「その娘は、今はどこに?」


今頃は家族が心配していることだろう。帰してやる必要があると考えて隊長に尋ねたのだが、あまり良い顔をしない。理由を問うても「まぁ、本人を見れば分かります」と。


隊長が近くの者に少女を呼ぶように伝えると、しばらくして姿を現した。


少女は黒髪を滑らかに流し、深い黒い瞳を持っていた。色白の肌は砂漠の中で眩しく光り、華奢な体躯は儚げな雰囲気を漂わせている。その身なりは薄汚れてはいたが、上品さと控えめな美しさを際立たせていた。けれども、彼女の目にはどこか寂しさが見え隠れし、美しい容姿に不似合いな疲れが感じられた。


シンシャは驚きを隠せなかった。彼女はどうみてもただの村娘には見えないからだ。農村に似つかわしくない端正な容姿と上品な佇まい。そんな彼女を、隊長が家に帰すことを躊躇する理由がよく分かる。


普通の親であれば彼女のように美しい娘を一人歩きさせるようなことはしない。攫われて乱暴されたり、どこかへ売り飛ばされてしまうからだ。隊長との話の内容的に攫われた後というのは考えにくい。であれば、彼女が一人でこの近くを彷徨っていたのも、何かしら彼女に無理強いしようとする人間から逃げて来たのかもしれないと容易に想像がついた。


年若い少女がろくでもない男の犠牲になるのを見過ごすのは寝覚めが悪い話であった。

碧砂国で保護できないものだろうかと考えていると、隊長が少女の名前を呼びかけた。



「蓮瑛」と。

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