砂漠の王
砂漠の国、正式な名称を碧砂国という。
龍華国の西方に位置しており、国土の大半は典型的な砂漠地帯である。昼間は照りつける太陽によって灼熱の地となり、夜には一変して急激に冷え込むという厳しい気候であった。
大部分は通常の茶色い砂が広がる典型的な砂漠地帯であるが、中央から西方に掛けては驚くべき現象が見られる。
その現象とは、太陽が西の地平線に沈む時に起きる。黄金色だった砂が、まるで魔法のように青く光り輝くのだ。その青い輝きは他の砂漠には見られないものだった。
この謎めいた青い輝きは、地元の人々にとっては当然の風景であり、彼らは誇りをもってこの地域を自分達の国として讃えていた。しかし、龍華国側からこの現象が見えない為に、青色を尊ぶ彼らは碧砂国という名前を不遜なものだと眉をひそめる者もいた。
夕暮れの光が砂漠に青い輝きを与える中、碧砂国の国王・シンシャは城壁の上に佇んでいた。
彼の立ち姿は王としての威厳に溢れ、風になびく金髪が彼の周囲に輝きを放っている。王は遠くを見つめ、深い思索に耽っているようだった。
彼が城壁で見つめるのは、碧砂国の誇る美しい景色だけでない。その美しさの奥に潜む課題とその解決する方法だった。
先日、再び水源が減った。かつては豊かなオアシスが点在し、緑豊かな場所が見受けられた碧砂国も、今や乾き果てた土地が広がっている。植物達が枯れ、動物達が水を求めて彷徨い歩く姿が増えている。碧砂国の民達は毎日のように貴重な水を求めて足を延ばさなければならない。年々厳しさを増す環境は、碧砂国の未来に影を落としている。
王であるシンシャは、この深刻な問題に向き合い、解決の道を探していた。
そこに側近の一人・ランフォンが、文箱を手にしてシンシャに近づいた。
「陛下。龍華国より、こちらの文書が届けられました」
難しそうな顔をしているランフォンをシンシャは不思議に思いながら、文箱を受け取る。
「嫌な予感がします。箱の中は確認して問題はありませんでしたが、使者はいつもとは異なり、随分と慌ただしい様子で……」
定期連絡の様相でやって来たにも関わらず、使者は見慣れぬ者である上にその態度も異様で、応対に当たったランフォンは警戒心を抱いた。しかし文箱に記された印は正式なものだった為に取り押さえることは出来なかった。更に、王に挨拶することもなく去ってしまう慌てぶり。
腹心の進言を真剣に受け止めながら、シンシャは慎重に蓋を開けた。
そこには龍華国からの親書が収められていた。それを手に取り、シンシャはじっとその内容を読む。親書は碧砂国への提案と要求を綴ったものだった。読み進める内に、彼の眉間には深い皺が寄り集まった。
「何故、このような提案を……」
彼は独り言のように呟く。
龍華国の提案は、砂漠化が著しい碧砂国の水源確保の為に、『龍の巫女』である蓮瑛という少女を輿入れさせる、というものであった。
龍の巫女という存在をシンシャはよく知らない。龍華国が崇める神龍に選ばれた巫女が天候を操り、人々を導いていくという話だが、その具体的な方法については不明確であり、他国の人間にとっては謎の多い存在という認識だ。
そして要求は、蓮瑛という人間を二度と龍華国に立ち入らせないようにするというものだった。龍華国にとって皇帝に並ぶほど重要だと思われる人物を他国に出す上に、帰国を禁じるというのは穏やかな話ではない。
親書の内容をランフォンに伝えると、彼は慎重に言葉を選びながら今代の龍の巫女についての噂を報告した。
「今代の龍の巫女は、神龍に選ばれたにも関わらず、力を使えない無能な巫女として認識されているようです。また、彼女は雨ばかりを降らす巫女として噂されているとのことです」
碧砂国と龍華国は交易はあるものの、その関係は良好とは言えず、互いに警戒し合っている。
「砂漠に雨を降らせれば緑化すると思っているのか!そんな単純な問題ではない!」
砂漠にただ大量の水を降らせたところで、緑豊かな場所にはならず、むしろ災害を引き起こす危険性がある。
砂漠の土は水分を吸収しにくく、急激な水の供給によって土地が飽和状態になってしまうのだ。すると地表に水が溜まり、洪水や地滑りが発生する可能性が高まる。また、僅かに残る地下水の流れが変われば、今あるオアシスが枯れ、消失するかもしれない。
シンシャとランフォンは龍華国の意図を読み解こうとするが、不審な点が多過ぎて理解に苦しんだ。
その時、親書の最後に驚きの一文が記されていた。
「龍の巫女は既に龍華国を出発している、だと……?」
シンシャは一瞬、理解できない表情を浮かべ、呆然と呟いた。




