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05-26 激震!! 三河一向一揆⑧

 場面は上空から三河全域を偵察していた【RF-4EJジェット偵察機】が、岡崎城周辺で謎の霧に飲まれて墜落する30分近く前まで巻き戻ります。


 この当時はまだおかしな霧が岡崎城から沸き出ていない事もあり、尾張と三河を分けるように横向きに流れている旧矢作川、そして畑や水田と共に沢山のからぶき屋根の家々が夕焼けに染まりつつあると言う、美しい風景が広がっています。


 まさに自然と人々の生活が共存しあっている事が一目で解る【三河額田郡浦部村(現在の愛知県岡崎市)】なのですが、今日は何時もと違う点が幾つも存在しています。


 その不可思議な事の一つとして、水田が辺り一面に広がっているのどかな風景にそぐわない、まるで戦に向かう足軽達の様なピリッとした空気を出し、背中に背負っている旗に【浄土真宗】と墨を用いて縦書きで書いたであろう物を背負っている者達が黙々と土を慣らしながら、整備された道を歩いています。


 その地元の人達ですら顔も見たこともない、老若男女を含めた沢山の群衆達が何処を目指しているのかと良く見てみると、どうやら岡崎城を目指す大行列であるようでした。


 この松平家の本拠地と言える岡崎城がどの様な物であるかと申しますと、長年に渡り松平家が敵対してきた宿敵である織田家から領地を守る為に建てられた、菅生川と矢作川の合流地点にある【龍頭山】という丘陵の上に建てられた巨大な平山城であり。


 本丸の北方に持仏堂曲輪、その北方下に二の丸、その北方に北曲輪、二の丸の東側には三ノ丸と東曲輪、その東に備前曲輪と大手門があった浄瑠璃曲輪、本丸と二の丸の西方下に坂谷曲輪、その西に白山曲輪と搦手口に当たる稗田門があった稗田曲輪、本丸の南は、菅生川沿いに菅生曲輪があり、それに、本丸から北側へ6重、西側へ4重の外堀が廻らされておりました。


 現代ではその殆どが解体されてしまい見る影も有りませんが、岡崎城が存城した当時の東海地方の城の中では3番目に数えられる規模を持つ、巨大な平山城であり。

 織田家との戦いで大敗を帰してしまい、今川家に元康の父である松平広忠が亡命した時には、今川義元が自らの家臣を急いで岡崎城の城主にして、城の所有権を握った事からも当時におけるその戦略的価値は、現代で言う“核兵器”と同格で有ったと思われます。


 そんな岡崎城を目指して人々の列は続いていて、それはまるで大波の様に、ゆっくりとしたペースで迫りつつあり。

 少なくとも千人以上の規模になるであろう人達が、開け放たれた城門を越えて、人の気配が無い本丸に迫っていると言う、とんでもなく奇妙な光景が広がっていました。


 その何時もとは明らかに違う光景を二つ程山を挟んではいましたが、土色の袖無しの着物を身に纏い、先程まで彼が近くの山で山菜取りをしていたであろう事を伺わせる土の付いた鎌や、取れ立ての山菜と竹の子等が入った籠を背負って山道を下山している途中であった中年の男が彼等の存在に気がつきます。


「おいおいおい……。なんだぁ~あの人達は? 見慣れない奴等みたいだが」


 そう言って思わず立ち止まった男性が夕暮れの茜色に身を染める不気味な登山者達を目を凝らして見つめていると、後方から彼に連れ添って山菜取りをしていたらしい、男と同じような格好をした10代後半ぐらいのおっとりとした彼と親しい様子の少女が声をかけます。


「ん? どうされたのですかお父様?」


「おお、何か怪しい奴等が岡崎城を目指して山を登っているみたいでなー」


「なるほどー。もしかしたら朝に話していた方達かもしれませんね」


「なーにー? 朝に話し合っていた方達だって? はて……なんだったかな……」


 そういって可愛らしく小首を傾げている中年男の娘で有るらしき少女の容姿はと言いますと、152㎝と言う戦国時代においては恵まれた身長とメロンの様なふくよかな胸を持ち。

 くりくりっとしたリスの様なブラウンカラーの大きめなたれ目と毛先がウェーブしているブラウンカラーのセミロングヘアーが印象的で、こたつに入って笑顔のまま眠りそうな癒し系の雰囲気を持つ少女でありました。


「もう、お忘れになられたのですかお父様? 今日は私達が住んでいる三河だけでなく、加賀(現代だと石川県小松市)や、堺から大勢の【浄土真宗】の信徒さん達が三河に集まるんだって……うーん、確か隣の川辺のおばあちゃんが言ってたと思うよ?」


 そう言って今朝父と共に山に向かう途中で出会った、隣(約300m)に住んでいるおばあちゃんとの会話を思い出しながら話してくれた娘の頭を父親であり。

 屋外での作業で日に焼けた体は余りガタイが良いわけではないが、彼女の父・高網は『ニカッ』と言う擬音が良く似合うであろう満面の笑みを浮かべた。


「そう言えばそんな事も言ってたかもな! しっかし良くそんな事覚えておったな守綱(もりつな)よ! 流石はワシの自慢の娘じゃ!! 関心関心!」


「ふふっ、お父様に褒められてしまいました」


「ぎぃやぁぁぁぁーーーーー!!!」


 そんな微笑ましいやり取りを父と娘がしていると、突然岡崎城の方から彼等が今居る、山にまで響いて聴こえてくる程の大勢の人達の悲鳴や、大絶叫が聴こえて来ました。


「な、何じゃ!!? この声は?!」


「岡崎城の方から聴こえて来た様です、お父様!!」


「なんだって?! あそこには確か……城の管理を頼まれていた本多家やその仲間達が居た筈だが……!!」





 そう言っている間にも岡崎城を発生源にして二人の耳に入ってくる来る絶叫の数は増え続けており、まるで複数の電波を受信したラジオの様な不協和音が、城から離れた村全体にまでこだまし続けています。

 それなのに現地に居て、今もなお岡崎城に通じる道を埋め尽くし、現在進行形で岡崎城内を目指す信徒達にはまるでそれが聴こえていないかの様に、一心不乱に前進を尚も続けている事を守綱(もりつな)は気がつきます。


「お父様……あの人達変です。まるで悪霊にとり憑かれた様に本丸を目指して歩いていますし……。もしかすると彼等は集まり会って、三河で一揆をする気なのでしょうか」


 その右隣にいる娘から出された質問を聴きながら、高網は娘と共に見ている者達の奇っ怪な行動を睨みつつ、「ううぅむ……」と小さく唸りつつも感想を述べる。


「ここからでは奴等が何を企んでるかはわからん……。ただ、録でも無いことを奴等がやろうとしていると言う事は理解した! 守綱よ!!」


「な、なんでしょうか、お父様?」


「守綱はこのまま下山して、お母さん達を浄土真宗の影響が弱い東の方へと馬達と共に連れ出してやってくれ!! ワシはここから彼等の行動を見張る事とする!!」


「一人で大丈夫ですか!? 彼等が集まりつつある城からはかなり距離があるとはいえ……」


 そう言って心配そうに声をかける守綱に、父は豪快に鼻で笑ってから笑顔で答える。


「ふん! 安心せい。何もワシ一人で戦をする訳では無いのだからな!! さ、早く行きなさい!」


 そう自信満々に言い切られてしまい、反論する気持ちを挫かれた守綱は微笑みに近い苦笑いを浮かべて、少し緩んでいたわらじの紐をしゃがみこんでから素足の爪先に指できつく食い込ませます。


「わかりました。でもお約束ください! 必ず生きて再び合間見えると!」


 将棋の駒の様に命の価値が曖昧で、手柄を立てる事がその人の存在価値となる戦国時代に生きている彼女は、目の前で起きている異常自体を解決する為なら自らの命すら掛けるであろう父に立ち上がりながら、普段ののほほんとしている彼女からは想像できない様な凛々しい声でそう告げます。


 それに対して真剣な表情で父も穏やかながら芯のある声で、自分を見上げている娘に答えます。


「……おう。勿論だ。お父さんが今まで嘘をついた事があるか?」


「いえ」


「なら心配ないだろ? 母さんと守綱を騒ぎが収まるまで姉である守綱が守ってやってくれ」


「わかりました……。必ずや……」


 そう言って胸の中から沸き上がってくる、今まで経験した事が無い不安感を振り切る様にして守綱は風の様に疾走し、山の中腹から一気に下山して行きました。


「……空誓殿が、怪しげな輩と浜松港で取り引きをしていたと言う話が一時金流れたが、まさか……な……」


 離れていく娘の気配を父・高網は感じつつ、未だ地獄の釜の蓋を開けたかの様な声が聴こえてくる岡崎城があるであろう山の天辺に視線を送ります。


「ん? 何だあの霧は……」


 そして彼は岡崎城の本丸がある付近から、まるで火山の噴火口の様に白く濃い霧がもくもくと立ち上ぼり始めている事に気がつきます。


(幾ら日が沈み始めているとは言えまだ暖かいと言うのに、空気が冷えた時に生まれる霧が何故今?)


 高網が目を凝らしながら見ている間にも、ドライアイスの様に濃く白い霧は岡崎城から噴出し続けており。

 そこから4分も経たない内に霧は山全体を覆い尽くしてしまい、元々山に登って居た人達や山の中に建てられていた城下町に住んでいた人達の絶叫と悲鳴がこだまし始めます。


「こ……こいつは大変な事になったぞ……!! 俺も下山して逃げねぇーーうぐっ……!!」


 自らにも危機が迫って来ている事を感じ取った高網が、急いで山から下山しようとした所で突然背後から何者かに口を手で塞がれ、腹部にお湯を入れられた様にじんわりと暖かくなっていく感覚を感じると同時に、急激な眠気が彼を襲います。


(誰かに……刺された……のか……)


 彼が落ち行く瞼の先に見た者は黒の忍装束で目元以外を覆い、背中に忍び刀を差している者の姿でした。


(ああ……畜生……。まだ眠るんじゃない……)


 地面にゆっくりとうつ伏せの状態で倒れ、目に写る景色が切れかけの電球の様にチカチカと点滅していて、今にも意識が途絶えそうになっていると言う危機的状況の中で。高網は後ろから襲ってきたであろう忍が小さく呟く様に「やれやれ……酷い仕事だ……」と言うのを聴きます。


「貴方には恨みは無いが、今あの城の状況を見られるのは不味いらしくてな……。許してくれ……」


 そう伝えて来た忍の声はまだ若く。今年で18歳になる娘と変わらない様な気がしたが、そんな事は高網にとって今はどうでも良かった。

 何故なら彼が娘が走り去っていった後に残った足跡を見つけてしまった様であり、高網に背中を見せる形でしゃがみこんで手で触り始めたのである。


「チッ、不味いな……。他にも付き人が居たのかよ……」


 脳内で反響して聴こえて来たその苦々しげな青年の呟きを聴き、高網は何とかして娘の方へと行かせない様にすべく、必死に小さな唸り声を挙げて青年の注意を引こうとする。


「ううぅぅ……ううぅぅ……!!」


「まあ……もう三人ぐらい殺っちまってるから、どのみち後戻りは出来ねぇよな……。うん?」


 その焦りと怒りが入り交じった様な声が青年に聞こえたのか、突然しゃがみこんでいた青年は突然後ろに右回りで振り返る。


「うー……うぅ……うぅぅぅ……!!」


 それを最後の機会と捉えた高網は惨めだと罵られても構わないと言う勢いで、愛する娘の為に驚いている青年を威嚇し続ける。


「ひいぃっ?! 話と……話と違うじゃないかよーーーー?!!」


 すると青年の外見的に唯一肌が見える目元だけでも分かる程に彼は動揺し始め、一度尻餅をついてから、直ぐに悲鳴を挙げながら慌てて下山して行った。


(何だ……奴は何を見たと言うんだ……)


 明らかに自分以外の存在を見て怯えていた青年の反応を分析しようとした所で、高網は先程までは口以外動かせ無いほどに弱っていた自分の体が薄く発光している事は気になったが、それよりも背中から刺されたであろう傷が完璧に塞がっている事や、少年の時の様な活力が全身にみなぎっている事を感じつつも恐る恐る立ち上がった。


『これはいったい……』


『なるほど、貴方も見仏に選ばれたのですね?』


『え』


 突然背後から掛けられた不自然な程に爽やかな男の声を聴いた高網は慌てて振り返ると、そこには自分と同じ様に薄く体を発光させている【浄土真宗】の信徒達らしき者達とそれを引き連れている坊主の格好をした、青い瞳を持つ西洋人風の美男子がいた。


 彼等はそれぞれ年齢も性別も違う集まりでは有るのですが、その共通するものとして足首から下が目で見えない程の白い霧を纏っており、良く観察して見ると彼等はどうやら地面から数センチ程浮遊しているらしく。

 それを証明するものとして、明らかに地面が無いはずの崖の上にもまるで陸地が有るかの様に200人近い人々が後ろにズラリと並んでいて、そこにいる人達は皆、まるで人形の様に思える程にほがらかな笑みを浮かべて立っていると言う何とも不自然な程に神々しい光景が広がっていました。


『あ、あんた達はいったい……』


『恐れないでください。私達は自らの汚れた肉体を捨てることで、今、見仏の目にもふさわしい者達となっているのです……』


 そう言って何処か役者染みた言い方と仕草で嬉しそうに語る先頭にいる美男子の話を聴かされ、高網は自分の体を改めて見回すと、どうやら自分も彼等と同じ様に白い霧を纏っていて、体が少しずつ空へと浮かび始めている事にも気がつきます。


『な、なん何だこれは?!! ワシは本当に……本当に死んじまったのか……?!』


 少しずつ風船の様に体が浮き上がり始めた事もあり、思わず取り乱す高網の様子を見た美男子は地面の上をまるでスケートリンクの様に滑り、高網に寄り添い合う程の至近距離まで近付き、正面からじたばたしている高網の腰に抱きつきます。


『つ、冷たい!?』


 思わず高網が声を出してしまう程に何故か美男子の体は氷水の様に冷たく、その痛みすら覚える冷たさから最初は高網も振りほどこうと抵抗するのですが、次第にその抵抗は弱まっていき。最終的には目と口をポカンと開け、電源が切れたロボットの様に高網は動かなくなってしまいました。


『あー……ああー……』


『安心してください……。貴方は今、暖かな見仏の手の中にいるのです……』


 そんな高網をまるで赤ん坊をあやす母親の様にして美男子は抱き抱え、演技的な慈愛に満ちた顔で見下ろします。そんなやり取りをしていると美男子達の上を高速で何かが飛び去ります。


『……そうか、彼等が来たのか』


 そう言って霧に包まれつつある空から必死に逃れるかの様に、遥か上空の青空を飛んでいる“鉄の鳥”を見上げる形で見つけた美男子はくすりと笑い、両手を空に挙げて詞を歌うように告げる。


『ああ。我等が憧れし美しい空が泣き叫んでいる……。無粋な侵略者に空が奪われ、皆が見上げる為に美しく写るその身体を汚れた者達が這いずり回る苦しみを……』


 その詩を後ろで聴いていた人達は呻(うめ)く事で怒ったり、悲しさを涙にかえて空に同情する。


『さあ、では我々に出来る事は無いだろうか? いや、ある。汚されて苦しんでいる空を彼等から救う為に、我々が見仏の意思を持って追い出すのだ』


『おおお……。いや、しかし……』

『愚かな私達にそんな事が出来るのでしょうか?』


 それぞれに不安を吐露し始める信徒達に美男子は穏やかに告げます。


『大丈夫。私達は既に汚れた肉体を捨てる事で自然と一体となっているのです。ならば、空を荒らす怪鳥を追い払う事など造作もない事では無いですか』


 そう言い切った美男子は高網を抱き抱えたまま空へと浮かび上がって行きます。


『さあ、私と共に来なさい。私が傍にいます』


『見仏様……!!』


 次第に決心がついたらしき信徒達が一人、また一人と空へと浮かび上がって行き。最終的にその数は800人近くの人からなる巨大な雲のうねりとなっていました。


『皆、良く試練を乗り越えましたね。では、あの不届きな鳥を追い出してしまいましょう!』


『おおおおおおぉ!!!』


 信徒達に美男子が激をいれた所で、何故か先程までは遥か上空を飛んでいた巨大な“怪鳥”が、まるで鷹が獲物を狩るかの様にして信徒達に向けて緩やかに降下しながら突っ込んで来ます。


『来たぞ!!!』

『怯む事は無い!! 我々には仏様がついておられる!!』

『行くぞぉぉ!!!』


 そう言って美男子の言われた通り、大勢の信徒達が“怪鳥”の迎撃に向かって行く信徒達の姿を美男子は暫くの間はにこやかに見守っていたのですが、彼は自分の事を誰にも見られていない事を感じた途端にまるで猛獣の様に瞳を光らせながら両手を広げます。


『さあ……ここからが本番ですッ!!!』


 最早自分の感情を抑える事が我慢できなくなったのか、美男子はよだれでギトギトになった獰猛な口を開き、


『薄汚い侵略者を決して許してはなりませんよッ!!! ふひっ、ふっ、ふひゃははははははは!!! あーはははははは!!!』

 

 その醜い口から世界の全てをあざ笑うかの様な笑い声を吐き出し、それは茜色に染まる空に不気味に響くのでした。



お待たせしてすいません!


物語が中盤戦のクライマックスに突入するに辺りまして、半分以上を勢いだけで書いてきた今までのやり方が通用しなくなりつつありまして。半場、作品と私の殴り合いが暫く続くと思われます。


そんな状況の中でも投稿を気長に待っていてくださる皆さんにお礼を申し上げますと同時に、少しでも期待に答えられる様に頑張って行きたいと思います。


・岡崎城の事を勝手に山城と勘違いしておりまして、間違っていた部分を修正させて頂きました。(9月8日)

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