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00-02 派遣転生者案内

「はははは!! なあに、死んだからと言ってそう悲観する事はないさ!!」

「そうは言ってもよー……。まさかこんな事になっちまうだなんて、思いもしてなかったんだよ……」


 目を閉じているからなのか、視界一面に広がる暗闇の中。そんな良く理解出来ないおじさんの言葉と、人が大勢いる場所特有のざわざわとした音が亮太の耳を刺激する。


(何だ……。このヘンテコな会話……)


 続いて闇の中で聴こえて来たのは病院やハローワーク等で良く聞く事になる、【ポーン♪】と言う音ともに、録音音声によって読み上げられていく整理券番号を耳にする。


 やがて聴覚だけでなく、役割を思い出したかの様に視覚、嗅覚が目を覚まし。数秒後に亮太の意識はしっかりと覚醒した。


「何処だよここ……」


 目を覚ました亮太が一番初めに目にしたものは大勢の人達が、規則正しく並べられた長椅子に座っており、呼ばれた人が職員らしき人と一対一で話し合うと言う、正に良くみる待合室の光景であり。


 さらに亮太が自分の頭がおかしくなったのでは無いかと疑わされたのは、今時バラエティー番組でも見る事が出来るか解らない、白装束に三角巾を頭に着けていると言う、ベタにベタな幽霊さん達が老若男女問わずに大勢居る光景であった。


(俺……もしかして、たちの悪い悪夢を連続で見させられているんじゃないのか……?)


 そんな疑惑と目の前に写る光景が信じられずに、ずっと立ち尽くしている亮太の姿に気がついたのか、亮太が突っ立っている、長椅子と長椅子の間にある通路から見て右手の方から声を掛けられる事となる。


「おいあんた。今、自分が置かれている状況が分かるか?」

「えっ?! あ、いえ!! まだ良くわかんないです!!」


 やたらドスの効いた声を浴びせて来た相手に亮太が恐る恐る視線を送ると、そこにはスキンヘッドに黒のグラサンを掛け、黒いスーツ姿と言う明らかに危ない人の代名詞の様な人が立って居たのである。


「まあ、自分が死んだ事が信じられないのは解るが、何時までもそこにいられると後ろから来るお客さん達が入れねぇんだ。あんたの分の整理券やるから、その番号が呼ばれるまでゆっくり椅子に座ってな」


「あ……はい。そうします」


 勿論、亮太は男の言う意味がちゃんと理解出来た訳じゃない。ただ、挨拶をされたから反射的に口が動いてしまっただけである。


(一先ずは……座って落ち着いて考えよう……)


 今自分が置かれている状況が悪夢の中と言う事を過程して、何とかその証拠を見つけて精神の安定をはかるために、亮太は必死になって今自分が見ているものが夢だと言う証拠を見つける事に集中する為、いかつい男に言われた通り席に腰掛ける事とする。


 すると亮太の座った席の右隣にたまたま座っていた中年のおじさん達の話し声が、嫌でも亮太の耳に入って来る。


「あはははは!! てことはあれか? お前さん大好きなお餅を口の中に一度に頬張っちまった結果、喉に詰まらせてコロリと逝っちまったって訳かよ!!! こいつは傑作だ!!!」


「うるせぇ!!! 家に帰ったらカミさんに浮気がバレてて、玄関でびびり過ぎてショック死した最低よりはましだろうが!」


「おい馬鹿……!! その話は大声で言うなって言っただろうが……! これから転生すって時に俺が反省もせずに自分の浮気話をネタにしていたなんて知られて、査定が下がったらどうしてくれるんだよ?!」


「ふん、知らねーな。あんたが産み出した汚い錆び話だろ? 男ならとっとと腹くくれよ」


「あっ! 汚いぞおまえ!! さっきまではカッコつけて色々言ってたくせによぉ!!」


 そんなドンドンヒートアップしていく二人のやり取りに亮太がひやひやしてきた所で、【ポーン♪】と言う軽快なチャイムが鳴り、続けて番号がスピーカーを通した音声案内で呼び出される。


【続きましてー。65、67、68番の方。窓口に御越しください】


 そのアナウンスを聴いて、先程まで賑やかだった二人は揃って唾を飲む。


「行くか……」

「ああ……」


 何かを悟ったように観念して歩いていく二人の後ろ姿を見ながら、亮太はまだ心の中で「きっとこれは、俺が運び込まれた病院で、壮大なフラッシュボブでもしてるんだよなー」とか考えて、必死に現実逃避をしようとするのだが。

 ふと、通り魔に切りつけられたであろう背中の傷口がどうなっているのだろうかと、背中に手を回した所で気づかされる。


(傷ひとつ無くなってる……。しかもいつの間にか俺まで死に装束着ちまってるじゃねーか?!)


 思わぬ展開に高鳴る鼓動を感じ、自分が死んでいる訳では無いことに安堵しつつも亮太は思考をフル回転させて、何とか納得出来る答えを得ようとする。


 (いやいやまて!! 流石にこれだけでひっかかる程に俺も単純では無い!! きっと、俺が受けた精神的ショックを少しでも笑い飛ばせる様に病院の人達が用意してくれたサプライズなんだ!! そうだ、そうに違いない!! うん……)


「嘘だあぁぁぁぁぁ!!!」

「なっなんだ今度は?!」


 その突然正面にずらりと並んでいる窓口の一つから聴こえて来た、先程浮気をしたせいで死んだと言う男性の悲鳴に驚いて、思わず亮太が視線を向けて見ると。

 何やら案内のお姉さんらしき人に必死に抗議しているようだ。


「幾らなんでも緑亀は無いだろ?! 緑亀は!!」


「じゃあカマキリの雄にしましょうか? その方が女性に対する自己犠牲の精神を学べるかもしれませんよ?」


「な……!! ふざけんな!!! それじゃあただの餌じゃねーか!!」


「はー……丸米さん。元はといえば貴方が愛する妻を裏切ったにも関わらず、反省処か奥さんに逆恨みまでしている事が原因なんですよ? だから一旦貴方の中にある自己中心的な記憶と考え方を白紙にするために、この提案をしたんですよ?」


「畜生!! やっぱり女なんかじゃ話にならねぇ!! おい、誰か代わりのやつを読んできてくれ!!」


「どうされましたかな?」


 その声を聴き入れたのか、先程亮太を案内してくれたマフィアな外見の人が喚わめく男の側へと近寄っていく。

 それを見て自分の意見が優先されたと感じた男性は女性の前で腕を組み、鼻息荒く勝ち誇る。


「へっ、ざまぁみやがれってんだ!! おまえさんは年上の人への礼儀でも教わってくるんーー」


 男性がそう言い切ろうとした所でマフィア風の男が男性を小脇に抱えて立ち上がる。


「へ? いや、おい!? 俺じゃなくて、あの生意気な女をどうにかしてくれよ! おいってば!?」


 手足を男の脇の中でばたつかせて必死に講義する男性だが。

 やがてこの案内所の出入り口であろう白く、金の装飾が施された両開きの扉をマフィアの男が空いた手で開けて、ゴミを捨てるかの如く男を外に放り投げて締め出した。


 座席があるここからじゃあ扉の向こうに何があるかは見えなかったが、放り出された男性が下を見た瞬間、驚愕の表情をしたまま下に消えていった所が亮太にも見えてしまった。


 (これ以上は余り詮索しない方が自分の為かも知れない……)


「お兄さん、お兄さん。どうやら呼ばれているみたいだよ?」


「え? あ、ありがとうございます!」


 そんな教訓を亮太が思いに止めた所で、どうやらクレーマー男に注意が逸らされていた間に亮太の番号が呼び出されていたらしく。

 後ろに座られていたらしき、仲睦まじいドイツ系のお爺さんとお婆さんが親切に教えてくれたので、亮太は先程の男性が受付の女性の機嫌を損ねた結果を見ていた事もあり、慌てて二人にお礼を伝えつつ、空いた受付に向かおうとするのだが。


「おう兄ちゃん、そっちじゃねーよこっちだこっち」

「ええっ!!?」


 一番恐れていた展開が、何故か途中にあるであろうくだりをショートカットして飛び込んで来てしまった事もあり、亮太が動揺を隠せないでいる内に、気がつくとマフィアなお兄さんが亮太の手をがっしりと掴んでいた。


「あんたは俺が直々に案内するから、後に着いてきな!」

「はっ、はい! わかりました!」


 さっき、さらっとクレーマーを地獄に叩き落としたであろう男に手を掴まれて何とか悲鳴を上げずに済んだが。

 自分が今連れていかれている方向が先程開けられた地獄行きの扉である事に気づき、亮太は自分の顔色が自分で見えていなくても一気に血の気が引いていくのを感じた。


「す、すいません! 俺何か失礼な事しましたっけ?」


 その質問を背中で受けた男性は“何故そんな事を聴くのか?”と言ったトーンで、返事を返す。


「いんや? 俺はただ上司にあんたを連れてこいと言われただけさ」


「それってまさか……閻魔様とかですか……?」


「閻魔だって? ははは、そんなわけないだろ。今から会うのは神様の代理者である方だよ」


 その神様の代理者と言う言葉にイマイチイメージが沸かなかったが、男が「まあ、これからあんたを世話する上司の様な方だよ。ビックチャンスだ、物にしてきな!」


 そう言って、頭の中で何一つ話が纏まらないまま。俺は縦横長さ四メートル程の茶色の扉の前に立たされたと思いきや、部屋の中から「入りなさい」と言う意外にも若々しい男性の声が聴こえたので、亮太は覚悟を決め、一言添えてから部屋に入る事となる。


「失礼します!」


 そこには金の装飾が施された赤いカーペットが敷き詰められ、部屋の左右両側には様々な物や書類等が収納されている大きな戸棚があり。

 部屋の後ろには、明るい光を取り込む白色の薄くて綺麗なカーテンがかけられている四角い大窓がある広い間取りの部屋であり。


 何よりその中央に置かれている社長机に一人……。

 いや、人と同じ体格と大きさをした黒と白の毛並みを持つ猫である、アメリカン・ショートヘアーに似たタキシード服姿の何とも活力と清潔感に満ちた猫人間が居た。


「わざわざご苦労様、タナカくん。持ち場に戻ってくれたまえ」

「はっ、失礼いたします」


 そんな猫人間が明らかに自分より年上で、迫力のあるマフィアの様な厳つい男を猫の手をくいくいさせて帰らせるのだから、中々にシュールな絵面である。


「さて、豊口亮太くん。先ずは君が何故、目を覚ましたときにこのような場所に連れてこられているか分かるかな?」


「それは……俺が死んだからですか?」


「うん、そうだね。正式に言えば、仕事仲間を助けるために囮になって殺されたからの様だね……。ふむ……」


 そう言って亮太に関する資料なのか、手に持ったファイルを見ながら状況説明をする猫に幾つかの疑問が浮かぶ。


「すいません。幾つか質問をしても宜しいでしょうか?」


「構わないよ、言ってごらん?」


「そこまで知っておられるのは、私達が襲われている姿を神様が傍観していたからですか?」


「いいや、これは君達の住んでいる惑星を担当している者からの情報だ。神様や私がリアルタイムで見ていた訳じゃない。すまないね」


「そうでしたか、こちらこそすいません。ではここはどういった施設なのですか?」


「ここは【セントラル】と言って、神様が私達【働き手】の為に造ってくださった全部で1000階層にもなる多目的施設だよ」


「せっ、千階層ですって?! そんな膨大な質量があるであろう建造物がまともに建っていられる筈が……!」


 思わぬ解答に亮太が声を荒げ、それを人猫が嗜める。


「だが、こうして現実に建っている。理由はまだ君には教えられない。質問は以上でいいかな?」


 俺と話をする為に割り当てられた時間が尽きようとしているのか、人猫がそろそろ本題に入らなければならないと言う雰囲気を醸し出しているのを感じたので。まだ色々と聴きたいことはあったが亮太は身を引くことにする。


「はい、お時間をくださりありがとうございます」


「いや、これからする話に君が同意してくれるなら、これから幾らでも話し合える時間は取れるから気にしないでくれたまえ」


「と、言いますと?」


「名乗るのが遅れてしまい申し訳無い。私は亡くなった一部の方達に、特別な門出へと案内する仕事をさせて頂いている【転生科所長のトレノ】と言うものだ。以後、お見知りおきお」


「こちらこそ、名乗りが遅れてしまいすいません。知っておられるかも知れませんが豊口亮太と申します」


「よろしく頼むね、豊口くん。さて、簡単に述べさせて貰うと私は是非とも豊口くんをスカウトしたくてここに来て貰ったんだ。優秀な仲間としてね」


「それは……転生して再び地球で暮らせるのではなく、ここで永遠に一緒に働くと言うことですか?」


「少し違うかな。寧ろ君にやって欲しいのはこの広大な宇宙の中に存在し、生物が住める惑星に移住して貰う事で様々な調査をしてもらったり。悪い方向に向かおうとしている文明や、生き物達による悪影響の中和を行う監視者となって欲しいんだ」


「ちょっと待ってくださいよ!? 俺はただの人間で、そんな大それた事は出来ませんよ!」


 突然トレノからもたらされた、そのとんでもなく責任の重い仕事の依頼に誰かの役にたつことが生き甲斐の亮太であっても、流石に音をあげざるを得ない。


(実際に俺はたがが通り魔一人に殆ど何も出来ずに一方的に滅多刺しにされて殺された男なんだよ、俺は……)


 その返答と亮太の葛藤をも予想してか、もしくは心の声が読まれたのかは解らないが、何故かトレノはにこやかな表情で何度か頷いた後「よし、ではこうしよう」とふかふかのソファーから立ち上がったかと思うと、突然亮太の目の前に両手を突き出して見せた。


 何を伝えたいのかと俺が戸惑っているうちに、トレノが突き出している両手の前である現象が起きていた。


「ふう……穴の大きさはこんなもので良いかな?」


 何と、トレノが両手を突き出している左右の両手を基準にして空間に穴が空いており。その穴の向こうには何と森林があり、奥の方には土を踏み鳴らして出来た様な長い山道が続いている。


「これは一体……」

「ついてくれば解るさ! さあ、きたまえ豊口くん! 私が案内しよう」


 そう言ってタキシードを翻しながら穴を潜っていくトレノはさながら映画俳優の様であり、気付けば勢いに乗って亮太自身も穴を潜り抜けてしまっていた。


(勢いで着いてきてしまったが……これって……)


 想像の追い付かない出来事の連続に困惑しながらも、亮太は寧ろこれから始まるであろう出来事を早く見てみたいと言う好奇心が沸き上がってくるのを感じ、それが自分を追い詰めている事となる選択と解っているのだが抑えられないでいる。


「ふふっ、先ずは第一の難関は乗り越えられた様だね。歓迎するよ豊口くん」


 この時彼は、この怪しげな猫についていった事が彼の人生の中で選んだどの決断の中でも、最良の決定であった事をまだ知らない。


 例えその決断が、生前の時よりも自らを苦しめる苦難の始まりであった事を含めていたとしても。


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