03-10 女子会 IN・THE アサツユ食堂
・大勢の方が見てくださり、尚且つブックマークとポイントを頂けてとても嬉しく思っています。
引き続き私自身も作品を楽しみつつ努力して行きますので、亮太達共々よろしくお願いいたします!
亮太とヒデヨシが肥溜めを造っている時間帯に綾瀬が率いる女性グループはと言うと、彼等との合流までに時間が掛かりそうな事を見越して集合場所とされていたお店に向かっていた。
そのお店はアサツユ街の人々に今までお弁当や定食を提供してくれていたお惣菜屋と小料理屋が協力し、壊滅した村の復興に合わせて新たに営業を始めた瓦屋根が美しい2階建ての和風定食屋の元を訪ねていた。
「わー!! 久し振りに日本の食堂に来られてちょっと感動物かも!!」
「うーん……香ばしい良い匂いがしていますね」
お店ののれんを潜り、この世界に来てから一年以上日本の文化から離れていた綾瀬と、生まれて初めて和食の定食屋に入ったであろうアルバインを感動させた和式の食堂の内装はとても新鮮な物でありながら、懐かしさを感じさせる味のある物であり。
そこには午前中の仕事を終えた家族連れのお客さんや、仕事仲間でグループを組んだ者達、そして御店の雰囲気を楽しんでいるご老人等の大勢のアサツユ街の人達が楽しそうに食事を取っている賑やかな御店であり。
特に綾瀬達の目を引いたのはニスが塗られて茶色に光る大きな大黒柱が店の真ん中に立っていて、その木を中心にして料理をしている光景をお客さんも見ることが出来る開放式の調理場が備えられており。
驚くべき事にその調理場は完全に現代のシステムキッチンと同等の物が使用されていて、揚げ物用の油鍋から、煮込み物用の大きな寸胴鍋がコンロの上に置かれてぐつぐつと音をたてると共に鼻をくすぐる醤油の良い匂いを届け。
業務用の大きな冷蔵庫も完備されているその調理場の中では深い青色の割烹着を着た小料理屋の店長であった爽やかな雰囲気を持ちながら、職人気質な性格を匂わせる鋭い眼光で魚をまな板の上で捌いている青年の店長さんと。
その助手として熟練のコックとして召喚された若いコック姿の青年が、注文された洋食料理のメニューを手際よく造っており。
そして、その二人が完成させた料理を小料理屋の青年と同じく深い青色をした割烹着の上に白のエプロンを重ね着し、長い髪を後ろで黄色のリボンでくくっている可愛いらしい女性が楽しそうにおかずや、ご飯を皿に盛り付けてお盆に置いていき。
そのお盆の上に用意された定食セットをアサツユに元々いた8人の老若男女問わず、この定食屋で働きたいと申し出た人達が慣れないながらもお盆を持ちながら1階と2階を駆け回っており、精一杯ウェイトレスの仕事をこなしていた。
その召喚された人達が同じ人間として働いている様子を初めて目にした綾瀬は驚かされる。
(例え召喚された人であったとしても、ここの人達は言われたことを只こなすだけの人形なのでは無くて、私達と同じ様な感情と自由意思を持ち、心を通わす事が出来る同じ人間なんだね……)
そして、それに気がつかされると同時に綾瀬の中でずっと燻っていたある仮説が再熱する。
(亮太さんを通してこの世界に来た人達は私達と同じく、もしかして転生者なのかな?)
そんな事を店の入口て思わず綾瀬が考えているうちに、目の前に店の案内をしてくれている割烹着を着た優しそうなおばさん定員さんが「何処の席に座りますか?」と言う質問を投げ掛ける。
「団体様ですので、宜しければ御座敷が空いておりますので御案内致しますが?」
「うーん……どっちが良いマリナ? アルバインちゃん? 私はどちらでも良いんだけど」
「私はカウンターが良いな! 料理をしている所を目の前で見たいの!!」
「私は……綾瀬様にお任せします」
「ふむふむ。じゃあマリナの意見を採用してカウンター席にします!」
「やったぁ!!」
その言葉を聞いたマリナは嬉しそうに微笑みながら綾瀬に抱きつき、綾瀬も笑顔でマリナの頭を撫でる。
「では、カウンター席に御案内させて頂きますねー!」
「あっ、すいません! お連れの友人が二人来るかも知れないので、追加で二席御借りしても良いですか?」
「はい! かしこまりました」
そう言って微笑むおばさんに案内して貰ったのは、回らないお寿司屋さんのカウンターの様な木製の四脚の椅子とテーブルが置かれた横一列のカウンター席であり。
席順は左からマリナ、アルバイン、綾瀬の順に並んでいて皆は一応に周りからちらちらと聴こえて来る絶賛の声を耳にしていたため、料理への期待でわくわくしている様子であった。
そんな綾瀬達を見た案内をしてくれたおばさんは微笑ましそうに木製のコップに入れられたお冷やと、暖かいおしぼりが乗った細長い木製の皿のセットを手に持っているお盆から亮太達の手前に降ろして全員に配り終えたおばさんはしみじみと語る。
「おばさん、マリナちゃんとアルバインちゃんは亮太くんご友人だとは知っているだけど、お嬢さんは旅のお方ですか?」
「はい! 私は綾瀬花奈と申しまして、新生ヴァルハァム王国から用事で来ました!」
「まあ、ヴァルハァムから……。てことは、あっ! 思い出したわ!! 私達の浚われた家族を守ってくれていたと言う綾瀬さんだったのね!! その節は本当にありがとうございました!!
貴方のお陰で私の息子も無事に帰って来てくれたのよ!!」
その感極まってしまったおばさんの声は周囲にいた人達にも次第に広がっていき、気がつけば綾瀬達は二階に居た人達を合わせた食堂内にいたお客さん達にアサツユの人々を救った英雄として熱烈な歓迎を受ける事となる。
「ありがとうございます!! ありがとうございます皆さん!! こうして笑顔と元気を取り戻した皆さんを見ることが出来て私も嬉しく思います!!
そして私達、新生ヴァルハァム王国の仲間達も皆さんを苦しめたと同じ者達と引き続き皆さんと力を合わせて立ち向かって行きたいと切に願っていますので、よろしくお願いいたしますね!!!」
その力強く迷いの無い綾瀬の立派な姿に、皆からは改めて拍手と声援が贈られ。
彼女達がまだ食事を取っていない事に気がついた一部の人達が興奮冷めやらぬ皆を落ち着かせて席へと促して行ってくれた。
「いやー……びっくりしたけど、改めて御礼を言って貰えて私は感無量ですよ……」
「綾瀬さん、ご立派でした」
「流石はお母さんだね!」
「あはは、よせやい照れるじゃないか二人とも! じゃあ良い具合にお腹も空いてきた所で注文させて貰おうか!!」
「はい!」
「うん!」
色々とびっくりさせられるイベントがあって気分を良くした綾瀬達は、うきうきしながら目の前に置かれているメニューに目を通していく。
そのメニュー内容はと言うと、明らかに現代の食堂で出される様な揚げ物や、丼者、刺身に、麺類まで兼ね備えた幅広い物であり。
この世界に居る人であってもその料理が分かるようにメニューに料理の絵や、素材が書かれていたりしていて。
周囲ではそんなメニューを初めて見る人達が戸惑いながらも楽しそうに注文している光景や、逆にその料理を知っている召喚された者達が知らない人に教えているといったような光景がお店の中では見られていた。
「この、テンプッラて言うのがおすすめだぜぇ? 外の皮はサクサクしているんだが、そのサクサクした物に素材の味が合わさって最強に見えるんだ!」
「はははは! 分かったよガイルさん!! あんたがそこまで言うなら挑戦して見るよ!!」
「よし! よくぞ言った少年!! すまないテンプッラセットを追加で頼む!! エビ多めでな!」
最初はアサツユの人達と召喚された彼等が共存して行けるのかと不安に思われていたが、アサツユ村を守り抜いてくれた実績や、共に汗を流しながら国の復興活動を行ってくれている彼等との交流もあり。
何時しかお互いのわだかまりも解けて、現地の人達と彼等が和気あいあいとしているその様子を綾瀬は見ることが出来、思わず笑顔にさせられる。
「本当、皆いい人ばかりで本当に良かったね亮太さん」
「ご注文はお決まりになられましたか、綾瀬さん?」
その様な感想を抱いていた綾瀬の様子をカウンター席の向こう側にある調理場から確認していた割烹着姿が良く似合う、元々お惣菜屋さんを営んでいた若々しい女性が注文を取りに来てくれる。
「あ、えーと……。じゃあこの海鮮丼定食をお願いします」
「はい! 海鮮丼定食ですね? うどんとそばどちらに致しましょうか?」
「うぅ……これはタケノコを選ぶか、キノコを選ぶかぐらい難しいね……。じゃあ、暖かいうどんでお願いします!」
「はい、畏まりました! そちらのお二人様もお決まりですか?」
何故かやりきった様子でほっとしている綾瀬に続いて、穏やかな店員さんは続いてマリナ達の注文を受取りに向かう。
「うーん、じゃあこのハンバーグ定食をお願いします!」
「はい、ハンバーグ定食ですね? かしこまりました!」
マリナは一目見てから決めていた注文を伝え、続けてメニューに書かれているメニューが一切分からず涙目になっていたアルバインに質問が飛んでくる。
「お客さまはお決まりですか?」
「え? あっ、えーと……どうしよう……。では、これをお願いします!」
「はい、かしこまりました! 日替わり定食ですね。少々お待ちください」
そう言って微笑みながら聴き終えたオーダーを料理人へと伝えに行った彼女が視線の中から消えた事を確認したアルバインは、栓が取れて中の空気が抜けて行く風船の様に張り詰めていた力が抜け、暖かい陽射しに当たったっている様な穏やかな笑みを浮かべる。
「ふー……何とかやり遂げました……。これは以前私をお店に連れて来て下さったマスターのお陰ですね……」
「注文一回で何れだけ消耗しているのよアルバインちゃん!!」と、皆から突っ込みを受けそうなアルバインであったが、待っている間の雑談を交える内に余分な力が抜けて何時も通りのペースを取り戻して行き。
やがて皆が待ちに待ったお昼ご飯が一人一人に配られていく。
「お待たせ致しました。日替わり定食です」
「あ、ありがとうございます!!」
そう言って運ばれて来て初めて分かる日替わり定食の内容を見て、アルバインは胸を弾ませる。
(えーと……確かこれは魚介と山菜の天ぷらと、キノコとエビ入りの茶碗蒸し、カニの身が入った春雨サラダ、後はきんぴらごぼうと、取れ立ての魚を用いたであろうつみれ汁に、熱々のご飯ね……)
そんな誰にしているか分からないラインナップ紹介を終えたアルバインは、皆はどんなリアクションをしているかと思い周りを見渡すと。
「凄い! 凄い!! こんな海鮮丼セット見たことないわ!!」
「なななな何なのこのデカイエビは?!!」
綾瀬の前に現れた新鮮で色鮮やかなマグロ、サーモン、甘エビ、イクラ、ウニが乗っている海鮮丼と、伊勢海老の様な大きなエビの頭と身が入れられたどんぶりサイズのうどんに思わず騒ぎ立つ。
「おい、見てみろよ。あんなベッピンさん達が俺達の釣ってきた魚を食べようとしてるぞ!!」
「本当だ! まるで宝石の様なおなご達じゃないか!!」
「これこれ……ここは食事の席だ、おなご位で騒ぎ立つで無いわ……」
その騒ぎに気づいて思わず様子を観戦していたのは今朝早くから舟で海に出て魚達を取ってきたであろう、綾瀬達と同じく昼食を御座敷で取っていたガチムチな漁師のお兄さんとおじさん達であり。
彼等はドキドキした様子で、離れた楽しそうこれから美女達に口にされるであろうその様子を見守っていた。
その事に気がつかずに目を輝かせながら、綾瀬は先ず海鮮丼にわさびを溶かした醤油を少し垂らしてから箸でゆっくりと持ち上げ口に含む。
「頂きます!! あー……ん!!」
「どうだ? 何か言ってるか聴こえるか?」
「落ち着け、まだ一口を入れただけだ……」
漁師達に緊張感が漂い、誰かが生唾を飲む音すら聴こえる程に研ぎ澄ませた耳についに彼女の感想がもたらされる。
「お……」
「【お】?」
「おい……」
「【おい】……?」
「美味しぃぃ!!!」
「「いよっしゃぁぁぁ!!!!」」
まさに綾瀬の頬が落ちてしまう程に取れ立ての新鮮な魚の味は彼女の予想を上回る美味しさであり、その味はスーパーの刺身や、回転寿司屋で出されるお寿司とは別格のものであり。
地元の漁師さん達であっても毎日食べていても病み付きにさせられるその味に綾瀬が歓喜に震えた瞬間、漁師達も思わず大声をあげてガッツポーズを取ってしまう。
そのせいで定食屋にいた大勢の客達の視線が集まってしまい、特に立ち上がってまで歓喜に震えてしまったベテランのおじさんも流石に時が止まった様な状況に冷や汗を頬に流すのだが。
そこに綾瀬自身が助け船を出す。
「あっ! おっちゃん達がこんなにも美味しいお魚を朝早くから捕まえて来てくれたんよね? ホンマおおきにです!! ウチ、こんなに美味しいお魚を食べたんは人生で初めてやったんよ!! ホンマおおきにです!!!」
その満面の笑顔で伝えられた綾瀬からの心からの感謝の言葉に、海の男達は大波に飲まれたような勢いで綾瀬に驚かされ、引き並みの様に心を惹かれて行った。
「あっ、あの!! 俺!! その魚を毎日取りに海に出ているクルシマ・ミチフサ言います!! 良かったらこの後……」
「ああ! ミチフサが一人で抜け駆けしおったぞ!!」
「若僧がしゃしゃり出おってぇぇぇぇ!!!」
そんな世紀末の覇者になりそうな親方の声が後方で響く中で、綾瀬は目の前に現れナンパして来たミチフサと名乗る青年に答える。
「美味しいお魚をありがとう、ミチフサくん。でもごめんね、私はこの後も予定が入っていて君の約束は果たせそうにないの……」
「そ、それって何のですか?」
思わず尋ねてしまったミチフサに答える為の理由をネギを担いだ鴨の様に、丁度良いタイミングでお店に現れた亮太とヒデヨシが来店する。
「あっ、すいません! 先に友人が来ていると思うんですけど……」
「お、何やら変に賑やかじゃのう?」
その姿を視線に捉えた綾瀬は、両手を胸の前でパチンと合わせながら目と顔を輝かせ。
直ぐ様に自分達を探しているであろう亮太の元へと駆け寄り、出迎えに来てくれたと喜び挨拶を交わそうとしていた亮太の空いていた左腕と自分の左腕を組ませ、可愛らしくウィンクしてから綾瀬は今作った用事の理由を答える。
「今日は亮太さんとの初デートの日なの。ごめんなさいね?」
「げほっげほっ……はあ?!!」
「おいおい亮太! 何時の間に綾瀬嬢にも魔の手を伸ばしておったのじゃ!? 羨ましいぞこの野郎!!」
「人聞きの悪いことを言わないでくださいよヒデヨシさん?! 俺が女っ垂らし見たいじゃないですか?!」
「え?! 違うのか?!! てっきりワシはマリナ嬢もアルバイン嬢にも手を出しているとてっきり……」
その予想だにしない言葉に亮太は思わず余計にむせかえり、ヒデヨシの追及に涙目にさせられる程に慌てさせられるのだが。
それよりも今一番優先して解決しなければ行けない問題は、綾瀬の実は彼氏がいる発言の相手が自分であるらしい事と、その火種が綾瀬に迫った青年の心の中で爆発させた後であると言う事であり。
呆然としている青年を尻目に、綾瀬は既に亮太が綾瀬達の分の食費を影で全額払ってくれていた事を確認してから、内心土下座する勢いで亮太に感謝と謝罪を叫びつつ、大舞台の仕上げにかかる。
「さあ、ダーリン!! 行きましょう!!」
「まてまてまて!! 色々と何処に向かおうとしてるんだよ綾瀬さん!!!」
「そ、それは行ってみてからのお楽しみやろ?」
「その夢先は只のハリボテで、突き抜けたら谷底でしたとか言わないでしょうねー!!?」
「あはは! 確かに!!」
そんなやり取りをしながら店の出口へと駆け抜けて行った二人に、突然店に取り残されたヒデヨシにマリナとアルバインは混乱させられる。
「待ってください綾瀬さんにマスター!? 私達を置いて何処にいかれるのですか?!!」
「あーもう! お母さんの悪い癖が出たのよ!!」
「悪い癖ですか?!」
「ええ! お母さんは困っている人のフォローをしようとするのだけど、毎回失敗するのよ!」
「え?! つまり、それって……」
「兎も角……今はお母さんの事は亮太に任せて、私達は呆然としているヒデヨシさんのフォローをしましょう? このままヒデヨシさんを置いて追い掛けてしまったら、それこそ立ち直れ無いわよ……」
「はっ、はい!! 分かりました!」
かくして墓穴にはまった青年を助けようとして、自分自身も転がり落ちた綾瀬に捲き込まれて共に転がって行ってしまった亮太を部下二人がフォローすると言う良く分からない事態となり。
ヒデヨシのフォローが出来てほっとしていた亮太は、今度はそのまま綾瀬の自爆に巻き込まれて行くのであった。




