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アズチ攻防戦

 俺とエ・ルドレが別離の握手を交わしてから、二ヶ月後、諸王同盟の侵攻は始まった。


 エ・ルドレは侵攻時期に関しては一切、虚言を用いなかった、というわけである。


 俺はその報告を聞き、彼の武人らしさにあらためて感じ入ったが、いつまでも感傷にひたっている時間はなかった。


 諸王同盟がやってくる、ということは、今現在、ルトラーラが建設しているアズチ城建設を邪魔する、という明確な意図があるからだ。


 アズチの城は、魔王軍がローザリアを支配する象徴でもあるし、魔王軍の経済の中心地となる場所であった。


 その建設を邪魔されるわけにはいかない。


 俺は魔王様より預かった兵力すべてを出し惜しみすることなく、敵と対峙することにした。



 この会戦、のちにアズチ攻防戦と呼ばれる戦いになるが、魔王軍の陣容は下記となる。



 総大将、魔王軍第8軍団軍団長アイク。その数2000

 第7軍団軍団長セフィーロ。その数4000。

 第5軍団軍団長ウルク。その数4000。

 他に従属同盟下にあるローザリアの援軍、4000。指揮官はアリステア等。


 それに魔王様より、与力として、どの軍団にも所属していない遊撃部隊を2000ほど送って貰った。


 合計すると16000の大軍である。

 今まで統率した軍の中でも最高の数だった。



 一方、諸王同盟の軍団もそれに匹敵する。

 ファルス王国の騎士団を中心にその数15000。

 ほぼ同程度の規模だ。



 その報告を聞いて、サキュバスのリリスはにたにたしている。

 気持ち悪いのでその理由を尋ねたが、彼女はこう言った。


「いや、だって、アイク様、アイク様が相手よりも多くの軍隊で戦えるなんて、初めての経験じゃないですか?」


「たしかにそうかもしれないな」


 旅団長になって以来、いや、部隊長のときから、常に兵数的劣勢の環境を与えられ、戦ってきたような気がする。


 1000とはいえ、相手よりも多くの兵を率いられのは有り難かった。

 ただ、楽観はしていないが。


「元々、魔王軍の戦力は人間とは比べられない」


 俺はリリスに説明する。


「魔王軍は、魔族、魔物、それに今は人間の混成部隊だ。魔族は敵の強力な魔術師や騎士と互角以上に戦えるが、逆に、コボルトやオーク、ゴブリンは、並の兵士よりも弱い」


 そう考えれば、プラスマイナスゼロ、とも考えられるのだが、ともかく、単純に数だけで比較できなかった。


「それに我が軍は、人間やエルフ、ドワーフとの混成部隊だ。統制が取れなければ、逆にその数があだとなって、敗北の原因になってしまうかもしれない」


 俺がそう言うと、近くにいた魔女が口を挟んできた。


「相変わらず心配性な男だな。それを言うのならば、敵軍も似たようなものだろう」


 セフィーロは遙か遠方にいる諸王同盟の軍隊を魔法によって映し出す。


「ファルス王国が中核になっているが、その他の国の国旗も多数見られる。敵軍もまた一枚岩ではない。条件が同じならば、指揮官が優秀な方が勝つ。それがいくさじゃ」


「指揮官の能力が互角だったら、ですがね」


「案ずるな。多少、相手が上回っていても、その分、軍師が優秀ならばよいのだ。今回、妾はお前の側におり、的確にアドバイスをしてやろう。これで軍師が優秀な分、我が魔王軍の勝利は疑いない」


 彼女はそう言うと俺の横に陣取った。


「団長には第7軍の指揮を執って貰いたいのですが」


「指揮ならば、マンティコアのクシャナが採ってくれる。ピンチになればすぐに代わるわ」


 彼女はそう言い切る。断固として俺の横を動く気はないようだ。

 俺は溜息を漏らすと、彼女を陣に戻すのを諦めた。

 それを見て魔女はにやりと笑うと、俺に作戦の概要を尋ねてきた。


「さて、総司令官殿。諸王同盟はどうやって倒す」


 単刀直入であるが、俺も率直に返した。


「まずは鉄砲隊を前面に出し、敵軍の出鼻をくじきます」


「当然の戦術だな。鉄砲は最強の武器だ」


「しかし、それだけでは致命傷にならないでしょう」


「ふむ」


「鉄砲は最強の武器ですが、ここ数年、使いすぎた。敵軍もさすがに対処法を覚えてきたはず」


「たしかにな。最近、効果が薄くなってきておる、……ような気がする」


「実際、ローザリアでは雨を待たれましたし、この前戦った敵は、魔術師を前面に出し、防御壁を張った。あとは戦国時代によく見られた傾斜防壁もよく見ます」


 傾斜防壁とは、木材などを束にして、斜めに設置し、鉄砲の弾の軌道をそらす物体のことだ。存外馬鹿にならない効果がある。


「それに噂ですが、敵軍もそろそろ鉄砲の量産を始めたとか」


 俺がそう言うと、魔女は眉をしかめたが、まさか、とは言わなかった。


 元々、魔王軍の技術力は人間に劣っている。そんな魔王軍が鉄砲を持てたのは、俺のもたらした知識と、ドワーフの技術力のおかげだった。


 度重なる戦闘で鹵獲された鉄砲を解析される。もしくは(考えたくもないが)魔王軍に裏切り者がいれば、鉄砲の製造法、それに火薬の製造法が流出しない、とは言い切れなかった。


「……まあ、こちらの方は未確認情報なので内密に。士気に関わります」


「だな。魔王軍に裏切り者がいるとは思えない」


「いないことを祈りましょう」


 俺はそう言い切ったが、最悪、敵軍も鉄砲を装備し始めている、という前提で指揮を執ることを心がけた。


 少なくとも鉄砲頼りで戦闘は行うまい。

 そう思った。


 ただ、頼りにはしないが、鉄砲という武器がある以上、全面的に活用させて貰うつもりだった。


 前言通り、人間の部隊に鉄砲を渡すと、敵軍がくるのを待った。

 諸王同盟が近づき、有効射程圏内に入れば敵を撃ち抜くよう命令を下した。

 俺の命令は、翌々日の正午、諸王同盟の先発隊が姿を現した途端、実行された。

 こうしてアズチ攻防戦は始まった。

 戦国の世からもたらされた鉄砲の轟音の響きによって――。

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