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【序章:お前が弱くて追放されたんじゃない、お前ら全員クレイジーなんだよ! 俺はもう辞めてやる!】

 ナレーション「お、よぉ、そこの坊主!こんなところで奇遇だな」


 ナレーション「なんでまた俺なんだよ!?」


 ナレーション「俺はこういう奴さ。風のように現れ、風のように去る。縁があれば、そこにいる……」


 ナレーション「よし、俺の次の話を聞いてくれ。マスター、上等なやつを頼む」


「見つけたぞ! ここに隠れてやがった! ぶっ飛ばせ! この映画泥棒を警察に突き出せ!」


 ナレーション「待て! 説明させてくれえええっ――!」


 マスター「ちょっと待て! お前、金払ってねぇだろ!」


 手錠をかけられたナレーション「……さっきの注文は、あっちの坊主につけといてくれ。奢り(おごり)だってよ……」


「大人しく車に乗りやがれ!」


 警察が乱暴にパトカーのドアを閉める音が響き渡る。


 ――バァンッ!


 森の境界線から、突如として激しい衝撃音が響き渡った。 辺りには紫色の残骸と、無残に散った深淵の兵士たちが散乱している。 ただ一つ、地面に固定され、枯れ草で覆い隠された紫色の砲車だけが、森の外へと続く道路にその不気味な砲口を向けていた――。


 傍らの樹木の根元に、軍服を纏ったドワーフの兵士がへたり込んでいる。 怯えた瞳を彷徨わせながら、水筒の烈酒をあおっていた。 彼の傍らに置かれた小銃の銃身からは、まだ肉眼では捉えきれないほどの微弱な熱気が立ち上っている。


 ドワーフの若造は、呆然と目の前の光景を見つめていた。 たった今、伏撃を終えてパイプをくわえたばかりの人間の男と、狂気じみたハイエナ。 二人はまるで何事もなかったかのように、悠然とそれぞれの作業に戻っている。


 オールドマンはだらしなく両脚を投げ出し、照準器の前に腰掛けていた。 パイプをくわえたまま、狂特ハイエナが差し出してきた紫色の砲弾へ視線を落とす。 その弾頭には、白い塗料で歪な大文字が殴り書きされていた。 ――『ベビー:あちょびまちょ』。


 歪にねじくれた文字と絶望的な誤字を見つめ、オールドマンは眉をひそめた。 「……話は通じるが、読み書きはてんでダメだな」


「うるせぇよ、この死に損ないの老いぼれが」 狂特ハイエナは不満げに鼻を鳴らした。その顔からお決まりの不気味な薄笑いが消えている。 砲弾を容赦なく紫色の砲門へと押し込んだ。


 三人はその場でしばらく息を潜めていた。 やがてオールドマンは、遥か遠方の道路を、一列の紫色の軍勢がホーリー・グロリア・キュリアの懐へと向けて行軍しているのを捉えた。


 それを見たオールドマンは背筋を伸ばし、砲車のハンドルを回し始める。 砲口が敵の進路の先――偏差射撃の位置(リード)を捉えたところで、ぴたりと手を止めた。


「大逆不道のクソ野郎どもが。このダディを随分と待たせてくれたじゃねぇか……」


 照準器を覗き込み、先頭の車両がレティクルに重なるのを待つ。 ――今だ。 発射レバーを一気に引き絞る。


 砲口から紫色の閃光が爆発的に迸り、紫電の光弾が遠方の敵砲車へと吸い込まれていった。 弾頭が装甲を食い破って内部へと貫入し、次の瞬間、ハッチから噴き出した紫の火花が、敵の砲車を内側から木っ端微塵に吹き飛ばした。


 吹き飛んだ砲塔と、ちぎれた紫色の敵の残骸が、虚空へと高く舞い上がる――。


「おほーっ! 見ろよ、あの紫のクソ虫どもの飛びっぷりを。芸術点10点だな」 オールドマンは照準器を覗いたまま、愉快そうに大笑いした。


 深淵の敵軍が、こちらの方角へ向けて砲門を旋回し始めるのが見える。 オールドマンは口角をつり上げ、後方を急かした。 「次は『ベビー:たたあうって書け!」


 背後で狂特ハイエナが忌々しげに舌打ちした。 「それはもう書いた」


「そうかよ……」 オールドマンは不満げに唇を尖らせたが、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「なら、『ダディのおしりペンペン!』にしな」


 狂特ハイエナは、すでに『DADY KIK ASS!』と落書きされた次の砲弾を、オールドマンの目の前へと突き出した。


 歪にねじれ、おまけにスペルまで間違っている落書きを見つめ、オールドマンは呆れて言葉を失った。 しばらく無言の沈黙が流れた後、彼は肩をすくめ、諦めたように首を振る。 「……まぁ、悪かねぇな」


 敵車列の最後尾にある砲車に狙いを定める。 照準器に顔を近づけ、輪桿を回してレティクルを目標に重ね、高低差を微調整する。 迷いなく、レバーを引いた。


「ハッ、見ろ! あの砲車のケツを蹴り上げてやったぜ」 オールドマンは、着弾の瞬間、砲車の後部から鮮烈な火花が飛び散るのを確かにその目で確認した。


 後方でドワーフの兵士が望遠鏡を握りしめ、悲鳴のような声を上げた。 「た、大変です、隊長! 敵にこちらの位置が割れました……!」


 オールドマンはゆっくりと身を翻した。 椅子の背もたれに腕を掛け、不敵に口角を上げて怯えるドワーフに問いかける。 「おい、頼んでおいた『準備』はできてるんだろうな?」


 どこまでも泰然自若な二人の変人を前に、ドワーフの若造は冷や汗を流しながら、必死に頷いた。 「は、はい……準備万端です……」


「よし、ハイエナ。砲弾を山積みにしろ。ずらかる準備だ」 オールドマンは立ち上がり、軽く肩を回した。


 敵の襲撃ルートを素早く見極め、オールドマンはドワーフのルーキーがこしらえた、軍服を被せられた不恰好な案山子を砲座の傍らにしっかりと固定した。その足元に、大量の爆薬を詰め込んでいく。


 狂特ハイエナがテキパキと積み上げた砲弾や火薬と連動させ、三人は手際よく導火線を繋ぐと、気配を消して砲座を後にした。


 生い茂る森の茂みに身を潜め、三人は砲座へとじりじりと近づいてくる敵の軍勢を凝視していた。


 オールドマンは狂特ハイエナに視線を送った。 無表情のまま、手元の伝話器を口元へと寄せる。 それを察したハイエナも、氷のような無表情で自らの伝話器を持ち上げた。


「来た来た、あのクソ野郎どもが這いずって来やがったぞ……」


「ああ、怖い。怖くて死にそうだ。お願いだから許して、降伏するよぉ……」


 二人は伝話器に向かって、白々しいお芝居を掛け合い始めた。案山子の傍らに放置されたスピーカーから、間抜けな音声が周囲に響き渡った。


 敵兵たちは武器を構えて慎重に距離を詰め、やがて案山子の胸元に掛けられた看板に気づいた。そこには、『ベビー、はなびショーがみたい』と書かれていた。――今だ。ドワーフの兵士が、バチバチと電弧が弾ける水晶の埋め込まれた起爆装置を力任せに回した。


 電流が導線を駆け抜けた。深淵の兵士たちが気づいた時には、すべてが手遅れだった。砲座から猛烈な紅蓮の炎が天を衝き、直後に紫色の爆震がすべてを飲み込み、砲陣地一帯を跡形もなく吹き飛ばした――。


 


 ──────────────────────────────────


 


 伏撃は無事終了した。 三人は連合軍の前線陣地へと帰還する。 だが、オールドマンたちが司令部へ足を踏み入れるより早く、ドワーフの兵士が脱兎のごとく大隊長の執務室へと駆け込んでいった。


「大隊長閣下! 俺はもう辞めます……! 他部署への転属を申請しますっ!」 顔を真っ青に染めたドワーフが悲痛な悲鳴を上げる。 「最前線で肉壁になるほうが、まだマシです!  あんなイカれた連中の茶番に付き合うなんて、二度と御免だっ!」


 オールドマンと狂特ハイエナが執務室に辿り着いた時。 ちょうど扉が勢いよく開き、うなだれたドワーフの兵士が二人の脇をすり抜けて猛スピードで去っていくところだった。


 二人は顔を見合わせた。一方が片眉を上げ、もう一方が肩をすくめた。何事もなかったかのように、執務室へと足を踏み入れた。


 バイ指揮官は、後から入ってきた二人をジロリと睨みつけた。オールドマンが対面のソファに腰を下ろすのを見届け、重いため息を吐いた。「……この1年半で、お前はもう30人以上の部下を――」


「37人だ」 オールドマンは手元の灰皿を引っ張り寄せ、パイプの灰をコンコンと叩き落とした。涼しい顔で数字を訂正しながら、手際よく新しい煙草葉を詰め、火を灯した。


 バイ指揮官は顔を引きつらせ、無言でオールドマンを睨みつけていたが、やがて諦めたように言い直した。「……そうか、三十七名の兵士、だな」


「仕方がねぇだろ。どいつもこいつも新米ばかりだ。俺が直々に精選した奴らの足元にも及びやしねぇ」 オールドマンは背もたれに深く寄りかかり、天井に向けてゆっくりと紫煙を吐き出した。


「そのうち三名は戦死しているぞ」 バイ指揮官はティーポットを持ち上げ、自分とオールドマンのカップに茶を注ぎながら苦言を呈した。


「一人は恐怖で腰を抜かして敵にハチの巣にされ、もう一人は運が悪く、撤退中に間近で砲弾を喰らいやがった。そして最後の奴は……ゴホッ……ゲホッ、ゲホッ!」 その三名の新兵どもの最期を思い出し、言葉を続けようとしたオールドマンだったが、喉に痰が絡んだように突如として激しい咳を繰り返した。


「煙草を少しは控えろ。いい加減、吹っ切れたらどうだ、オールドマン」 バイ指揮官は激しく咳き込む彼を心配そうに見つめ、眉をひそめた。その瞳には、隠しきれない憂慮が満ちている。 「一年半前よりもさらに酷くなっているぞ。パイプの火が消える間もなく次の葉を詰めて、まるで自分を痛めつけているようだ。命を粗末にするな」


 オールドマンはポケットから薄汚れたハンカチを引っ張り出し、口元を拭って乱暴に誤魔化した。 「……たまには狂特ゴブリンや恋銃癖のやかましい声が恋しくなるのさ。あの忌々しい事件のあと、連中、どこへ消えちまったのか……」


 バイ指揮官は両手で顔を覆うように顎を支え、オールドマンをじっと見つめた。 「必要なら、俺が部下に奴らの足取りを調べさせてもいいが?」


 オールドマンはしばらく考え込み、ハンカチを無造作にポケットへねじ込んだ。 「……いや、いい。もともと半分脅迫して無理やり小隊に引きずり込んだ連中だ。去るのも残るのも、奴らの自由さ」


 オールドマンは話を本題へと移し、最近新設された部隊から届けられた極めて正確な偵察情報について口にした。「それにしても、あの時に提案した斥候と遊撃兵の統合運用だが……。お前らの訓練効率は予想以上に早いな。もたらされる情報も実に正確だ」


 バイ指揮官は椅子の背もたれに体を預け、誇らしげに口角を上げた。「彼らは『特遣第一大隊』だ。お前が事前に警告してくれたおかげで、この編制は大きな成果を上げているよ」


 オールドマンは満足げに頷いたが、すぐに表情を引き締めた。「情報は確かに正確だ。だが……ノルド戦線はどうするつもりだ? 敵が近代化武装を施して以来、連合帝国と我々を繋ぐ唯一の連絡路が占拠されたままだ。奪還の計画はあるのか?」


 バイ指揮官は茶を一口すすり、卓上の地図を見つめてしばらく沈黙したのち、答えた。 「……当面、その予定はない。それよりも俺は、連合開発部が人間や物資、装備を『空へ送る』という話が気になっていてな」


「空へ送る?」 オールドマンは少し好奇心を惹かれた様子で、パイプを手にしながら、連合開発部がどうやって物を空へと送るつもりなのかと思案した。


「ああ。金属の箱を空へと飛ばすつもりらしい」 バイ指揮官は聞き及んだ話を思い返し、頭の中で、履帯のついた金属の箱に翼が取り付けられているという滑稽な光景を思い描こうとしていた。


 オールドマンはしばらく考え込んだ後、口角を上げて言った。 「面白いな。もしこれに……ゴホッ、ゲホッ!……もしこの金属の箱に爆弾を載せて、空から落とせば、これは新しく使えるデッキ(手札)になるぞ」


 バイ指揮官は一瞬、驚きに呆然としていたが、やがて目を見開き、ゆっくりと頷いた。 「聖光よ、お前はいつもそんな奇妙なことばかり考えているのか? 爆弾を縛り付けて空から落とすとは……。成品ができたら、試してみるといい」


 この新しい「玩具」でどんな面白いことができるか期待し、思いを巡らせていたオールドマンは、やがて表情を引き締めて尋ねた。 「それで、特遣第一大隊から何か新しい情報は入っていないのか?」


「いや、今のところこれ以上の報告はない。何か動きがあれば、真っ先にお前たちに伝える。その時は、また頼むぞ」


 話が終わると、オールドマンは立ち上がった。ソファに横たわって退屈そうにしている狂特ハイエナを連れて、部屋を出て行こうとした。


 オールドマンが扉から出て行こうとした時、背後からバイ指揮官の声が追いかけてきた。 「おい。この空白の期間、少しは体を大事にしろよ。お前がそうやって自分を痛めつけたところで、あのトロルだって喜びやしないぞ」


 オールドマンは振り返らず、ただ片手を軽く挙げて「分かっている」とだけ示し、部屋を出て行った。


 バイ指揮官は彼らの去った静かな執務室で、再び視線を地図へと落とした。深い、疲弊に満ちたたいため息を漏らす。


(──この戦いは……一体いつまで続くのだろうか……)

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