Sid.0-1 境界を越えた先の世界で
現実にそれを実行すれば罪になる。罰としては国によって様々だけど、どの国もそれを認めないのは世界共通。
でも、ここでは違う。
法の支配が及ばない世界。ゆえに管理者が規則を定めるも、逸脱する存在は常に発生するもので。
まあでも結末は予想できていなかったわけじゃない。
僕に向かう邪悪な害意は相応の結果でしかないから。
複数に対峙し制圧してきたからこそ、そういうこともあるのだろうと、あとで気付いたわけだけど。
簡単に人が死ぬ世界だ。そして人を殺してしまう世界でもある。
僕もまた殺してしまったこともあるし。でも仕方なくと言うか已む無しだった。楽しみながら殺す奴も居るけど僕は違う。少なくとも守りたい存在のために力を行使したに過ぎない。
でも現実にそれをすれば理由の如何を問わず罪だけどね。
この世界だからこそだ。
さて、そんな物騒な世界ではあるけど。
活動拠点としている町を出て、迷宮と呼ばれることもある洞窟を攻略すべく、現在徒歩で移動中。向かう先の名称はカヴェルノ・デ・プロヴォイ。試練の洞窟という意味だ。
僕が所属するグループ四人と、合同で攻略すべく臨時で参加した六人組。六人組はモルディストと言う名称を持つグループだ。
事前に難易度が高く頭数を揃えた方がいい、と冒険者ギルドで言われたからね。そこで仲間を募ったら集まったのが件の六人組。
揃いも揃って目付きは悪いし態度も横柄。これが冒険者の標準なんだろうと諦めたけど。
今まで僕と行動を共にする冒険者以外、まともな存在を見たことがない。
僕の仲間になった人たちは良識があるようで何より。
「ねえ、あの連中」
「ずいぶん距離取ってるな」
「感じ悪い」
失敗したかと全員が思ったけど、今さら引き返して仲間を募集し直しても、時間が勿体ないってことで。
「仕方ないな。今回だけで戻ったら解散しよう」
「でも何かあったら?」
「逃げる」
「逃げられるの?」
僕が居るから何とかなるだろうって他力本願なようで。
「それにフリクトもあるだろ」
「安易に使うと勿体ない」
「緊急時と判断したらだ」
フリクト。緊急時の脱出アイテム。洞窟や神殿に迷宮と呼ばれる場所から、瞬時に脱出できる魔法の道具だ。フィールド上では意味を成さないけど、逃げるのが困難な場所から離れることができるからね。一つあれば最大で十人を転移させる。
便利なアイテムだけど実は高額で数を揃えるのは困難。
「あの連中って」
「相当なベテランらしいです」
「強いんだ」
「味方であれば心強いと思いますよ」
僕に話しかけてくるのは治療士の女性でフラウ。他に重騎士のマサは男性で僕らのリーダー。精霊召喚士のヴィーラが女性で、魔法剣士の僕を含め四人組となっている。
出会った当初は三人は僕よりレベルが低かった。鍛えていたら上昇したけど、それでもまだ開きがあるけどね。でも信頼できる人たちってことで。
メンバー同士で親交を深めるようになってきてたし。
洞窟の前に到着すると守衛が居て「入るのは勝手だが自己責任だからな」と言われる。それと同時に洞窟に入るなら松明は必須だと言われ、ここで販売してるとのことで購入してから洞窟内の探索に向かう。
他の洞窟へ向かった時も同じだった。なぜか洞窟の前で商売してる。理由は、ここでしか使わないからだそうで。聞いたわけじゃないけど。
この時はまだ警戒はしていても、本当に懸念した通りになるとは思ってなかった。
隊列を組んで侵入するけどマサが先頭。次いでヴィーラ。マッピングを担当するフラウ。殿が僕。更に五メートルくらいの距離にモルディストの面々。
洞窟内へ侵入すると直線で五十メートルはあるトンネルの如き洞窟。
壁は手掘りで掘り進んだかのようで、凸凹が激しく床も多少なだらかではあっても、それなりに凹凸があり走るとコケそうだ。手強いモンスターと遭遇したら逃げるのも苦労しそうだ。
松明に火を灯し内部を照らすマサ。洞窟内を覗き込んで「洞窟だな」なんて言ってる。するとフラウに「洞窟でしょ」と言われヴィーラに「当たり前のことを」なんて言われてるし。
「いちいち突っ込むなよ」
「突っ込まれること言うからでしょ」
「あのなあ」
ここまでは緊張感もあまりないみたいで。
さて、洞窟探索にマッピングは欠かせない。主洞の他に支洞も多く分岐する場所もあるから。中で迷子になるとアイテムでの脱出になりかねず。そうなると費用ばかり掛かって持ち出しが稼ぎを上回ってしまう。
だからアイテムは最後の砦。
内部にはモンスターが徘徊していて、遭遇戦が度々発生するから気も抜けない。
やっと緊張感を見せるメンバーだ。
マッピングを担当するのは戦闘しないフラウの役割。他の洞窟で慣れてもらっていた。最初の頃は要領を得ず苦労してたけど、今は効率よくマッピングをしてくれるからね。
慣れって凄い。
マサが後方から付いて来るモルディストに向かって「今から入るけど後方は任せる」と言う。
「了解」
たったそれだけの返事。任せて大丈夫なのか心配になるな。
慎重に歩みを進めると扉がある。
「洞窟にドア?」
引いて開けようとすると開かず「押すんでしょ」と言われ押し開ける。
中へ踏み込むと薄暗い洞窟内があり、松明で照らすも光が届くのは、せいぜい七メートル程度。しかも七メートル先はほぼ闇に包まれる状態だ。
少し進むとモンスターが居ることが分かる。僕には暗視の魔法があることで、本来なら松明は不要なんだけど、他の三人は光源が必要だから。
モンスターが居ることを伝え戦闘態勢を取り、多少苦戦するもののマサが攻撃を抑え、ヴィーラが精霊を召喚し倒した。
さらに進むと支洞も増えてきて、マッピングの手間が増す。今回は本洞に絞って進むことに。支洞はある程度攻略したら、と言うことにしたから。
後先考えずに進めば帰還すら困難になるし。慎重さを見せるのは悪くないよね。
何度か戦闘を熟して三つある扉の一つを開ける。
「急に広くなった」
「少し明るいね」
「へえ、洞窟内にねえ」
足を踏み入れると入って来た側の扉が閉じた。後方を付いて来ていたモルディストの面々と分断されたようだ。少々狼狽え気味のメンバーだけど。
一瞬、モルディストの連中に謀られたと思うも、この部屋はおそらくボス部屋だと勝手に解釈する。奥の方に異形の存在が居たから。
そのモンスターは結局、ほとんど戦闘にならず倒してしまった。僕が。呆れながらも称賛するメンバーだけどね。
そして倒したあとにフロアボスと確定。入ってきた扉が開き奥の方にも扉が出現したから。隠し通路でもあるのか。でも、それは下層階へ続く扉だったようだ。
扉が開くと分断されていたモルディストのメンバーと合流する。
だがここで急転直下。
最初にフラウが殺害され続いてヴィーラも殺害される。近接戦闘を熟せない二人から。治療ができないようにし精霊を召喚させないためだ。自分たちのリスクを下げるのもセオリー。
「くっそ、こいつら」
怒りに震えるマサだけど多勢に無勢。追い詰められていく。
僕もまた途中から数が増えたモルディストの連中を相手にする。ただ相当警戒はしてるようで。
「ジーベンス!」
瞬時に五人倒すとモルディストの連中の警戒感が高まる。
マサに構っていた連中がマサを殺害し、加勢するようで集まると総勢八人に。
一筋縄でいかないと判断したのだろう、僕の視界を奪う強烈な光を発生させると、間髪入れず剣が胸元を貫いた。自分の胸元から剣が生えてる。
揺らぐ視界の中、魔法をかろうじて発動させると、全員を倒しきれたのが分かる。
視界が徐々に暗くなり意識を手放した。




