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7-15.神の居ぬ間に(前編)

挿絵(By みてみん)


アイスとイグニスがやってきた。

どうせ、ろくな話じゃないだろうと思ったが、もちろん、”ろくでもない話”だった。


「おい、トルテラ、あのな、イグニスが、竜はう〇こしないって言うんだよ」

アイスがいきなり言う。


……………………


ああ、そういえば話してなかったか。

しないわけではないが、ボス部屋は神殿跡地と同じで、竜の周辺は浄化される。

汚物は、星になって消えていくのだ。

ディアガルドのボス部屋は、地下なので湿気が凄くて清潔感は無いけど、汚くは無い。


「実際見てわかっただろうけど、汚物てんこ盛りなんて無かっただろ。

 神殿跡地と同じで星になるんだ」

と言うと、意外な言葉が返ってきた。


「え? 星になるってなんだ?」


いや、そうか。アイスは見たことが無いのだ。

俺は俺のタイミングでトイレに行くのでいつも星が見えるが、俺以外は、たまたま俺がトイレに行ったタイミングでもない限り、星は見ることがない。


おそらく見たことが無いのだろう。


俺が「星みたいのがキラキラして消えるんだよ」と言うと、

「ほれ見ろ、竜はう〇こなどせぬ。星が出るのじゃ」とイグニスが言う。

勝ち誇った顔をしていて、なんかちょっとイラっとした。


「わらわが竜はう〇こしないって言ってた。

 ……ってことは、トルテラはやっぱり竜?」とアイスが言う。


「いや、俺あの部屋以外では普通にするし」と言うと、

「そういや、そうだな」とアイスが言った。


見たことあるのかよ……と、ちょっとだけ思った。


「星になるのはディアガルドの周辺だけだろ」と言うと、

「そういえば、妾もこの体でも、あそこでは星じゃったの。

 思い出したわい」とイグニスが言った。


俺の脳内では”女の子は、う〇こしない”という設定になっているのだ。

だから、そういうことを俺に言わないでくれよ……と思った。


実際のところ、生活に極めて密着に関係していることなので仕方ないのだが、聞かなかったことにして、できるだけスルーしている。


スルースキルが重要になる世界なのだ、ここは。


……………………

……………………


「トルテラ、教えてほしいことがある」と珍しくまじめな顔でアイスが言う。


俺は、たぶん、どうでもいいことなんだろうな……と思った。

「なんだ?」


もちろん、どうでも良いことだった。

「星になれば”ゴールデンタイム”には引っかからないのか?」


それを聞いてどうしようと言うのだろうか? でもまあ星なら問題ないような気がしたので

「引っかからないんじゃないか」と適当に答えておいた。

どうせ星になるのは神殿跡地とあの部屋だけだ。


……と思ったトルテラの判断は間違っていた。


少し先の話だが、子供向けの本の中でそれまでは記載されることの無かった内容の一部が記載されるようになり、星が飛び散るという表現に変わったのだ。

首が飛ぶとき星が散り、クリティカルヒットのような表現になった。

敵を倒す時ならともかくとして、味方が死ぬ悲しいシーンもクリティカルヒットになっていた。


後に、それを見たトルテラは、”ずいぶんおかしな表現をするのだな”と思ったが、それが自分のせいだとは気づかなかった。


=======


一方で、どうでも良くないことも起きていた。

俺の居ない間に城下町は危機に瀕していた。


ディアガルドにボス部屋に閉じ込められたせいで、俺が消え、女たちも消えた結果、ダルガンイストとトート森で戦争が起きそうになっていた。

たった3日間、俺が行方不明になれば、もうそれが引き金で、作戦が実行されてしまうのだ。


仕組みは簡単だ。俺が居る間は、戦争しても俺が付いた方が勝つからあんまり意味がない。

だからやらない。


俺はどうせ人力の普通の武器くらいで攻撃しても死なないし、兵も怖がって攻撃してこない。

それに、俺が居る方に勇者が付く。

兵は俺と勇者について来るし、敵側の士気が下がるとますます兵は勇者に付く。

これじゃ戦いにならない。

だから戦争は起きなかった。


ところが、俺が不在になると話は変わってくる。


”トート森”と”ダルガンイスト”は、距離的に遠いので今までは問題なかったが、城下町というおいしい土地で両国の影響範囲が重なってしまった。

そこに神が隠れた……ということらしい。


いや、その言い方やめろよ。

俺が死んだみたいじゃないか。

俺の居た世界では、隠れたというのは死亡の意味になる。


ただ、戦争というものは、始めるのに準備に凄く時間がかかるのだ。

特に自動車とか飛行機とか無い、この世界では凄く時間がかかる。


そして、俺は10日ほどで戻ってきた。


この世界での10日は大した日数ではない。

”連絡して色々決めて、準備して、出撃します!”というのは相当長い時間が必要になる。

元々準備進めてたって、2か月くらいかかると思うのだ。


普通だったらそうだった。10日くらいで何か起きたりはしない。

だが、城下町はちょっと事情が違っていた。

早々に軍が動いた。

つまり、軍が元からいつでも行動できるような準備を整えていたということになる。


元々、トート森とダルガノードは散々城下町に投資してるし、元々仲が悪いけど今は組んでるだけなので、何かあっても良いように城下町から少し離れたところにそれぞれ兵を置いている。

なので、本体は別として、先行部隊が些細なことですぐに出てくる。


ここは北のマイト候の領地なので、当然北のマイト候の兵も出てくる。

当然だ。自国の防御のためだから。

よくわからないのが南のマイト候で、何故か兵を出してきた。

意味が分からないが、北が出せば南も出すらしい。


……で、進軍が始まった後で俺が戻ってきてしまった。

そこまでは良いとして……良くは無いが、俺が帰ってきた。


だから、兵は要らんだろと俺は思うのだ。


なのに、兵は退かなかった。

戦争の準備は始めちゃったけど、実際の戦闘が始まる前に俺が戻ってきた。

そのタイミングが微妙だったせいで、なんか各国の兵の配置が微妙な感じになってしまったのだ。



幸いにも協定があって、町は安全地域になっている。

元々町が欲しいから戦争になるのでここは安心だ。

それに、もし町が破壊された状態で俺が戻ってきたら大変なことになる。

俺の家壊したら、たぶんその国負けるのだ。勝手に竜が出て。


実際にどうかは知らんけど。


町から少し離れたところにトート森とダルガノード両国の陣地が築かれている。

北のマイト候の軍も陣地を構えている。

南のマイト候の軍勢もすでにこちらに向かっている。



なるほど。俺の影響力は大きすぎるのだ。

俺が居るだけで町ができてしまうのだ。

そして、俺が居なくなると町の取り合いで戦争になる。


とりあえず、俺は自分が死んだ後のことも考えないと駄目なようだ。



”終活”そんな言葉を思い出した。

自分が死んだ時のことを考えて自分で自分の死の準備を進めておくことだ。

俺には家族は居なかった。

だから、いつかは、終活したのかもしれない。


俺はたぶん、何も後始末せずに日本から失踪してしまった。

皆に迷惑かけてしまったに違いない。

ただ、何故かその”皆”が誰なのかさっぱり覚えていないのだ。

普通に会社員だったことは覚えている。満員電車で通勤していたことも。

ところが何故か、親しい人のことは覚えていないのだ。


でも、自分が死んだときに備えるってのは昔の大名とかも同じだったし、現代日本でも資産家ならそういうものかもしれない。

でも、一般人でも生命保険かけてるし一緒か。

俺には家族もいなくて、特に何もする必要がなかったから考えなかっただけで、むしろ俺の方が例外なのかもしれないな……と思った。

いや、独身で俺の歳なら、いつ死んでも良いように準備なんかしない。


まあ、でも、今は考えておかないといけないのだ。

俺はこの町の町長でも何でもないけど、俺が不在なだけでこうなってしまうのだから。


この世界の貴族も同じだと思う。

自分の死後のこととか考えても嬉しくないと思うが、影響力のある人間は、自分が居なくなった後のことも考えて動かないといけないのだ。

俺が死んでも、戦争起きないようにしてから死ななきゃならないのだ。


……でも、よく考えると、それだと、戦争するのは俺のせいみたいな感じがするから、”俺のことなんか気にせず勝手に戦争しろよ”と思った。



とは言え、結局俺は戻ってきたわけで、これから戦争始めても、もう遅い。

意味がないので撤退する……俺はそう思っていた。


ところが、4軍が俺の城下町を囲んで一触即発って感じでもないが、撤退する様子がない。

四つ巴になってしまった。


うちは高台にあるので、けっこう遠くまでよく見える。

「4軍に囲まれるとは、神と言うのは凄いものだな」とリーディアが言う。

こいつは、神がどれだけ凄いか感心するのが趣味という、悪趣味な女だ。


「ねえ、本当に大丈夫なの?」

「トルテラが帰れって言えば、すぐ帰るよ。言ってきなよ」


確かに、偶発的な何か些細なことから戦いが始まると危ない。

「帰るように言ってみるか」と俺が言うとリーディアが言う。

「あの程度の人数で戦争始めたところで、あなたが居ればすぐ止めることができる。

 気にする必要は無い」


こいつは、また何か悪いことを考えてるのだ。


「なんだ? まだ勇者の話に続きがあるのか?」と言うと、

リーディアは「勇者。そう呼んでも良いかもしれないな」と答えた。


何かあるのだ。俺は勇者本はちゃんと調べた。

……が、子供が生まれて幸せに死ぬだけだったはずだ……いったい何を言っているのだろう?

そう考えていると、

「あなたは何も気にする必要は無い。神なのだから」とリーディアが言う。


まあ、その通りだ。

俺が何者であるかは置いておいて、俺が何をしても、結果はだいたい俺にとって都合の悪い方向に転がる。

この世界はそういうようにできているのだ。


リーディアが、各国の代表集めて演説する計画を進めようとしたので、慌てて止めた。

めんどくさいので放置することにする。


========


「今日の添い寝誰だっけ?」「私だ。あと一人は誰だ?……テーラだな」


”お前ら緊張感が足りないんだよ! 四方を囲まれてるんだぞ!”

と思ったけど言うのはやめた。

たぶん、言ったところで、大鎧の書に何も出て無いから誰も死なないと言い張るだけだから。



緊張感が足りないにも程がある……と言うかなんと言うか、いつも通り添い寝しないとダメらしい。

「トルテラは、小さいおっぱいが好きなの」とテーラが言い、

「そうか? 大きいのも好きなようだが。

 そうだな、どっちが好きか試してみるか」とリーディアが言う。


いや、それ、もう5回くらいやってると思うんだけど……と思った。


いつも通りの乳比べで、リーディアのはかなりでかいので、体重が乳に集中して、乳圧縮って感じで迫ってくる。テーラの方は密着するとペタっと付く感じで、どっちにしろ俺は動悸が凄くなってきて、これって、同時にくっついてきたらどっちが好きかわからないと思うのだが……と思いつつやはり乳には勝てず、気を失ってしまう。


その瞬間、

「どうやらトルテラは大きいのが好きなようだな」とリーディアが言い、「トルテラは小さいおっぱいが好きなの」とテーラが言う。

二人の意見は真っ二つに割れたように聞こえるのだが、言い争いになるわけでもなく、二人とも満足そうだった。


平和で良かったと思うとともに、いつも酷い目に遭うのは、俺ばっかりだなとも思い、ちょっと悲しくなる。


========


もちろん朝になっても四つ巴のまんまだ。

いつ戦いが起こってもおかしくないのだが、戦う気もないようで、何故かそこに留まって何かを待っているかのようだ……たぶん、俺が何かをするのを待っているのだ……と思う。


この世界は、俺が数日不在なだけで兵が押し寄せたりする割には、リアルな影響がある。


人と言うのは、居れば居る分だけいろんなものを消費する。

人はただ居るだけで経済効果を生む。

このあたりは周辺に町は無く、城下町は陣地から近いので、各国の兵が城下町に遊びに来る。


この世界、人口が少ないので、いろいろ規模が小さい。

200人規模の町を200人くらいの兵で囲んでるので、仕入れるより消費の方が早く、物が足りず、ますます商店が繁盛しまくって商人が集まってくる。


軍に囲まれてるのに、なんで経済的に潤ってるんだよ!

普通避難するだろ! なんで平和なんだ! と思った。


========


勇者が居るので、拠点にも兵士がどんどん遊びに来るし、4軍混ざって普通に過ごしてて、あんまり仲悪くない。

これで本当に戦えるのか?


リーディアが「リーディア様、お強くて、なんて凛々しい」とか遊びに来た兵士に言われてるので、こないだコケてくっころ言ってるの思い出して笑ってたら、

「そうだな。人間相手なら大概の相手には勝てる」と言ってからこっちを見て、「だが、神にはまったく歯が立たんがな」とか言って、また例のキリっとした顔をした。


「キャー、先代勇者様が神ですって?」

なんかわざとらしい。

いや、俺さっきからここに居たし、今更キャーとかなんだよ!と思いつつも、リーディアが盾で掬って投げろと言うのでサービスで盾で掬って放り投げる。


落下地点には、ちゃんと(わら)を敷いてケガしないようにしてある。

兵士へのサービス用にちゃんと用意してあるのだ。


兵士はだいたい、盾で放り投げられると喜ぶ。意味が分からない。


「どぅえーーーー!」

どうやら、さっきの”キャー”は猫かぶってたようだ。

”どぅえーーー”の方が素の悲鳴なのだろう。


どすっと藁に落ちると、「えー? なんであれで投げられるの?」とか言ってるので、

この猫かぶりがーー!!と思って、もう1度掬って投げる「どぅえぁーーー!」

やっぱり、コイツの悲鳴は”どぅえーー”だ。こっちが素で間違いない。


今度は藁の上に転がったまま起き上がってこない。

すると、リーディアが「わかったか。100人くらいでは話にならん」とババっとポーズ付けながら言う。

兵は起き上がると「力技では無理そうね」と言ってニヤリとした。

そして、カッコイイ感じでポーズ付けて止まった。


凄くダメな感じの空気が漂った。俺の心のエネルギーが無駄に消費された。


俺は、嫌なんだよ!

何なんだよ、なんでこんなに世の中は残念でウザイやつで溢れてるんだよ!

もう俺はコイツらの相手するのは嫌になって、エスティアのところに行ってお茶を飲むことにした。


とりあえず、さっきの兵は様子を見に来たけっこう偉いやつっぽいなと思った。

そして俺はやつにコードネームを付けた。やつのコードネームは”どぅえー”だ。


========


兵は勇者のリーディアに会いに来るのだが、何故か俺が盾で放り投げる役をやらされる。


「うひゃーーー」「ひーーー!」

だいたい兵たちの悲鳴はこんな感じだが、すごく楽しそうだ。

この世界、絶叫マシンとか無いしな……と思った。

まあ、俺も二度と乗ることは無いだろう……

※有ります。延々読み続けると、いつかそのシーンがやってくるのです!


ところが、やってるうちに、どんどん人が増えて、何故かお賽銭貰えるようになった。


盾で投げられると幸運が訪れるのだという……なんか、俺の運が吸われてる感じがして嫌なんだが。


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