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7-14.トルテラ捕らわれの身となる(後編)

挿絵(By みてみん)


結局イグニスは働かないが、トルテラ救出隊一行は、そんなこんなであっさりボス部屋の前まで来た。

迷宮は放置すると変な生き物が大きく育つ。


今回は、前回来た時からそれほど時間が経っていないためか、思いのほかたいした敵は出なかった。正直リーディア無しでもなんとでもなるレベルだった。

問題はこの先だ。ボス部屋だけは別物で、この扉を開けれる者は限られている。


リーディアが「ほう、これが例の扉か」と言って扉を開けようとするが、もちろん開かない。

「なるほど、聞いていた通りだ」と言う。


「勇者の鎧持った勇者でも開かないんだ」とエスティアが言う。

「人間には開けられぬ扉だからの」と言ってイグニスが開けようとするので慌てて止める。

「ちょっと待って、準備をしてからにしましょう」


エスティア、リナ、テーラ、アイスは以前も2度ここまで来ているが、1回目の時テーラがちょっと入っただけで、2回目に来た時に遠目で微かに竜を見た程度だ。ボス部屋に入る前にイグニスがこの部屋まで出てきたからだ。


まともにボス部屋に入ったことは一度もなかった。


ここまで来て、この扉を見て思い出した。

前回来た時、イグニスは、まだここに来るべき時ではないと言っていた。


リナが確認する。

「そうだ、イグニス、前回まだここに来るべき時ではないと言っていたが、

 今は入る条件を満たしているのか?」


「そうか?おお、そうであったの。

 実はこの部屋には、条件を満たした者だけが入れるという決まりがあっての、

 扉が開いたでの、てっきりイベントクリアしておると思ったが……」

イグニスが話すが、無駄話が多い。


要するに、前回は、先にこなすべきイベントをこなしてから来るはずが、何故か順番をすっとばしてきて扉を開けたので追い返しに来た……ということのようだ。


確か前回はトルテラの良い匂いがしたから子作りのためにトルテラ捕まえようと思った……みたいな話をしてた気がするのだが、こいつの言うことは信用ならない。

嘘では無いのだが、正しく伝える気が全く無さそうだ……とリナは思った。


「それで、入って大丈夫なのか、イベントってのはどうなってるんだ?」

とアイスが聞くと

「トルテラが居らんのに、イベントも何もあるか!この、たわけが」

と言ったので、リーディアがイグニスの頭をパコーンと叩いた。


「で、トルテラがいないがどうするのだ?」

「妾が許可する。問題ない。トルテラが条件満たしておる故」


頭叩かれたのはどうでも良いようだ。


イグニスは「お主らは外で待っておれば良い。妾が来たからには安心じゃ」と言って、いきなり扉を開けた。


「ほう。トルテラが開ける扉をイグニスも開けるか」とリーディアが感心する。


イグニスは外で待っていれば良いと言うが、イグニスの本体のディアガルドは攻撃してくる様子が無いのでイグニスが先に進み、少し離れたところを人間の女たちが付いていく。


遠目と暗視で竜が見えた。

「でかい」。

初めて見る竜にリーディアは恐怖を覚えた。


そして、警戒している様子もない。

イグニスが言った通り戦闘能力的に眼中無いということだろう。


次に気になるのは皆同じだった。「トルテラはどこだ?」

……と思ったら声がした。


「おお、来てくれたか。助かった。もう少しかかるかと思ったが早かったな」

トルテラだった。

「中からじゃ開かなくてな」


奥のディアガルドのところまで皆で進む。

イグニスが竜に向かって「妾をここまで歩かせるとは何事じゃ」みたいなことを言い出した。

竜は、めんどくさそうに聞いている。主人とペットの関係に見える。

おかしいのは本体の方がペットに見えることだ。



「温泉あるから入っていくか?」と、トルテラが言う。


「こら、トルテラ、あの温泉は妾とトルテラの2人だけの特別なもの。他の女になぞ……」


「お前がちゃんとポチを躾けておかないからこうなったんだろ」


「はて?ポチとはなんじゃ?」

「お前の本体だよ」と言ってトルテラがディアガルドをトントン叩く。


「勝手に名前を付けるでない……いや、お主が付けた名であれば、その名で呼ぶが良い」とイグニスが言う。どうやらポチで良いらしい。


「だいたい、どっちが本体なんだよ。ポチ喋らねーじゃねーか」とトルテラが言うと、「当然じゃ、妾が戻らんと人間と話すことはできぬ」

とイグニスが言ったかと思うと、ぱたっと倒れた。


「ほれ、この通り喋れるであろう?」今度は竜の方から声がするが、イグニスの声のままだ。


「それ、どっから声出てんだよ」とトルテラが思わず突っ込みを入れる。


するとポチが「妾がそのようなこと知るわけあるまい」と言った。


まあそんな気はしてた。


「自分で自分のこと知らないのかよ」とトルテラが言うと、

「お主も自分の種族が分からぬのであろう?」とポチが、ポチの中に入ったイグニスが言った。


「ああ、確かにそうだな」と納得した。

俺は人間なのかさえもわからないのだ。


イグニスがむくりと起き上がる。

いや、もうちょっと人間っぽく起き上がってくれないかな……と思った。

いつも通りだが、倒れてた人間がいきなりしゃきっと起き上がるのには違和感がある。



トルテラがポチを前に「コイツには絶対勝てねーよな」と言う。


リーディアが「竜が本当に存在するとは思わなかった」と言った。

伝説上の生き物だと思っていた竜が今目の前に居るのだ。


「おい、ポチ」トルテラが呼ぶと竜が首を下げて顔が手の届きそうなところまで来た。


トルテラが撫でる。

そして、リーディアに「撫でてみるか?」というので、恐る恐る触ってみる。

恐ろしく巨大な馬か牛かという感触だった。


リーディアは「おお、私は今伝説の生き物に触れているのか!」と言い感動していた。

むしろ感動のあまり泣き出しそうだ……


「口の下に短めの髭があるだろ」とトルテラが言うのでリーディアは髭に手を伸ばす。

その瞬間巨大な舌でベロンと舐められた。


「キャーーーー」予想外に女の子っぽい悲鳴を上げて、リーディアがよろけて尻もちをついた。


「そこ触ると舐められるんだよ」とトルテラが言う。


「な、な、そ、そういうことは先に言っておいて……」

という傍から、アイスが同じように髭を触って舐められる。

「うひゃーーー」あんまり女の子っぽくない悲鳴だった。

「うわーべたべただー」アイスが言う。


「大丈夫だよ。ここ、温泉あるから」


「おお、トルテラよ、そこは2人の特別な……」とイグニスが言うが、無視して温泉に入ることになった。



エスティアとリナは舐められるのが嫌だったのか怖かったのかわき腹を撫でている。

大きいなとか、丈夫な毛だなとか言っている。


テーラはあまり興味なさそうだった。違和感を持つ。

森に飛んでくる竜を親子二代で待ち続けていたのに、竜に興味を示さない。

はじめから、待っていたのは人の姿をした竜だった?


=======


この世界で温かい風呂に入るのは相当難しい。

貧乏人が湯を沸かして風呂に入れば、少し上のランクの人たちから非難される。

我々でも入れない温かい風呂にお前らが入るなというわけである。

放っておいてくれよと思うのだが。


少し金持ちになって風呂沸かして入れば、余裕があるなら募金をみたいなのがいっぱいくるし、断れば悪徳成金みたいなうわさが流れるし、放っておいてくれよ……と思う。

そんなわけで、是非とも皆に温泉を体験してほしかったのだ。




女たちが温泉に入ってる間、トルテラはポチと遊んでた。

「ここ寂しいし暇だからな……時々遊びに来るからもう勝手に呼ぶなよ。

帰るのが面倒だからな」とポチに言い聞かせる。

どのくらい伝わってるかわからないが。


……………………


なるべく考えないようにはしてたのだが、けっこう長く待たされてたら、ちょっとだけ女たちが浸かる温泉風景を思い浮かべてしまった。ちょっと匂いが出てしまったようでポチがフゴフゴ匂ってベロベロ舐められた。



温泉上がりのイグニスが、妾の体を想像するからそのようなことになるのじゃぞ……と言ったので、舐められた原因には、皆気付いたようだ。


「一緒に入ればいい」とテーラが言う。


一瞬その光景が頭に浮かび……というか俺がプカプカ浮かんでるイメージが浮かび、それじゃ、良い匂いの出汁がでて俺が死んでしまう……と思った。


それだけでも匂いが出るのか、またポチにべろべろやられた。



舐められてべとべとになったので、皆が出たあと一人で温泉入ったが、暗視や遠目の気配が凄かった。

あいつら遠目と暗視使いまくってやがる。

この世界の女は駄目だ。無理やりでなければ裸見放題、匂い嗅ぎ放題だと思ってやがるから。


どうやってお仕置きしてやるか。


========


ボス部屋の扉は勇者鎧の迷宮と同じで、人間は中から開けることができた。

開けないのは俺とイグニスだけだった。

「ほう。この扉は中からなら人が開けることができるのか。今まで気付かなんだ」とイグニスが言った。


やっぱり俺は人間じゃないんだな……と思った。まあ、扉でいつもそう感じるのだが。


拠点に帰ると、イグニスがいきなりいつも通りのことを言い出す。

「妾とトルテラは一緒に湯に浸かる仲ゆえ。夫婦も同然じゃ」


ルルに説明する。

「ボス部屋に温泉あるんだよ」 「え?」

「温泉ってのは、温かい湧き水が出てて、湯に浸かれるんだ。気持ちいいぞ」


「そうじゃなくて、ボス部屋って」とルルが言う。


 ああ、そっちか、


「ボス部屋には竜がいるんだ。

 ポチって言うんだけど、ポチは超でかくて怖いけど見慣れるとけっこうかわいいんだぞ」


ガタ。イグニスが立ち上がった。狂喜の表情を浮かべて。

「妾は超かわいい……トルテラ、やはり妾のことを……」


「いや、ポチの話だ」


「お前の言うポチは妾の本体じゃ」


「今宵は子作りの儀でも……善は急げじゃ」


「あああああああああああああ……」


「今帰ってきたのに、またボス部屋に行ったよ。お仕置きが必要かな」とリナが言った。


「あれにポチとか名前付けてかわいいとか言ってるんだから人間離れしてると言うか

そもそも人間なのかもよくわからないしね」とエスティアが言う。ちょっと御機嫌斜めだ。


「今子作りとか言ってたけど大丈夫かな?」とアイスが心配する。



「あああああああああ……」


戻ってきた。


「ポチに頼んで戻ってきた」とトルテラが言った。

「おおお、なんと嘆かわしいことか!本体が妾よりトルテラの言うことを聞くとは」


ポチはトルテラの言うことを聞く良い子らしい。


イグニスの方は本体がグレたとひどく落ち込んでいたが、1時間後くらいに見かけた時は

そんなことはもう覚えてない様子だった。

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