7-1.妾が来た
俺は、このところ”ダルガンイスト”や”トート森”に呼び出されることも多い。
そのため、いつも家に居るわけでも無いのだが、俺が居るタイミングを狙ってか、知らずにか、わからないが意外な来客があった。
「おい、わらわが来たぞ」とアイスが言う。
”わらわ”すぐにわかった。心当たりがある。
「妾のことを”わらわ”と呼ぶでない」
なんだか聞いたことのある、残念な感じの声が聞こえた。
思わぬ客が訪れた。
迷宮のボス部屋に居た、自称”竜の分身”やら”人間”さんだ。
こいつ迷宮から出て歩き回るのか!
ずっと、迷宮に居るものかと思っていた。
迷宮の受付嬢的なやつなので、迷宮を留守にしてはいけないものだと思っていた。
自称”竜の分身”さんが、
「妾の夫、トルテラに会いに来たぞ」と言うので、
「おお、久しぶり。夫じゃないけどな」と答える。
俺は、こいつには会わないようにしていた。
こいつは迷宮のボス部屋に居て、勇者装備を取ってから来いと言っていた。
そのとき、”どうせ再び会う”と言っていたのだ。
RPGで条件未達で追い返されたみたいに感じたのだ。
どうせ再び会うって、そっちから来るという意味だったのか。
てっきりまた俺が迷宮に行く運命だと言っているのかと思っていた。
RPGというのは、俺が若かった頃流行った遊びで、テレビゲームのジャンルの1つだが、当時は単純なものしか作れず、条件が揃わないと先に進ませてもらえないような仕組みが多かった。
〇〇を持っていないと扉が開けないとか、そんな感じで、勇者装備を持ってないと話を進ませてくれないとか、それに似ていると思ったのだ。
俺は、話が進むと面倒なので、迷宮には行かなかったのだ。
俺は、こいつと仲良しではない。
妙に馴れ馴れしいので、こちらもそのように返しただけだ。
こいつは普通の人間ではない。言葉遣いを気にしても意味がない。
「で、何しに来たんだ?」
「見張りを付けんと、妾と子を作れなくなるやもしれぬ。狙っておる者が多い故」
と言って、女たちを見る。
リーディアを除く女たちは、また変なのが増えるのかと警戒した。
リーディアは、自分の夫が狙われてると思って警戒した。もちろん、性的な意味でだ。
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ここに来たタイミングが気になる。
今来るってことは、リーディアが原因か?
その割には、視線的には全員が対象って感じだった。
それより、”見張りを付けんと、妾と子を作れなくやもしれん”という方の意味が分からない。
コイツの言ってることは、以前の話と矛盾してるように思ったのだ。
率直に聞いてみる。
「竜は人と子を作れるのか?」
「できぬ」
だったら、俺が人でも竜でもどっちにしろ、見張る必要無いのではないかと思うのだ。
もしかして、”竜の分身”と”人”となら子供を作れる?
「竜の分身と、人間とは子供が作れるのか?」
「知らぬ」
なるほど、だとすると、コイツが竜の分身で、俺が人間と言う訳では無さそうだ。
だったら、竜の分身同士か。
「俺は”竜の分身”なのか?」と聞くと、
「分身作れる竜が、そこらにおってたまるか」と言う。
「”竜の分身”は珍しいのか?」と聞くと、
「妾のほかには何人も居るまい」と答えた。
俺は”竜の分身”でもないようだ。
コイツは前に迷宮に行ったとき、俺を見て”同族に会うことは滅多にない”と言っていた。
だったら、俺は竜なのだろうか?
「俺は、”竜”と子供作れるんだろ?」
「おお、ついに、妾と子を成す気になったか?」
そうじゃないだろ、と思いつつ「子供作れるか聞いてるんだ」と言う。
「前から作れると言っておろう」
「だったら、俺は”竜”じゃないか?」
「お主の、どこが”竜”なのじゃ」
俺は混乱した。
竜でも、”竜の分身”でもない?たしか同族って言ってたはずだが。
「あの時、同族と会うのは希だから俺と子を成そうって」
「その通りじゃ」
意味が分からん。
コイツと話をしてると、頭がおかしくなりそうだ。
「とにかく、俺は竜じゃないんだな」
「もちろんじゃ」
「ハーフとかでも無いだろうな」
「わからぬが恐らくは」
「てか、そもそも俺人間?」
「そのようなこと、妾が知るわけ無かろう」
人間の部分は、肯定して欲しかったのだが。
テーラが、顔色一つ変えないけど、なんだか、心の中でニヤニヤしている感じがする。
俺はテーラにトドメを刺されないよう、最大限に警戒した。
どこかに種族判定してくれる場所はないだろうか。
種族の話を聞いても埒が明かないので、切り口を変えてみる。
「俺は人間が開けられる扉を、開けないんだけど、何か知ってるか?」
「ふむ。言われてみれば、確かに人間にしてはおかしな感じもするのう。
確かに同族にも似ておる。お主何者じゃ?」
「だから、それを訊いているんだろうが!!」
あまりの話の通じなさに、こいつは人間じゃないと再認識させられた。
話の流れが人と違うように感じるのだ。
「竜じゃないのに、子を作れるってなぜわかるんだ?」
「何を言うておる、そんなものは会えば一発ででわかるわい。
お主にはわからんのか? 妾とお主であれば強い子が生まれようぞ」
俺は”竜”じゃないのに”竜”と子を作れる変態なのか!!!
ぜんぜん意味が分からなかった。
「参考に聞いておきたいんだけど」と前置きし、確認する。
「俺とお前が子供を作ると、生まれるのは竜と人間のハーフだよな」
「竜と人間のハーフなど聞いたことが無いのう」
竜と人間のハーフは居ないようだ。
「だが安心するが良い。強くて丈夫なかわいい、竜の子が生まれるであろう」
産まれるのが、ハーフとかじゃなくて、ただの竜だとすると……コイツの言う”妾”ってのは、この”人間型の分身”と、”竜の本体”両方のことか?
「お前と子供作るには、その”人間っぽい体”使うのか?」
「そんなことをしてどうする。迷宮の本体に決まっておろうが」
やっぱりそうらしい。コイツの言う妾には竜本体も含まれるようだ。
まあ、そうだよな。産まれるのが竜の子供なら。
竜と人では子は作れないのに、俺は竜と子が作れる。でも俺は竜じゃない。分身でもないらしい。
コイツの言うことは、わけがわからない。
竜の分身の女が「今すぐ行こうぞ迷宮へ」と言うと、さっきから出番を窺っていた出しゃばり女がようやく出てきた。
今回ばかりは、もっと前に出てきてくれても良かったのだが。
「待ちなさい。私の大事な主君であるトルテラを、
どこの馬の骨ともわからんやつに渡してなるものか」
俺は珍しくリーディアを応援した。”よし、行け!”
しかし、俺の応援に応えてはくれなった。
「トルテラ、あなたの”人間の強い子”を残すため、喜んでこの身を捧げましょう」
そっちかよ! ”このわけのわからない女を追い払えよ!”と俺は全力で思った。心の中で。
「え? 俺の順番は?」とアイスが言ったのを聞き逃さなかった。
順番ってなんだよ、その順番って!!
目の前では、どう考えても子供作るとかじゃなくて、一騎打ちしそうなリーディアがいた。
”お前の子作りは、どういうものなんだよ!!!!”と叫んだ。心の中で。
リーディアは、剣を持って「さあ、いざ」とか言ってる。
「だから、時代劇かって」と俺が言うと、
「時代劇!」その言葉にリーディアが反応した。
「時代劇、フフフ、聞きましたわよ」と言いながら、ババッと剣を振る。
(うわ、うぜぇ)
「時代劇!それは、剣一本で戦う技を、いかに美しく見せるかがポイントとなる演武の一つ」
演武か、言われてみれば確かにそうだな、演技であって戦いではない。
時代劇は、あくまでも劇、その理解は凄く正しい気がするぞ。
「別名チャンバラ」
”チャンバラ?!” ぶほっ、脳天に衝撃が走った。
その言葉を、まさかこの世界で聞くことになるとは……
「そいつは、女たちの生きざまなのですわ……ほっほっほ
見なさい、この美しい剣技を。
さあ、いざ」
うわぁ、
俺が知ってるのは”男たちの生きざま”だったけどな。
こっちだと戦うのは女だから、そういう解釈になるのか?
よほど予想外だったらしく、竜の分身だかも”ぼけーー”っとリーディアを見ている。
そうか! ウザさも極めれば武器になるんだ。
俺は若干リーディアを見直した。
それはそうと、”チャンバラ”とか、ネタ元はどうせライゼンなのだろう。
まったく、その情報はどこから集めてくるんだ……むしろ、あいつ俺と同じ時代の日本人転生者だろ。
迷宮の女は「ほれ、手土産じゃ」と言って、嫌がらせかと思うくらい甘い果実の加工品、トート森のイチジクのアホみたいに甘いやつ……干し柿みたいなやつを出すと、普通に女たちはお茶会してた。
迷宮の女も一緒に。
「私これ好き」
「妾には、人間の好みは、わからんからのう。
女対策には、これを持って行けば間違いないと言われたのじゃ」
「トルテラ、これあんまり好きじゃないんだよ」
「そうか、ならばトルテラの分は、妾がいただくとしよう」
「なんだ、おまえの好物かよ」
なんか、タフだな、うちの女たちと思った。
リーディアだけは、こっちチラチラ見ながらチャンバラでカッコイイポーズ決めてた。
すげーウゼぇ。
勇者伝承では、俺はコイツと子供作って幸せに死ぬ。
俺の心の中は、どう考えても、幸せに死ねない気持ちでいっぱいになった。
旅に出ようかな……そう思った。
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このところ、軍との”友好関係回復のしるし”とか言って、何度かダルガノードに行かされた。
馬車で送迎付きだったので、楽だったが。
そのときライゼンという名のおっさんに会った。キャゼリアの同僚らしい。
宦官じゃなくて、天然ものの恋をしない男なのだそうだ。
俺は、この世界にきてはじめて同年代のおっさんと会えてちょっと嬉しかった。
俺は自分が、おっさんとの出会いで喜ぶ機会があるとは想像もしなかった。
だって、この世界、ホンモノの年取ったおっさんは伝説級にレアなんだよ!
その上、レアキャラなのに産廃扱いなんだよ!
あんまりにもレアなので、俺がラノベの主人公だったら、おっさんレアキャラで、生きてるだけでモテモテって設定になりそうだと思った。
でもリアルは厳しい。おっさんはレアでも産廃だ。
それはそうと、このおっさんは、リーディアが勇者になることを予測してたという。
そんなの予測できるような史料があったのか!と思ったら、史料はないけど、予測できたと言う。
「私はリーディアが勇者になる。そう信じておりました。大鎧がいるなら同じ時代に勇者が居る。
今勇者が生まれるならリーディアだと予想していたのです」
大鎧が居るなら、同じ時代に勇者が居る。
そこまではわかるんだが、”今勇者が居るならリーディアに違いない!”ってところは意味がわからなかった。
実際、リーディアが勇者になった。それを予測していたのだから、何か理由があるのだろう。
”飛び抜けた残念さ”がポイントなのか?
もうちょっと深堀したかったのだが、話は途中で終わってしまった。
邪魔が入ったのだ。
ライゼンと話してたら、キャゼリアのとこの助手が飛び付いてきたのだ。
前と同じく、そのまま回ろうとしたので、あの抱き合ってくるくる回るやつを、やろうとしてるのだろうと思って、今度はそれに合わせて回って見た。
すると、途中で顔をくっつけてきたので、俺は目が回って倒れてしまった。
助手を踏みつぶしたり、しないで済んだのは良かったが、回るとくついてくるので危険だと言うことがわかった。
「これからは何度も、ダルガノードに来るんですって?」と言ってから、「うふ」と例のよくわからない笑顔で去っていった。あれは、決め顔か何かなのだろうか?
おかげで、ライゼンにリーディアのこと聞きそびれたじゃないか。
…………
次に来たとき、ライゼンのところに寄ったら、キャゼリアのとこの助手が、
”ただの屍”みたいに転がってた。
キャゼリアが、”テーラが俺の妻だ”と言ったら、そうなったらしい。
転がってる、ただの屍的なやつに「テーラは娘だと思ってるから」と言うと、少し回復したが、帰りに見たらまた転がってた。
アイスが「俺、妻だったんだ」と自慢したら転がったらしい。
「アイスも娘だと思ってるから」と言うと、助手はぬくっと起き上がった。
助手が「じゃあ、私は?」と聞くので、「キャゼリアの助手」と言ったらまた転がった。
おお! この世界では、心のエネルギーが枯渇すると倒れるのは普通なんだ!と、俺はなんだか仲間ができて嬉しくなった。
キャゼリアが、助手を見て「今日は駄目そうだから、私の屋敷に届けて」と言った。
まあ、俺も加担したから、届けることにする。
どうやって運ぶか考えたが、いつも通り盾に乗せて引きずると、町中では音がうるさい。
下が土だったら、そうでも無いが、石畳の上を、ガリガリ引きずると、石畳が痛むし、ガリガリ煩い。
近所迷惑になると思って、肩に担いでキャゼリアの屋敷に行くことにした。
すると、担いだ瞬間に、シュルシュルっと助手が首に巻き付いてきたので、何の妖怪かと思った。
引っ剥がそうとすると、「そんなご無体なーーー」とか言い出してうるさいので、仕方がないのでそのままキャゼリアの屋敷に行った。
端から見ると、俺は”人攫い”に見えるのか、それとも”妖怪にとりつかれた、かわいそうな人”に見えるのか……と思ったが、別にたいした騒ぎにもならなかった。
道ですれ違う子供も、「先代勇者さまだ。こんにちはーー」とか言って、べつにどうとも思ってないようだ。
妖怪に取りつかれるのは、そんなに違和感感じないらしい。
俺は下が見えなくて、ものすごく歩きにくいのだが。
なんとかキャゼリアの屋敷に着くと、助手がスタっと着地して「先代勇者さまに抱っこして送っていただいたので、私はまだまだ頑張れます!」とか言ってた。
抱っこじゃねーし。俺が妖怪に取り付かれてただけだ。
よく考えたら、またライゼンにリーディアのこと聞きそびれてた。
前々から、この助手は何者なのか気になっていたのだが、もしかしたら、リーディアが勇者になったのには、何かすごい秘密が隠されていて、俺がその秘密に辿り着きそうになるのを邪魔するために配置された、妖怪みたいものなのかもしれない……とかも考えてみたが、あんまりしっくりこない。
たぶん、”えりまきうふふ”とか、そんな感じの名前の、ただの妖怪で、リーディアの秘密とは関係ない気がした。




