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6-13.大鎧の子

おっさんを引き取ってくれた優しい女の子は妻でした。急に妻と言い出したのには理由があったのです。

挿絵(By みてみん)


”大鎧の書”に、新たに文字が浮かんだことは、すぐにシートからテーラに伝えられた。


新たに浮かんだ言葉はこれだ

----

勇者は神に力を与え、

神の子は残った。

----


これに関してはトルテラには伏せられ、トルテラ不在の時に女たちで会議が開かれた。

デリケートな問題があるためだ。

これにはリーディアの発言が強く影響していた。


……………………


しばらく前の話になるが、トルテラがダルガンイスト軍に夜襲をかけ、軍が大規模な進軍不能になった後、一行はタンガレアに逃げ込んだ。

そのときの野営はテントが2つに別れた。


もともと冒険者用のテントは居住性より組み立てや持ち運び優先ではあるが、このとき使っていたものはより極端な”強行偵察用”と言う感じで、とりあえず立って、すぐ撤収できるものだった。


今回の逃避行には時効があった。

リーディアが絶対必須の何かを持っているわけでもなく、絶対に捕まえなければならないという理由は無かった。なので、そのうち時効になる。


ただ、時効まではそれなりの期間が必要になる可能性が高く、匿ってくれるあてもないので、しばらく放浪する長期の逃避行を想定していたため、とにかく、”設営、撤収のしやすさ”で選んだ。

そのため、小さなサイズの物しか無く、3人ずつで2つに分かれたのだ。


いくら撤収に時間がかからないと言っても、不慣れな土地で軍に追われつつも、テントを建てて寝られるのは、トルテラの気配察知による警戒と気配強化による攪乱に頼るところが大きかった。


元はそうでもなかったのだが、この頃のトルテラは1km先からでも、動物と人の判別ができた。

※おっさん主観で1kmです。この世界にkmの単位があるわけではありません。


気配察知に引っかかってからトルテラが迎撃に出る。

その隙に、撤収できれば良い。


相手はこちらの場所を特定できていないので、放っておいても、まっすぐ最短で接近する可能性は殆ど無い。

そのうえ、途中で迎撃に出たトルテラの存在に気付くので、そちらに向かう。

野営地には寄ってこない。

トルテラは小回りは効かないものの、木が密集する森の中でも、湿地でも、見た目に反して案外高速で移動する。結果として、兵たちは野営地とは別の方向に居るトルテラに気付き、そちらに向かう。


撤収する余裕は十分に有った。

これなら、もう少し居住性を優先しても良かったかもしれない。


野営は、持ち運びと撤収優先であれば、布で屋根を作るだけのタイプもあるが、張るのに時間がかかり、閉じていないので使いにくい。


トルテラの快適能力は閉鎖空間でしか威力を発揮しないため、閉じてるものでないと都合が悪いのだ。

快適かどうかは、逃避行でも重要な問題だった。

短時間で疲労を回復する必要がある。体調崩すだけで死活問題となるのだ。



そんな死と隣り合わせの状況でも、呑気にいつもの如く女たちの会議が行われていた。

寝る順番決めの会議だ。出発前にも会議はしたが決まらなかったのだ。


ただ腕組みして聞くだけのリーディアに対して、エスティアが訊く。

「前に、混ぜて欲しいって言ってたけど、まだいいの?」


すると、リーディアが答える。

「まだだ。今お前たちに何かがあるとまずい。私は約束したのだ。守らねばならん」


このときエスティアとリナは、リーディアを見直した。

いつだかトルテラが言ってたとおり、約束は守る。

いろいろ問題はあるが、信頼はできる。そう思った。



勇者鎧を受け取ったときの大泣きも見ていたので、リーディアのトルテラに対する思いも皆知っていた。

4人で話し合って、安全になったら、リーディアも添い寝の仲間に加えようと言うことで合意していた。


拠点に戻ってからは、リーディアの態度は一気に変わり、妙によく喋るようになっていた。

「私は巨人討伐に失敗したのに、選んでくれたのだ。

 この恩に報いなければならない。

 そして、恐れ多いことかもしれないが、一緒に寝てみたいとも思っているのだ」


リーディアは、相変わらず言うことが演説調なのだが、ここで驚く発言をした。


「私はトルテラを夫に迎えたいと思っている。私も妻に加えて欲しい」


「妻?」エスティア達は戸惑った。


その反応を見てリーディアは言う。

「妻でなければ同居人か? ならば私が独占して妻になる。

 だが、ただの同居人が一緒に寝るのか? あのように」


これを聞いたエスティア達も、”もしかして妻だったの?”と考え始める。


リーディアが「寝食を共にし、最後まで面倒見る。それは妻の仕事だ」と言うと、ようやくリナが「私はトルテラの妻だ」と答える。

続けて「俺も最後まで一緒にいるよ」とアイスが言う。

するとリーディアは「それは妻とは違うのか?」と言った。

「そうか、俺、妻だったんだ」アイスは納得した。



「私も最後まで一緒に居るつもりだけど、トルテラは私達のことを、

 自分の娘だと思ってるでしょ」とエスティアが言う。


さすがにトルテラをよく理解している。

テーラはいつも通り無言だが、考えてることはだいたい同じだろう。


とりあえず、意思確認が済むと、リーディアがまた演説を始める。


「トルテラは勇者であり神であり、おそらくは大鎧だ。

 お前たちは重大さを理解していない。

 先代領主本人から直接話を聞いたのだろ?

 竜と契約した人物だ。

 赤の他人が、そんな話を聞かされると思うか?

 大鎧には、何人の妻が居て、何人の子を残すのだ?」


大鎧の書には、このとき、まだ子について、まったく書かれていなかった。


「勇者伝承では勇者が子を産む。だが、残るイベントはそれだけだ。

 2代目勇者を初代勇者が助け、戦いに勝つ。そして人々に歓迎される。

 その通りになった。あとは子供を産むだけだ」


そう言って、リーディアが勇者本のページを捲って見せる。

戦いに勝った次のページは、いきなり子が生まれて先代勇者は幸せに死ぬ。


「大鎧の書に勇者の記載があるなら、必要があるからだ。

 勇者はここに居るぞ、既に。

 もう、トルテラに残された時間は少ないかもしれないのだ。

 いいのか?それで」


エスティア達は理解した。リーディアが何を言おうとしているか。


そう。トルテラと一緒に居られる時間は。もう残り少ないのかもしれない。

喝を入れたのだ。

リーディアはトルテラの子を産む可能性が高い。

それに対して、エスティア達はそうではない可能性がある。


リーディアは。

思っていたより遥かに他人に配慮できる人間なのかもしれない。

エスティアとリナはそう思った。


このときのリーディアの話が元で、タンガレア潜伏中の妻の話に繋がった。


そこに、さらに追い討ちをかけるように、今回大鎧の書に。新たに文字が増えたのだ。


----

勇者は神に力を与え、

神の子は残った。

----


「神の子ってリーディアのか。いいな。俺も欲しかったなトルテラの子供なら」

アイスが言う。


すると、それを予想していたかのように、リーディアが言う。

「伝承が本当なら、こういうのはどうだ? アイスに子ができた後に私が子を作る。

 伝承が本当なら、勇者は先代勇者の子を産むのだ。

 それまでは死なん。どこにも行かん」


そこでやっと、テーラが口を開く。

「リーディア、あなた、思ってたよりずっと頭良いのね。森に飛んでくる竜は子を残すの」

リーディアは予想していた。テーラは何か知っているはずだと。

テーラは”森に飛んでくる竜”を待っていたのだ。


ただし、テーラの話の内容は、予想外のものだった。


「でも、大鎧の書には、人間の子とは書かれていない」


「なんだと!」リーディアは人間の子の話だとばかり思っていた。

 もう、子を産むことは、確定していると思っていたのだ。


テーラが話を続ける。

「大鎧の書は竜の話。元々”森に飛んでくる竜”が残すのは竜の子なの。

 でも、勇者伝承には人の子を残す話がある。

 ”森に飛んでくる竜”は、勇者と子を作る前に、

 私達の前から、消えてしまうかもしれない。

 その前に、人の子を残して欲しいの。力を貸して」


「どういうことなの?」エスティアが聞く。


「森に飛んでくる竜は、竜の世界に行くの。

 でも、その前に人間の世界に来るのには何か意味があるって」


「そうか。テーラの役目はなんだ?」リーディアが訊ねる。


テーラは答える。

「私は森に竜が飛んでくるのを待ってただけ。

 でも、人間の世界に来るのには何か意味があるからって」


先ほどの話の繰り返しだ。

実はテーラが知ってるのは、そこまでだったのだ。


「人間の世界に来るのは勇者を作るため……そして勇者は既に居る……となると」

とリーディアが言うと、皆、かなり、まずい状況にあることを認識していた……アイス以外は。


残された時間は、もう少ないかもしれない。


ここでアイスが意外なことを言う。

「あいつは100年待ってたんだぞ。あと10年、20年くらい待つんじゃないか?」


迷宮の竜のことだ。


「そうだな。竜は寿命が長いと言うからな。

 10年くらいは引き留めて借りてても良いんじゃないか?」とリナが言った。


「そうか、私はトルテラの子を産むのを楽しみにしてたのだが。

 確かに、巷の勇者本では信頼性に欠ける。まずは、勇者の正伝書でも確認してみよう」

 とリーディアが言う。


リーディアはつい先ほどまで大きく動揺していたのだが、

アイスとリナの話で、だいぶ落ち着きを取り戻していた。


「人の子を残すかは別として、私はまだまだ、トルテラと一緒にいたい」エスティアが言う。

テーラとリナも頷く。

「俺、トルテラがどこかに行かないように見張ってるよ。ずっと」とアイスが言った。


エスティア達は、アイスがトイレにまで付いて行ってトルテラに嫌がられる風景を思い浮かべた。

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