6-12.竜の名はグラディオス
※基本土日祝日更新です
物語も中盤になって衝撃の事実が判明しました。おっさんを引き取ってくれた優しい女の子は妻だったのです!でも、おっさんは認めません。おっさんはヒロイン達を、実の娘のようにかわいがっているのです。
そして、勇者の物語はどんどん捻じれて都合良く変わっていくのです。
「それが、火を噴く竜が出たと」
リーディアの部下っぽい兵がおかしなことを言い出した。
部下っぽいと言うのは、リーディアは軍を辞めてるので、部下ではないはずなのだ。
ところが、どういうわけか、リーディアのところに通ってくる、自称リーディアの配下の兵が何人も居るのだ。
リーディアはちょっと前まで軍に所属していたのだが、何故か軍に喧嘩を売って辞めてきた。
さらにコイツがわざわざ先遣隊と俺を戦わせて喧嘩売ったので、大軍に囲まれて大変な目に遭ったのだ。
軍と俺達はたぶん、今はまだ交戦中だと思うのだが……
「その火を噴く竜なら、ここに居るぞ」とリナが言った。俺のことだ。
「いえ、先代勇者様を竜だなどと」と兵が言うが、
俺は竜かもしれないんだが、と微妙な気持ちになった。
「俺の姿見た兵も、けっこういたと思うけど、
俺がやったことになってないのか?」と聞くと、
「それが、多くの兵が竜が出たと言ってます」と言う。
「竜が出たので、やむなく撤退したと」
なんと竜が出た……らしい。
あっさり総崩れになった言い訳で、口裏合わせをしているのだろうか?
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エスティア達が巻き込まれたことに腹を立て、仕返しの嫌がらせで本陣に夜襲をかけて司令部のテントを燃やして回ったのだ。
元はと言えば、リーディアが軍に喧嘩売ったせいなので、軍が悪いわけではないのだが。
並の兵が何人居たところでバラバラに抵抗するのでは、この男を排除することはできないが、それ以前に、まともに戦わず、本陣を焼かれただけで軍は潰走した。
トルテラは、いくら何でも弱すぎると思ったが、これには理由があった。
竜が出たからだったのだ。
本陣の大型天幕は、一度燃え始めると、一気に燃え広がるが、燃えにくい処理がしてあるので、一度にすべての天幕に火をつけるのは難しい。普通はそう簡単には燃えないのだ。
それが一気に燃え広がるのを見れば、たった一人の人間の仕業だとは思えない。
今まで感じたことが無いような途轍もなく巨大な気配が現れ、本陣が燃え上がったのだ。
それを見た兵達は竜が出たと思った。ただ、それだけだった。
巨大な竜が出て、兵士たちは成すすべもなく逃げだしたのだと言う。
「今回出たのは、新しい竜で、グラディオスという火を噴く途轍もなく巨大な竜です」
リーディアが近付いてきて、俺の肩を叩いた「確かにでかいし、竜だったな」
「すげー、俺も見たかった」とアイスが言う。
俺が、いきなり巨大化したりは、してないと思うのだが。
軍を潰走させた竜の名は”グラディオス”と言う名になった。巨大な火を噴く竜。
この話を聞いたとき、惜しいな、”サラマンダ”にしてくれれば良かったのにと思った。
昔、俺が若かったころ、横スクロールのゲームがあって、2作目が火竜でサラマンダ。
初代の方がグラディウスだったのだ。
それはそうと、竜は想像上の生き物なのかもしれない。
俺がやったことが、竜が、やったことになっているのだ。
逆に考えれば、過去に、竜がやったと言われてることも、実は人が、或いは、人の姿をした者がやったことなのかもしれない。
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一方でダルガンイスト側の視点ではこうなる。
投入できる全戦力を投入……人数だけ集めた今回の作戦は、実は、目的は戦闘ではなく、勇者候補の入れ替え儀式みたいなものだった。
軍は、トルテラ達が当然逃げると思ってやってきた。
包囲も後方に穴があり、簡単に逃げられるようになっていた。
単に軍が勝ったという筋書きのために出てきただけで、実際に戦う気など、はじめから無かったのだ。
そのため、持ってきた物資も何日分かで、継戦能力は無かった。
兵たちもまともな戦闘準備をしないまま出てきた。
この作戦自体が演習であり、演習ついでに出てきたレベルだった。
兵には演習と伝えたわけではなく、戦闘と言って出てきたが、まさか、あの人数相手に反撃してくるとは考えていなかった。
トルテラ達が勘違いして全力で来た!と思っただけだったのだ。
しかも、トルテラ達は迷宮に隠れていたため、包囲の後ろが穴空きだと言うことにも気付かず、空気を読まず夜襲をかけたのだ。
トルテラが夜襲をかけたとき、お偉方は会議をしていたが、勇者一行が発見できないので、翌日包囲を閉じて、偽の勇者は逃げたと宣言する算段をしていたのだった。
もちろん、本陣にはある程度の数の兵を残していたのだが、トルテラから見れば、ほとんど無抵抗で潰走した。リーディアのところに来た兵が言ってた通り”竜が出たから”。
本陣には、リーディアの後釜の勇者の、なんたらが居たが大慌てで逃げたので、勇者候補としては失脚した。
ダルガンイスト上層部の勢力図も大きく変化した。
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竜の名前だが、俺が、「なんでサラマンダにしないんだよ!」と言ったら、サラマンダはトカゲなので竜をサラマンダとは呼ばないそうだ。
ここの竜は、狼のでかいやつなのだ。
ドラゴンも竜と同じ形の生き物だが、竜は神様かもしれないけど、ドラゴンは神様ではないらしい。
言葉の定義が俺の知識と違っていて、けっこう紛らわしい。
それはそうと、俺が、何かをすると竜がやったことになる。
巨人倒したのも竜で、俺は先代勇者引退で良いのでは無いだろうか。
俺の夜襲が竜の仕業になった件では、ちょっと気になることがあった。
話によると、グラディオスは二本脚で歩く巨大な竜なのだそうだ。
この世界の竜は4本足の大きな狼なのに、グラディオスは翼の無いドラゴンなのだ。
二本足で歩く巨大な老人がベースで、夢が広がってこうなっちゃったのか?
トルテラはそんな風に考えていたが、実は竜の目撃者は、兵以外にもけっこう居た。
その中に、ユーリとゼストという駆け出しの冒険者がいた。
「あれなんだと思う?」、「竜?」
「私も竜だと思うんだけど、本で見たのと全然違う」
かなり離れたところからでも見えるほど巨大な竜だった。
ただ、話に聞く竜とは姿形が大きく異なっていた。
「これじゃ、本当のことを話しても誰も信じてくれないよ」
「人に言うのはやめとこ」
二人はそう決めた。
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ダルガンイストは、あれだけの大人数出して、負けて帰ってきましたというわけにも行かず、悪あがきで、さらにリーディア追撃の話も出たが、実力派が乗ってこなかったのでやめになった。
リーディアは騎士隊を辞めただけ。
規則を乱す行為ではあるが、どれだけ重罪かというと、竜を相手にしてでも、
捕まえて罰しなければならないというほど悪質なものとは思えない。
まあ、まるで割に合わない。
兵もろくに動かないだろう。追い回すと竜が出る。
それ以外にも動かない理由がある。
リーディアには、まだたくさんのファンが居るのだ。
そのファンも敵に回すことになる。
リーディアと一対一でも割に合わない仕事だ。
その上、先代勇者も居る。先代勇者にもファンが多い。
再出撃の検討をする価値も無い。
結局、リーディアに対する罪は不問となった。
リーディアたちが逃げたなら逃げたで国外追放したとでも言っておけば問題ないが、罪があるのに、軍が負けて帰ってきたので、裁けなかったとなると大問題だ。
だから、揉め事などはじめから何も無かったことにする。
勇者交代の儀式の最中に、竜が出たと言う話でごまかされた。
民衆は、竜は、人間のやることに興味無いのは知っているので、信じる人は居なかったが。
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夜襲をかけて4日後に、リーディアの部下っぽいやつが、使者を連れてきた。
言ってることが遠回しで、他人事かよ!って感じだったが、簡単に言うと「軍がやったのではなく、手違いだったので責任者は更迭した」という、それだけのことだった。
とりあえず、リーディアの元同僚と、”軍と交戦中では無い”ということの確認をした。
つまり元々何も無かったよねということを確認した。
和平協定ではなく、元から何も無かったという書類を作る。
住民台帳も無い世界で、元から何も無かったという謎書類を作るのだ。
責任者更迭やらで、いろいろごたごたしてるので少し時間がかかるということで、10日後に会談が行われた。
エスティア達には勇者鎧の迷宮で待っててもらい、リーディアと2人でダルガンイストまで行った。
どちらも特に相手に対して要求も無かったので、単純に”お互いにはじめから何も無かった”ということで決着が付いた。
一方的にリーディアが喧嘩売ったのに、ずいぶん寛容だな……と思ったが、勇者が欲しかったようだ。
ダルガンイストで、リーディアが正式に勇者と認められることになり、式典が行われることになった。
何も無かったという書類を作るのは妙だと思ったが、リーディアを勇者として認める手続きをしたというのであれば理解しやすい。軍を辞めたというのも含めて、全部無かったことになる。
それにしても早急に決着が付いて良かった。
タンガレアは、水場が少なく不便だったのだ。
水の容器が重すぎるので、水場から離れて行動するのが辛いのだ。
式典の日、6人全員でダルガンイスト入りした。
今度は、謎の大歓迎を受けた。意味が分からない。
イマイチ音程合ってなさそうなラッパで演奏付きだ。
演奏隊はタイコとラッパで合わせて10人くらいしか居ないけど。
音も小さい。
音楽隊が存在するのだ!
音階は種類が少ない気がする。
”プパー、プパップパー”みたいな感じで少ない音階で演奏している。
トランペットの簡易版みたいな感じだろうか?
ダルガンイスト要塞の最高指揮官が変わり、リーディアが小隊長だった頃の上司の上司が就任した。
リーディアとは良く知る仲だったので、話し合いは、近所のおばちゃんが世間話してるような緊張感の無いものだった。今日は特別機嫌が良いのだと言う。
このおばちゃんが”トーレバーナ要塞最高責任者”だそうだ。
前から対立していた相手が、今回の戦いでどれだけやらかしたかとか、そんなことを喋りまくっていた。
人的被害は出ていないが、経済的な損失があったことに加え、なんの成果も上げず、軍の威信を傷付けたことやら、勇者人気が高いことを考慮せずに志気の低い兵を動かしたのは、機を見る能力に欠ける!とか散々いろいろ言ってた。
俺そのライバルさん知らないし、そんなのリーディアと二人で話せよ……と思った。
そのライバルさんは完全に失脚したらしい。
トーレバーナは元々リーディアの上司で、リーディア推しだったことに加え、また竜が出ると困ると、兵士達が騒ぐので早々に和解に動いたのだ。俺的には、都合が良かった。
「神が怒ると竜が出ます。
この者たちに危険が迫るとまた竜が出るかもしれません。
くれぐれも怒らせないようにご注意ください」
とリーディアが(わざとらしく)言うと、
「ほどほどに頼むわよ。また竜に城を壊されたらたまらない」
とトーレバーナは言う。
”また”と言うのは、今回の話とは関係なく、ダルガンイストには昔、
竜に城を壊されたという話があるのだ。
後ろで変な二人がイイ顔して腕組みしていた。俺は空気だった。
こないだは、夜だったから竜が出たことになったけど、昼間はバレると思うんだが。
そんなこと言っていいのだろうか?
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ダルガンイストでは竜は悪者だ。
竜が人に化けた大鎧は、勇者の敵だ。
なのに、勇者のピンチに竜出て良いのか?と思ったのだが、巨人討伐と混ざって話が伝わり、勇者一行はタンガレアの軍を撃退したことになっていた。
ダルガンイストの歓迎は、凱旋式典だ。
”先代勇者と現勇者が力を合わせるとき竜が現れる”なぜかそんな話が広まり、ダルガンイストでの竜が悪という常識が一気に吹き飛んでしまった。
この世界では、情報はねじ曲がって伝わるのだ。
だいたい俺にとって都合の悪い方向に。
結果として、トート森とダルガンイストで協力強化の協定が結ばれた。
トート森から来た先代勇者と、ダルガンイストの現勇者が共に行動しているために、協力して囲ってしまおうという話になったのだ。
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普通に拠点に帰ったが、俺が帰ると、”神が神殿に戻った”という話になっていた。
なるほど、勇者選ぶと、何でもできる神様になるわけではなくて、
”拝まれてめんどくさいことに巻き込まれやすくなる”と言うことを理解した。
拠点の井戸水は需要が多過ぎで、不足する事態に陥っていた。
5人分の水のつもりが、周囲の人たちが、使うようになったためだ。
周囲の人が使いやすいように、入り口に近い側にもう1本掘ることにした。
ここは沼地の中にあるので、水自体は無尽蔵にある。
どこを掘ってもすぐ水が出る。
ただし、濾過される前の水が出るので、水が濁ってるのだ。
結局、きれいな水は神殿跡地でしか手に入らない。
そして、神殿跡地で水が浄化されるのは、俺が住んでるからだ。
沼地の濁った井戸水が透明になると、それだけで俺への信仰心が上がってしまうのだ。
なんか、俺は、どんどん神様になっていく気がするのだ。
あらためて考えてみると、結局俺は、フラグの回避に失敗して、迷宮の竜に導かれ、勇者や先代勇者、もしかしたら、神にもなってしまった、のかもしれない。
”転移する竜”は、俺を何のために、ここに連れてきたのだろうか?
新たな竜の伝説を流すため?
勇者を持った今、再び迷宮に行けば、さらにイベントが進みそうだ。
とりあえず、イベントは放置して平和な日々を送りたい。
トルテラはそう思っていた。
ところが、そのころ、”大鎧の書”に新たな文字が浮かび上がっていた。
イベントは、この男が放置したところで勝手に進んでいくのだ。




