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6-6.勇者の鎧(中編)

初代勇者が生きてるとまずい人が居ると言う情報が残念騎士リーディアからもたらされます。軍関係者から2代目勇者が出ないとトルテラ達の平穏な暮らしが脅かされ続けそうです。

今度こそ勇者を押し付けるべく頑張ります。

挿絵(By みてみん)


「ざんね……じゃなくて、リーディアいる?」


「うわっ」

「出た、凶悪な老人が!」


多くの兵士は、俺を勇者だと思っているが、リーディアの取り巻きはこんな感じだった。

そうだ、俺の求めてたのはそういう反応だ! 俺はヒーローとか向いていないのだ。

俺の心の中で、少しだけ、残念小隊の評価が上がった。


リーディアに会いに行くと、前に来た時とは別の場所に案内された。

知らぬ間にリーディアは偉くなっていて、専用の応接室みたいなものまであった。


たいして待たないうちにリーディアが現れる。

もちろんリーディアは、俺が来ることを知っていて、出迎え準備は整っていた。


そういうことなら、俺の用件もわかっているだろうと思っていきなり話をする。

「俺と一緒に、勇者鎧の迷宮に行って欲しい」


……ところが、予想外に反応が薄い。


どう言うことだ?

歓迎するにしろ、追い返すにしろ、何かもう少し反応がありそうなものだが。


そのまま、話を進める。


「知ってると思うけど、勇者鎧の迷宮は俺にしか開けない」


ここでようやく、リーディアが口を開く。

「つまり、勇者は、お前が選ぶということだな」


俺はそれに対しては返事をせず、話を進める。

「俺だけだと、反対から開けないのと、勇者装備が女用だと、着て出ることができない。

 だから、一緒に行く相手を決めなければならない」と言うと、


リーディアは一言「わかった」と言った。


実は、このときリーディアは勇者になる気は無かった。

自分には勇者になる資格が無い。そう思っていたのだ。


それに、それよりも大事なことがあった。

「ただし、条件がある」


条件……変な条件だった飲めるかわからない。

「条件? 飲めるかはわからないが」

すると、リーディアは、こう答える。

「行くのはいいが、その前に、真面目に勝負してほしい」


勝負か。行く前でなければならないのか。

確かに、戦闘になる可能性が高いとは思っていたが、少々困る。


揉めて混戦になると思っていたのだ。


混戦ではなく、また一騎打ちだ。俺は混戦の方が楽なのだ。

混戦なら、どさくさに紛れて倒してもごまかしやすい。


一騎打ちだとごまかしにくい。

しかも、相手が強いほど、手加減が難しいのだ。

コイツはけっこう強くて、ちょっと遠慮してると、俺は血まみれになってしまうのだ。


見物人が居る前で、うまくごまかすことができるだろうか?

前回と同じく、決め手に欠けて、血だらけになりそうな気がする。


他の条件にならないだろうか?

「前にやったからいいだろ、また服が血だらけになる」

そう答えると、リーディアは「真面目に勝負して欲しいと言ってる」と念押しするように言った。


コイツは強いが、だからこそ、手加減がしにくい。

真面目に戦ったら、リーディアが怪我しそうだ。

「嫌だよ、お前が怪我したら迷宮行けないだろ」と答える。


「リーディア様をお前呼ばわりとは!」とか言いながら部下の騎士が入ってくるが、リーディアが一括すると静かになった。


コイツは指揮官だ。

統率力とかに、長けてるなら、一騎打ちでの強さなんかどうでも良いだろ、と俺は思うのだ。


ところが、心が読まれているかのようにリーディアは言う。

「真面目に勝負しない限り協力する気は無い」


前回の歓迎ムードとは大違いだ。

なるほど。分かった。


気付いたのだ。以前戦った時、俺が手加減していたことに。

それが気に入らなかったのだろう。


気持ちは分からんでも無いが、あのときは、単に砦の外に出たかっただけで、別に一騎打ちしたかったわけでは無い。


今も、もちろん迷宮に行きたいだけで、俺は一騎打ちなんてしたくない。


まあ、でも、無理やりにでも連れて行った方が、コイツのためにも良いと思う。

勇者鎧があれば、コイツは勇者であることを認め、丸く収まるはずだ。

コイツが勝手にどこかで死ぬのはコイツの勝手だが、俺と関わったことが原因で死ぬのは、我慢できないのだ。


これ1回で済むならと思い、条件を明確にする。

「勝負すれば協力するんだな? 勝っても負けても」


「気に入らんな。こっちの条件は”真面目に勝負すれば”だ。真面目にやる気あるのか」


「わかった。真面目に勝負すれば協力する。その条件でなら受けよう」


仕方が無いので勝負することにした。


兵士たちが、ざわつく。

「リーディア様が勝つって言ったんだよな?」「勝てるわけないって言った?」「あんな爺さんが」

「負けるのが分かってて勝負しないだろ」「いや、相手は勇者」「老人だぞ」


全部聞こえてるんだが……

老人だと思うなら、一騎打ちとかじゃなくて、もうちょっと優しく扱ってほしいと思った。


まあ、でも、戦いの準備はしてある。

こんなこともあろうかと、また血だらけになって経済的ダメージが少なくて済むように、ちゃんと血だらけ服を染め直したやつを着ている。


まじめにやれと言うので、俺が血だらけになる心配はあまり無いのだが、さすがに何かのトラブルでこれだけの兵士に囲まれると、血だらけになるくらいのことは、あるかもしれないと思った。


修練所と言う名の、ただの広場に来た。

ぞろぞろ人が集まってきた。


「ここで良いのか? たくさん人いるぞ。

 俺、死んでるからあんまり目立ちたくないんだが」と言ったが、リーディアは、そんなことは眼中無いようだ。

この女は、肉体言語で語り合うタイプなのだ。たぶん、間違いない。


リーディアは「負けるのは仕方ないとしても、手加減されるのは気に食わん」と言って、盾を置いて剣で挑む。


それは良い判断だと俺は思った。

体重差がありすぎる。盾で受けるより、躱すべきだ。


見てる騎士たちは、違和感を感じていた。

リーディアは、はじめから負け覚悟、勇者とは言え、巨大な老人は、負ける気など微塵も無さそうだ。


リーディアが「お前は剣を構えないのか?」と言うので、

「俺の武器はコレだからな」と大盾を見せる。


たぶんこいつは約束は守る。脳筋だから。


一応形だけ確認する。

「真面目にやれば、協力してくれるんだな」


「真面目にやればな……」とリーディアが応えた。

だが、俺にはリーディアが真面目にやってないように見える。


「じゃあ、ちゃんと避けろよ」と言い、続けて、「はじめていいのか?」と聞くと、

リーディアは「いつでもいいぞ」と言った。


その瞬間リーディアの体が浮いていた、そのまま盾で地面に押し付けられる。

「ぐぁ、が、」、リーディアは何が起きたかわからなかった。


兵士たちから、歓声やら悲鳴が上がり、ますます人が増える。


俺はリーディアに「人に言う前に、お前が真面目にやれ」と言う。


リーディアは「そうだな、済まなかった」と言い、立ち上がった。


リーディアは、急激に頭がすっきりしてくるのを感じた。急激に集中力が増す。

そうだ、腑抜けているのは、私の方だ。勝ち負けはともかく、一撃は入れたい。



一撃だけでも……正面から行ったが、盾で吹き飛ばされる。これは様子見だ。


「体重差を考えろ。まともに当たったら勝てんぞ」


「そんなことは、わかっている」


一度懐に入れば、あの大盾で対処するには、僅かな隙が生まれる。

あの盾を避けてとにかく懐に入る。リーディアは、それだけに集中した。


微妙にタイミングをずらして飛び込む、今度は”見えた”集中して盾の軌道と間合いを見定め、懐に入り込む。


今度は、盾を避けてリーディアが迫った……が、次の瞬間、思い切り蹴られてすっ飛んでいた。

「ぐえ、」

起き上がれない。


あれだけ大きな盾を振り回して、何故、次の瞬間蹴りが放てるのか理解できなかった。


でも、納得した。


今のリーディアの力では、一撃を入れることもできないのだ。



全力で蹴ったわけでは無かったが、リーディアは起き上がれないようだ。

「おい、真面目に戦ったぞ。まだやるか?」と聞くと、

「ありがとう。すっきりした」と言い、見物の兵士に向かって「これが本物の勇者だ。私に勇者の資格があると思うか?」と言った。


すると、やっぱり兵士たちが泣いた。


俺が来ると、コイツらは泣くのだ。

俺はとても居心地が悪くなった。


リーディアは、これを兵士たちに見せたかったのだろうか?

俺は、リーディアが何をしたかったんだか、全然意味が分からなくて、猛烈に困った。


----


リーディアには、近頃は本気で相手してくれる相手が居なかった。

そもそも、元からリーディアより格上の相手と戦う機会が少なかった上に、近頃では、お膳立てばかりで、負ける勝負はさせてもらえなかった。


今では、本気で相手をしてくれる格上の相手が居なかったのだ。


リーディアは救われた気がした。

いつも強くあろうと頑張って来た。負けることなど許されないと。

でも、あんなのは虚勢だ……


一騎打ちで手加減されても仕方がない。


これだけ差があれば、守られても仕方が無い。

この男から見れば、すべての人間が庇護(ひご)の対象なのだ。

まさに”勇者”

この男に守られることを、恥と感じる必要など不要だったのだ。


私は愚かだった。そう思うと涙が勝手に流れた。


----


一応、再度確認する。

「勇者の鎧取りに行きたいんだけど、強い女が条件だったら俺じゃ着られないだろ。

 一緒に取りに行ってほしいんだけど、いいか?」


すると、何故かリーディアが大泣きした。

「あうあうおおで」とか言ってるが、何のことかさっぱり俺にはわからなかった。


回りを見ると、視線が俺に集中していて緊張した。


え? なんか皆に見られまくって、俺が悪者みたいなんだけど。

おい、お前ら、見てただろ、俺が望んで虐めたわけじゃないぞ!


と思ったら、残念隊員たちが「お供します!」とか言って、セットで付いてくることになったようだ。

話通じてるのか?


----


完璧に負けた相手が、勇者に選んでくれたのだ。私に勇者になる資格があるとは思えない。

だが、この人と共に歩みたい。リーディアは心からそう思った。

勇者になるかは別として、迷宮には行く。


※おっさんの意図がまったく通じていませんね


----


しばらく待つと、やっと落ち着き、ようやくリーディアは返事をくれた。


「もちろん、約束は守る……約束したからな」と言い、

「既に準備はしてあるが、少し待っていてくれ」と続けた。

リーディアは、妙に晴れ晴れとした表情になって、言葉も柔らかくなった。


急に変わったので、俺はまた何かフラグを立ててしまったと思い、心のエネルギーが1/3くらい減ってしまった。


========


てっきり、残念小隊ごと付いてくるのかと思ったが、そんなことは無く、騎士はリーディアだけだった。

連絡役みたいな、軽装の兵士が4人ついてきたが。

どういうわけか、リーディアは勇者鎧の迷宮の場所まで知っていた。


俺は思った。たぶん、リーディアの持っている情報の出どころは、エスティア達だけではない。

他に俺をよく知る協力者がいる。……たぶんキャゼリアだろう。


キャゼリアが見たがっている勇者は、人が決めた勇者……つまり俺のことでは無く、俺が選んだ勇者なのだろう。

キャゼリアは、勇者伝承の研究者のくせに、大鎧の書を信じる女だからな、と思った。


あとは、リーディアに勇者の鎧を押し付ければ、丸く収まる……と思っていた。


ところが、迷宮に来ると、うちの女共が居た。


「来ちゃった、えへ」とアイスが言った。

普通、こういう場面で使う言葉じゃねーだろ!


なんで来ちゃうんだよ!と俺は全力で叫んだ。心の中で。


来た理由を説明してくれるのだが、さっぱり意味が分からない。


「だって、死んだらトルテラが怒るだろ」


俺が怒るから何なのだ? ここに来た時点で怒ってるのだが。


全然意味が分からないのだが、うちの女共は死なないと言い張って困った。

理由は、死んだら俺が怒るからだと言う。

ぜんぜん意味が分からないが、何か根拠があるらしい。


「私も、彼女らも一緒に行くべきだと思う」 リーディアが言う。

コイツらもしかしてグルなのか?


リーディアの気が変わると嫌なので、仕方が無く皆で入ることにした。



一応、外からは、俺以外開けないことを確認する。

「選ばれた、特別な存在なのだな」 リーディアが言う。


リーディアが知らないのは仕方ないが、俺は、この扉が開くと、いつも傷ついているのだ。

だって、人間じゃないって言われているようなものなのだ。


俺がちょっと落ち込むと、テーラがそっと近付いてきたので、またトドメを差しに来ると思って、さっさと次に進む。


入ったら最後、二度と開かないなんてことがあると困る。中から開くか確認するために、リーディアと2人で入ろうとしたが、置いてかれるからからダメと言って、エスティアと入らされた。


やはり、俺は開けられず、エスティアは開けた。


やっぱ俺、人類じゃ無いと思って凹んだが、気丈に振舞う。


中から開けられることを確認した後、皆で入った。

リーディアの従者が2人、外に残ったので8人だ。


リーディアは「私はこれから勇者の鎧を取るために、この迷宮に入る! お前たち2人は外で待ち、1日で戻らなければ、1人は大体本部に連絡を入れてくれ」と言った。


リーディアは、いつものウザさに戻っていた。


はじめから勇者鎧取りに行こうと言って出発してるわけだし、そんなこと言わなくても良いのに。

なんか、言うこと1つ1つが芝居がかってるんだよな……と思った。


俺と戦う前は、なんか輝きに欠けると言うか、ウザさが足りなかったのに、スゲーウザくなっててびっくりした。


こんなウザいやつと2人で迷宮攻略なんて、俺はなんて馬鹿なことを考えたのだろうと後悔していた。

いや、でも、うちの女共は、ここに連れてきたくなかったのだが。



迷宮は、長期閉ざされたままだったようで、変なのがいっぱい居た。

リーディアと従者を見ると、リーディアは流石に強いが、従者の2人はさっぱりだった。


リーディアは「連れの女も凄いな」と言った。


うちの女達は凄いらしい。


「冒険者というレベルでは無いな」


アイスの攻めとリナの守りを見て、並の冒険者じゃ無いと言っていた。

リーディアの従者が弱いんじゃなくて、うちの女共が強めなのかもしれないと思った。


でも、そんなに強いとか不自然だ。


中ボス部屋みたいなところに、2mクラスの巨人が居たが、俺が囮になりつつリーディアに倒させた。


一応巨人と戦ったし、これでリーディアが勇者でも問題無いだろう。

フラグがあると嫌なので、リーディアに倒させたかったのだ。

リーディアは1人で倒したがるんじゃないかと思って心配したが、意外にも素直に連携してあっさり倒してくれた。

単独でも強いが、連携でも強い。

凄く間抜けなことに、迷宮は狭くて、巨人よりリーディアに有利な状況だった。


なんで不利な場所で待ち受けてるんだよ!!と思いつつも、俺は巨人に殴られて、すげー痛かった。

俺は、真正面から戦うのは向いてないのだ。


「どっちが化け物か、わからないな」 リーディアが言う。

俺はたいして活躍しなかったと思うのだが。

「でかいのは、不意打ちじゃないと、やっぱ反撃がきついな」


「怪我が無さそうに見えるな」


俺は、コイツの囮で殴られたのに、難癖付けられて、遺憾の意を表明しようかと思った。

「やせ我慢だ。すげー痛かった」


「痛かったで済むのがおかしい。それに、連れの女達が心配していない」


リーディアの従者は、驚きの表情で見ている。


次に、エスティア達を見る。ぜんぜん、心配してない。

確かにそうだ。俺は誰にも心配して貰えない、不幸な男なのだ。


「トルテラは、あのくらいじゃ怪我しないんだよ」


怪我しないかもしれないけど、俺は、少しくらい心配して欲しいのだ。


…………


奥には扉があるが、この扉は意外にも誰でも開けることができた。


ここから先は、リーディアと俺で行くことも考えて入ったが、俺もリーディアも中から開けられた。

方向扉では無かった。一応念のため、扉の外にリーディアの従者を1人待機させる。


迷宮は、ここで行き止まりで、確かに鎧があった。


もしかして俺用だったり、なんて考えも少しあったのだが、一目でわかる。

どう見ても女物だ。


女の子サイズだし、胸の形もあるし……てか、女ばっかの世界でデザイン的にわざわざ胸強調する必要あるのかと思う。


リーディアに鎧を渡そうとすると、ちょっと困ったことになった。


「今の私に、この鎧を受け取る資格は無い」


なんでそうなる! 鎧取りに来たんだろ!!

そんなこと言われても、今、貰ってもらわないと困るのだ。


参った。


当のリーディアが、乗り気では無かった。

だったら何のためにここまで来たんだよ!!と全力で叫んだ。心の中で。


うちの女も来てるし、これはメインヒロイン選ぶイベントなのかもしれないと思って、俺はかなり困ってしまった。


ウザい騎士と、理不尽なお説教する女と、俺に悪戯する女と、俺の心を折りにくる女と、何も考えてない俺っ子と、この中から自由に選べと? なんて選り取り見取りだ!


いや、そういうイベントではないはずだ。


リーディアに押し付けないと、2代目勇者が”軍関係者”でないと、まずいと思うのだ。

挿絵(By みてみん)

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