6-5.勇者の鎧(前編)
男の勇者ははじめから居なかったことにするため、本を出しますがもちろん裏目に出て、初代が復活して2代目を助ける話が主流になってしまいました。すると、やっぱり来るわけです。2代目の使者が。
結局運命からは逃れられないようです。
夕食の支度をしてるときに、軍人がやって来た。
いつも通りまた俺が感謝される役なのかと思ったら全然違った。
兵士は「リーディア様の使者としてやってまいりました」と言う。
今まで軍人は何人も来たが、リーディアの使いで来た者はいなかった。
俺は、凄く嫌な予感がしたが、内容は思ってたのとだいぶ違っていた。
俺の命が狙われてるかもしれないと言うのだ。
軍の内部に、先代勇者に生きててもらうと困る連中が居るのだと言う。
まあ、そんこともあるだろうとは思っていたが、
俺は、なぜ生きてるだけで、困られてしまうのかと思い悲しくなった。
今までも、よく産廃扱いされた。
最近はあんまり産廃扱いされなくなったと思ったらこれだ。
なんかいろいろめんどくさいので、俺は竜に変身してダルガンイストの軍本部を潰したい気持ちでいっぱいになった。
俺が自分の意志で竜に変身できるかは知らないが。
そして、驚いたことに、リーディアもあまり良い状況では無いのだと言う。
2代目勇者で喜んでるのかと思ったら、拒絶して良くない状況に居るらしい。
予想外ではあったが、そこまでは他人事だ。
何故拒絶しているのか、その理由を聞いて俺は衝撃を受けた。
「はい。勇者は神が選ぶものと言っておられます」
エスティア達を見ると、頷いた。
俺が選ぶことを知ってるのか……
それだと他人事では済まない。
俺は自分が関係無いところで誰かがどうなろうと、それは運命だと思うが、俺の影響でそうなってしまったのであれば、後味が悪い。
皆に「ごめん」と言い、リーディアの使者には、近日中に向かうと伝えてもらうように言った。
----
トルテラは、リーディアの使者と話が終わると、女達を集めた。
エスティア達は、トルテラが、これから何を言うかは、だいたいわかっていた。
トルテラは予想通りのことを言う。
「リーディアを勇者にしに行ってくる。今回は1人で行かせてもらう。目立つと困るから」
リナとエスティアは思った。
これがあるから、トルテラは、どこにも行かないという約束ができないのだ。
----
「誰かが俺を殺しに来ても、俺1人だったら多分死なないけど,
お前らを人質に取られると困る。
たぶん、リーディアが勇者になれば、勇者の伝承はそれに合わせて変わると思う。
もしかしたら、リーディアも俺も、狙われなくなるかもしれない。
だから、ちょっと行ってくる」
するとアイスが「俺、トルテラと一緒に行きたい」と言った。
そう言い出すかもしれないとは思っていた。
「いや、ルルをシートのところまで安全に連れて行って欲しい。
アイスが抜けたら戦力ダウンになるから」と言う。
ルルは「私は、一人で帰るくらいは、できると思うけど」と言っていた。
俺は、皆に、トート森まで逃げて欲しいのだ。
エスティアとリナは、一緒に行くとは言いにくかった。
あのとき言わなければ、リーディアは知らずに勇者になったかもしれない。
あの時言ってしまったから、リーディアを勇者にするのはトルテラだと知ってしまった。
あのとき言わなければ……
----
不満が出るのは分かっていた。
俺が「大丈夫だ。俺は簡単には死なない。帰ってくるから」と言うと、渋々納得してくれたようだ。
俺は、翌日には出発した。
俺は目立つので、普通のルートを通るとすぐばれる。
大きく迂回して、タンガレアを通ってダルガンイスト向かった。
========
その頃、エスティア達は、今後について話し合いをしていた。
勇者鎧の迷宮に行くかどうかについて。
「俺、行くよ。一人でも」とアイスは言う。
「一人で行って何か起きたら、私たちが怒られるから、皆で行くか行かないかどちらかにしましょう」とエスティアが提案した。
トルテラは迂回して足で進む。
それに対して、途中まで乗合馬車を使って直行すれば、トルテラより先に、勇者鎧の迷宮に辿り着くことができる。
でも、そんなことをしたら、トルテラが怒るかもしれない。
リナは悔やんでいた。
「あのとき言わなければ、リーディアは知らずに勇者になったかもしれない。
そうすれば、トルテラは行くことにならなかった」と言った。
テーラが口を開いた「だいじょうぶ。言っても言わなくても、結果は一緒だよ」。
さらに「そして、私たちは誰も死なない」と付け加えた。
「何を言ってるの?」、「どういうことだ」
テーラは「大鎧の書に書かれてるのは、森に飛んでくる竜の話なの」と言う。
それに対し、リナは即座に「勇者は神が選ぶ」と言った。
「トルテラが勇者を選ぶ」とエスティアが。
「そう」
「まあ、扉開けられるのが、トルテラだけなんだからそうなるよな」とアイスが言い、
続けて「でも、死なないというのは、なんでわかるんだ?」と言った。
「死んだら神が怒るから」とテーラが、
「怒るとどうなる?」とリナが聞く。
「書かれてないから誰も死なない」とテーラが答えた。
「なんだそれ?」とアイスが
「その話、トルテラは知ってるのか?」とリナが問う
「言ってないから、知らないと思う」
「でも、誰も死なないから、迷宮に行ってもだいじょうぶ」とテーラが言う。
そして、「ごめんねルル、送って行けなくて」と言った。
ルルは、「一人で帰れるから」と答えたが、混乱していた。
なんでテリシア(テーラ)が、そんなことを知っているのだろう?
結局、行くことに決まってしまった。
========
ダルガンイストでは、軍関係者たちが揉めまくっていた。
軍の失敗の尻拭いで死んだはずの勇者が生きていると言う。
この不名誉な歴史は、軍出身の勇者で上書きしなければならない。
一方、2代目勇者として推している騎士リーディアは乗り気ではない。
既にリーディアが2代目として認知されている。
今から、他の候補に、挿げ替えるのには、時間と手間がかかりすぎる。
勇者の国葬も勇者像も、先代勇者が死に、2代目が軍から出るのが前提での話なのだ。
言わば、2代目の引き立て役として、先代勇者を利用することが目的だったのだ。
先代に、生きててもらっては困る。
ところが、現場の兵士達は、先代勇者を神のように崇めていた。
実際に命を救われた者、友人知人が救われた者が多いためだ。
先代勇者を抹殺しようとすれば、必ず抵抗勢力が出る。
そんな状況で、あの巨人を倒すような化け物を打ち取るのは難しい。
幸い先代勇者は、名乗りを上げる気は無さそうなので、見なかったことにして、無理やりにでもリーディアを2代目勇者にするべく動いていた。
リーディアも、緊急性があると言う意味で使者を送ったわけでは無かったのだが、トルテラは即動いた。
自分が、どのように評価されてるかを知らなかったためだ。
知っていれば、動かなかったかもしれない。
========
トルテラは10日ほどで、タンガレア側からダルガンイスト目前まで迫っていた。
動物は2つに分けると、草食と肉食に分かれる。間の雑食もあるが。
草食獣は、全力で逃げるか反撃してくるが、反撃受けてもトドメを刺しに来ない
肉食獣は、攻撃してくるが、負けそうだとすぐ逃げる。
勝てるときは、例え食わなくても殺しにくることが多い。
熊は逃げると追ってくるので、逃げずに一撃加えて去るのが楽。
俺は、熊と真正面から戦いを挑んだりはしないのだ。
俺は、死んだことになってるので、普通に街道を通ると目立つ。
このダルガンイスト周辺では、すっかり大男は勇者扱いになってしまって面倒なのだ。
……で、先にタンガレアに出て、タンガレア側から来たのだが、ダルガンイストに近いためか、騎士隊が居た。
騎士隊が、巨人と牽制し合ってるのが見える。陣形が素晴らしい。
巨人と言っても2mくらいのやつなので、騎士隊でもなんとかなりそうだった。
あの巨人は肉食パターンと草食パターンどちらだろう?と考える。
怪物も、肉食パターンかな?と思った。
自分が死なない相手にしか、攻撃し続けないだろうから。
だとしたら、一撃離脱が良い。
スルーしてもかまわないが、俺は猛獣を見たらとりあえず殴る派だ。
殴って巨人に隙ができれば、そこを狙って騎士隊がなんとかするだろう。
走りながら、巨人に一撃加える。
不意打ちを食らって巨人がよろけたので、再度殴る。
すると、転倒したので、ついでなのでトドメを刺す。
もう死んでるかもしれないし、放置しても死ぬだろうし、騎士隊が何とかするだろう。
でも一応声かけとくか、
「すみません、急いでるんで一応トドメさしといてください」
よく考えずに言ったので、丁寧に言うつもりが、なんか変な言い方になっちゃったな……と思った。
ダルガンイストへは、抜け道を通っていく。砦で揉めたらめんどくさいから。
抜け道は抜け道で、荒っぽい人たちの縄張りを穏便に進むためにけっこうめんどくさい。
前に通ったからか、ちゃんと覚えててくれて、前ほど手間はかからなかった。
リーディアは報告を受ける。
「大サイズ巨人の排除には成功しましたが、謎の大男がいきなり現れ、瞬時に巨人を倒してそのまま走り去りました」
「勇者様に見えました。噂通り、生きているようです」
リーディアは驚きもせず、こう答えた。
「あれは、あの程度では死なん」
そして思う。早速来たか。速いな。
「勇者が来る。すぐ出迎えの準備をしろ」と指示を出す。
この時点で既にリーディアは中隊長に昇進していたが、既に大隊長待遇だったため、大隊本部と、戦闘要員以外にも多くの配下を抱えていた。
トルテラの手柄を横取りして勇者になるのは不本意。
それに、巨人を倒した話が本当なら、以前の勝負は手加減して私に勝った。それは絶対に許せない。
まずは、一騎打ちのやり直しだ。
----
トルテラが、軍関連の施設に近付くと”勇者が来た”と言って、大騒ぎになった。
「リーディアに会いに来た」と言うと、普通に案内してくれた。
普通……いや、むしろ歓迎ムードだ。これは予想外だった。
わざわざ、俺の家までお礼言いに来る兵士が居るが、ああいうのは極一部の変わり者だと思っていたのだ。
ところが、予想外に俺は、兵士たちのヒーローになってた。
俺が知らない間に、本当に俺は勇者扱いになってたのだ。
俺はてっきり、二階級特進的な意味で”勇者”になっただけだと思っていたのだが。




