5-5.勇者フラグ押し付け失敗、トルテラ(故人)勇者になる
人に勇者フラグを押し付けようとした罰が下ってしまったようです。
人にフラグを押し付けようとすると自分に返ってきてしまうのです。
それにしても、リナたちも何故にトルテラ不在でもフラグをどんどん構築するのでしょうか。
残念騎士の所属する大隊も、砦の守りで出ている。
もちろん”残念小隊”もだ。”残念小隊”と言うのは残念な方の騎士の小隊の意味であって、”残念小隊”と言う名前ではない。俺がそう呼んでるだけだ。
要塞線の守りは、見張りみたいなもので、戦闘を主な任務としていない。部隊が少人数に分割されていて間隔も広い。
この人数と布陣で、あんなのと戦えない。
一応、共闘する約束なので、残念小隊と行動を共にする。
砦に戻れば、あの怪物でも問題ないだろうが、状況が悪かった。
ダルガンイストから大軍が出たので、その牽制で出てきたタンガレアの軍が、混乱に乗じて攻め込んで来ていた。
巨人をきっかけに、本物の戦争まで起きていたのだ。
あの残念騎士には、人望というか統率力というか、そういうのはあるようで、兵士がどんどん集まってくる。
俺は知らなかったが、通信機もない世界では、人は人望で動くのだ。
統率の弱い部隊の脱落者が、あの残念騎士の下に集結しつつあるのだ。
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”中隊長とか大隊長は何をしてるんだろうか?”とトルテラは思ったが、今回は大隊が分散配置されてるため、偉い人は本部に引きこもっていたのだった。
トルテラは、この規模と統率力があれば、対タンガレアの対人戦は問題ないだろうと思った。
タンガレアがあの怪物を操ってるわけではないだろうから。
味方を吸収しながら砦まで戻れば良い。
そう考えていた。
問題は怪物の方だ。
あの怪物は、最悪、俺が当たるしかないだろう。
そんなときに、異様なものが近付きつつある気配を感じた。
あの怪物だ。どう言うわけか、真っ直ぐこちらに向かってくるようだ。
目標は俺か?
もしかしたら、俺があいつを引き寄せてしまうのかもしれない。
「駄目だ、あいつが来る」と言う、そして、
「リナ、なんとか砦まで戻れないか」と言うと、
「どっちから?」と聞くので巨人の方向を指す。
「たぶん、目標は俺だ」と言い、続けて
「俺は何とでもなる、お前らが居たら自由に逃げれない」と言うと、エスティアとリナが頷いた。
「あれと戦うなよ」とアイスが言って去って行った。
テーラは「信じてる」と言った。何を信じてるのだろう?
「巨人がここに来る。リーディア、悪いがコイツらを頼む。
必ず全員生かして帰してほしい」と言うと、部下を付けて、エスティア達を連れて行った。
ところがリーディアが残っている。
「リーディア、急いで、砦方向に移動してくれ」
「私は一緒に巨人と戦うと約束した」とリーディアが言うが、それは勇者鎧を取った後の話だ。
「悪いが、今は準備不足だ、今は被害を最小にしたい」と答える。
「撤退は進んでいる」とリーディアが言う。
駄目だ、こいつわかってねぇ。
「ここが持ちこたえているのは、お前がいるからだ。お前が倒れたら戦線は崩壊する。
お前は、最小の被害で兵たちを、砦まで連れ帰れ」そこまで言うとようやく諦めた。
「わかった。速やかに撤収する」
砦まではそう遠くはない。
とは言え、俺は、十分な時間、時間稼ぎできるだろうか。
リーディアの小隊など、一部の騎士隊は哨戒用の軽装では無く、交戦用の中装備で出てきていて、移動は遅く、移動による疲労も激しかった。
本来、騎士隊専属の補助要員を、負傷者の撤収作業に充ててしまったためだ。
エスティア達はもう少し身軽だ。
リーディアの小隊よりは先に砦に着くはずだ。
最悪の場合、あれを使ってでも止めなければ……封印していた点火の魔法だ。
一瞬で薪を灰にする力がある。
うまく顔にでも当てれれば、あの巨人でも戦闘不能にできるかもしれない。
いや、一時的に行動不能にするだけでも十分だ。
ただ、加減が分からない。至近距離じゃないと、当たらないかもしれないしな……
巨人は人を蹴散らしながら、直進を続けた。
てっきり、ターゲットは俺かと思ったのだが、なぜか砦に向かっている。
巨人はさっき包囲陣に誘導したときと行動パターンが違って、近付くだけでは進む方向を変えられなかった。
うちの女達が避難するまでは、なんとか時間を稼がないと。
あいつらの安全を確認するまで、俺は逃げることも死ぬことも許されない。
凄いプレッシャーだ。
俺は進行方向の横から盾で殴るが、有効打にはならないようだ。強力な武器がほしい。
反撃も1発1発が重い。
俺は、自分よりリーチの長い相手と戦う機会が無いので、リーチが長い相手と戦うのが、こんなに難しいとは思わなかった。
何度も繰り返し横から攻撃し、足止め……にはほど遠いが、なんとか進行速度は下がっている。
幸いにも、リーディアの軍勢は砦に辿り着いてるようだ。
ところが、残念小隊と、エスティア達が殿にいるのが見えた。
俺が何のために時間稼ぎしてるのかわかってないのか、あいつらは!
俺は、絶望感を感じた。
これじゃ、最後の一人が砦に入るまで、俺、絶対逃げれないだろ!
「早く砦に入れ」と言うが、遠くて伝わらない。
撤退が進んでいないので何故逃げないのかと思ったが、残念小隊が包囲陣を敷いている。
巨人を迎撃するつもりなようだ。
その人数じゃ無理だと思ったが、槍兵が20人くらい集まってきて、なんとか陣の形にはなった。
あと1分もせず、包囲陣と接触する。
俺としては、逃げてほしかったのだが、包囲陣ができている。
仕方なく、包囲陣の手前で横から当たって隙を作ることにした。
一度包囲陣に駆け寄り、「俺が飛び出したら攻撃しろ、絶対に近寄るなよ」と言う、あとはあいつらを信じるしかない。怪我するなよ……
タイミングを見計らって、横から飛びかかると、巨人が殴りかかってきた。
盾でカウンターを当てたつもりが、持ち手がもげた。盾は丈夫だが、後から加工した持ち手がもげた。
今までの敵とは別格だった。
そのまま怪物の腰にしがみつく。
いくら小規模とはいえ、抱囲陣が決まれば、俺が押さえる間にダメージ与えることができるだろう。
「騎士は抱囲陣で堪えろ、槍持ってるやつは槍でやれ」
蹴られながらも言う「弓は十分離れて撃て」
俺は少々の怪我で死ぬことは無い。
しがみついてる間は、怪物から一撃必殺の大技を受けることは無いし、俺はこの距離でも衝撃を上乗せできるので、多少のダメージは与えられる。
※衝撃と言っているのは衝撃魔法のことで、それ自体にはダメージを与える効果は
まったくありませんが、相手が大きな打撃を受けたと錯覚するので、
相手の気を引き付ける効果が大きく、結果として隙ができます。
いざとなったら逃げることもできる。
槍の第一打が放たれる。弱いが効かないわけでは無い。地道にやればダメージは与えられそうだ。
ところが、近くにいたエスティアが止める間もなく、残念騎士リーディアが前に出て巨人に見事な一撃を……
「バカ、やめろ」
見事ではあったが、並の体格しか持たない女騎士の一撃はトドメには程遠かった。
怪物が棍棒を振り上げた。
駄目だ、ここでコイツがやられたら、包囲陣は瓦解する。
そうなれば、全員無事帰るのは難しい。
中途半端なことをして、俺が早々に行動不能になっても結果は一緒だ。
この状況で、あいつら全員を守るためには、今すぐ俺が一撃で仕留めるしかない。
エスティアを見ると目が合った。
俺は、何故かもうエスティアとお別れなんだと思った。
ごめん。でも、俺は俺よりお前たちを守りたい。
俺は全力でコイツを燃やし尽くす。
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エスティアはその瞬間を見ていた。目が合った。
そして一瞬にしてわかった。これでお別れなんだと……
閃光が空に向かって放たれ、白く光ったかと思うと巨人が燃え上がった。
ほんの一瞬だった。
後には少量の白い灰と、トルテラの例の丈夫な盾だけが残り、怪物や大男など最初から居なかったかのようだった。
殆どの者は、何が起きたかわからなかっただろう。
エスティアにはわかった。発火の魔法を使ったのだ。
その意図も明確に。誰かが目の前で死ぬのが嫌だから、制御もできない、当たったものは全て燃やし尽くすあの魔法を使ったのだ。恐らく全力で。
「遺体も残らないなんて」 膝から崩れ落ちた。
「おまえ!絶対に許さない」 エスティアには似合わない言葉を言い放つ。
アイスが「おい、リナ、エスティアを頼む。俺達が一人でも怪我したらトルテラが悲しむぞ」言うことがまともだ。それだけ、まずい状況なのだ。
リナはアイスに言われるまでも無く、既に盾を背負い、即座にエスティアを立たせ撤退を始める。
テーラも固まったまま動けない。アイスが駆け寄り、撤退を始めた。
テーラはその瞬間トルテラの気配を辿っていた。死んではいない、でも、どこにいるかわからなかった。
近くにはいない。
嫌な予感がした。
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要塞守備隊は、混乱の元となった怪物を失い、圧倒的に不利になったはずの敵を押し返せずにいた。
突破口となるはずの巨人を失い、勝利の道が閉ざされたのにも関わらず、敵側はなかなか退かず、死者を増やしながら戦闘は数時間続いた。
タンガレアの軍は、混乱に乗じて攻め込んだだけで、機を見て引くつもりだった。
ところが、そのタイミングを逃していた。
戦線崩壊で、砦に逃げ帰るダルガンイスト側の敗残兵とダルガンイストの守備隊に挟まれ、容易には撤退できなくなってしまったのだ。
そのため、戦意の低い者同士で、無意味な死闘を繰り広げる結果になってしまったのだ。
双方に大被害が出た。
エスティア達は、トルテラが巨人とともに消えてからすぐ、砦に避難していた。
誰も怪我は無かったが、皆無言だった。
エスティアとリナは、気が抜けたようになっていた。
テーラはショックで寝込んでいる。
いつもはお気楽なアイスが一人平静を保っていた。
戦闘が終わってゴタゴタが収まる前に、エスティア達のところに、残念騎士リーディアが現れた。
リーディアを一目見るなり、エスティアが「お前のせいで、トルテラは!」と叫ぶ。
アイスがエスティアを止める。
リーディアの配下も、エスティアを止めに入る。
リーディアには、あのとき何が起きたのか理解できていなかった。
兵士たちの間では、相打ちになったことになっていた。
巨人とトルテラはどうなったのか、それを聞くためにやってきたのだ。
リーディアが問う、
「何が起こったのだ、巨人とトルテラはどこに行った」
「目の前で見てただろ、巨人ごと燃え尽きたんだよ」とアイスが言う。
「バカな、あの一瞬で燃え尽きるなどあり得ん、何を使えばそうなるのだ」
「普通の点火だよ。トルテラは特別なんだ」アイスが答えた。
「では、何故お前らは逃亡した」 リーディアは問う。
リナが答える「トルテラが居ない時点で、戦闘を継続する理由が無い」
言ってることはわかる。
あの大男を失ったことで気が立っていることもわかる。
あれだけの男は居ない。
わからないのは、助けに入って何故恨まれるのかだった。
「あの男が捨て身で止めている間に、この身を犠牲にしてでも、
早く多くのダメージを与えようとした。それが恨まれる理由になるのか?」
リナはこれを聞き、怒りが湧いてきた。
「なるに決まってるだろ。それに捨て身じゃない。
トルテラは、あの程度の怪物と戦ったからって死ぬことは無い」
”あの程度の怪物”と戦って死なない?そんな人間が居るか?馬鹿げている。
リーディアはそう思った。
大男を連れていた、この一団の面々を確認するが、リナと言う女だけではなく全員そう思ってるようだ……
この女たちが、本気でそう思ってることは理解した。
だが、あの程度?……こいつら本当に、あれの恐ろしさをわかっているのか?
「ではなぜ私と共闘しようとした。
それほどまでに強いなら、私に頼る意味が無いではないか」
リーディアが言う。
「違う。トルテラはあなたを勇者にして、一緒に戦おうとしたんだ。
だが、勇者にする前にリーディア、あなたが死にそうになった」
「勇者?」リーディアは混乱していた。
「巨人を倒すのは勇者の役割だろ」とアイスが言う。
「勇者を決めたのは神だぞ」とリーディアが言う。
「そうだ。勇者を決めるのが神ならトルテラは神だ。トルテラは神殿に住んでるんだぞ」
「トルテラがいないと勇者鎧の迷宮に入れないからな!誰と行くかはトルテラが決めれるんだよ」
「そしてお前を選んだ」
リーディアは事情を理解した。
私を勇者に選んでくれたのか……
リナが続ける
「トルテラは、あのくらいの巨人相手では死なないはずだった。
ただし、他の女が死にそうになれば、自分を犠牲にしてでも守ろうとする。
だから、トルテラの前で致死性の攻撃は絶対に受けちゃいけなかったんだ。
お前を守ろうとして死んだんだ」
「なんだと? 私を守るために死んだ? 私はあの男の犠牲を無駄にしないようにと」
「あのときトルテラが、何と言ったか覚えているか? 離れて撃てと言ったんだ」
リーディアは愕然とした。
そうだ、確かにあの時言っていた。”離れて撃て”と……
リーディアは「私は大切な人を助けに入ったつもりだった……」と言い涙を流した。
それを言われると、リナはもう何も言えなかった。
この女は、トルテラをよく知らなかっただけなのだ。
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実際に、巨人を見た兵士も多く、兵士が1000人も駐留する街なので、話が広まるのは恐ろしいほど早かった。
巨人相手に命を落としたもの、大怪我を負ったものが、山ほどいたのだ。
その巨人が如何に恐ろしいか、そして、その怪物を身を挺して滅ぼした男の話は僅か数日でほぼ全ての人が知る話となった。
そして、本来、捨て駒であるはずの、ただの冒険者に対し、盛大な国葬が執り行われることになった。
※国葬と書いていますが、正確には国ではありません。
公的な特別待遇の葬儀だと思ってください。
領主は軍人の家系で、武勲を重視することに加え、元々あまりの噂に収まりがつかなくなっていたこともあるが、リーディアが全面的に推しまくったことも要因だった。
怪物の脅威を目の当たりにした兵士たちは、普通の兵士が何人かかったところで怪物を倒すことは難しいことを理解していた。
それをたった一人の男が倒したのだ。
命と引き換えに。兵士からの推しも凄かった。
トルテラは巨人を倒した者、即ち勇者になった。
ただし、当のトルテラ一行……今はトルテラは居ないが、トルテラを除いた一行は、国葬準備を見て呆然としていた。
当事者にろくに話も無いまま勝手に葬儀の準備が進められてるのだ。
エスティアは思った。
拾ったときには既に死にそうだった。
それからも何度か死にそうになったけど、今までトルテラが死なないように頑張ってきたのに。
今までトルテラが死なないように、一緒に頑張ってきた仲間のためならともかく、なんで、あの騎士のために死んでしまったのか……もう少し私たちのことを考えて欲しかった。
トルテラが死んだらどう思うのかを。
そのとき、テーラが口を開いた。
「トルテラは死んでないと思う」
テーラは特定の相手と心の奥で通じ合う、そんな微妙な能力を感じていた。
今までトルテラを身近に感じていたが、その感覚が消えてないのだ。
「生きてるかもしれないってこと? それとも生きてることがわかるってこと?」
「生きてると思う」
テーラは言った。
「わかるの?」
「私、トルテラがうちに来た時、特別な人だって思った。
それからは、トルテラを身近に感じるようになった。
たぶん、死んだらこの感覚は消えると思う。
まだ消えてないから生きてる……って」
リナは考える。
目の前で燃え上って灰が残った。
遺体は無い。
これで生きてる可能性は?
無い。テーラは願望を口にしてるだけかもしれない。
それでも、その場の雰囲気が少し明るくなった。
「今まで何度か死ぬかと思ったけど、いつも死ななかったし」
エスティア達はとても不思議な気持ちになった。
この4人は、元々パーティー組んでたエスティアとリナはともかくとして、アイスはトルテラ目当てで居るだけなのだ。
トルテラがいなければ解散しても良いパーティーなのだ。
即解散する必要は無いとしても、皆、むしろ積極的にパーティーを維持しようとしていた。
トルテラが目の前で燃え尽きたのを見たのに、まだトルテラが生きてることを前提に動いているのだ。
皆、口には出さないがわかっていた。
トルテラが生きてたとき、既にパーティーが解散していたら悲しむだろうと思ったのだ。




