4-8.トート森帰還
ダルガノードで調べ事やらノーパン踊りで大事故が起こりそうになったり、暴発で大騒ぎになった隙に逃げ出したりと、依頼のことなどすっかり忘れてしまったのかのように行動していましたが、やっとトート森に帰る話です。
突如、ダルガノードに大鎧信仰の迷宮の見張りが3人やってきた。
急いで、いろいろ準備し、トート森に帰還しようと思っていた矢先のことだった。
風呂で倒れて、なんとかキャゼリアから逃げてきたものの、あまりに急のことで、旅の準備ができてなかったのだ。
何かと思うと、「帰路は護衛します、どうか早急にお戻りください」とか言い出した。
なんかやけに言葉遣いが丁寧になってて怪しい。帰りは護衛するという。
つまり、護衛と言う名の見張りが3人ついた。
迷宮の見張りなので、けっこう腕が立ちそうだ。
それにしても、いきなり、どういうことだろう?
心配そうな顔でエスティアがこっちを見ている。
「護衛なんていらないよ。トルテラすげー強いんだぞ」とアイスが言う。
「いえ、お帰りになる様子が無いので、お連れしろと……」と護衛の一人が言う。
いつまで経っても帰らないので心配していたのだと言う。
キャゼリアと一緒に居たのも知られていて、戻ってこないかと思ったと。
つまり、連れ戻しにきたのだ。
いきなり強制で外国行きの依頼やらされたので、依頼という名の国外追放なのかと思って心配してたくらいなのに、わざわざ迎えに来るって意味が分からん。
実はあの玉の調査、本当にけっこう重要なのか?
と思ったら、
「トルテラ様がオリアン神殿跡地の主と認められました」
「は? 何が?」いきなり様付けになった。
なんと、産廃じいさんが様付けにランクアップだ。
“オリアン神殿跡地を俺に返却するからそこに住め“という謎の指示だった。
俺が行ったあとオリアン神殿跡地が聖域化したから、俺の持ち物だと言うのだ。
意味がぜんぜんわからない。俺、聖域化とか言われても知らないし。
「え? どういうこと?」と、エスティアが言うものの、
俺も知らないので「いや、意味がわからん」と答える。
「オリアン神殿跡地って、俺行ってないやつか! そんなに凄いなら行きたかったな」
アイスは何か勘違いしてるっぽい。
テーラは何も言わないが、何か思い当たることがあるような感じだ。
後で聞いてみよう。
ただ、住めと言われても、そもそもあそこ家無いし。
もしかして、あの監視小屋に住めと? そりゃ無理だ。狭すぎる。
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トルテラ一行が急遽帰り支度を始めたという、この動向は残念騎士隊長リーディアにバレていた。
ところが、リーディアが、どうやって誘き出して捕えようかと思案している隙に、護衛が増えてしまった。
残念騎士リーディアには、トルテラからの怪物報告が届いていた。
”絶対に少人数で対処せずに落とし穴等の罠を使って対処しろ”とあった。
実は既に軍でも犠牲者が出ていた。中隊規模でも対処不能だったのだ。
そのことを知っている者は軍でも極僅か。
わざわざ報告してくると言うことは、以前から、あれを知ってるということになる。
いったいあの老人は何者なのだ?
ますます、リーディアの中でトルテラの重要度が上がった。
トルテラは、気付かずにフラグを立てる悲しい男なのだ。
トルテラが、どこから来たかはあっさり調べられていた。
ダルガンイストに来るときトルテラ達と同行した、冒険者3人組から、トート森から来たことや、来るとき通ったルートがバレていた。
さらに、山賊に対して山賊行為をはたらいたことも。
あの冒険者たちが言いふらして回ったせいで、でかくて凄い(凶悪な)爺さんがダルガンイストに来てると言う話が広まっていたのだ。
リーディア(の配下)は、噂の元を辿り、あの冒険者3人組を探し当てた。
ある程度は強引に話を聞き出すことも止む無しと考えていたが、
脅したり物騒なことをしなくても、食わせて飲ませて話を聞くとべらべらといろいろ教えてくれたのだ。
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リーディアは検問を訪れていた。
リーディアがトルテラと戦った後に、”領主の依頼書を見せたが砦の検問を通してもらえなかった”という話を聞いていたため、その話が本当か自分で確認しておきたかったのだ。
検問担当に確認をすると確かに巨大な老人が領主の名前の入った依頼書を持ってきたと言う。
「はあ、確かに持っていました。記録を残していませんが、確かルオール候の名が入ってました」。
リーディアは驚くと共に納得もした。わざわざトート森から領主の依頼できた。
ルオール候はトート森一帯の領主だ。
ただの領主ではない。大鎧か竜絡みである可能性が出てきた。
「真実だったのか」 リーディアは呟く。
依頼書が偽造の可能性もあるが、おそらくホンモノだ。
ルオール候の名前を出したところで検問は通れない。
ここで偽の依頼書を見せる意味がない。
あれだけの使い手をルオール候が直接派遣するとなると、よほどの大事に違いない。
リーディアは思った。大鎧か竜関連だろう。
さらに知らせが入る。例の老人が「町人の格好で書物庫に入りました」。
外部の人間がいきなり書物庫には入れない。誰の手引きだ?
報告では勇者関連の研究者と一緒に入ったと言う。
領主からの依頼で来ているので、見た目に反して意外に高位の者が冒険者に化けている可能性を考えていたが、なんと、ダルガノードで書物庫に入れるような高位の研究者と会い書物庫に通っていた。
これは、リーディアの力だけでは動向を探ることさえ難しい。そう考えた。
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書物庫には、この国の者でも、そう簡単には入れない。
強いだけではない。あの男には何かあるのだと気付いた。
リーディアは残念なだけで、比較的賢い子なのだ。
領主の依頼で来たことと、書物庫に入ったことを知った時点で、リーディアは知人に頼ることにした。
ライゼンと名乗る男で、以前からリーディアを支援してくれた人物だった。
恋をしない男だ。
知識面では非常に心強い。さらに書物庫にも出入りできる。
急ぎ連絡を取り、ライゼンに会うといきなり言われた。
「巨人のことですね」
いきなりの話にリーディアは混乱した。
協力を仰ごうと、会うなりいきなり巨人の話だ。
「いや、今日は書物庫に出入りしているある男について」
と言いかけたところで、
「はい。知ってます。トルテラという老人ですね」と言った。
「なぜそれを」とリーディアが問うと、曖昧な返事が返ってきた。
「あの男が”大鎧の遣い”なのは知っていますか?」
リーディアは驚いた。大鎧なら聞くが”大鎧の遣い”など聞いたこともない。
「大鎧の遣いとはなんだ?」と聞くと
「それを知らずにあなたがあの男に興味を持つなら、きっとそういうことなのでしょう」
ライゼンは何を言っているのだ?
そもそも、なぜあの男のことを探っていることを知っていた?
もう情報が漏れてるのか。
リーディアは焦っていた。
まだ少数の配下に探らせていた段階で、他には誰にも話していないのに既にライゼンにまでバレているとは。
「たまたま知ったのですよ。
勇者について調べていたようです」とライゼンが言う。
「既にそこまで調べていたのか」
なぜ、リーディアの知りたいことを先回りして調べることができたのだろうか?
と考えていると、
「あなたにも関係ありそうなことでしたから。
あの男の動向を探った方が良いでしょう」
聞きたかった答えが、問う前に返ってきた。
「おお、それでは、そちらからも調査を頼む」とリーディアが、
「無論です」とライゼンが返す。
会話は一見成立していたが、実はあまり通じていなかった。
ライゼンは歴史全般に詳しいが、勇者と大鎧について特別詳しいわけでは無かった。
先にキャゼリアに聞いていたのだ。もしかしたら、あの老人が大鎧かもしれないと。
そして、大鎧と勇者は恐らく国を分けて戦うことは無いと。
つまり、巨人と大鎧は別のもの。
そして、”神は竜かもしれない”と言ったのだ。
勇者信仰で神は重要な意味を持つ。勇者を勇者にするのは神なのだ。
大鎧の伝承では神は竜。大鎧と勇者伝承は主従の関係がある。
勇者が生まれる時期が近いのかもしれない……そう考えた。
ライゼンは以前からリーディアが勇者である可能性があると考えていた。
実際には、”勇者は状況に合わせて候補者の中から適当に選ばれる”と考えていた。
つまり”大鎧が動くなら勇者も同時期に存在するはず”だ。
勇者の伝承は大鎧の伝承に合わせて変化する。これはライゼンも知っていた。
書物庫に出入りする歴史関連に詳しい知識層には常識だった。
あの老人がトート森に現れてからまだ数か月、それ以前にどこに居たかは不明。
あの老人を辿れないのなら、勇者側から辿った方が勝率が高い。
今一番勇者に近いのはリーディア。そう思っていたのだ。
勇者には素質が必要だ。
強いだけではなく、目立たなければならない。ライゼンはそう考えていた。
ただし、実際には勇者に特別詳しいわけでは無かった。
だが、確信したのだ。
キャゼリアが、わざわざあの老人が大鎧かもしれないとライゼンに伝えた。
それには意味がある。何かしらの意図があるはずだと。
ライゼンは以前から、ゆくゆくはリーディアを騎士団長にと考えていた。
そのことはキャゼリアも知っている。そのライゼンにわざわざ伝えに来たのだ。
そして、あの老人が大鎧の遣いであることがわかった。
ライゼンは疑問に思っていたのだ。
確かに大鎧は竜が人間に化けたものとあるが、竜は直接人間と接触しないのが普通だ。
大鎧が人間の使い走りと言うのは考えにくい。
キャゼリアは大鎧かもしれないと言ったが、ライゼンは違和感を持っていた。
そして、そこにリーディアが現れ、あの老人の話をしたのだ。
大鎧疑惑のあるあの老人の話を。
あの男は大鎧の遣いであって、大鎧ではないかもしれない。
それでも、大鎧と関係の深そうなあの老人にリーディアが強い興味を示すなら、リーディアが勇者である可能性がますます高まる。
一方、リーディアはトルテラが書物庫で何を調べていたか、さらに、より具体的に知るにはどうするべきか相談しに来たのだった。
流石に自分の夫捕獲のために部下は動かせない。
さすが、ライゼンは何でもお見通しだ。
そのライゼンが動向を探れと言うのだ。何かが起きるのだ。
”夫捕獲兼、国の大事”だ。急遽、調査のために人を潜伏させた。
こうして、二人の勘違いで、軍が関与する事になってしまった。
ライゼンは、軍を使ってまで動向を探れと言ったつもりはなかった。
気になるなら同行は把握しておいた方が良いというレベルの話だったのだ。
理由は簡単だ。
リーディアが勇者になるなら、放っておいてもチャンスは訪れる可能性が高い。
だから軽くアンテナ張っておくだけで良い。
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帰りは行きと違い、スムーズだが、殺伐としていた。
大鎧信仰と勇者信仰側がそれぞれ監視役を配置していて、けっこう大事になっていたのだ。
監視と勧誘の指令が入り乱れていて、大鎧信仰陣営と勇者信仰陣営が動き回ってるのがモロバレだった。こそっとついてくる者も居れば、差し入れ持って挨拶しに来る者も居ると言う混乱ぶりだった。
ただし、トルテラ達は、勇者信仰側はキャゼリアの指示で動いてると勘違いしていた。
こんなに遠くまで影響力があるとは!とか勝手に過大評価していたのだ。
たしかに、キャゼリアの手の者も若干名混ざってはいるのだが。
大鎧陣営から食材が毎日届くので、これは助かった。
ただし、大芋の干し芋が届いたときは殺意を抱いた。
俺はこれが大嫌いなのだ。
むしろ、好きでコレ食うやつ滅多にいねーだろ!と思うのだ。
勇者陣営側からは菓子が届けられることが多く、女達は勇者陣営側に大きく傾いた。
貧乏冒険者は菓子で釣られてしまうのだ。
勇者には近づかない方が良い。そう考えると、俺はパンツだけでなく、菓子も買えるくらい金持ちになりたいと思った。
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一方リーディアは、帰って行くトルテラ達に手出しできず、焦っていた。
ところが、ライゼンの言葉を聞いて少し気が紛れた。
「動向を探らせているのは、また来るからです。
あなたが気になるなら、相手もあなたを気にしているはずです」
これは、ライゼンの勝手な想像で、実際トルテラにとってリーディアは、服を台無しにした酷い上に残念なやつという印象しか持ってないのだが。
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キャゼリアは、ダルガンイストの軍が動いてることを知り、非常に焦りを感じていた。
もしトルテラが捕らえられるか殺されるようなことがあると、テリオスと一緒に調べた謎に迫れなくなってしまう。
軍が動いたのは元はと言えば、キャゼリアがライゼンに大鎧のことを話したのが原因なのだが、キャゼリアは、そこにはまったく気づいていなかった。
シートにも状況が伝わるように手紙を出した。
手紙が届くころには、トルテラ達はトート森に戻っているか手遅れになってるかもしれない。
既に遅いが、それでもなるべく早く知らせた方が良いと思ったのだ。
「お願い、間に合って……」
キャゼリアは心配していたが……別に特に何も起こらなかった。
両陣営混ざって、ぞろぞろ歩いて付いていくので、妙な集団行動になっていて、何も起きようが無かったのだ。
夜になるとテント内でガサゴソ大騒ぎが起きるので、毎晩あれでよくあの老人は生きてるな……と感心されていた。
一番不幸だったのは護衛の3人だった。部外者が多くて、日に日にやつれていった。
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トート森に到着すると、両陣営解散になった。とは言っても、何人か監視役が残された。
今回は本当に長旅だった。出発してから2か月近く経っていた。
久しぶりに大鎧なんたらの屋敷に行った。今回の報酬は小金貨3枚。
1枚は前払いで貰っていたので2枚だけ。
冒険者が目にすることすら稀な金貨とは言え、5人で2か月では、日割りで考えると大きな金額とも言えなかった。
玉を渡して、記録が取れてることが確認できた時点で依頼は完了した。
結局一体、今回の依頼には何の意味が有ったのだろう?とトルテラは思っていた。
相変わらず、自分がいったいどれだけフラグを立てたのかにはまったく気付いていないのであった。
大名行列が解散になって、監視役が少し離れてついてくる程度になった。
「やっと静かになったな」
「やっと戻ってきた」
トート森から滅多に出ないテーラには、きつかったと思うが、今回の件はテーラの希望でもある。
「やっと粟団子から解放だ」 ※粟団子=携行食
「大芋は3日前から食ってるけどな」
また大芋暮らしに戻る……と言っても、3日くらい前から大芋暮らしに戻っていたのだが。
あれは、何度食っても、旨くは無いが食った気がするのが良い。
俺は森に帰ってきた。




