8-13.俺(おれ)と竜(りゅう)
俺が、何かをすると現れると言う竜は、いったいなんなのだろう。
話に聞く限り、極めて巨大なのに、木や建物を壊した形跡も、足跡すら無いので幻のようなものか?
でも、あの病人は元気になっていた。
何かが起きたのは、確かなのだ。
前にダルガンイストの軍の本陣焼いたときにも出た。あの時、俺は何をした?
舞はしていないはずだ。
そうだ、目撃者が居る。ユーリとゼストだ。
都合よく、今二人は、”何故か”拠点に住んでいる。早速呼び出して聞いてみる。
「前に2本足で歩く竜を見たと言っていただろ、あのときのことを、もう少し詳しく教えてくれ」
急な話なので、2人で顔を見合わせて、困っていたが、しばらくするとぽつぽつと話してくれた。
基本は前に聞いたのと同じことだ。
「見ましたけど、凄く大きくて、遠くからでも見えただけです」
「2本足で立ってて、木よりもずっと大きいんです」
「場所は?」
「ダルガンイストの近くです。ダルガノード側から見て、奥だったのでタンガレアとの境辺りだと思います」
俺が、戦っていたあたりだ。
「見た時間は?」
「夜です」
「いや、どのくらいの長さだった?」
「そんなに長くなかったです」「カップの湯が冷めるくらい?かな?」
カップの湯が冷める。この表現は日本の単位では、だいたい、10分、15分程度の時間を指している。
「火でも吹いたか?」
「たぶん」
「見たのか?」
「いえ、でも燃えてるようでした」
あの時、俺はテントや資材を燃やして回った。
燃えてたのは確かだ。だが、竜が火を吹いたのではない。
「他に何か気付いたことは?」
「あの竜の名前は、グラディオスです!」
それは知ってる。誰かが勝手に付けた名前だ。
やはり目撃者は居るのだ。
あそこには俺が居て、俺は竜なんか見ていない。
誰かが言い訳にするために、竜をでっちあげたものではなく、目撃者が居るのだ。
「ユーリ、ゼスト、ありがとう。あの時の竜について何か思い出したことがあったら、その時教えてくれ」
と言うと、何故か2人はキャッキャ言って喜んでいた。
「見てよかったね」。証言が嬉しい年ごろなのだろうか?意味が分からない。
それは放置して考える。
俺が、何かをするとき出る竜。足跡も無ければ、突然出て突然消える。
俺が何かをすると、人々は竜が何かをやったと認識する。そんな感じなのではないかと思った。
一応テーラに聞いてみる。
「森に飛んでくる竜って、なぜ人の姿をしているのに、俺は竜なんだ?」
「それは知らない」
少し待つ。すると続きを話しだした。
「人は飛んできたりしないから。飛んでくれば竜」
この話には違和感がある。話自体はおそらく事実だ。
だが、大事な部分が抜けている。おそらく、俺が飛んでくる竜である可能性が高いことをテーラは予測していた。
「もっと前から、俺が、”森に飛んでくる竜”だと知ってただろ」
「それは……他の世界からやってきたから」
ユーリとゼストは顔を見合わせている。知らないのだから仕方がない。
「俺は、ダルガンイストから、森にあるテーラの家の近くに飛んだことがある」
「飛んだ?」
あまりピンと来てないようだ。
「こないだ、ここからカリオ神殿に飛んだの知ってるだろ」と言うと、通じたようで、
「以前にも飛んだことがあったのですね!」と答えた。
「それを、テーラと、テーラのお父さんお母さんが待ってたと言ってたんだ」
これにはピンと来てないようだった。
テーラはいつも通り、無表情だ。
俺と竜には何か関係がある。
オーテル神殿跡地から、竜が飛び、横浜に女が現れた。俺はその女の話を聞いてこの世界に来た。
ここに、大事な人たちが居るからと。
リーディアは勇者、エスティアはウグムの聖人。テーラは大鎧の妻なのだろう。
そして証言者として、ユーリとゼストがここに居る。これが偶然であると考えるのには無理がある。
俺には、何かしらの使命があって、必要があって今ここに居るのだ。
俺がやるべきこととは何なのだろうか?
とりあえず、ユーリ、ゼスト、テーラは解散。
イグニスに聞いてみることにした。
ストーンサークルで待ってると、ここに来るのだ。
どういう仕組みかはわからないが、とにかく呼び出せるようなのだ。
しばらくすると、イグニスが現れた。
「何か用か?竜の国に行く気になったか?」
これはテンプレみたいなもので、毎回これを言う。
早速聞いてみる。
「なんで俺を竜の国に連れて行きたいんだ?」
「そんなの決まっておろう。お主が竜の国に来ないと子が作れぬではないか」
俺は竜の国に行かないと竜の子は作れないらしい。
死んで転生か?
「生きたまま行けるのか?」
「当り前じゃ、このたわけが!死んでどうする!」
説明もせずに人をたわけ扱いとは、相変わらず腹立たしいやつ!と思うが我慢する。
「竜の国に行かないと子が作れない理由は?」
「そんなの決まっておろう、その体で竜の子が作れるか、このたわけが!」
また、たわけ言いやがった。ほんと腹立つ。
「竜の国に行くと、俺の体はどうなる?」
「竜になるに決まっておろう。お主何も知らずに生きておるのか!」
そんなの俺が知るわけないだろ!!!と物凄く理不尽さを感じたが、それは置いておく。
俺は竜の国に行くと竜になる?
「2本足で歩くという巨大な竜か?」
「2本足で歩く竜など聞いたことが無いが、大きさ的にはお主の竜の姿のようじゃの」
あれは、俺の影みたいなものなのかもしれない。
「竜の国から、こっちに戻るとどうなる?」
「それは知らぬ」
どういうことだ?
「お主は人の世に現れ、竜の世界で妾と子を成す。そう決まっておる」
あとは以前聞いたことの繰り返しだった。
ディアガルドが人の世界のボス部屋に居るのは婚活のため。
そして、俺があのボス部屋に行くのは、ディアがルドと共に竜の世界に行くため。
俺はファンタジー世界で、巨大な竜に会った。
竜は、婚活中だった。
これ、横浜に帰ってノンフィクションで本出したら売れるんだろうか?
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そう言えば、最近になって起きた変化がある。
最近と言っても、この時間の流れの遅い世界での最近なので、何年か前の話だが。
巨人は最近になって迷宮から出てくるようになったと言う。数年前からということだ。
勇者が巨人と戦う話はもっと前からある。
それなのに、白い巨人は最近になって現れるようになった。その理由は?
「妾がおれば、好きなところに飛べるぞ」とイグニスが言うので、タンガレアに移動することにした。
移動しようとすると、イグニスが言った。
「おかしいの? あったはずのゲートが見つからぬ」
近くのゲートへ飛び、そこからは歩きで確認しに行く。
迷宮があった場所に行くが、そんなものは見当たらない。
不自然な地形が広がる。何かに抉られたような?
何かが起きている。
これは巨人の仕業では無さそうだ。
巨人は迷宮があるから出てくるんじゃなくて、迷宮がなくなると次の迷宮を目指すのではないか?
迷宮の効果は有限で巨人は迷宮を食い潰す?
巨人にも、何かしらの理由があってやってくるはずだ。
そしてここ数年で巨人が迷宮を出るようになった。
偶然か?
そして俺がやってきた。転移する竜にスカウトされて。
そんな偶然があるか?
迷宮のあった場所は、何か巨大なものが這い回って、表面を削ったようにも見える。
巨人ではなく、もっと遥かに大きな何かがやった?
少なくとも人間がどうこうするような規模ではない。
竜なら或いは……普通の竜が無理でも、俺の竜なら対処できるか……むしろ、俺の竜が対処しないとならない規模か?
漠然と納得した。
俺がここに来たのは、俺の竜が、対処しなければならないようなことが起きているからではないだろうか?
「俺が竜になって、迷宮潰した犯人を倒すのか?」と聞く。
イグニスには心当たりがないようだ。
「はて?おかしいのう?」
「妾と子を成す竜は、人の世界に現れ、妾と共に竜の世界で子を成す。妾はそう聞いておる」
おかしいのは、おまえの脳だ。
なんでお前の婚活のために、他の竜が命懸けで俺を連れて来ると思ったんだ?
こんなことをできるようなモノが、そこらを這い回ったら、町や村ごと消えてしまう。
俺が竜の国に行って竜になる。
そして竜の体で、人間の世界を救う。そういうことだな……きっと。
そう思った。
オーテルは命と引き換えに俺を呼びに来た。
それだけの理由があるはずなのだ。少なくとも、ディアがルドの婚活のためだけではないだろう。
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ユーリとゼストが言ってた竜について、イグニスに聞くが心当たりはないという。
「ほかの竜など知らぬ。そもそも今、人間の世界に居る竜は妾の本体だけじゃ」
「そんな大きな竜がもし居るなら、お主の竜じゃ」
この世界に住む竜はディアガルドだけだという。
大きさから言えば、たびたび目撃される竜は俺の竜だろうと言う。
俺の竜ってなんだ? 俺は知らぬ間に竜になってるのだろうか?
以前ゼストたちに聞いた竜の姿は、俺の竜のものだと思う。
それはともかくとして、竜の体をこっちの世界に持ってくる方法があるのかもしれない。
「お主の竜の姿は、竜の国に行けばいつでも分かるぞ。
どうじゃ? 行きたくなったかの?
帰りたければいつでも帰れる、試しに行かんか?」
竜の国に行けば、俺の大きさと姿形が分かると言う。
俺は竜の世界には行かない。
イグニスは自由に行き来することができると言っているが、行ったら最後、帰ってこられない気がするのだ。
それか、こっちには戻ってこられるけれど、竜の姿から人の姿に戻れなくなるとか。




