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8-5.白い巨人(後編)

挿絵(By みてみん)


成り行きで、タンガレアの軍の陣地に連れてこられてしまった。

リナとテーラも一緒に。2人とも緊張している様子はない。

ずいぶん肝が据わってるなと思った。


空気読まないにも程があるというものだ。


俺たちは、連合の兵では無いので、いきなり酷い目に遭わされたりはしないと思うのだが、それでも、兵に囲まれたら、もう少し怖がっても良さそうなものだと思うのだ。


以前にも、ダルガンイストの軍から逃げて、タンガレア入りしてたことがある。

リーディアが、ダルガンイストの軍に喧嘩売ったためだ。

あのときとは方角が違う。

タンガレアという言葉には、外国くらいの意味しかないので、違う方向に進めば行きつく国も違う。


外国って言うから言葉通じないと思ったが、そんなことはなかった。

ダルガンイストから少々離れても、言葉は特に変わらなかった。



ここもダルガンイストと同じで勇者信仰の土地らしい。

巨人を1人で倒すのは勇者だ……というような話をしているのが聞こえた。


ただ、同じ勇者信仰でも、正伝書の内容は伝わっていないようだ。

もしかしたら、勇者信仰に関しては、ダルガンイストの方が異端なのかもしれない。


一応、丁寧に接してくれはするものの、内容的には尋問みたいなものを受けた。

小隊を隠そうと思うわけでは無いが、大事にはしたくない。

そもそも連合内での話が通じるかわからないので、一応、『ただの旅人で通りがかっただけ』と答えた。


俺たちに対する尋問とは別に俺の情報が集められて、例の如く、とても中途半端な情報になっていた。


少し太めで兵にしては少々偉そうなやつが

「竜を飼い、怪物を殴り殺す大男は、勇者の敵である、大鎧だ」とか言い出した。


その情報どっから出てきたんだよ!と思った。リナは笑っていた。

そして、ぼそっと「だいたい合ってる」と言った。


俺は竜なんか飼ってないし、俺は大鎧っぽいけど、勇者と子供作ることになってるのに。

勇者が崇められる土地なら、めんどうなのでリーディア連れてくれば良かったと思う。


少なくとも、勇者に敵対する側では無いというような説明をする。

俺は勇者を倒さなければならないとか、ぜんぜん思っていないわけで。


「俺、先代勇者なんだけど」と言うと、ざわついた。


ここにはそういう情報は出回ってないようだ。

ダルガンイストからそんなに離れていないのに、ここは別の文化圏なのだろう。


========


陣地の指揮官は困っていた。


巨大な老人に助けられた冒険者を尋問して、この老人が先代勇者だということになっている……ということを知っていた。


それを裏付けるように、目の前の巨大な男の老人は、これだけの兵に囲まれても、たいして警戒してるようにも見えず、全員敵に回しても問題ないような余裕があった。

単独で巨人を殴り殺す男だ。そのくらいの実力があるのだろう。


少なくとも、その程度の自信があるのだ。

連れの女も、さほど警戒している様子もない。

さほど危険な状況だとは思っていないのだ。


兵の中には、先代勇者のことを知る者もいて、むしろ歓迎ムードの集団もできつつあった。


盾で掬い投げられて大はしゃぎしている姿が見える。

兵を楽々盾で持ち上げる。

あんなことができる人物を見たことが無い。

それだけを見ても、並外れた怪力の持ち主だということはわかった。


敵対はしたくないが、とはいえ、このまま解放して良いものか?


この指揮官は、この老人たちの即解放を決断できず、上に判断を仰ぐことにした。

その間、とりあえず客として扱った。


=======


報酬決めるまで3日待つことになった。

はじめは10日と言われたが、そんなに長いとエスティア達に心配されるので、交渉して3日に決まった。


水が少ないので、井戸のある場所以外では、安定して水を得るのが難しいが、昼夜の寒暖差もさほどでもなく、比較的住みやすい土地だった。


俺的には、ダルガンイストよりも外国のこっちの方が性に合う。

店が無いので、わざわざ誰かに頼まないと物が手に入らないのが厄介だが、ピラニアみたいなやつが、いくらでも釣れるので食い物に困らない。


俺は魚に詳しくないから、本当は、詳しい人が見たら全然似てないのかもしれない。

体長に対して体高が大きく、あんまり長細い魚ではなく、口がちょっと大きめで歯が生えていて、肉で釣れる魚。色は茶褐色で、模様もそれなり。そんなやつが、茶色の池で餌に群がる姿を見ると、俺はこれをピラニアのような魚だと思うだけで、本物のピラニアとどれだけ似ているかはわからない。


俺のイメージだと、魚釣りよりはザリガニ釣りに似ている。

ピラニアの頭を餌にしてもピラニアが釣れる。

ここの針は出来が悪く、ほとんど刺さらない。


なので、餌に引っかかった魚を網ですくって捕ってると言う方が正確かもしれない。

まあ、とにかく、いくらでも捕れる。


そんな簡単に手に入る魚が美味いのだ。


大ナマズには敵わないが、拠点近くで獲れる小魚とは比較にならない。

あれは、骨が固くて身は柔らかすぎるし味もあんまりない。


もちろん現地でも定番の食材で料理法も確立している。


大きめのやつで、普通の女の手首から指先までの長さの1.5倍くらいある。

頭が大きいので捨てる部分も多いが、十分、料理するに値するサイズなのだ。

ちいさいやつが捕れたときは、そのまま池に放流する。

どうせたくさん捕れるのに、小さいのを持ち帰っても料理の手間がかかるだけだ。


これは大事だ。15cmくらいで長細い魚だと手間の割に可食部が小さすぎる。


このピラニアは、割と食うとこあるし、鍋でゆっくり加熱すると油が出て、勝手に揚げ物になる。

※慣れてる人がやらないと、揚げ物状態にならないです。


味的にも行けるし、毎日食べても良いと思うほどだ。


それが、アホみたいに大量に釣れる。

ピラニアの頭を餌にしても釣れるから餌にも困らない。


食事は提供してくれるが、暇つぶしに魚釣りしてるのだ。

リナとテーラは傍らで食事について語っている。


「緑の方は、美味しいけど。脂っこい。少しアジャナンに似た味がした」

「私は、ソイパに似てると思った」

「ああ! ソイパ、わかる! たしかに、そうかも」


俺的には全部”タンガレア風味の何か”に感じるのだが、リナとテーラにとっては、話のネタになるくらいの料理ではあるらしい。


しばらくすると陣地の指揮官とは別の女が来て、巨人が出てくる迷宮を攻略すれば大金貨1枚くれるという。


「大金貨だぞ、大金貨。やってみないか?」


大金貨は凄い。

そんな大金動かせるなんて、どういう立場の人なのだろうか?

気品があるわけではないが、他の兵士とは違う感じで服は立派だ。


話を聞くと、どうやら迷宮に方向扉があるようだ。

タンガレアの方が多いのだろうか?


その迷宮と言うのに行ってみたが、ボス部屋と同じで、俺が開けられる方向と、人間が開けられる方向が逆になっているようだ。

扉を触れば感覚でわかる。

この扉は俺が外から開けられるやつだ。


少し開けて確認する。


周りには、見張りやら野次馬がたくさん居て、扉が開くと「うおー」とか「ぎゃー」みたいな悲鳴が聞こえて、俺はたちまち巨人認定された。


「おまえ、巨人」とか言われて、なんで急にカタコトになってんだよ!!!と思った。

この巨人は、白い巨人の仲間という意味だ。たぶん。


リナが「勇者は扉を開けられるのだ」と言った。


開けられるのは、一応、”勇者だから”が根拠であると言ってるのだが、絶対コイツら信じてないだろうと思った。


テーラが何か言いそうだったので止めた。どうせろくなことを言わない。

かわりにリナが「勇者の鎧はこれと同じ扉の奥にあるんだぞ」と言った。


すると、急に静かになった。


納得したわけではなく、勇者鎧自体知らないようで、勇者鎧って何だ?みたいな感じになって、とりあえずごまかせた。


大金貨くれると言ってた女が「やはり思った通りだ」と言って、腕組みしてイイ顔をした。

その隣で、テーラも腕組みしてイイ顔をしている。

俺は理解した。この女も残念系だ。

なるべく関わらないようにしよう。



こういう迷宮は、たぶん俺のために存在している。だって俺にしか開けられないのだから。

しかし、俺は中からは開けない。たぶんこれは、俺ホイホイなのだ。

魔物ホイホイで、俺も魔物だからかもしれないと思っていたが、魔物が開けられるのは人間と同じ側だった。


俺は思った。“早く人間になりたい!”


そう言えば、日本に住んでた頃、そんなこと言ってるバケモノのアニメがあったが、そのバケモノ3人組みは善行積むと人間になれると信じていた。


なぜ彼らは、善行積むと人間になれると思ったのだろうか?


俺も善行積めば、人間になれるのだろうか?

いや、あのバケモノ3人組みは最後まで人間にはならなかったなと思った。

……いや、そんなことはどうでも良いのだが。



閉じこめられると面倒なので、「攻略に興味はあるけど、また今度にしたい」と言うと、大金貨の女は「まあ、もう少し考えてからでも良い。良い返事を期待しているぞ」と言った。


付き人が付いて回ってるので、お姫様とかそういうやつなのだろうか?どっちにしろ関わらない方が良い。


========


3日後に、さっさと帰りたいと言うと指揮官は喜んだ。

俺に迷宮攻略させたい気持ちよりも、俺の扱いが決まらず困っていたようだ。

側近みたいなやつが「良いのですか?ご再考を」とか言ってるので、いろいろ意見が割れてるのだろう。

イイ顔していた大金貨の女は無言で澄まし顔だったが、凄く凹んでそうなオーラが見える気がした。



巨人を倒した報奨金は、なんと小金貨10枚だった!その上、お土産大量にもらった上に、ダルガンイストまで荷物運んでくれた。

彼らはクルタという部族らしい。ダルガンイストとは比較的友好的な関係の部族らしい。


クルタの人達はきっと良い人たちに違いない!だって、白い巨人のそんなに大きくないやつ殺しただけで小金貨10枚とお土産いっぱいくれたから。


俺はもう、親戚の人にお小遣い貰った小学生みたいになっていた。



と言うのも、エスティアに超高い服買ったので、ちょっと他の子とのバランスが悪くなってしまったのだ。ところが金が無い。


俺には安定した収入が無いので、何かして稼がないといけなかったのだ。


キャゼリアが白い巨人の生け捕りすれば、小金貨10枚くれると言っていたが、生け捕りにする前に小金貨10枚手に入ってしまった。

※小遣いを千円札10枚で貰うような感じです。

 国を跨ぐ場合、小金貨が使いやすいため、小金貨が多用されます。


これがあれば、余裕で服が買える!


もともと仕事の都合でダルガンイストの近くまで来て、ついでにキャゼリアの依頼の下見に来たのに、こうなってしまった。


まあ、ひとまず金の悩みは解決した。


とりあえずリナの服を買う。それが目標だったのだ。


========


エスティアの服を買った後、今回の依頼に出発する前の話になる。

少し前に、こんなことがあった。


エスティア以外の子には、どんな服を買ってあげようかどうしようかなと考えた時、テーラは自前で可愛いの持ってるので後回しでも問題なし、リナは持ってなかったのだが、最近になってリーディアにお下がりをもらったのだ。


リナがリーディアのお下がりの服を着て一緒に町に出掛けた。

リナは「たまには町に行くのも良い」とか言っていたが、奇麗な服を着て行ったら俺とエスティアが夫婦に見られたという話を知っていたので、たぶん、リナと俺だとどうなるか試しに来たのだと思う。


ところが、町に行ったらリーディアのお下がりが立派すぎて、リナが主人で俺下僕みたいな感じに扱われたのだ。

俺はちょっと凹んだが、リナは凄く凹んでた。

リナは意外と、そういうこと気にすることもあるんだなと思った。


やはり、バランスが大切なのだ。リナが立派すぎる服着ると俺とはお嬢様と下僕みたいに見られてしまうのだ。


リナは元々反抗期みたいな子なので、自分からは言えないと思い

「今度金貯まったら、もうちょっと普段から着やすい服を買いに来よう」

と言うと、「私が自分で買うからいい」と答えた。

ツンデレ的には金は出すから一緒に買いに来よう的な意味なのだろうか?


「俺も一緒に?」と言うと

「そうだな。トルテラは服が好きなようだから、

 私のも好きなのを選んでもいい」と言った。


なんかいろいろ変だが、ツンデレ的な何かなのだろう。

ところで、なぜこいつらは揃いも揃って、人ではなく服が好きだと思っているのだろうか?


まあ、機嫌はなんとか少し持ち直したようだ。


俺は、だんだんと、うちの子たちのことが、いろいろわかるようになってきたのだ。

結局、俺が子ども扱いしすぎていたのだ。


リーディアと子を作るという未来が見えている以上、リーディアと年の近いこの子たちも、例外にはできないのだ。


俺は、ずっと、うちの子たちを自分の娘だと思って接してきた。

だから、お婿さんでも貰って、子供が生まれたら孫のように可愛がろうと思っていた。

でも、その計画は完全に崩れてしまった。

リーディアとの間に子が生まれるなら、うちの子たちも、子ども扱いできないのだ。



一方で、俺の感覚では、この子たちとじゃ、世代が違う。

父娘どころか、爺さんと孫でもおかしくない。

いくら何でも年が離れすぎてる。


俺はそう思うのだが、どうせ、この世界の男は早死にする。


元々そういう世界なのだ。

だから、ここでの常識では年がどれだけ離れていようと、さほど関係ない。

どうせ夫婦で一緒に過ごせる時間は短いのが普通だから。

男女が、共同で子育てできない世界なのだ。


俺の方が、この世界の常識を拒絶してるだけなのだ。

子供ではなく、女の子として見ると、見え方は変わってくる。



それはそうと、立派すぎる格好で、普通の町娘服買うってのも、それはそれで、あんまりよろしくないよね……と思った。

服を買うには、それにふさわしい格好と言うものがあるのだ!

今着てる服と違うクラスの服にチェンジするのはとても難しいのだ。

服を買いに行く服が無い。


笑い事ではなく、ここではそれがかなり厳しいのだ。


拠点に帰ってから、一応アイスにも服欲しいか聞いてみた。


アイスは「俺は、パンツがあるからいいよ」と言った。


パンツは関係ないだろと思ったが、アイス的にはそれで良いみたいなので強要はしないことにした。

たぶん理由は、”トルテラがアイスのパンツ姿が大好きだから”だと思う。


でも、たまに見たくなるよね。アイスのかぼちゃパンツ姿。

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